不動産投資コラム

おしどり贈与は収益物件にも使える?適用要件や注意点、自宅を活用した資産承継の考え方

おしどり贈与は収益物件にも使える?適用要件や注意点、自宅を活用した資産承継の考え方

婚姻期間が長い夫婦の間で自宅を贈与する際は、「おしどり贈与」と呼ばれる贈与税の配偶者控除を利用できる場合があります。収益物件には適用されませんが、生前に自宅を配偶者へ移すことで、「自宅は配偶者に・収益物件は子どもに」といった承継先の整理に役立ちます。
本記事では、おしどり贈与の適用要件やメリット、注意点と対策、手続き方法などを網羅的に解説します。ぜひ、最後までご覧ください。

なお、ノムコム・プロでは、収益物件の有効活用や相続に関するご相談を承っております。「所有している収益物件をどのように活用したら良いか」「自分のケースではどのような対策が有効か」など、気になる点はお気軽にお問い合わせください。

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※以下の情報は2026年8月時点の情報をもとに、税理士の田中裕之が監修しています。

この記事で分かること

  • おしどり贈与を活用すると基礎控除110万円とは別に最大2,000万円を贈与財産の価額から控除できるが、対象は国内の居住用不動産またはその取得資金に限られる
  • 賃貸専用の収益物件は対象外である一方、賃貸併用住宅や店舗兼住宅は、一定の要件を満たす居住用部分に適用できる場合がある
  • 利用の可否は、贈与税だけでなく、登録免許税・不動産取得税、相続時の特例、共有後の意思決定、一次相続・二次相続まで含めて判断すると良い

目次

おしどり贈与とは?

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おしどり贈与とは「贈与税の配偶者控除」の通称で、婚姻期間が長い夫婦の間で使える制度です。最初に、制度の仕組みや適用要件などの概要について説明します。

おしどり贈与の概要

おしどり贈与とは、婚姻期間が20年を超える夫婦間で自宅などを贈与したときに使える「贈与税の配偶者控除」の通称です。要件を満たして贈与税を申告すると、暦年課税の基礎控除110万円とは別に、贈与財産の価額から最大2,000万円を差し引けます。その年にほかの暦年贈与を受けていなければ、合計2,110万円まで贈与税がかからない計算です。

参考:国税庁「No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」
財務省「贈与税に関する資料」
控除額 最大2,000万円(基礎控除110万円とは別枠)
控除の合計 条件が整えば、課税価格から合計2,110万円を控除できる
対象となる財産 国内にある自宅の家屋・敷地・借地権、またはその取得資金
使える回数 同じ配偶者からの贈与について一生に一度

ただし、おしどり贈与は「2,110万円までの贈与が一律に非課税になる制度」ではありません。評価額が控除額を上回る部分には、原則として贈与税がかかります。なお、自宅そのものではなく、自宅を取得するための金銭を贈与する方法も対象になり得ます。

おしどり贈与が適用される3つの要件

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おしどり贈与を利用するには、次の3つの要件をすべて満たす必要があります。贈与後に修正しにくい項目もあるため、贈与契約や登記の前に確認しておきましょう。

要件1.婚姻期間が20年を過ぎている

婚姻期間は、「婚姻届を出した日」から「贈与を受けた日」までの期間で判定します。1年未満の端数は含めないため、婚姻期間が19年11ヵ月の場合は要件を満たしません。また、戸籍上の婚姻期間が対象であり、内縁関係や事実婚の期間が含まれない点にも注意が必要です。
婚姻20年目に入った時点ではなく、丸20年を経過してからの贈与が対象です。

要件2.国内の居住用不動産またはその取得資金を贈与する

対象は、贈与を受けた配偶者が住むための国内の家屋や土地、借地権、またはこれらを取得するための金銭です。別荘や賃貸専用物件など、配偶者が生活の本拠として使用しない不動産は対象になりません。取得資金を贈与する場合も、実際にその資金で対象となる居住用不動産を取得する必要があります。
参考:国税庁「No.4455 配偶者控除の対象となる居住用不動産の範囲」

