家賃の値上げ交渉(増額請求)は、オーナーに認められた正当な法的権利です。ただし、一方的な通告は効力がないうえ、入居者の反発を招きかねません。本記事では、借地借家法に基づく値上げの正当な理由や実際の交渉手順、円満に合意を得るためのポイントなどをわかりやすく解説します。
なお、ノムコム・プロでは、不動産の有効活用に関するさまざまなご相談を承っております。「自分のケースではどのような対策が有効か」「今後、不動産をどのように運営していけば良いのか」など、お気軽にお問い合わせください。
※以下の情報は2026年6月時点の情報をもとに、宅地建物取引士の河原田琢人が監修しています。
この記事で分かること
- 家賃の値上げ交渉は正当な権利だが、「固定資産税などの税金(公租公課)の増額」「物価や地価の上昇」「近隣の賃料相場との乖離」といった、客観的なデータに基づく正当な理由が必要となる。
- 「一定期間は家賃を値上げしない」などと定めた賃料不増額特約がある場合、その期間の家賃増額は認められない。
- 家賃値上げを交渉する際は段階的な値上げで入居者の負担感を和らげたり、設備交換や更新料の減額などの交換条件とセットで提案したりするのも効果的。
目次
家賃の値上げ交渉は認められている?
家賃の値上げ交渉は、借地借家法第32条「賃料増額請求権」により認められた、オーナーの正当な権利です。最初に、家賃値上げの実態と、値上げ交渉にかかわる基本ルールを説明します。
1. 家賃値上げの実態
2. 借地借家法第32条が定める「賃料増額請求権」とは
3. 家賃値上げが認められる3つの事由
4. 特約がある場合はどうなる?
家賃値上げの実態
アパートやマンションなどの賃貸経営において、家賃は収益に直結する重要な要素です。近年のインフレや建物の維持管理費の高騰にともない、家賃の値上げ(増額請求)を検討するオーナーは増えています。
野村不動産ソリューションズがノムコム・プロ会員の皆様を対象として年に1回実施している「不動産投資に関する意識調査(2025年6月)」では、昨今の物価上昇による不動産投資への影響として「家賃を値上げした」という回答が、2年前の2023年に比べると14.1ポイント上昇しました。
実際に家賃を値上げするには、さまざまな法的ルールや配慮が必要です。次節で、家賃値上げの根拠となる「借地借家法第32条」について説明します。
借地借家法第32条が定める「賃料増額請求権」とは
借地借家法第32条は、正当な事由で現行の家賃が不相当になった場合、オーナー側から賃料の増額を請求できる権利を定めた法律です。ただし、オーナーが一方的に家賃を変更できるという意味ではありません。あくまで「増額を請求する権利」であり、最終的には入居者の合意、もしくは裁判所の判断が必要となります。
入居者が増額に応じない場合、借地借家法第32条第2項により入居者は「相当と認める額を支払えば良い」とされています。一方、オーナーが従前の家賃の受け取りを拒否した場合はどうなるのでしょうか。このとき入居者は、法務局に家賃を供託することで支払い義務を果たせます。つまり、受け取り拒否はオーナーにとって実質的にメリットがありません。実務上、交渉中は従前の家賃または入居者が相当と認める額を、「一部金として受領」などと明記して受け取るのが一般的です。増額が確定した際は、オーナーは不足分に年10%の利息を付した金額を入居者に請求できる権利も有しています。
家賃値上げが認められる3つの事由
借地借家法第32条で例示されている賃料増額請求の正当事由は、主に下記の3点です。
| 事由 | 具体例・根拠のポイント |
|---|---|
| 公租公課(税金)の増額 |
|
| 物価や地価の上昇 |
|
| 近隣の賃料相場との乖離 |
|
これらの事情を総合的に考慮した結果、現在の賃料が不相当だと判断された場合は、賃料増額請求が認められる可能性があります。「もっと利益を出したい」「ローンの返済が厳しい」といったオーナー個人の事情は、正当な事由にはなりません。実際の交渉場面では、複数の事由を組み合わせて主張するほうが、説得力が増す傾向にあります。多角的な視点で根拠のある数値を精査し、「不相当」に該当するか検証しましょう。
特約がある場合はどうなる?
