東京都心部におけるマンション価格高騰と短期転売について

東京都心部におけるマンション価格高騰と短期転売について

東京都心部におけるマンション価格の高騰は、建築費の上昇や東京一極集中に伴う供給不足、長期化する低金利環境、さらには国内外の富裕層による需要増加といった、複数の構造的要因が重なり合うことで支えられてきました。その一方で、近年の取引動向として、一部の富裕層や法人、外国人投資家等による短期転売が、市場に影響を及ぼしている可能性も指摘されています。
投機目的とみられる短期転売の増加は、実需層の住宅取得環境に影響を与える他、居住を伴わない保有による空室状態の増加を通じて、住宅ストックの活用、住宅管理といった観点から課題が生じる可能性があります。
本レポートでは、不動産協会や個別企業といった業界側、および政府が講じているマンションの短期転売(注1)抑制に関する対応について、その背景や内容を整理するとともに、現時点でどのような評価や課題が指摘され得るかを検討します。あわせて、国土交通省の調査結果や当社が把握している取引事例に基づき、東京都心部における短期転売の発生状況と実態を客観的に整理し、短期転売が住宅市場に与え得る影響について考察を行います。


【サマリー】

  • 東京都心部におけるマンション価格の高騰は、投機目的とみられる短期転売が影響を及ぼしている可能性の指摘もありますが、複数の構造的要因が重なって生じており、それのみで説明できるものではありません。
  • 不動産業界では、購入戸数制限や名義管理の厳格化、引渡し前の売却活動禁止などの自主的な取り組みが進められており、一定の抑制効果が期待されます。一方で、所有権移転後の売却行為には制度的な制約があり、対策には限界も存在します。
  • 近年の取引動向として、国土交通省の調査では、都心6区の新築マンションの約12.2%が1年以内に転売していることが確認されています。市場全体や価格形成への影響は限定的であるものの、需給が逼迫する都心部では、実需層の住宅取得環境や、居住を伴わない保有による空室の増加を通じて、住宅の利用状況や管理運営に影響を及ぼす可能性があります。
  • 今後は、投資需要と居住需要のバランスを意識した市場の在り方が重要な論点の一つとなります。過度な投機を抑制しつつ、市場の流動性や供給促進との調和を図るためには、税制、取引ルール、利用実態に応じた対応などを含め、引き続き検証が進められていくことが想定されます。

1 不動産の利用や長期保有を目的とせず、短期間の価格変動から得られる「売却益(キャピタルゲイン)」のみを目的として、購入後すぐに転売すること。

Ⅰ.行政の要請と関連団体による対応策

本章では、不動産市場の主要なステークホルダーである一般社団法人不動産協会(以下、不動産協会)、個別の不動産会社、そして政府が、投機目的の短期転売を抑制するために講じている具体的な対応策を確認します。さらに、それぞれの取り組みが、明らかになった課題の解決に対してどれだけ寄与しうるか整理・検討を行います。まずは、千代田区による投機目的の購入抑制の要請とそれを受けての不動産協会の会員企業への要請、各不動産会社の対応方針について述べます。

ⅰ.千代田区による要請(2025年7月18日)

千代田区では、区内の投機目的のマンション取引が増えることにより、過度な住宅価格の上昇、ひいては賃貸住宅の賃料の高騰などにも影響を及ぼし、区内に居住したい方々が住めないことが想定されるとして、以下のような要請を不動産協会に要請しました。これは国レベルの法規制に先んじた動きとして注目されており、国交省もこうした自治体の動きを注視しています。

(1)総合設計などの都市開発諸制度を活用する事業及び市街地再開発事業(これから許認可等を受ける事業とし、以下「再開発等事業」という。)において販売するマンションについては、購入者が引渡しを受けてから原則5年間は物件を転売できないように特約を付すこと。

(2)上記(1)のほか、再開発等事業において販売するマンションについては、同一建物において同一名義の者による複数物件の購入を禁止すること。

ⅱ.不動産協会による取組みの公表(2025年11月25日)

分譲マンションの供給主体である不動産業界は、投機的な短期転売が自社のブランドイメージや市場の信頼性を損なうリスクがあることを認識しています。不動産協会は、短期転売が「決して好ましいことではない」との基本姿勢を明確にしつつ、その抑制に向けた具体的な施策を打ち出しています(注2)

