建築
高騰する建築費の実態と今後の見通し ~当社など独自調査「建築費に関するアンケート」より~

ーオフィス建築費は「坪250万円」時代へー
建設資材価格の高止まりに加え、深刻化する労働力不足や2024年問題として懸念されていた時間外労働上限規制の影響が顕在化し、建築費は依然として上昇基調にあります。こうしたコスト環境の構造的な変化は、建設・不動産業界にとどまらず、オフィスや工場などの企業による設備投資、さらには個人の住宅取得に至るまで、日本経済全体に広範な影響を及ぼしています。
野村不動産ソリューションズでは、昨年1に引き続き、不動産経済研究所と共同で「建築費に関するアンケート」を実施しました。本稿では、不動産開発業者79社・建設業者39社の計118社から得られた回答を集計し、その結果を報告します。
「建築費に関するアンケート」の概要
目 的:建築費の高騰の実態(要因・影響・建築費の水準)と求められる施策を明らかにする
時期・方法:2025年11月~12月、アンケート回答URLおよび手交・郵送による調査票の送付・回収
有効回答数:118社(不動産開発業者79社、建設業者39社)の開発部門・管理部門の担当者、経営者・経営陣など
【サマリー】
- 4年前に比べ、オフィスビルの建築費は+76.9%、住宅(マンション)は+87.8%となりました。建築費単価(坪単価)は、オフィスビルで「240万円以上260万円未満」が最頻値となり、前回の「200~220万円」から大幅に切り上がりました。住宅(マンション)でも200万円/坪が標準的になりつつあり、建築費の高騰は、人件費の上昇や労働規制といった構造的要因を伴う「ニューノーマル」として完全に定着したといえます。
- 現在を100とした今後の建築費は、オフィスビルの3年後が124.2、住宅(マンション)の3年後が126.0との回答が得られました。
- コスト高騰の主因が「人」にある以上、官民が連携して取り組むべきは、単なる資金援助ではなく担い手の確保と育成です。特に、技能者の教育・訓練プログラムの拡充や、外国人材の受け入れ環境の整備など、労働供給力の底上げは喫緊の課題といえます。加えて、建設DXの推進による生産性向上も不可欠です。現在、建設3Dプリンターや鉄筋結束ロボ等の新しい芽も出始めてきており、建築費抑制への期待が高まっています。BIMの標準化、施工ロボット導入などが広く普及するためには、建築基準法をはじめとする諸規定の緩和などの規制改革が求められます。
- 建築費の高騰という社会課題を単なるコスト負担の問題として捉えるのではなく、産業構造を転換し、持続可能な設備投資を実現する契機と捉えることが重要です。官民が一体となり、担い手確保と建設DXを軸とした中長期的な改革を推し進めることが求められています。
1 アンケート調査:不動産開発・建設全103社 建築コストに関するアンケート ~ディベロッパー・ゼネコンそれぞれの高騰への対策と新築工事費の水準~(2025年3月5日配信)
Ⅰ.建築費の高騰による影響とその要因
ⅰ.不動産開発業者
不動産開発業者に対して、建築費の高騰による開発事業への影響を訊ねたところ(図表1)、ほぼ全社にあたる97%が「非常に感じる」・「やや感じる」と回答しました。また「非常に感じる」・「やや感じる」の回答者に影響の内容を訊ねたところ(図表2)、34%(54社)が「開発事業の遅延」、29%(47社)が「設備・仕様の変更」、12%(19社)が「開発事業の中断」、11%(18社)が「建物用途の変更」と回答するなど、さまざまな影響が生じている実態が明らかになりました。
ご担当者(御社)では、建築費の高騰による開発事業への影響を感じていますか?