賃貸借契約書に家賃の改定に関する特約が盛り込まれている場合、原則としてその特約が優先されます。例えば「賃料不増額特約」が定められている期間中は、法律上オーナー側からの増額請求は認められません。特約で定められた有効期間が過ぎたあとであれば、借地借家法第32条に基づく増額請求が可能になります。
| 賃料不増額特約 |
|
|---|---|
| 自動改定特約 |
|
| 協議条項 |
|
特約の内容によって値上げ交渉への影響が異なるため、交渉前に必ず現行の契約書を確認しましょう。特約の有無と期間を正確に把握することが重要です。
家賃値上げのタイミングと相場
家賃の値上げは「いつ・いくら」のポイントを間違えると、交渉が難航しやすくなります。ここでは、交渉を切り出すおすすめのタイミングと、入居者が受け入れやすい値上げ幅の目安、値上げ額を客観的に算出する3つの方法を紹介します。
1. 値上げ交渉のタイミング
2. 家賃値上げ幅の目安と上限の考え方
3. 値上げ額を算出する3つの方法
値上げ交渉のタイミング
「契約期間中だから、値上げは難しいのでは」と思う方もいるのではないでしょうか。 「特約がある場合はどうなる?」で説明したとおり、不増額特約がある場合は、特約で定められた期間中の値上げはできません。特約がない場合でも、値上げ交渉を切り出すタイミングによって入居者の反応は大きく変わります。
| タイミング | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 契約更新時 |
|
|
| 契約期間中 |
|
|
急激な税負担増などの特別な事情がなければ、値上げ交渉は契約更新時に合わせるのが比較的無難です。トラブルや退去のリスクがないとはいい切れないため、入居者の心理を考えて、慎重に進めましょう。
家賃値上げ幅の目安と上限の考え方
家賃の値上げに、法律上の上限は定められていません。しかし、値上げ幅が大きいほど、入居者の心理的ハードルが高くなります。値上げ幅の目安は、物件の価格帯やエリア、居住者層によっても異なります。一概にはいえませんが、一般的な賃貸アパート・マンションの場合は月額2,000~5,000円、上昇率にして3~5%程度を目安としているケースが多いようです。
| 上昇率 | 値上げ金額 | 入居者の反応 |
|---|---|---|
| ~3% | ~3,000円 | 受け入れられやすく、交渉なしで合意に至る場合もある |
| 3~5% | 3,000~5,000円 | 納得できる理由の説明を求められやすい |
| 5~10% | 5,000~10,000円 | 拒否もしくは退去を検討する入居者が出てきやすい |
| 10%~ | 10,000円~ | 退去リスクが高く、トラブルにつながりやすい |
家賃の値上げは、退去になった場合の原状回復費用や空室期間中の収入が途絶えること、再募集の広告費なども考慮して設定しましょう。値上げで得られる収益と退去時の損益をシミュレーションして、事前に見通しを立てておくことをおすすめします。
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値上げ額を算出する3つの方法
値上げ額をオーナーの感覚で決めると、「根拠がない」と入居者の納得を得にくくなります。まずは下記の代表的な3つの方法で、交渉の出発点となる金額を算出しましょう。ただし、これらはあくまで交渉のための簡易的な計算手法であり、不動産鑑定士が行う正式な賃料鑑定とは異なります。
| 1.周辺の相場と比較する |
|---|
| 同エリア・同条件(駅からの距離・築年数・面積など)の物件の家賃を調査し、平均値と現行家賃の差額を算出する方法です。入居者にとっても「自分の家賃が相場より安い」という事実が客観的に伝わりやすく、比較的理解を得やすいアプローチです。 なお、募集時の家賃は根拠として弱いため、不動産会社などに相談して、同条件の成約賃料を提示してもらいましょう。 |
