個人で所有している不動産を次の世代へどう引き継ぐか、気になる方は多いのではないでしょうか。特に物件が複数あり、それぞれの価格や収益性が異なる場合は、分割方法や納税資金の確保などの問題が生じかねません。
本記事では、個人が所有する不動産を、賢く戦略的に承継する方法を解説します。個人と法人での承継の違いのほか、法人化に向いているケース・向いていないケース、必要なコストや注意点なども説明します。ぜひ最後までご覧ください。
なお、ノムコム・プロでは、所有している不動産の相続や事業承継など、不動産の有効活用に関するご相談を承っております。「売却にあたってアドバイスがほしい」「自分のケースではどのような対策が有効か」など、お気軽にお問い合わせください。
※以下の情報は2026年7月時点の情報をもとに、宅地建物取引士の河原田琢人が監修しています。
この記事で分かること
- 法人を活用して不動産を承継すると、不動産の所有者を法人のまま維持しながら、株式・持分を通じて経済的な価値と経営権を次世代へ引き継ぎやすくなる
- すべての不動産を法人へ移す必要はなく、物件の収益性や含み益、後継者の意向などを踏まえながら「法人所有・個人所有・売却」を物件ごとに判断することが重要
- 法人へ不動産を移しても相続財産がなくなるわけではなく、移転時の税金や自社株評価などによっては、個人名義の所有より不利になる場合もある
目次
不動産を承継する2つの手段
個人が所有する不動産を次世代へ承継する手段は、大きく「個人名義のまま承継する方法」と「法人を活用して承継する方法」の2つに分けられます。どちらが適しているかは、不動産の数や価格だけでは決まりません。相続人の人数、今後の所有方針、借入状況、家賃収入、承継後に誰が管理するかなどを踏まえ、総合的に判断する必要があります。
最初に、それぞれの仕組みと違いを確認しておきましょう。
| 比較項目 | 個人名義のまま不動産を承継する | 法人を活用して不動産を承継する |
|---|---|---|
| 引き継ぐもの | 土地・建物などの不動産 | 法人の株式・持分 |
| 所有者 | 相続人や受贈者へ移る | 法人のまま変わらない |
個人名義のまま不動産を承継する
不動産を個人名義のまま承継する場合、次世代が引き継ぐのは土地や建物そのものです。所有関係が比較的わかりやすいため、承継する不動産が少ない場合や、誰に引き継ぐか明確な場合に選択しやすい方法といえるでしょう。
個人名義の不動産を承継する際は、「誰に、どのように管理してもらうかを設計する手段」と「実際に所有権を移す方法」を分けて考えると整理しやすくなります。
◎承継を設計する方法
| 遺言 |
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|---|---|
| 家族信託 |
|
遺言や家族信託を利用しただけで、ただちに不動産の所有権が次世代へ移るわけではありません。実際に所有権を移す主な方法は、主に下記の3種類です。
◎所有権を移す方法
| 相続 |
|
|---|---|
| 生前贈与 |
|
| 売却 |
|
これらは「遺言で相続する不動産を指定する」「生前贈与で段階的に所有権を移す」など、目的に応じて組み合わせることも可能です。ただし、個人名義の不動産は、物件ごとに所有権を移す必要があります。相続人が複数いる場合は、高額な収益物件を均等に分配するのが難しく、トラブルに発展するケースも少なくはありません。共有名義にすると、売却や大規模修繕などの場面で関係者間の調整が必要になる場合もあります。
投資用マンション売却時の税金について詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
関連記事:投資用マンション売却時の税金はいくら?計算から節税対策まで具体例で解説
法人を活用して不動産を承継する