(Ⅰ)状況認識と対応の限界

不動産協会は、マンション価格上昇の主因は「土地代や建築費などの原価の高騰」と「実需を基軸としたタイトな需給バランス」であり、投機的な取引の影響は「ごく限定的」であると認識しています。しかし、投機目的の短期転売自体は抑制すべきであるとし、従来の取り組みに加え、さらなる対策を講じるに至りました。
ただし、対応策の策定にあたっては、憲法に定められた「財産権の保障」の下、所有権が顧客に移転した後(引渡し以降)の私的財産の処分に関する権利に制限をかけることの難しさを最大の課題として挙げています。そのため、対策の焦点は、事業者が直接関与できる「引渡しまでの期間」に絞られています。

(Ⅱ)投機的転売抑制のための三本柱

引渡しまでの期間で実効性を高めるために、不動産協会の会員各社は、従来の「購入目的の確認」の徹底に加え、以下の三つの施策を基軸として順次導入することを決定しています。

【図表1】投機的転売抑制のための施策
施策 内容
登録・購入戸数の上限制限の導入 投機家による物件の独占的な買い占めを防ぐため、「1物件あたりの購入戸数」および「1回の販売期(次)における登録可能住戸数」に上限を設ける。これにより、特定の個人や法人が複数の住戸を投機目的で取得することを物理的に制限する。
契約・登記等名義の厳格化 契約から引渡し、所有権登記に至る全ての名義を、最初に登録(申込)した名義と一致させることを徹底する。これにより、転売利益を目的とした名義貸しや、契約直後における権利の転売行為(未登記転売)を事前に阻止することを目的とする。
引渡しまでの売却活動の禁止 売買契約締結から物件の引渡しまでの期間において、購入者による売却活動(広告出稿、仲介業者への依頼など)を禁止する条項を、売買契約書や重要事項説明書等に新設・明記する。これは、短期間での転売を意図する投機家にとって、引渡し前の準備期間を奪うことで、取引の魅力を低下させる効果を狙うものである。

これらの取り組みは、東京都心部で影響力の大きい主要なマンション事業会社が先行的に導入を決定しており、業界全体としての抑制姿勢を示すものといえます。


2 一般社団法人不動産協会「分譲マンションの投機的短期転売問題にかかる取組みについて

ⅲ.不動産会社の対応

不動産会社(特に分譲事業者および仲介業者)は、業界団体の自主規制に加え、自社のブランド価値や信用を守るため、個社独自の厳格な対応を講じている事例が見られます。
大手分譲事業者の一部は、投機目的での購入者を排除し、物件を実需層に届けるため、前述の不動産協会の自主規制を超える制限を導入しています。

【図表2】不動産業各社による投機目的による購入の抑制策出所:建通新聞「【緊急アンケート】「マンション転売」抑制へ大手不動産各社が対策」(2025年12月17日付)および各社公表資料より当社作成
会社名 投機目的による購入の抑制策
住友不動産 一部の物件で引渡し後5年間の転売禁止と購入戸数制限を実施。2026年1月以降は購入戸数制限、契約・登記等名義の厳格化、引渡し前の権利移転禁止。
東急不動産 購入戸数制限、契約・登記等名義の厳格化など。
東京建物 東京23区とその他自社で指定する物件の地権者住戸なども含む全住戸を対象に、1世帯につき1物件2戸までの購入制限、引渡しまでの販売活動・名義変更不可を、26年1月以降準備が整いしだい実施。
野村不動産 一部の物件で申し込み登録戸数に上限を導入。今後、業界団体の取り組みを順守。
三井不動産 これまで物件ごとに販売戸数制限などを実施。11月に発売した月島のタワー物件では▽登録・購入戸数の上限制限▽契約・登記等名義の厳格化▽引渡しまでの売却活動禁止―の3点を設定。今後も同ルールの適用を、首都圏を中心に物件ごとに検討する。
三菱地所 東京23区、大阪市と自社が特に定めるエリアを対象に、1世帯につき1物件2戸までの購入制限を設ける他、契約・登記等名義の厳格化と引渡しまでの売却活動禁止を26年1月以降に導入する。原則、新規販売開始物件に適用。
森ビル 購入目的の確認徹底などの対策を講じてきた(現在、一般公募による一斉販売なし)。今後も協会策定の取り組み方針を軸とした対策を展開。
日鉄興和不動産 原則、個人・法人を問わず1物件につき購入可能な上限を2戸とする。契約・登記等名義の厳格化。引渡し前の権利移転等の禁止。
阪急阪神不動産 購入目的の確認徹底をはじめ、業界団体の取り組みを順守。