| 2.公租公課の増額分を積み上げる |
| 固定資産税や都市計画税の負担増を値上げの根拠にします。納税通知書の比較で客観的に証明しやすいのがメリットです。 管理委託費用や修繕費の増加のみを根拠とするのは、正当な事由とはいえません。 |
| 3.総務省統計局が公表する消費者物価指数(CPI)の上昇率を参考にする |
| 【参考計算式:現行家賃×(現在のCPI÷契約時のCPI)】 契約時のCPIと現在のCPIを比較し、上昇率を値上げ幅の参考値に使用する方法です。「物価が上がった分だけ値上げしたい」という合理的な説明がしやすくなります。 ただし、CPIは食料品やサービスなど幅広い品目を含む総合指標であり、家賃の適正額を直接示すものではありません。あくまで「契約時からこれだけ物価が上がっている」という説明の補助材料として活用するのが適切です。 |
実務上は「1」の周辺相場との比較をベースに、「2」の公租公課の増額分・「3」の物価指数との連動で補強して提示すると説得力が増すのでおすすめです。
家賃値上げ交渉の5ステップと通知書の書き方・送り方
入居者に突然家賃の値上げを伝えると、トラブルを招きかねません。ここでは、周辺相場の調査から覚書の締結まで、家賃値上げ交渉の一連の流れを5つのステップに分けて説明します。通知書に盛り込むべき項目や例文、送付方法についても紹介します。
1. 周辺相場などを調査し、値上げ額を決める
2. 正当な理由をまとめた通知書を作成する
3. 入居者に通知書を送付する
4. 入居者と交渉し、合意を得る
5. 合意内容を覚書に残す
ステップ1.周辺相場などを調査し、値上げ額を決める
まず、「値上げ額を算出する3つの方法」で紹介した手法をベースに、具体的な値上げ額を確定しましょう。
周辺相場を調査する際に注意したいのは、不動産情報サイトに掲載されている家賃が「募集賃料」であり、実際の成約賃料とは異なる場合です。可能であれば、管理会社や不動産会社を通じて近隣の成約事例を確認すると、より精度の高い比較ができます。
周辺相場の一覧表、固定資産税の推移、物価指数の変動などの収集データはすべて保存し、いつでも提示できるよう整理しておきましょう。
ステップ2.正当な理由をまとめた通知書を作成する
家賃値上げ額の決定後は、入居者に送る「家賃値上げ通知書」を作成します。通知書は、値上げの客観的な根拠と入居者への配慮を両立させた、誠実な内容に仕上げるのがポイントです。
| 改定の理由 | なぜ値上げが必要なのか(固定資産税の増額、周辺相場との乖離など) |
|---|---|
| 新賃料 | 改定後の月額家賃(※店舗・事務所などの場合は消費税の扱いも明記) |
| 適用開始日 | いつから新賃料が適用されるか |
| 回答期限 | 入居者にいつまでに返答してほしいか |
| 連絡先 | 不明点がある場合の問い合わせ先(オーナーまたは管理会社) |
曖昧な表現はトラブルの原因になるため、簡潔かつ明確に記載しましょう。また、回答書(同意書)のひな型も同封しておくと、入居者が返答しやすくなるのでおすすめです。
【参考】そのまま使える値上げ通知書の例文
書面を作成する際は、日頃の感謝を伝えるクッション言葉を添え、誠実さを意識しましょう。下記は、一般的な通知書の一例です。実際の通知書では、契約内容や物件の状況によって記載内容が異なります。あくまでも参考としてお役立てください。
◎通知書の文例
◎回答書(同意書)のひな形の例
ステップ3.入居者に通知書を送付する
家賃の値上げに、法律上の事前通知期間は定められていません。しかし、入居者と円滑に協議を進めるためには、改定を希望する日の3~6ヵ月前には通知しておくのが望ましいでしょう。十分な検討期間を設けることで、条件調整や話し合いも進めやすくなります。