法人を活用して不動産を承継する場合、次世代が引き継ぐのは、主に不動産を所有する法人の株式や持分です。不動産の所有者は法人のまま変わらないため、複数の収益物件を集約して所有・管理したい場合に選択しやすい方法といえるでしょう。
法人を活用した不動産承継では、「どのように法人へ不動産を所有させるか」と「法人の株式・持分や経営権を誰にどう渡すか」を分けて考えると整理しやすくなります。
◎法人を活用して不動産を承継する方法
| 個人所有の不動産を法人へ移して承継する |
|
|---|---|
| 今後取得する不動産を法人名義にする |
|
現在個人で所有している不動産を法人へ移す場合は、個人と法人の間で売買する方法が一般的です。現物出資によって移す方法もありますが、税務上は不動産の譲渡として扱われ、譲渡所得の課税対象になります。法人側にも不動産取得税や登録免許税などがかかる可能性があるため、移転前の試算が欠かせません。
また、これから不動産を買い増す予定がある場合は、最初から法人名義で取得する方法もあります。ただし、法人名義で融資を受けられるか、法人で所有することが長期的に有利かの判断は、一概にはいえません。物件の収益性や所有方針を踏まえて判断する必要があります。
法人を活用した不動産承継が向いているケース・慎重に判断すべきケース
同じ所有者の不動産でも、物件の状況によって最適な承継方法は異なります。承継方法の考え方を整理しましょう。
1. 不動産の承継方法の考え方
2. 法人の活用が向いているケース
3. 法人の活用を慎重に判断すべきケース
不動産の承継方法の考え方
複数の不動産を所有している場合は、それぞれの物件ごとに承継方法を考えるのがおすすめです。判断の方向性として、下記のような例もあります。
| 物件の意向・状況 | 主な判断の方向性 |
|---|---|
|
法人を活用して承継する |
|
個人名義で遺す |
|
売却・買い替える |
大切なのは、次世代に「遺したい物件」と「遺す価値がある物件」を分けることです。思い入れがある不動産でも、借入れや修繕負担が大きく、次世代が経営を望まないのであれば、承継前の売却が合理的な場合もあります。1件1件の判断が必要です。
収益物件の種類や特徴、運用面での注意事項などが気になる方は、下記の記事をご覧ください。
関連記事:収益物件とは?種類やメリット・デメリット、利回り相場などを丸ごと解説
実際にどのような収益物件が市場にあるか気になる方は、投資用・事業用不動産サイトの「ノムコム・プロ」が取り扱っている物件一覧をご覧ください。
法人の活用が向いているケース
下記のような場合は、法人を活用する意義が比較的大きい傾向があります。
◎チェックリスト
- ● 複数の収益物件をまとめて次世代へ遺したい
- ● 高額な不動産を共有名義にしたくない
- ● 不動産経営を担う後継者が決まっている
- ● 引き継ぎの候補者が複数人いる
- ● 物件ごとの価値や収益力に差がある
- ● 今後も収益物件を買い増す予定がある
- ● 承継まで時間があり、株式や持分を段階的に移せる
- ● 次世代に家賃収入や不動産経営のノウハウを引き継ぎたい
- ● 法人への移転時に生じる税負担(※)が過大ではない
- ● 法人名義での借り換えや新規融資を検討できる
※「法人の設立・維持にかかるコスト」で説明します。
これらに当てはまる数が多いほど、法人を活用する利点は大きくなりやすいといえます。
物件は現在の収益だけではなく、築年数、修繕履歴、将来の設備更新、テナントの退去リスクなども確認しましょう。また、収益性だけで判断するのではなく、「将来売却する予定なのか、それとも世代を超えて保有する予定なのか」という出口戦略まで含めて判断することも重要です。
例えば、10年以内の売却を予定している物件であれば、法人へ移転する際の税負担や売却時の課税まで含めると、個人所有を継続したほうが有利になるケースもあります。高い家賃収入を得ている物件でも、近いうちに大規模修繕や建て替えが必要なら、手残りは大きく減る恐れがあります。