Ⅱ.政府の対応と対応策の実効性の評価

ⅰ.政府の対応

現在、日本は国際的に見ても不動産取得に関して比較的自由度が高い国の一つですが、近年、実需層(実際に住む人)への悪影響が無視できなくなっており、政府は「実態把握」から「実効的な規制」へと段階を移しつつあります。
主な施策と検討状況は以下の通りです。

【図表3】政府の主な施策と検討状況
目的 施策 検討状況
登記制度と実態把握の強化 不動産登記への国籍記載(2026年度〜導入予定) 所有権移転登記の際に「国籍」の記入を義務付ける方針。これまでは日本国内の住所があれば外国人か日本人かの区別が困難だったが、国籍の記載を必須とすることで、外国人による不動産取引の実態を把握する。
短期転売・投機への抑制策 「短期譲渡所得」への重課税(継続中) 保有期間5年以下の物件を売却した際の利益には、所得税・住民税合わせて約40%という非常に高い税率が課されている。
対外取引(日本と海外の間のお金の動きや資産の移動)を正確に把握 外為法に基づく「本邦にある不動産又はこれに関する権利の取得に関する報告書」の提出(2026年4月~) 「非居住者」が日本国内にある不動産を取得した場合、原則として事後報告を行う義務を課す施策。
報告対象者:「非居住者」(海外居住の日本人や外国人、外国法人など)。
提出先:日本銀行
提出期限:不動産を取得した日から20日以内。

今後、政府内で検討される可能性がある「次のステップ」には以下のようなものがあります。

【図表4】今後、政府内で検討される可能性がある施策
施策 内容
空き家・非居住者への課税(空室税) 京都市が「非居住住宅利活用促進税」(いわゆる空き家税)の導入を決めている。京都市のように投資用で住宅として使われない物件への独自課税が全国展開する可能性がある。
購入目的の明示義務 登記や取引時に「自己居住用」か「投資用」かの申告を求め、投資用には割増手数料や税を課す案。

ⅱ.対応策の実効性の限界・課題

上記で確認した各種対応策は、投機的な短期転売を抑制する一定の効果を有しているものの、その特性から実効性には整理すべき課題も残されています。

(Ⅰ)自主規制の「引渡し後」の壁

不動産協会による自主的な取り組みや事業者の個社対応の多くは、契約から引渡しまでの期間を主な対象としています。一方で、所有権が購入者に移転した「引渡し後」の売却行為については、私的財産との関係から一律に抑制することには制約があると考えられます。一部事例で見られる譲渡制限の制約等も、その適用範囲や実効性には議論の余地があります。このため、引渡し後の売却を完全に制限することは難しく、不動産協会等による取組は、短期的転売を一定程度抑制するための環境整備と捉える必要があります。
ただし、補助金事業など公的関与の高い場合においては、憲法上の財産権への配慮を前提としつつも「公共の福祉(公費投入の目的達成)」を理由とした一定の処分制限や要件は、合理的とも整理されます。むしろ、公的資金が投入されているにもかかわらず、自由に転売・収益化できる状況については、行政が問われる可能性があるという点に留意が必要です。

(Ⅱ)実需層への恩恵と限界

短期転売抑制策に期待されるのは、居住を主目的とする実需層が住宅を取得しやすい環境を整える点にあります。実需層が投機的需要と競合しにくくなることで、抽選倍率の低下や価格上昇の緩和といった一定の効果が期待されます。
しかしながら、実需層の住宅取得環境は短期転売だけに左右されるものではありません。建築費の高騰、用地取得難、金利動向、世帯構造の変化など、構造的要因も複雑に絡み合っています。そのため、短期転売対策のみでは、住宅取得環境が大幅に改善するとは限りません。
実需層支援の観点からは、転売抑制策に加え、住宅金融支援や供給促進策と組み合わせた包括的な政策が求められます。

(Ⅲ)市場の流動性低下

東京都心部におけるマンション価格高騰に対し、短期転売に対する規制や業界の自主的な取り組みが段階的に導入・検討されています。しかし、これらの施策が市場全体にどの程度の影響をもたらしているかについては、慎重な検証が必要です。
短期転売に対する税制強化や転売防止条項等の導入は、取引の期待収益を引き下げる効果を持つため、理論的には価格上昇圧力の抑制につながる可能性があります。
一方で、規制のあり方によっては市場の流動性に影響を与える可能性もあります。過度な流動性の低下は、取引件数の減少を通じて、価格形成の透明性が損なわれるリスクを伴います。したがって、今後の対応は、価格安定と市場機能維持のバランスを考慮した検討が求められます。