通知は、管理会社に管理を委託している場合、管理会社経由で送付するのが一般的です。電話などで「書面をお送りしましたので、ご確認ください」などと一報を入れるのも、丁寧な印象を与えられるのでおすすめです。
送付日や到達日は、必ず記録しておきましょう。電話や対面だけで済ませるのは、後日「聞いていない」と言われた場合に証明できないため、避けたほうが無難です。
| 送付方法 | 推奨度 | 特徴 |
|---|---|---|
| 内容証明郵便 | 〇 |
|
| 特定記録郵便 | 〇 |
|
| 普通郵便 | ✖ |
|
| メール・LINEなど | △ |
|
ステップ4.入居者と交渉し、合意を得る
通知書を受け取った入居者からの返答にあわせ、交渉に入ります。入居者の反応は大きく4つのパターンに分かれることが大半です。
| 合意 |
|
|---|---|
| 条件付き合意 |
|
| 拒否 |
|
| 無反応 |
|
交渉は対面が望ましいのですが、入居者が希望する場合は電話やメールでもやむを得ません。交渉の内容は、必ず記録に残すようにしましょう。口頭の場合、可能であれば録音を推奨します。
ステップ5.合意内容を覚書に残す
家賃の値上げ額と適用開始日について合意が得られた際は、覚書(合意書)を作成しましょう。覚書を交わさないまま口頭合意だけで進めると、後日「そんな約束はしていない」と撤回されるなど、思わぬトラブルに発展するリスクがあります。覚書は賃貸借契約書の補足書類として法的効力を持つ証拠となるため、良好な関係であっても必ず書面に残すのが鉄則です。
| 物件 | 物件名・所在地・部屋番号 |
|---|---|
| 当事者 | オーナー(甲)と入居者(乙)の氏名・住所 |
| 改定内容 | 旧賃料・新賃料・適用開始日 ※段階値上げの場合は、各段階の金額と適用時期も記載 |
| 合意日 | 双方が合意した日付 |
| 署名・捺印 | 甲・乙双方の署名または記名・捺印 |
覚書は2通作成し、オーナーと入居者がそれぞれ1通ずつ保管します。管理会社に管理を委託している場合は、手続きの行き違いを防ぐため、管理会社にも必ずコピーを共有しておきましょう。
家賃値上げ交渉のコツ5選
家賃の値上げ交渉は、必ずしもスムーズに合意が得られるとは限りません。ここでは、交渉が難航しそうな場合に入居者の拒否反応を和らげ、円満な合意へ導くための実践的なコツを5つ紹介します。
1. 根拠データを示して「なぜ値上げが必要か」を説明する
2. 段階的な値上げで入居者の負担感を和らげる
3. 設備交換やリフォームとセットで提案する
4. 更新料の減額などの交換条件で納得感を高める
5. 管理会社を通じた交渉で感情的な対立を防ぐ
根拠データを示して「なぜ値上げが必要か」を説明する
入居者が値上げに応じない場合、「納得できない」という理由が大半です。前述の「値上げ額を算出する3つの方法」で作成した客観的な数値を提示し、経営努力だけではカバーできない事実を理解してもらうことがポイントです。
段階的な値上げで入居者の負担感を和らげる
家賃の値上げ幅が大きい場合は、複数回に分けて段階的に引き上げる方法が有効です。
◎例:月額5,000円の値上げが目標の場合
- ● 2段階方式:1年目に+3,000円、2年目に+2,000円
- ● 3段階方式:1年目に+2,000円、2年目に+2,000円、3年目に+1,000円
段階を先に提示することで、入居者も生活設計の見通しが立てやすくなります。この場合、各段階の金額と適用時期を覚書に明記しておきましょう。
設備交換やリフォームとセットで提案する
「家賃だけが値上がりして、自分には何のメリットもない」と入居者が感じたときは、拒否反応が起きやすくなります。老朽化した設備の交換やリフォームを同時に提案し、「家賃は上がるが住環境が向上する」という納得感を作るのも、効果的な対応です。
◎設備投資の例
- ● 防犯性の向上:モニター付きインターホンの設置