長期的な投資効率の最適化にもつながる「修繕費と資本的支出の使い分け」に興味がある方は、ぜひ下記の記事もご覧ください。
関連記事:修繕費・資本的支出をフローチャートで簡単判断!迷いやすいポイントもわかりやすく事例で解説
法人の活用を慎重に判断すべきケース
下記のケースでは活用する効果より、税金や維持コスト、経営上の負担が大きくなりかねません。
◎チェックリスト
- ● 数年以内に売却する予定がある
- ● 取得価額が低く、多額の含み益がある
- ● 物件の収益が法人の維持費に見合わない
- ● 個人名義の融資条件が良く、法人への借り換えが難しい
- ● 相続発生までの時間が短い
- ● 後継者が不動産経営を希望していない
- ● 個人所有で利用できる相続税上の特例を見込んでいる
- ● 老朽化や空室により、長期所有の合理性が低下している
法人化には、さまざまなコストがかかります。詳細は「法人の設立・不動産移転・維持にかかるコスト」をご覧ください。法人化のコストを将来の承継効果で回収する見通しが立たない場合は、無理に法人へ移さないのも有効な戦略です。個人名義のまま承継するか、売却して現金や別の物件へ組み替える方法を検討するのがおすすめです。
なんとなく方向性は見えていても、法人としての承継が正しいのかどうか「自分の判断に自信が持てない」という方も多いのではないでしょうか。
ノムコム・プロではお一人おひとりに合わせ、相続や承継をはじめとした不動産の有効活用について、個別のご相談を承っております。気になる方は、ぜひ下記からお問い合わせください。
法人を活用した不動産承継で検討される3つの法人形態とコスト
ここでは、不動産承継で検討される法人形態や必要なコストについて説明します。
1. 不動産承継で検討される3つの法人形態
2. 法人の設立・不動産移転・維持にかかるコスト
不動産承継で検討される3つの法人形態
不動産の承継で検討される法人形態には、「株式会社」「合同会社」「一般社団法人」の3つがあります。それぞれの特徴を整理しました。
| 法人形態 | 引き継ぐもの | 承継の特徴 |
|---|---|---|
| 株式会社 | 株式(利益+議決権) |
|
| 合同会社 | 持分・社員の地位 |
|
| 一般社団法人 | 社員・理事などの運営体制 |
|
実務においては、株式会社か合同会社を軸に検討するのが一般的です。両者の通称として「資産管理会社」と呼ばれることもありますが、それは呼び方の違いであって、法律上の形態ではありません。
特に、取得価額が低く多額の含み益がある物件は、慎重な判断が必要です。法人へ移転した時点で譲渡所得課税が発生する可能性があり、その負担を将来の承継メリットで回収できるかまで試算する必要があります。
株式会社
株式会社では、株式を通じて経済的利益と議決権を承継できます。株数を分ければ、複数の家族へ経済的な価値を配分しながら、不動産自体は法人に遺せます。一方、議決権のある株式まで均等に分けると、売却や借り換え、大規模修繕などの意思決定が滞るリスクも否定できません。
株式に譲渡制限を設ければ、株主が第三者へ株式を譲渡する際に会社の承認を必要とする仕組みを作れます。ただし、通常の譲渡制限だけで相続による株式取得を防げるわけではありません。相続人などに対して株式の売渡しを請求するには、会社法第174条に基づく定款の定めなどが必要です。
合同会社
合同会社も、法人名義で収益物件を所有できます。株式会社に比べて設立時の登録免許税の最低額が低く、少人数の家族で比較的柔軟に運営しやすい点が特徴です。
引き継ぐのは、持分や社員としての地位です。原則として社員の死亡は退社事由となりますが、定款に相続人が持分を承継する旨を定められます。承継を想定する場合は、設立時から死亡時の取扱いを定款へ反映しておくと良いでしょう。
合同会社は設立しやすい反面、設立費用の安さだけで選ぶのはリスクにつながります。相続時に誰が社員として経営に参加するのか、利益をどのように配分するのか、もめる原因になりがちです。後継者や持分割合、業務執行権限まで設計しておくのがおすすめです。