Ⅲ.短期転売の現状認識と実態把握

東京都心部におけるマンション価格の高騰、また取引動向として、短期間で売却に至る取引が一定程度確認されており、市場関係者の関心を集めています。本章では、この短期転売の現状について、国土交通省が公表する調査結果や具体的な取引事例データに基づき、客観的に整理します。

ⅰ.国土交通省の調査結果についての考察

2025年11月25日に国土交通省は、近年のマンションの取引実態を把握するため、三大都市圏及び地方四市の新築マンションにおける短期売買(購入後1年以内の売買)の状況、国外に住所がある者による取得の状況について調査を行い、その結果を公表しました。また、都心6区の新築マンションにおける価格帯別の短期売買、取得の状況についても併せて分析結果を公表しました。本節では、その結果概要について、特に東京都心部のマンションに焦点を当てて概説します。

(Ⅰ)新築マンションの短期売買について

東京23区の新築マンションの短期売買の比率(注3)は中心部ほど短期売買割合が高い傾向が見られ、直近(2024年1~6月取得)で、東京23区は9.3%、都心6区は12.2%となっています。
これらの数値は、短期間で売却に至る取引が一定程度存在していることを示すものであり、需給が逼迫する市場環境下における取引構造の一側面を示唆しています。

(Ⅱ)国外に住所がある者による新築マンションの取得状況について

東京23区の国外に住所がある者による新築マンションの取得比率も中心部ほど高い傾向が見られ、直近(2024年1~6月取得)で、東京23区は3.5%、都心6区は7.5%となっています。
ただし、こちらの数値については、捕捉できていないサンプルがあると考えられ、全ての取引を網羅しているとは限らない点に留意が必要です。次節でその理由を詳説します。

(Ⅲ)本調査の指摘されている主な留意事項

国土交通省が公表した調査結果は、「外国人による取得や短期的な売買が大きく影響しているのではないか」といった見方が一部で見られる一方、公表されているデータとの間には差異もあり、そのギャップも指摘されています。この指摘の背景には、日本の不動産登記制度に起因する統計上の制約があります。

(1)公表されたデータの内容

海外居住者の購入割合:東京都心6区で約7.5%(23区全体では3.5%)
短期転売(1年以内)の割合:東京都心6区で約12.2%
この数字だけを見ると、「外国人の購入は一部にとどまっており、大多数は日本国内の需要である」とも読み取れます。

(2)なぜ「実態を表していない」と言われるのか

その理由として「日本国内に住所を持つ外国人」が「国内居住者」としてカウントされてしまい、区別ができないことが挙げられます。
登記簿に「国籍」の欄がない:現在の不動産登記制度では、所有者の「住所」と「氏名」は記録されますが、「国籍」を記載する欄がありません。
「海外居住者」しか捕捉できない:今回の調査で「外国人(国外居住者)」としてカウントできたのは、住所が海外にある人物だけです。
「日本在住の外国人」は「日本人」と同じ扱い:日本に駐在している外国人投資家や、日本に拠点を置く外資系法人が購入した場合、住所は「日本国内」となるため、統計上は日本人による購入と区別がつきません。

このため、データ上の「外国人比率」は、実際の「外国人による購入」よりも低く出ている可能性があります。

(3)今後の動き

この「見えない外国人取引」を可視化するため、政府は以下の対策を進めています。

不動産登記への「国籍」記載の義務化:誰が実際に日本の不動産を買っているのかを正確に把握するため、法改正の検討が進められています(一部の土地取引届出では既に義務化が始まっています)。これにより国籍情報が明確になることで、外国資本による土地・建物取得の実態把握が容易になります。また国籍別の不動産取得状況を分析し、必要に応じて規制や支援策を検討しやすくなります。価格への影響は、国籍情報が可視化されることで、投機を主目的とした短期売買が減る可能性があり、価格の過熱を抑える方向に働くことが考えられます。ただし、国籍記載は「取引の透明性向上」が主目的であり、価格を直接左右する強い規制ではないため、市場全体の価格を大きく動かす要因にはなりにくいと考えられます。
国土交通省のさらなる調査の動き:国土交通省は上記国籍欄が整備された不動産登記に基づき、外国人による不動産取引に関するさらなる追加調査を行うことを明言しています。