要件3.翌年3月15日までに居住し、その後も住み続ける見込みがある

贈与を受けた配偶者は、贈与を受けた年の翌年3月15日までに、対象の居住用不動産に実際に住んでいなければなりません。さらに、その後も住み続ける見込みが必要です。
「取得しただけで住んでいない」「当初から短期間で売却・賃貸の予定がある」と判断された場合は、適用されない可能性が高くなります。
参考:国税庁「No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」

収益物件への適用の可否

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収益物件については、「贈与できるか」と「おしどり贈与が適用されるか」を分けて考える必要があります。

賃貸専用物件は贈与できるが、おしどり贈与の対象にはならない

投資用の賃貸アパートや区分マンションなども、所有者から配偶者へ贈与すること自体は可能です。ただし、おしどり贈与の対象は「居住用不動産」に限られるため、賃貸専用物件は控除の対象になりません。配偶者へ賃貸専用物件を贈与した場合は、通常の贈与として贈与税がかかります。

家賃収入も同様で、おしどり贈与は使えません。通常の生前贈与、相続、遺言、法人を活用した承継など、目的に合う別の方法を検討する必要があります。
参考:国税庁「No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」

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店舗兼住宅・賃貸併用住宅は居住用部分に適用できる場合がある

1階が店舗や賃貸用スペース、2階が自宅といった店舗兼住宅・賃貸併用住宅の場合、居住用部分についてはおしどり贈与を適用できるケースがあります。範囲の判定が複雑であるため、税理士に確認したうえで贈与する範囲を決めるのがおすすめです。

  • ● 家屋または敷地のうち、居住用部分がおおむね90%以上であれば、全体を居住用不動産として扱える場合がある
  • ● 併用住宅の持分を贈与した場合、居住用部分から優先して贈与を受けたものとして計算できる場合がある(おしどり贈与を適用するときに限って認められる取り扱い)

参考:国税庁「No.4455 配偶者控除の対象となる居住用不動産の範囲」

判定は床面積の割合が基本ですが、敷地の利用区分や登記の状況も関係します。自己判断で控除の対象額を決めるのは、避けましょう。贈与を受ける持分の割合によって居住用として扱える範囲が変わるため、事前の試算が欠かせません。

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おしどり贈与が向いているケースと慎重に判断したいケース

おしどり贈与は、要件を満たせば必ず有利になる制度ではありません。比較的向いているケースと慎重な判断が必要なケースの傾向をまとめました。

◎おしどり贈与が向いているケース
夫婦の一方に自宅・収益物件・金融資産が集中している 財産の偏りをならすことで、相続時の税負担を抑えられる可能性がある
配偶者の住まいを生前に確保しておきたい 自宅を先に配偶者名義にしておくことで、住まいを守りやすくなる
自宅は配偶者、収益物件は子へと承継先を分けたい 資産の役割ごとに渡す先を整理しやすくなる
将来自宅を売却する可能性があり、譲渡益が大きくなりそう 共有名義にすることで、売却時の控除枠が広がる可能性がある
◎おしどり贈与に慎重な判断が必要なケース
相続財産が相続税の基礎控除の範囲内 そもそも相続税がかからず、贈与の費用だけが発生する可能性がある
配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例で十分対応できる 贈与しなくても相続時の特例で税負担を抑えられる場合がある
配偶者側にもすでに多額の財産がある 財産の偏りをならす効果が小さく、二次相続でかえって不利になることがある
自宅にローンや共同担保が残っている 名義変更に金融機関の確認が必要で、負担付贈与になる可能性もある
共有名義にすると今後の売却や資金調達に支障が出そう 売却や担保設定に双方の同意が必要になる

おしどり贈与が向いているケースでも、共有持分だけを贈与する場合や抵当権が残る場合は、注意が必要です。贈与だけで住まいを確実に守れるとは限りません。少しでも気になる場合は、税理士などの専門家に相談するのが確実です。