一般社団法人
一般社団法人には、株式会社の株式や合同会社の持分に当たる財産的な持分がありません。法律上、社員に剰余金や残余財産の分配を受ける権利を与える定款の定めは無効です。ここでいう「社員」とは従業員ではなく、社員総会で議決権を持つ構成員を指します。「不動産を分割せずに長期間管理したい」など、明確な目的がある場合に選ばれやすい選択肢といえるでしょう。
かつては、「持分がないため、相続税がかからない」という節税策として活用されていた事例もありました。しかし、平成30年(2018年)度の税制改正により、一定の同族理事割合などの要件を満たす特定一般社団法人等には、理事の死亡時に相続税を課す制度が設けられています。現在では「一般社団法人を利用すれば相続税がかからなくなる」という前提での設計はできないため、注意が必要です。
法人の設立・不動産移転・維持にかかるコスト
個人で所有している不動産を法人を活用して承継する場合は、「法人を設立する」「個人から法人へ不動産を移転する」「法人を維持する」の流れが一般的です。各段階の主なコストをタイミングごとに整理しました。
| タイミング | 主なコスト | ポイント |
|---|---|---|
| 法人の設立時 |
|
法人の形態により、設立手続きや費用が異なる |
| 不動産の移転時 |
|
含み益や不動産価格が大きいほど、移転時の負担も重くなりやすい |
| 融資の切り替え時 |
|
個人名義のローンを残したまま、所有権だけを法人へ移せるとは限らない |
| 法人の維持中 |
|
不動産から得られる利益が毎年の固定費に見合うか確認する |
特に高額な収益物件では、法人の設立費用よりも法人へ不動産を移す際のコストのほうが高くなるケースがあるため、注意が必要です。含み益が大きければ、個人側に譲渡所得税や住民税がかかる可能性があり、法人側にも不動産取得税や登録免許税などが生じます。
法人を活用した承継を検討する際は、コスト面でも総合的に判断しましょう。
◎コスト面のチェックポイント
- ● 移転コストを何年で回収できるか
- ● 法人化によって毎年の手残りがどの程度変わるか
- ● 法人名義への借り換えで融資条件が悪化しないか
- ● 承継までに十分な期間があるか
- ● 自社株・持分の承継まで含めて効果が見込めるか
移転コストを回収できる見通しが立たない場合は、既存物件を無理に法人へ移す必要はありません。既存物件は個人名義で遺し、新たに取得する物件だけ法人名義にする方法も比較することが大切です。
不動産投資において法人化すべきかどうかの判断、コストや損益分岐点について知りたい方は、下記の記事もご覧ください。
関連記事:不動産投資は法人化すべき?損益分岐と出口戦略の「後悔しない判断術」とは
法人を活用して不動産を承継するメリットと注意点・対策各4選
法人を活用すると、分割しにくい不動産を法人に遺したまま、経済的な利益や経営権を次世代へ引き継ぎやすくなります。一方で、不動産の代わりに自社株や貸付金が相続財産となるほか、株価評価や経営権の分散といった新たな課題も生じます。ここでは、主に株式会社や合同会社を利用する場合を想定し、主なメリットと注意点・対策について解説します。
| 主なメリット | |
|---|---|
| 主な注意点・対策 |
法人を活用した不動産承継の4つのメリット
主なメリットは、下記の4つです。
1. 不動産の価値を公平に配分しやすい
2. 不動産が分散せず、一体的に所有しやすい
3. 不動産経営の管理・意思決定を後継者へ集約しやすい
4. 次世代が納税資金を準備しやすい
メリット1. 不動産の価値を公平に配分しやすい
不動産は、現金のように金額を指定して分けることが難しい財産です。個人のまま一棟マンションやオフィスビルなどを複数人へ承継する場合、主に次の方法が考えられます。