3 短期売買の比率とは、当該期間に保存登記がなされた物件のうち、1年以内に移転登記がなされた物件の割合

ⅱ.短期転売が市場に与え得る影響

投資を主目的とした短期転売は、市場の流動性を高める側面を有する一方で、住宅市場の機能や実需層の取得環境に一定の影響を与える可能性があります。本節では、指摘されることの多い主な論点について、整理します。

(Ⅰ)実需層の取得機会を巡る環境変化

近年、マンション価格は、建築費の高騰や用地取得環境の変化、金融環境など、複数の要因が重なり合うことで上昇基調が続いており、実需層にとって都心部における住宅取得環境は、構造的に厳しさを増しているといえます。
さらに、短期的な売却を念頭に置いた購入ニーズが一定程度存在する市場環境では、実需層のニーズとの間で取得機会を巡る競合が生じ、実需層が希望する条件や予算内で住宅を確保しにくくなる場面が生まれることが考えられます。
このように、短期売買を意識した需要が加わる局面には、取得機会の面で実需層に影響が及ぶ可能性があり、実需層の取得環境を考える上で整理すべき点といえます。

(Ⅱ)不動産の投資対象化と市場安定性

短期的な売買が増えていく市場環境では、住宅が「居住の場」という機能に加え、売却益を意識した投資対象として捉えられる傾向が強まることがあります。特に都心部においては、価格水準や流動性の高さから、資産運用の一環として意識される場面も見られます。
こうした状況下では、将来の価格動向に対する期待や市場心理が取引行動に影響を及ぼしやすくなり、価格の変動幅が拡大するなど、市場の安定性という点で影響が生じる可能性があります。
もっとも、不動産が投資対象として機能すること自体は、市場の流動性や供給促進に寄与する側面も有しており、重要なのは、居住需要と投資需要のバランスがどのように保たれているかという点であるといえるでしょう。

(Ⅲ)転売目的による空室の増加

短期的な売却を想定して取得された住宅は、売却時の内覧や取引を円滑に行うため、一定期間、空室のまま保有されるケースが見られます。賃貸に供した場合、賃貸契約期間が売却のタイミングを制約したり、賃借人との退去交渉が必要になることなども、その要因の一つと考えられます。
こうした状況が一定程度生じると、都心部のように居住環境や社会インフラが整備されたエリアであっても、利用されない住宅在庫が増える可能性があります。この点は、住宅ストックの有効活用という観点から整理すべき課題の一つといえます。
また、投資家は「居住」ではなく「収益」を重視するため、大規模修繕や管理費の値上げに対して消極的になりがちです。さらに所在不明や連絡がつきにくいオーナーが増えると、管理組合の総会で決議に必要な出席者数(議決権)を確保できず、重要事項の決定が停滞します。このように、空室の増加は合意形成の困難化という問題を生じさせる要因となります。

202607_01_image01.jpg

ⅲ.実際の取引事例データに基づく短期売買

前節で国土交通省が公表した新築マンションの短期売買の比率をみましたが、ここでは、実際の取引事例より、短期売買の実態を見てみます。
図表5は、2025年3月から引渡しが開始された港区のマンションAにおける取引事例の一部を示したものです。引渡しから1年以内に分譲時価格を上回る水準で売却された住戸が確認されており、住戸によっては分譲時と比較して大きな価格上昇が見られるケースもあります。
本図表は、当社取引事例の一部を整理したものであり、すべての取引を網羅するものではありません。各種サイトでの売却中情報やデータベース上で把握できない場合を勘案すると、実際の取引動向としては、本図表に示した事例よりも一定程度広がりを持っている可能性があります。
なお、本取引事例は、都心部の高価格帯市場における短期的な売買動向の一例を示すものであり、住宅市場全体の平均的な動向を示すものではありません。ただし、超高価格帯で形成される取引水準や価格期待は、事業者の土地取得価格や新築分譲価格の形成を通じて、都心マンション市場全体の価格形成に影響を及ぼす可能性があることから、本稿では短期的な売買の実態を考察する際の一つの参考事例として整理しています。