もう少し具体的に判断したい場合は、「おしどり贈与の利用を判断する4つのステップとシミュレーション」でご確認ください。

収益物件を所有する人がおしどり贈与を検討する意味と5つのメリット

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収益物件を所有する人がおしどり贈与を検討する意味と、期待できる5つのメリットを解説します。

収益物件を所有する人がおしどり贈与を検討する意味

収益物件を持っている方の承継は、自宅や収益物件、金融資産などを「誰に、何を、どの順番で渡すか」の設計がポイントとなります。おしどり贈与は収益物件を贈与する制度ではありません。しかし、自宅の所有権を先に配偶者へ移すことで、相続時に残る財産の構成を変えられます。

結果として、居住のための自宅と収益を生む事業性のある不動産を、切り分けて検討しやすくなります。おしどり贈与を「収益物件を含む資産承継の選択肢」として位置づけることが大切です。

メリット1.贈与税を抑えながら、生前に自宅を配偶者へ渡せる

最大2,110万円(配偶者控除2,000万円+基礎控除110万円)まで贈与税がかからず、生前に自宅の名義を移せます。自分が元気なうちに、配偶者へ確実に住まいを渡せます。

メリット2.将来の相続税を抑えられる可能性がある

夫婦の一方に財産が集中している場合に起こりやすいのが、相続税の問題です。あらかじめ配偶者に財産の一つである自宅を渡しておけば、相続税の負担を軽減できる可能性があります。また、この控除を使った贈与分は、「生前贈与加算の対象」にならない点も強みです。
しかし、配偶者の財産が増えることで、次の相続(二次相続)の税負担が増える場合があります。夫婦全体で試算し、トータルの税金で判断しましょう。

メリット3.自宅と収益物件を分けて承継しやすい

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自宅を配偶者へ生前に渡すことで、「自宅は配偶者」「収益物件は管理を担う子ども」といった承継の方針が立てやすくなるのも、おしどり贈与の活用メリットの一つです。収益物件を共有にすると、管理や売却の意思決定が複雑化します。将来的なトラブルの発生リスクを軽減するには、遺言などの併用も効果的です。

メリット4.配偶者の住まいを生前に確保できる

おしどり贈与を使って自宅を配偶者名義に変更すれば、その自宅は原則として相続時の遺産分割の対象になりません。ほかの相続人と自宅の分け方を話し合う必要がなくなるため、配偶者が住み慣れた家に住み続けやすくなります。

さらに、婚姻期間が20年を過ぎた夫婦間で居住用不動産を贈与した場合、民法上、特別受益の持ち戻しを免除する意思があったものと推定されます。そのため、贈与された自宅を受け取っていても、配偶者の相続分は原則として減りません。自宅に加えて、預貯金などの生活資金が確保しやすくなるのも強みです。

メリット5.将来の自宅売却時の税金を抑えられる可能性がある

おしどり贈与で共有名義にした自宅を売却する場合、3,000万円特別控除の適用可否が共有者ごとに判定されます。夫婦がそれぞれ家屋と敷地の持分を持ち、各人が要件を満たせば、それぞれの持分に対応する譲渡所得から最高3,000万円を控除できる可能性があります。
将来自宅を売却する際に、夫婦全体の税負担を抑えられる可能性がある点もメリットです。
参考:国税庁「No.3308 共有のマイホームを売ったとき」

得とは限らない「おしどり贈与」5つの注意点と対策

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おしどり贈与は、単純に「贈与税がかからないから有利」と判断できる制度ではありません。贈与税以外の費用がかかり、相続で対応したほうが有利なケースもあります。ここでは、見落としやすい5つの注意点と、その対策について整理します。

注意1.贈与税以外の費用が発生する

おしどり贈与で不動産の名義を移すときに発生するのが、登録免許税や不動産取得税、司法書士報酬などのコストです。相続で不動産を取得する場合と比べ、贈与では負担が重くなる傾向があります。
不動産取得税の軽減措置は物件や自治体によって異なるため、具体的な金額は都道府県税事務所や専門家へ確認しましょう。