- ● 一人が不動産を取得し、ほかの相続人へ代償金を支払う
- ● 不動産を売却して代金を分ける
- ● 複数人の共有名義にする
法人を活用して承継する場合は、不動産自体を分割する必要がありません。株式数や持分割合によって経済的な価値を調整できます。株式・持分を一度に移すだけではなく、複数回に分けて贈与するなど、承継する時期や割合を検討することも可能です。
ただし、財産を均等に分けることが、必ずしも公平とは限りません。不動産経営を担う後継者は、借入れ、空室、修繕、入居者対応などの責任も引き継ぐためです。次の2つは分けて考えましょう。
| 経済的な公平 | 家族が最終的に受け取る財産価値や利益を調整する |
|---|---|
| 経営上の権限 | 売却・借り換え・修繕などを決定する人を明確にする |
経営に参加しない相続人には、預金、有価証券、生命保険金等で配分するなどの配慮も必要です。
メリット2. 不動産が分散せず、一体的に所有しやすい
法人が不動産を所有していれば、株主や社員が変わっても、不動産の所有者は法人のまま変わりません。相続のたびに物件の名義を分ける必要がないため、複数の収益物件を一体的に所有・管理しやすくなります。
特に、複数棟をまとめて運用している場合は、次のような経営資源を法人へ集約できます。例えば、安定した収益を生む物件の資金を修繕が必要な別の物件へ回すなど、所有不動産を一つのポートフォリオとして管理可能です。
- ● 賃貸管理や管理会社との契約
- ● 借入れ・返済
- ● 修繕・建て替え計画
- ● 売却・買い替えの判断
- ● 物件間の資金配分
- ● 金融機関との取引実績
不動産の名義が分散しなくても、株式や持分が相続によって細分化される恐れがある点には注意しましょう。法人化とあわせて、誰に株式・持分を渡すか、経営権を誰へ集約するかまで決めておくことが大切です。
メリット3. 不動産経営の管理・意思決定を後継者へ集約しやすい
不動産を複数人の共有名義にすると、売却や建て替え、大規模修繕などを行う際に、共有者同士の調整が必要です。意見がまとまらなければ、必要な対応をすぐに進められない恐れもあります。
法人であれば、法人が所有する不動産について、代表者や議決権の構成を調整できます。不動産経営を担う後継者に必要な権限を集約すると、意思決定もスムーズです。また、次のような業務も法人単位で管理できます。
- ● 賃貸管理や管理会社との契約
- ● 修繕・建て替え計画
- ● 借入れ・借り換え
- ● 売却・買い替え
- ● 入出金・資金繰り
- ● 税務申告
このように、不動産そのものだけでなく、管理や意思決定の仕組みまで一体的に引き継ぎやすいのも、法人を活用するメリットです。
メリット4. 次世代が納税資金を準備しやすい
所有資産の多くを不動産が占める場合、状況によっては相続税を納めるための現金が不足する恐れもゼロではありません。法人が不動産を所有していれば、実際に管理や経営へ従事する次世代へ役員報酬や給与を支払えます。受け取った報酬を蓄積することで、将来の相続税や自社株・持分の取得資金を準備しやすくなるでしょう。
報酬額を決める際は、次の点に注意が必要です。
- ● 実際の勤務・業務実態があるか
- ● 職務内容に見合った金額か
- ● 税金や社会保険料を差し引いても手元に資金が残るか
- ● 法人の資金繰りを圧迫しないか
次世代を不動産経営へ段階的に参加させながら、承継に必要な現金を計画的に準備できるのが魅力です。
法人を活用した不動産承継の4つの注意点と対策
主な注意点は、下記の4点です。それぞれの対策もヒントとしてご活用ください。
1. 相続財産や税負担が必ず減少するとは限らない
2. 自社株・持分の評価が想定より高くなる場合がある
3. 過度な評価圧縮や不自然な取引は否認される場合がある
4. 「小規模宅地等の特例」が適用にならない場合がある
注意1. 相続財産や税負担が必ず減少するとは限らない