【図表5】実際のマンション取引データに見る短期取引事例(港区マンションAの事例)出所:当社取引データより。分譲時購入者は登記簿。
住戸1 住戸2 住戸3 住戸4 住戸5 住戸6 住戸7 住戸8
分譲時購入者 国内法人 国内法人 個人 国内法人 国内法人 国内法人 国内法人 国内法人
成約年月 2025年第1四半期 2025年第1四半期 2025年第1四半期 2025年第2四半期 2025年第2四半期 2025年第2四半期 2025年第3四半期 2025年第3四半期
価格上昇率 +96% +81% +117% +89% +124% +86% +72% +79%
平均 +93%

Ⅳ.今後の取り組みの方向性

今後の関連団体や政府の対応は、短期売買などによる価格高騰を一定程度抑制する可能性があるでしょう。今後の短期売買をめぐる政策の方向性としては、以下のような点を考慮すべきと考えます。

ⅰ.不動産市場の安定化に向けた制度設計

今後の不動産市場においては、短期転売を全面的に排除するのではなく、市場の安定性を損なう過度な投機取引を抑制する視点が重要です。そのためには、保有期間に応じた段階的な税制措置等が有効と考えられます。

ⅱ.投資需要と居住需要のバランス確保

都市部のマンション市場において、投資需要そのものを否定することは現実的ではありません。投資マネーは供給促進や都市再開発の原動力となる側面も持つためです。
重要なのは、投資需要と居住需要のバランスをいかに取るかです。
具体的には、実需層を優先する販売方式の導入や、一定期間の居住を前提とした取得条件の設定などが考えられます。こうした仕組みは、投資と居住の役割分担を明確化し、市場の安定性を高める効果が期待されます。

ⅲ.空き家の活用

現在の都心部のマンション価格高騰の背景としては、人口増加に対する住宅供給の不足も一因と考えられます。一方で東京都心部においては、価格上昇と並行して遊休資産である空き家の存在も確認されています。空き家発生要因としては、都心5区など都心部では、売却益を意識した空室保有、それより外周部では、相続等の発生に伴う放置など、複数の要因があると思われます(注4)
こうした点を踏まえると、住宅ストックの有効活用という観点から、この空き家を市場に流通させる取組みも、住宅供給の在り方を検討する上で論点と考えられます。


4 国土交通省「令和5年住宅・土地統計調査」によると、2023年は、東京23区で空き家は64.7万戸存在する。

Ⅴ.まとめ

本レポートでは、東京都心部におけるマンション価格高騰と短期転売を巡る状況について、業界および行政の対応、ならびに取引データに基づく実態を整理してきました。近年の価格上昇は、建築費の高騰や供給制約、長期的な低金利、国内外の富裕層による需要増加といった構造的要因に支えられています。短期売買が市場価格に影響を与えているという指摘はありますが、それのみで説明することはできません。
短期転売については、国の調査により一定数の取引が把握されており、当社が把握した取引事例においても、その存在が確認されています。市場全体や価格形成への影響は限定的である一方、需給が逼迫する都心部においては、実需層の取得環境や、居住を伴わない保有による空室の増加によって管理運営に影響を及ぼす可能性があると考えられます。
不動産業界では、自主規制を通じて投機的行動の抑制に向けた取り組みが進んでおり、特に契約から引渡しまでの期間においては、一定の抑制効果が期待される環境整備が進みつつあります。一方で、所有権が移転した後の売却行為については、財産権との関係から一律の制限は難しく、民間主導の対応には一定の制約が存在する点にも留意が必要です。
政府の対応については、現時点では短期転売を直接的に抑制する規制というよりも、不動産取引の実態把握や市場の透明性向上を重視した取り組みが中心となっています。
こうした状況を踏まえると、今後の都心マンション市場においては、短期転売を排除する視点のみにとどまらず、投資需要と居住需要のバランスをいかに確保するかが、一つの重要な論点であると考えられます。過度な投機を抑制しつつ、市場の流動性や供給促進との調和を図るためには、税制、取引ルール、利用実態に応じた対応などを含め、引き続き検証が進められていくことが想定されます。

提供:リサーチ・コンサルティング部 リサーチ課

米川 誠:日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)

本記事はご参考のために野村不動産ソリューションズ株式会社が独自に作成したものです。本記事に関する事項について貴社が意思決定を行う場合には、事前に貴社の弁護士、会計士、税理士等にご確認いただきますようお願い申し上げます。また推定値も入っており、今後変更になる可能性がありますのでご了承いただきますようお願い申し上げます。なお、本記事のいかなる部分も一切の権利は野村不動産ソリューションズ株式会社に属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送等を行わないようお願いいたします。

ページ上部へ