- ● 電気代の節約:エアコンの交換快適性の向上
- ● 快適性の向上:温水洗浄便座の設置
- ● 部屋の印象を一新:壁紙・床材の張り替え など
ただし、設備投資にはコストがかかります。事前に値上げによる増収額と想定される入居年数を試算し、投資回収可能か見極めましょう。
更新料の減額などの交換条件で納得感を高める
家賃の値上げを受け入れてもらう代わりに、別の名目で入居者の負担を相殺する「条件交渉」も実務上では有効です。入居者にとって、トータルでの負担感が和らぐ選択肢を提示しましょう。
| 更新料の減額 |
|
|---|---|
| フリーレントの付与 |
|
| 退去時負担の緩和 |
|
管理会社を通じた交渉で感情的な対立を防ぐ
オーナーが直接交渉にあたると、お互いに感情的な対立へ発展しやすくなるケースがあります。交渉の実務経験が豊富な管理会社を間に挟むことで、直接的な感情対立を回避しやすくなるほか、下記のようなメリットが得られます。
- ● 書面作成・送付・入居者対応を一任できるため、オーナーの負担が軽減する
- ● 交渉の経過や履歴を客観的な証拠として記録に残せる
委託する際は、値上げの目標額や譲歩可能な範囲、金額を優先するか・入居継続を優先するかといった交渉の方針などをあらかじめ共有しておくと良いでしょう。管理会社によっては別途費用が発生する場合もあるため、事前の確認が必要です。
家賃値上げ交渉を拒否された場合の対処法
残念ながら、尽力しても入居者が最後まで合意しないケースは存在します。その際、感情的になって強硬手段に出ると、オーナー側が法的リスクを抱えかねません。ここでは、拒否された場合に取るべき対処法と、やってはいけないNG対応について紹介します。
1. 譲歩案を提示して妥協点を探る
2. 賃料鑑定で客観的な根拠を示す
3. 民事調停・訴訟を検討する
4. 【参考】やってはいけないNG対応
譲歩案を提示して妥協点を探る
家賃の値上げを拒否された場合、まずは現実的なラインでどこまで譲歩できるか検討しましょう。歩み寄りの姿勢を見せることで、相手の態度が和らぎ協議が進むケースがあります。
| 金額の妥協 | 希望値上げ額5,000円を3,000円に引き下げる |
|---|---|
| 時期の猶予 | 4ヵ月後の適用を6ヵ月後の適用などに変更する |
| 条件の付加 | 前章で紹介したように、設備交換や更新料減額などとセットで提案する |
退去を考えると、多少譲歩してでも現在の入居者に残ってもらったほうがトータルで得になるケースは少なくありません。目先の値上げ額だけにこだわりすぎず、損益をシミュレーションして条件を設定することをおすすめします。
賃料鑑定で客観的な根拠を示す
譲歩案を提示しても合意に至らない場合、不動産鑑定士に「賃料鑑定」を依頼して適正な家賃を証明してもらう方法があります。
| 依頼先 | 不動産鑑定士(不動産鑑定事務所) |
|---|---|
| 費用の目安 | 15~40万円程度 ※物件の規模や構造によるため、事前見積もりが必要 |
| 期間の目安 | 依頼から2~4週間程度 |
| 鑑定書の効力 | 専門家による適正家賃として説得力が生じるほか、のちの調停や裁判の際に有力な法的証拠として採用されやすい |
ただし、鑑定にはまとまった費用がかかります。値上げ額との費用対効果を慎重に検討してから依頼に進みましょう。場合によっては、現行家賃のほうが適正と判断される可能性もあります。どちらの結果でも迷わないよう、あらかじめ方針を定めておくと安心です。
民事調停・訴訟を検討する
考えられるあらゆる手段を尽くしても合意が難しい場合は、最終的に法的手段を検討せざるを得ません。借地借家法に基づく賃料増額請求では、裁判の前に、まずは簡易裁判所に調停を申し立てる必要があります(調停前置主義)。