◎贈与と相続でかかる主な費用の比較参考:法務局「登録免許税の計算」
項目 贈与の場合 相続の場合
登録免許税 固定資産税評価額の2.0% 固定資産税評価額の0.4%
不動産取得税 原則として課税される(軽減措置あり) 課税されない
司法書士報酬 登記の代行費用が発生する 登記の代行費用が発生する

◎主な対策

  • ● 贈与によって発生する費用の総額を、事前に試算しておく
  • ● 諸費用を含めたトータルの金額で判断する
  • ● 費用の見積もりは、司法書士や税理士に依頼すると正確に把握できる

注意2.相続のほうが有利な場合がある

相続には特例があるため、おしどり贈与を使わなくても税負担を抑えられるケースがあります。

◎相続時に使える主な特例参考:国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
参考:国税庁「No.4158 配偶者の税額の軽減」
配偶者の税額軽減 配偶者が取得した財産のうち、1億6,000万円または法定相続分相当額のいずれか多い金額まで、相続税がかからない
小規模宅地等の特例 一定の要件を満たす自宅の土地について、評価額を最大80%減額できる

小規模宅地等の特例は、相続または遺贈で取得した宅地が対象です。生前贈与した持分そのものには適用できません。相続まで待てば使えた特例を失い、贈与時の費用も増える場合があるため、注意が必要です。

◎主な対策

  • ● おしどり贈与をする前に、相続時の特例だけで対応できないか検討する
  • ● 自宅の評価額や家族構成によっても効果が変わるため、いくつかのパターンで試算しておく
  • ● 次の4つの視点で比較を行う
    • ○ 相続税が基礎控除の範囲内に収まるか
    • ○ 配偶者の税額軽減を使った場合の一次相続税はいくらか
    • ○ 小規模宅地等の特例を使える宅地・持分はどこか
    • ○ 二次相続まで通算した税額はいくらか

下記の記事では、不動産を活用した相続税対策について詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
関連記事:相続税対策のための不動産活用術│仕組みや具体策、リスクを解説

注意3.売却時の節税効果はケースによって異なる

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「メリット5.将来の自宅売却時の税金を抑えられる可能性がある」で説明したように、夫婦それぞれが3,000万円特別控除を受けられても、必ずしも売却時の税負担が大きく下がるとは限りません。実際の税額が、各自の譲渡所得や持分割合、取得費などによって異なるためです。
贈与で取得した自宅の取得費と取得時期は、原則として贈与者から引き継ぎます。取得費を証明できない場合は、売却代金の5%を概算取得費として計算するため、譲渡所得が大きくなり、想定より税額が増える可能性があります。
将来の売却を見据える場合は、贈与前に次の対策を講じておきましょう。

◎主な対策

  • ● 夫婦それぞれが3,000万円特別控除を受けられるよう、家屋と敷地の持分の設定について税理士へ確認する
  • ● 取得費を証明できるよう、贈与者が自宅を購入した際の売買契約書や領収書などを保管しておく

注意4.共有名義にすると意思決定が複雑になる

自宅を共有名義にすると、共有物全体の売却や担保設定などに共有者全員の合意が必要になります。夫婦の意向が一致している間は問題がなくても、病気や離婚などで関係性が変わると、意思決定が難しくなる場合があります。

自宅が住宅ローンや投資ローンの担保に入っている場合は、名義変更の前に金融機関への確認が必要です。ローンが残っているからといって、必ずしも負担付贈与になるわけではありません。しかし、配偶者が債務を引き受ける条件で贈与した場合は、該当の可能性が高まります。該当すると、受贈者の贈与税だけでなく、贈与者にも譲渡所得税がかかるため、慎重な判断が必要です。
参考:国税庁「No.4426 負担付贈与に対する課税」

