第5回 経費はどこまで落とせるの?経費を使う節税とキャッシュフローの関係
そのような時、私は「賃貸収入を得るためにその支出が必要かどうか、必要であれば経費に入れることが可能です」とお答えしています。
経費として落とせる費用は?
建物の維持管理費や修繕費などは必要経費になることは容易にわかると思います。
しかし、接待交際費や物件調査費用など、一見すると経費にしてよいのか迷うものもあります。
その判断にあたり、参考となる裁決事例(平成23年3月25日裁決)があります。
不動産収入の約2倍から3倍にものぼる金額の必要経費を入れていたという極端な事例ですが、下記項目について経費計上を否定されています。
・ 住宅に係る経費(家賃、水道光熱費)
住宅のうち2部屋部分40㎡もの空間を、常時、事務所として使用して行うべき不動産所得に係る事務があったとは認められない。
・インターネット利用料及び電話代
取引の記録等に基づき、業務上必要であった部分を明らかにする証拠がない。
・ その他経費(スーツ代、自転車代、コンタクトレンズ代など)
不動産賃貸業との関連性を示す証拠は何ら見当たらない。
・青色事業専従者給与
妻が行う電話の取次ぎや郵便物の発送及び受渡しは、社会通念上、夫婦の相互扶助の範囲内の行為あるいは日常生活の一環として行われている行為にすぎず、不動産事業に専ら従事していることを合理的に裏付ける証拠の提出はない。
こちらは国税不服審判所で公開されていますので、詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。
http://www.kfs.go.jp/service/JP/82/05/index.html
これらの判断は、特定の経費が認められないとされているわけではなく、不動産賃貸業との関連が客観的に示されていないから認められないということです。
ですから、不動産賃貸業と関連性を示せられるかどうかがポイントになります。
関連性を示されるのであれば、堂々と経費計上にしましょう。
経費にならないもの
経費にならないもので、間違いやすいものを挙げておきます。
個人事業主がスポーツクラブに入会した会費などの福利厚生費は必要経費になりません。
個人事業主の場合は、家族以外の従業員がいない場合には福利厚生費を経費にすることはできません。
青色事業専従者との慰安旅行は必要経費になりません。
ただし、家族以外の従業員がいる場合には、福利厚生費に計上できる場合があります。
生計を一にする配偶者その他の親族に支払う地代家賃、借入金の利息の支払いなどは必要経費になりません。
逆に、受取った人も所得としては考えません。
生計を一にする配偶者その他の親族に支払う給与賃金は必要経費になりません。
ただし、必要な要件を満たせば青色事業専従者給与は必要経費になります。
賃貸不動産の購入のための借入金の返済のうち元本部分は必要経費になりません。
利息部分のみが必要経費になります。
所得税や住民税は必要経費になりません。
駐車違反などの罰金、科料及び過料などは必要経費になりません。
領収書がなければ経費にできない?
領収書がなくても経費に計上できる場合があります。
電車やバスでの運賃、仕事関係者の香典など、領収書がもらえないものもあります。
このように領収書がないものであっても、間違いなく支払った事実があれば、必要経費に計上することができます。
ただし、何も証拠もないのに経費にしてしまうと、税務署から、本当に支払ったものなのか疑われることになりかねません。
ですから領収書に代わる証拠を残しておくようにしましょう。
例えば、金額がわかるように、日付、金額、支払先などのメモをし、パンフレットや写真、ホームページなどがあれば取っておきましょう。
交際費などは、特に疑われやすい項目になるため、誰と行って、どんな内容の話をしたなどもメモしておくとよいでしょう。
また、この方法は領収書がもらえないものや、誤って紛失してしまったものだけの対応方法です。
全て領収書を紛失しましたでは、通用しません。
個人より法人の方が経費は認められやすい?
個人でも法人でも、事業のための費用であれば、経費になります。その違いはありません。
ただし、個人は、事業活動という側面と私生活という側面があります。
個人の支出のうち経費となるのは、原則、事業活動での支出になります。
私生活での支出(家事費)は経費になりません。
事業と家事費が混在している支出は、家事関連費といって、事業に区分できるものだけが経費になります。
例えば、自家用車を事業で使用している場合、年間の走行距離10万キロのうち、事業で使用した走行距離が3万キロであれば、車両費の総額のうち30%を経費に計上できるということです。
法人の場合は、私生活という側面はありません。
事業活動のみになるため、支出したものは、原則経費に計上できることになります。
ただ、役員などの私生活のために支出したものは、役員賞与と認定されて、経費にならないこともあります。
また、法人であれば、生命保険料や社宅家賃など、個人事業では、経費とならないものも、経費にできることがあります。
そのような意味で、法人の方が経費の適用範囲は広いと言えます。
経費を使った節税とキャッシュフローの関係
節税になるからと、経費を多く使う方がいらっしゃいます。
税金は少なくなりますが、キャッシュフローはどうなるのでしょうか?
具体例を挙げて考えてみましょう。
500万円の経費を使った場合と使わなかった場合です(後記図参照)。
上下の図は、収入や500万円の経費以外の経費は全く同じ条件で、それぞれのキャッシュフロー(実際の収入と支出)、所得計算(確定申告上の収入と経費)を並べています。
500万円の経費を使った場合には、所得税・住民税は198万円、手残りは122万円。
500万円の経費を使わなかった場合には、所得税・住民税は402万円、手残りは418万円。
500万円の経費を計上しない方が、税金は2倍になっていますが、手残りは3倍以上残ることになります。
つまり、「無駄な経費を使うより、税金をきちんと払った方が、手残りは多くなる」のです。
では、なぜ経費を使って税金を減らすと手残りも減ってしまうのでしょうか。
それは、支出(経費)は100%お金が出ていきますが、税金は100%は出ていかないからです。
所得税は5%~45%の間で、段階的に税率が適用されます。
住民税は一律10%です。
所得税・住民税を合わせると、15~55%の税率で税金を払うことになります。
自分の税率が30%なら、税金を払っても70%は残るのです。
経費を使うことで税率分(15%~55%)の税金は減りますが、経費で支出した金額(100%)は、お金が出ていって、残らないのです。
これがわからないと、必要以上に経費を使って、資金繰りに窮することになったり、所得が少なくなることで、銀行の評価が悪くなって、融資が受けづらくなったりするのです。
目先の節税にとらわれず、キャッシュフローとのバランスを考え、ご自身が目指される投資を心がけましょう。
※復興特別所得税は考慮しておりません。
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