弁護士に調停を依頼した場合は、調停を始める前に、弁護士から借主にあらためてコンタクトをとるケースが大半です。不動産会社やオーナー自身の申し立てで交渉が進まなくても、この段階で弁護士が介入することにより、解決するケースも少なくありません。
調停が成立した場合、裁判の判決と同等の効力を持つ調停調書が作成されます。
| 項目 | 民事調停 | 訴訟(賃料増額確認訴訟) |
|---|---|---|
| 概要 | 簡易裁判所で調停委員を交えて話し合う手続き | 調停が不成立の場合に、裁判所に判断を求める手続き |
| 費用の目安 | 申立手数料は数千円~ ※別途、弁護士への依頼などが必要 |
弁護士費用を含め数十万円~ |
| 期間の目安 | 2~4ヵ月程度 | 6ヵ月~1年以上 |
なお、訴訟にまで発展すると、関係修復が難しくなります。加えて時間も費用もかかるため、訴訟は最終手段と位置づけましょう。踏み切る際は弁護士に相談し、勝算や費用対効果を見極めながら慎重にご検討ください。
【参考】やってはいけないNG対応
いかに交渉が難航しても、下記のような強硬手段は法律で禁じられています。オーナー側が損害賠償を請求されたり、刑事罰に問われたりするリスクがあるため、無意識でも抵触しないようご注意ください。
| 値上げ拒否のみを理由に退去を迫る | 入居者が従前の家賃を支払い続けている限り、オーナー側から一方的に契約解除や退去を強制できない(借地借家法第28条) |
|---|---|
| 鍵の交換や入室制限 | 入居者の居住権の侵害に抵触し、不法行為として損害賠償の対象になる恐れがある(民法709条) |
| 家賃の受け取り拒否 | 入居者が従前の家賃を支払う意思を示しているにもかかわらず、オーナーが受領を拒否すると、「受領遅滞」とみなされる恐れがある(民法413条) |
| 水道・電気の供給停止 | 不法行為(民法第709条)に該当するほか、態様によっては威力業務妨害罪(刑法第234条)などに問われる恐れがある |
| 威圧的な言動・脅迫 | 脅迫罪(刑法222条)・強要罪(刑法223条)に問われる恐れがある |
円満な家賃の値上げ交渉を実現して収益改善につなげよう
家賃の値上げ交渉は、借地借家法第32条によって認められたオーナーの正当な権利です。しかし、法的な正しさだけを押し通しても、入居者と良好な関係性を維持したまま、円満に合意を得ることはできません。賃貸経営を長期的に安定させるためには、相手への配慮と実務的な手順を踏まえた、誠実な協議の姿勢が不可欠です。まずは管理会社などと密に連携しながら、入居者と丁寧な協議を重ねて、お互いの妥協点を探っていきましょう。
なお、ノムコム・プロでは、不動産の有効活用に関するさまざまなご相談を承っております。「自分のケースではどのような対策が有効か」「今後、不動産をどのように運営していけば良いのか」など、お気軽にお問い合わせください。
よくある質問
Q:入居者が値上げを拒否した場合、それを理由に退去させることはできますか?
A:退去させることはできません。借地借家法により、値上げへの不同意だけでは契約解除の正当な事由に該当しないとされています。値上げに応じないことは契約違反にはならないため、まずは話し合いや譲歩案の提示などから段階的に対応しましょう。
Q:契約書に「家賃を改定しない」という特約がある場合でも値上げは可能ですか?
A:場合によります。賃貸借契約書に「一定期間は家賃を増額しない」という賃料不増額特約がある場合、その期間中の増額は一切認められていません。特約の有効期間が過ぎたあとであれば、借地借家法第32条に基づく増額請求が可能です。
Q:家賃の値上げで妥当な金額はいくらぐらいですか?
A:実務上は月額2,000~5,000円、上昇率にして3~5%程度が入居者に受け入れられやすい目安とされているケースが多いようです。ただし、値上げ額は周辺の家賃相場や固定資産税の変動幅によって異なるため、必ず客観的なデータをもとに合理的な金額を算出しましょう。