◎主な対策

  • ● ローンや共同担保が残っている場合は、名義変更の前に必ず金融機関へ確認する
  • ● 共有名義にする前に、将来の売却・資金調達の予定を整理しておく
  • ● 債務を引き受ける形にするかは、贈与者・受贈者の双方の税負担を確認してから決める

不動産投資のローン借り換えについて興味がある方は、下記の記事もあわせてご覧ください。
関連記事:不動産投資ローン借り換えのメリット・デメリットは?成功事例や審査を通すコツも紹介

注意5.贈与後の相続が想定どおりになるとは限らない

贈与した後の相続が、想定どおりの順番や状況で起こるとは限りません。贈与を受けた配偶者が先に亡くなると、その自宅持分は配偶者の相続財産になります。贈与した本人も、相続人の一人となるのです。子どもなどほかの相続人や遺言、遺産分割の内容によっては、不本意な結果になりかねません。

また、おしどり贈与は、同じ配偶者からは一生に一度しか使えない制度です。家族構成や年齢によっては、贈与しないほうが結果的に有利だったというケースもあります。「こんなはずではなかった」と後悔しないよう、実施前にさまざまなパターンでシミュレーションしておきましょう。

◎主な対策

  • ● 「配偶者が先に亡くなった場合」という逆の順番も想定して試算する
  • ● 一度しか使えない制度のため、実行前に二次相続まで含めて慎重に判断する
  • ● 想定外の共有を防ぐため、遺言と組み合わせて承継先を決めておく

おしどり贈与の利用を判断する4つのステップとシミュレーション

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おしどり贈与を利用するかどうかは、控除額だけで判断できません。保有資産や借入金を整理し、贈与の目的を明確にしたうえで、相続まで待つ場合やほかの承継方法と比較することが重要です。判断の手順を4つのステップで説明します。

ステップ1.保有資産と借入金を整理する

最初に、夫婦それぞれが保有している資産の棚卸しを行いましょう。誰が何を持っているかを明確にしたうえで、夫婦それぞれの財産の合計を出し、資産の偏りを可視化するのが目的です。現在の財産額だけでなく、家賃収入や将来の値上がり・値下がりも、二次相続時の財産額に影響します。気付いたことは、メモとして残しておくことをおすすめします。

◎整理する項目の例
自宅 名義/持分/相続税評価額
収益物件 名義/相続税評価額/家賃収入
金融資産 預貯金/有価証券などの残高と名義
借入金 残債/担保に入っている物件/団体信用生命保険(団信)の有無

ステップ2.贈与の目的と対象範囲を決める

次に、おしどり贈与を使う目的を明確化します。贈与の対象や持分の決め方は、目的により異なります。

◎目的と対象範囲の考え方の例
配偶者の住まいを確保したい 自宅の家屋・敷地の持分を配偶者へ贈与する
財産の偏りをならして相続税を抑えたい 評価額が2,110万円の枠に収まる範囲で持分を調整する
将来の売却に備えて共有にしたい 家屋・敷地をともに共有名義にできるか確認する

贈与する金額は売買価格ではなく、贈与税評価額(相続税評価額)を基準に考えましょう。土地や建物、マンションで評価方法が異なるため、対象不動産の評価額を先に調べておくとスムーズです。

ステップ3.贈与・相続・売却時の負担を試算する

考え方が固まった後は、おしどり贈与を使う場合と使わない場合で、トータルの税負担を比較しましょう。一次相続だけで判断すると、配偶者の税額軽減によって有利に見えても、二次相続で負担が増えることがあります。夫婦のどちらかが先に亡くなる場合など、考えられるパターンはすべて試算しておくと、客観的な判断に役立ちます。

◎比較するポイント
贈与時の費用 贈与税・登録免許税・不動産取得税・司法書士報酬
一次相続の相続税 最初に亡くなったときの相続税
二次相続の相続税 残された配偶者が亡くなったときの相続税
将来売却時の税負担 自宅を売却した場合の譲渡所得税