個人所有の不動産を法人へ移しても、財産がなくなるわけではありません。不動産が、次のような別の財産へ置き換わるためです。
| 不動産の移し方 | 個人側に残る主な財産 |
|---|---|
| 法人へ売却して代金を受け取る | 現金・預金 |
| 法人へ売却したが代金は未回収 | 法人に対する未収金など |
| 現物出資する | 法人の株式・持分 |
現金や未収金、自社株・持分も相続財産となり得ます。取引相場のない株式や持分会社の出資も、相続税・贈与税の評価対象です。既存の不動産を法人へ移す際の税金・費用を含めると、法人化によって総負担が増える場合もあるでしょう。
そのような場合は、下記の対策が有効です。
◎対策
- ● 法人化の前後で、所有している不動産が何の財産に置き換わるのか一覧化する
- ● 移転時や所有中、承継時、売却時までの税金と手残りを通算し、法人化による効果を判断する
注意2. 自社株・持分の評価が想定より高くなる場合がある
法人が不動産を所有している場合、相続・贈与時には自社株や持分の評価が必要です。不動産の含み益や現預金が増えたり、借入金の返済で負債が減ったりすると、評価額が想定より高くなることがあります。
法人の資産のうち土地などが占める割合が一定以上になると、税務上の「土地保有特定会社」に該当する場合もあります。該当すると、株式は原則として純資産価額方式(会社の資産と負債をもとに評価する方法)で評価されるため、土地の含み益が株価に反映されやすくなります。
さらに注意したいのが、いわゆる「3年ルール」です。法人が課税時期前3年以内に取得・新築した土地や建物は、原則として通常の取引価額で評価されます。そのため、相続直前に法人で不動産を購入しても、すぐに自社株評価を下げられるとは限りません。3年を過ぎれば必ず下がるわけでもない点も、しっかり押さえておきましょう。
◎対策
- ● 現在の株価だけで判断せず、将来の含み益や資産構成まで見込んで承継計画を立てる
- ● 自社株・持分の評価は、法人設立時だけでなく、次のタイミングでも確認する
- ○ 高額な不動産を取得する前後
- ○ 多額の利益や現預金が法人内に蓄積したとき
- ○ 借入金を大きく返済したとき
- ○ 株式・持分を贈与するとき
注意3. 過度な評価圧縮や不自然な取引は否認される場合がある
相続税・贈与税の財産評価では、通達による評価が著しく不適当と認められると、別の方法で評価される恐れがあります(財産評価基本通達の総則6項)。同族会社等を使った取引によって、株主やその親族などの相続税・贈与税が不当に少なくなったと判断された場合も、税務署が本来の税額に計算し直す場合があります(相続税法64条)。
過去には、高齢の方が多額の借入れで高額マンションを購入し、相続税をほぼ0円に調整したケースがありました。結果的に総則6項が適用されて評価が見直され、時価に近い課税が発生しています。
近年は「節税だけ」を目的とした法人化について税務当局のチェックも厳しくなっています。法人化の背景として、不動産経営の継続、資産管理の効率化、共有回避などの事業目的を明確に説明できる状態にしておくことが重要です。
◎対策
- ● 節税対策だけを目的にしない
- ● 法人化の目的や取引条件の合理的な根拠を、客観的な資料として残しておく
- ○ 不動産会社の査定書や鑑定評価
- ○ 法人で不動産を所有する事業上の理由
- ○ 収支計画や資金繰り計画
- ○ 株主総会・取締役会などの議事録など
注意4.「小規模宅地等の特例」が適用にならない場合がある
小規模宅地等の特例は、一定の居住用・事業用・貸付事業用の宅地等について、相続税評価額を減額できる制度です。対象となる宅地の区分ごとに、取得者や所有継続などの要件があります。この特例の対象となるのは、個人が相続や遺贈によって取得した一定の宅地等です。そのため、土地まで法人へ売却・現物出資すると法人の所有物となり、特例を直接適用できない恐れがあります。本来利用できる可能性のある小規模宅地等の特例を失うことで、相続税全体では不利になるケースも考えられます。