「非常に感じる」「やや感じる」と回答した方への質問です。
影響の内容について、あてはまる選択肢を選択ください。(最大3つまで)

ⅱ.建設業者
建設業者に対して、過去1年間における建築費の高騰の要因を訊ねたところ(図表3)、「労働力不足による人件費の上昇」および「設備工事費の上昇(エレベーター、変電設備など)」がともに31社(40%)で最多となり、前回と同様の結果となりました。また、今回選択肢として追加された「現場の働き方改革による労働時間規制」が約8社(10%)を占めました。2024年4月から適用された建設業への時間外労働上限規制(いわゆる2024年問題)が、実質的なコスト増加要因として明確化してきました。一方、「建築材料の価格上昇」は7社(9%)にとどまり、コスト高騰の主因は、モノからヒトや時間が関連する要因へと変化しています。
建築費の高騰の要因について、この1年においてあてはまる選択肢を選択ください。(最大2つまで)

Ⅱ.高騰局面における建築費
不動産開発業者と建設業者に対して、直近3年間の建築費の変化を訊ねたところ、オフィスビルは51.6%の上昇、住宅(マンション)は47.4%の上昇との回答が得られました2。
また図表4・5では、上記の回答等と1年前に行ったアンケート3の回答を接続しました。すなわち、1年前のアンケートにおける3年前を今回のアンケートにおける4年前とみなして、4年前を100とした場合の建築費の指数を算出しました4。4年前を100とした場合の建築費は、オフィスの1年前は57.2% の上昇、現在は76.9% の上昇、住宅(マンション)の1年前は65.0% の上昇、現在は87.8% の上昇となりました。
3年前の建築費を100とした場合、1年前と現在の建築費の水準をご記入ください。
【図表】建築費の指数(不動産開発業者および建設業者) 4年前=100


2 オフィスビル、住宅(マンション)ともに「200以上」との回答については210として平均値を算出した。
3 今回のアンケートと同じ質問をした(「3年前の建築費を100とした場合の現在の建築費の水準」、2024年11月~12月実施)。
4 前回調査における3年前の指数と1年前の指数の中間値を、今回調査における3年前の指数として算出した。
Ⅲ.現在時点における建築費の水準
ⅰ.オフィス
図表6は、不動産開発業者と建設業者のオフィスビルの建築費の単価です。最頻値は240万円/坪以上260万円/坪未満(13社、19%)となりました。前回(1年前)比で40万円/坪上昇しており、建築費の高騰が鮮明です。他方、300万円/坪以上も計13社、19%と一定数を占め、オフィスビルにおいては規模等による単価の違いを窺い知ることができます。
現在の建築費の具体的な水準をご記入ください。

ⅱ.住宅(マンション)
図表7は、不動産開発業者と建設業者の住宅(マンション)の建築費の単価です。最頻値は前回(1年前)と同じ180万円/坪以上200万円/坪未満(23社、24%)となりました。200万円/坪以上220万円/坪未満(20社、21%)および220万円/坪以上240万円/坪未満(17社、18%)を合わせると全体の6割強を占め、200万円/坪が標準的になりつつあります。
現在の建築費の具体的な水準をご記入ください。

Ⅳ.高騰する建築費への対処
ⅰ.不動産開発業者
不動産開発業者に対して、建築費の高騰に対する対策を訊ねたところ(図表8)、41%(51社)が「賃料又は販売価格への転嫁がしやすいアセットへの事業シフト」と回答しました。また、「中古建物を購入してリノベーションやコンバージョンを行う事業の推進」は28%(35社)となりました。建築費の高騰が一時的なものではなく「ニューノーマル」として定着する中、不動産開発業者はリノベーションやコンバージョン事業の推進に加え、コスト増を価格に転嫁できる商品への転換という、より抜本的な事業ポートフォリオの再構築をすすめています。企業においても、新築・建替えにこだわらない中古ストックの活用や賃借による整備が求められていると言えるでしょう。
建築費の高騰に対して、どのような対策を実施又は検討していますか?あてはまる選択肢を選択ください。(最大3つまで)