【シミュレーション】おしどり贈与の有無による税負担の比較

夫から妻へ自宅の持分を贈与するケースで、「おしどり贈与を使う場合」と「相続まで待つ場合」の税負担を比較してみましょう。条件は、あくまでも一例です。数値はすべて目安であり、実際の税額は財産の内容・評価額・家族構成などによって異なります。一つの参考としてお役立てください。

◎前提条件

  • ● 婚姻期間25年
  • ● 法定相続人は妻と子2人で、相続税の基礎控除は4,800万円
  • ● 妻へ贈与する自宅持分の贈与税評価額は2,000万円、固定資産税評価額は1,200万円
  • ● 夫の財産は自宅持分2,000万円・収益物件1,500万円・預貯金500万円の合計4,000万円
  • ● 評価額は変わらず、債務や葬式費用などはないものとします
◎シミュレーション※上記は制度の違いを示す簡易試算です
※おしどり贈与を使う際の不動産取得税は軽減措置があり、物件・地域で税額が異なります
※不動産取得税や司法書士報酬、各種特例を含む実際の負担額は、所在地や物件条件、財産構成によって異なります
項目 おしどり贈与を使う 相続まで待つ
贈与税 0円 (贈与なし)
将来の相続税 0円 0円
所有権移転の登録免許税 24万円
(1,200万円×2.0%)
4万8,000円
(1,200万円×0.4%)
不動産取得税 原則として課税対象(※) 原則として課税されない
司法書士報酬など 依頼内容に応じて別途発生 依頼内容に応じて別途発生

この事例では、おしどり贈与を使っても相続税は減少しません。登録免許税は相続より19万2,000円多くかかり、不動産取得税も別途発生します。
このように、相続税がかからない家庭において、おしどり贈与は税負担を減らす目的だけでは効果が期待できません。「配偶者の住まいを生前に確保したい」「自宅と収益物件の承継先を分けたい」など、ほかの目的で判断しましょう。

ステップ4.ほかの資産承継方法と比較する

おしどり贈与は、資産を承継するための手段の一つにすぎません。目的によっては、ほかの方法のほうが適しているケースもあります。大切なのは「どれが得か」ではなく、「何を実現したいか」という目的からの選択です。

◎主な目的と承継方法の例
主な目的 承継方法
生前に、自宅を配偶者へ確実に渡したい おしどり贈与
所有権は今は動かさず、相続時に誰に何を渡すかを指定したい 遺言
所有権を渡さず、配偶者が住み続ける権利を確保する 配偶者居住権
認知症などで管理できなくなる事態に備え、財産の管理・承継を家族に託したい 家族信託
家賃収入を分散したい/収益物件の承継を整理したい 法人化

家族信託や法人化などは、おしどり贈与の代わりになる制度ではありません。おしどり贈与では対応できない範囲を補う別の施策として、検討することをおすすめします。

不動産投資の法人化に向け、検討すべきタイミングや判断基準などについて詳しく知りたい方は、下記の記事もあわせてご覧ください。
関連記事:不動産投資は法人化すべき?損益分岐と出口戦略の「後悔しない判断術」とは

おしどり贈与の手続きと必要書類

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おしどり贈与の手続きの流れと必要書類について整理します。

おしどり贈与の手続き5ステップ

おしどり贈与は、申告によって適用を受ける制度です。控除後の贈与税が0円だとしても、期限までに申告しましょう。特に、ステップ2の「ローン・担保の確認」とステップ5の「贈与税の申告」は、忘れやすいので注意が必要です。

参考:国税庁「No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」
ステップ1.
対象不動産を評価して贈与範囲を決める
自宅の評価額を調べ、贈与する土地・建物・持分を決める
ステップ2.
ローン・担保の状況を確認する
抵当権や共同担保の有無を確認し、必要に応じて金融機関へ相談する
ステップ3.
贈与契約書を作成する
贈与日・対象不動産・持分・債務の扱いを書面に残す。負担付贈与に該当するかは実態で判断される
ステップ4.
所有権移転登記を申請する
不動産の所在地を管轄する法務局へ、贈与を原因とする所有権移転登記を申請する
ステップ5.
贈与税を申告する
贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日(土日の場合は翌開庁日)までに申告する