◎対策
- ● 自社株評価への影響だけで判断しない
- ● 個人名義で遺した場合に小規模宅地等の特例を利用できるか確認する
- ● 法人化による自社株評価への影響と、土地を個人名義で遺した場合に受けられる特例の効果を比較する
法人を活用した不動産承継の進め方5ステップ
法人を活用した承継は、単に会社を作って資産を移せば終わりというわけではありません。法人に移してから「こんなはずではなかった」と後悔しないよう、逆算による戦略を立て、効率的に実施しましょう。
| ステップ1. 現状と承継の目的を整理する | |
|---|---|
| 取り組むこと |
|
| 主な確認事項 |
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| ステップ2. 法人を活用する範囲と体制を決める | |
| 取り組むこと |
|
| 主な確認事項 |
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| ステップ3. 税金・費用・手残りを試算する | |
| 取り組むこと |
|
| 主な確認事項 |
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| ステップ4. 法人を設立し、不動産を移す | |
| 取り組むこと |
|
| 主な確認事項 |
|
| ステップ5. 後継者へ経営を引き継ぎ、定期的に見直す | |
| 取り組むこと |
|
| 主な確認事項 |
|
法人設立後は、自社株や持分も相続税・贈与税の評価対象となります。設立時の負担だけでなく、将来の自社株評価まで見込んで計画を立てなければなりません。既存物件を法人へ移す負担が大きい場合は、現在の物件を個人名義で遺し、今後購入する物件から法人名義にする方法もあります。すべての不動産を一度に移さず、物件ごとに適した進め方を選びましょう。
法人を活用して不動産を賢く次世代へ遺そう
法人を活用した不動産承継は、単なる相続税対策ではありません。複数・高額な不動産について、「次世代に遺す物件」「売却・買い替える物件」「不動産経営を任せる人」「経済的な利益を渡す人」を戦略的に設計する取り組みです。税務上の評価だけでなく、市場価格、賃貸需要、修繕負担、借入条件、売却可能性を確認し、資産全体の収益性と流動性を整えましょう。
なお、ノムコム・プロでは、所有不動産の査定や売却、買い替え、法人化をはじめとした資産の組み替えに関する相談を承っております。「自分のケースではどのような対策が有効か」など、お気軽にお問い合わせください。
よくある質問
Q:法人を活用すれば相続税は必ず安くなりますか?
A:必ず安くなるわけではありません。法人へ不動産を移すと、個人の財産は、現金、法人への貸付金、自社株・持分などへ置き換わります。法人に不動産の含み益や利益が蓄積した場合は、自社株・持分の評価が高くなるケースもあります。法人への移転時や売却時などの税負担を通算し、個人所有を続けた場合と比較して総合的にご判断ください。
Q:すでに個人で所有している不動産も法人へ移せますか?
A:法人への売却や現物出資などにより移せます。ただし、含み益があれば個人側に譲渡所得税・住民税がかかる場合があるため、注意が必要です。法人側にも不動産取得税や登録免許税、融資関連費用などが発生します。含み益の大きい既存物件は個人名義で遺し、今後購入する物件だけ法人名義にする方法もご検討ください。
Q:ローンが残っている不動産でも法人へ移せますか?
A:移せる可能性はありますが、金融機関との事前協議が必要です。既存融資を返済し、法人名義で借り換える場合は、金利や返済期間、保証条件などが変更になる場合もあります。税金面だけではなく、期限前返済手数料、融資事務手数料、抵当権の抹消・設定費用を含めてご判断ください。