ⅱ.建設業者
建設業者に対して、今後1年間の受注に対する考え方を訊ねたところ(図表9)、「選別して、新規の受注を行う」との回答が32社(82%)に達し、多数を占めました。工事力の制約と工事原価の高騰への警戒から、採算性や条件を厳しく見極める選別受注のフェーズへ完全に移行しています。
また、建築費の高騰に対する対策を訊ねたところ(図表10)、「建設DX」(BIMの活用、建設ロボット、3Dプリンター等による効率化・省力化、計42社、55%)を挙げる回答が多く、生産性向上を目的としたデジタル技術の導入が浸透しつつある姿が明らかになりました。一方で、「建築資材の代替品の採用」(16社、21%)は、それに続く結果となりました。
今後1年間の建築工事の受注に対する考え方を選択ください。

建築費の高騰に対して、どのような対策を実施又は検討していますか?あてはまる選択肢を選択ください。(最大3つまで)

Ⅴ.建築費の今後
建築費の今後について、建設業者と不動産開発業者に訊ねました。
現在の建築費を100とした場合、今後予想される建築費の水準をご記入ください。
【図表11】今後の建築費の予想(建設業者および不動産開発業者) 現在=100

図表11は、現在を100とした場合の今後の建築費の予想です。すでに高騰した現在の水準から、オフィスビルについては、1年後が112.8、3年後は124.2との回答が得られました5。住宅(マンション)については、1年後が114.1、3年後は126.0との回答が得られました。建築費の高騰は、今後もしばらくは継続する方向として明確に認識されています。
また、建築費の高騰を緩和するために求められる政策を訊ねたところ(図表12)、88社(34%)が「労働力の確保と質の向上を目指す教育・訓練プログラムの拡充に対する支援」、40社(15%)が「建築業界への補助金や助成金の提供」、36社(14%)が「建築基準法等の諸規定の緩和(リノベ・コンバージョンし易い制度への見直し等)」と上位となりました。注目すべきは、教育・訓練プログラムや補助金・助成金といった直接的な策に続き、リノベ・コンバージョンし易い制度への見直し等、「建築基準法等の諸規定の緩和」が上位となった点です。現在の諸規定が、建設事情にそぐわなくなってきた状況が考えられます。
建築費の高騰を緩和するために、求められる政策は何ですか?あてはまる選択肢を選択ください。(最大3つまで)

5 オフィスビル、住宅(マンション)ともに「170以上」との回答については180として平均値を算出した。
Ⅵ.まとめ
本調査の結果、建築費の高騰は一時的ではなく、人件費の上昇や労働規制といった構造的要因を伴う「ニューノーマル」として完全に定着したといえます。
オフィスの建築費が坪250万円水準へとシフトした事実は、これまでの事業計画に見直しを求め、不動産開発業者は「新たな価格水準」に即した抜本的な戦略転換を迫られています。建設業者による選別受注が一般化し、不動産開発業者が価格転嫁しやすいアセットへのシフトを加速させている現状は、事業の二極化をさらに進める可能性があります。こうした中で企業は、新築・建替えにこだわらない中古ストックの活用や賃借による整備、さらには経営戦略と連動した不動産戦略の再構築が求められています。
コスト高騰の主因が「人」にある以上、官民が連携して取り組むべきは、単なる資金援助ではなく担い手の確保と育成です。特に、技能者の教育・訓練プログラムの拡充や、外国人材の受け入れ環境の整備など、労働供給力の底上げは喫緊の課題といえます。加えて、「建設DX」の推進による生産性向上も不可欠です。現在、建設3Dプリンターや鉄筋結束ロボ等の新しい芽も出始めてきており、建築費抑制への期待が高まっています。BIMの標準化、施工ロボット導入などを広く普及させるため、建築基準法をはじめとする諸規定の緩和などの規制改革が求められます。
建築費の高騰という社会課題を単なるコスト負担の問題として捉えるのではなく、産業構造を転換し、持続可能な設備投資を実現する契機と捉えることが重要です。官民が一体となり、担い手の確保と建設DXを軸とした中長期的な改革を推し進めることが求められています。
提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部
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