おしどり贈与に必要な書類

所有権移転登記と贈与税申告の必要書類は、それぞれ異なります。また、戸籍謄本と戸籍の附票は、贈与日から10日を過ぎてから取得したものでなければ認められません。日付を確認してから請求しましょう。贈与資金で自宅を取得した場合は、取得を証明する書類も必要になります。

◎所有権移転登記の主な必要書類

  • ● 登記識別情報(または登記済権利証)
  • ● 固定資産評価証明書
  • ● 贈与契約書
  • ● 贈与する側の印鑑証明書
  • ● 受け取る側の住民票 など

◎贈与税申告の主な必要書類

  • ● 贈与税の申告書
  • ● 財産の贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成された戸籍謄本(または抄本)
  • ● 財産の贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成された戸籍の附票の写し
  • ● 居住用不動産の登記事項証明書(※申告書に不動産番号を記載すると添付を省略できる場合がある)
  • ● 固定資産評価証明書など、居住用不動産の評価がわかる書類

参考:国税庁「No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」

おしどり贈与は自宅と収益物件を含む資産全体で判断しよう

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おしどり贈与は賃貸専用の収益物件には使えません。しかし、要件を満たせば自宅部分は適用対象となり、「贈与税を抑えつつ自宅を渡せる」「自宅と収益物件を分けて承継しやすい」などのメリットが期待できます。一方で、おしどり贈与を使わず相続まで待てば、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使える場合もあります。

おしどり贈与は、目的を達成するための手段の一つにすぎません。自宅だけを切り出して考えるのではなく、収益物件を含む資産全体を見て、最適な方法を選びましょう。同じ配偶者との間では一度しか使えないため、税理士などの専門家と相談しながら検討することをおすすめします。

なお、ノムコム・プロでは、収益物件の有効活用や相続に関するご相談を承っております。「所有している収益物件をどのように活用したら良いか」「自分のケースではどのような対策が有効か」など、気になる点はお気軽にお問い合わせください。

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よくある質問

Q:賃貸専用の収益物件におしどり贈与は使えますか?

A:使えません。おしどり贈与の対象は、贈与を受けた配偶者が住むための国内の居住用不動産、またはその取得資金に限られます。ただし、1階が賃貸で2階が自宅といった賃貸併用住宅であれば、居住用部分について適用できる場合があります。

Q:贈与税が0円でも申告は必要ですか?

A:必要です。おしどり贈与は、贈与税の申告書に必要書類を添付して初めて適用を受けられる制度です。控除後の贈与税が0円でも、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日(土日の場合は翌開庁日)までに申告しましょう。申告を忘れると控除を受けられず、贈与税がかかる可能性があります。

Q:住宅ローンが残っている自宅でもおしどり贈与は利用できますか?

A:利用できます。ローンの有無は要件に関係ないため、婚姻期間20年超などの要件を満たしていれば配偶者控除を受けられます。ただし、抵当権が設定されている自宅は、名義変更に金融機関の承諾が必要になるのが一般的です。また、配偶者がローンを引き受ける条件で贈与すると負担付贈与に該当し、贈与者にも譲渡所得税がかかる場合があります。実行前に金融機関と税理士へ確認しましょう。

田中 裕之

税理士(田中裕之税理士事務所代表)、企業役員

ASK税理士法人、辻本郷税理士法人などを経て、現職。「会社にお金を貯めていく」キャッシュフロー経営の提案を重視しており、「売上があっても手元にお金が残らない」という悩みに対する支援に力を入れている。税務・経理だけでなく、資金調達(融資)、経営計画策定、記帳代行・経理体制の構築なども支援対象にしており、経営の"土台づくり"から相談できる。

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