老朽化した工場、倉庫、寮、社宅の建替えまたは売却時における留意点

老朽化した工場、倉庫、寮、社宅の建替えまたは売却時における留意点

本記事では、企業が保有する様々な老朽化した建物の建て替え、または遊休地の有効活用や売却時の留意点を解説します。企業のご担当者が将来のトラブル回避のためにご参考にしていただけたら幸いです。

Ⅰ.敷地の確定測量の重要性について

所有の不動産について、仮に何らかの測量図が存在していたとしても安心できない場合があります。この測量図の種類は多岐に渡り、簡易測量図、現況測量図、確定測量図といったように様々なものが存在し、どれも資格をもった測量士や土地家屋調査士が作成した図面である点は共通しています。
これらの中で、現地の状況等から測量士が「このエリアが当該敷地であろう」と推測して作成したものが簡易測量図や現況測量と言われるものです。
実は、様々な測量図の中で「確定測量図」だけが将来のトラブルを回避するために極めて重要なものなのです。
この確定測量図の作成の過程では、隣接土地所有者全員と境界の立ち会いを行い、それぞれの境界について同意した書面を作成します。そして、その同意した境界を基に作成されたものが確定測量図となります。

過去に隣接所有者との境界の立ち会いを行っていない状況で、新たに建物を建築した際に起こったトラブルの一例をご紹介します。

それは、関東地方のある老朽化した社員寮の建て替え工事を行った時に起こりました。
過去に作成された現況測量図で示された敷地の上に新たな建物を建設したのですが、事前に行政には建築確認申請を提出し、当然ながら認可を得て建物工事を開始していました。
ところが、建物の完成が近づいた頃、隣接の土地所有者から、自分の敷地の一部に新たな社員寮が建築されているといった苦情が届きました。つまり建築確認申請上、提出した計画敷地の一部に自分の所有する敷地が含まれていると言うのです。
その後双方で土地の境界についての話し合いが行われましたが、合意には至らず先方はさらに強硬な手段に出て、弁護士を通じて調停の申し立てを裁判所に行いました。
仮に相手の主張が認められた場合、他人の敷地の一部に新たな建物が建っていることになってしまいます。
また建物は、既に完成間近であったため、仮に一度解体し新たに建築し直すということは経済的にもスケジュール的にも現実的ではありませんでした。
最終的に、この問題をどのように解決したかと申しますと(苦渋の選択ではありましたが)相手の申し立ての内容を全て認め、相手が自分の土地だと主張する約数十坪の土地を言い値で買い取るといった解決策が取られました。

このようなトラブルも建物を建設する前に、全ての隣接土地所有者との境界の立ち会いを行って確定測量図を作成していれば、防ぐことができたはずなのです。

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この事例からも分かるように、企業の担当部署としては、確定測量図の作成を早い段階から着手しておくことが重要です。確定測量を行うことは、資産の明確化にもつながります。将来何か新たに建物を建設するにしろ、または売却するにしろ、事前にやっておくべきことの一つです。

確定測量を測量士に依頼して最終的に図面が完成するまでの期間は、隣接土地所有者の数や所在、道路境界確定の有無等によりますが、通常最低3ヶ月程度を要します。立ち会いや同意の状況によっては、6ヶ月以上を要することもあります。

また、隣接土地所有者が境界の立ち会いに応じていただけない場合や境界の確定において争いが生じ、双方の話し合いでは確定できないケースもあります。このような時には、筆界特定制度を利用することも可能です。
筆界特定制度とは、土地の所有者が法務局に申請して、土地の筆界(境界)の位置を特定する制度です。法務局が筆界特定登記官を派遣して現地調査を行い、筆界(境界)の位置を明らかにします。
しかし、これをもって境界が法的に確定するわけではありませんので、この制度を利用しても境界の争いが解決しない場合は、境界確定訴訟を行うことも可能です。
境界確定訴訟は、最終手段として地方裁判所に提訴し、境界線を法的に確定させる方法です。判決が確定すれば強制力を持ちますが、スケジュールが長期化することと余分な訴訟費用がかかることになります。

このように境界確定に関しては、その確定まで長い時間を要する可能性もありますので、建物建て替え計画や資産の売却のスケジュールにおいて、大きな影響を及ぼす可能性があります。
それゆえ、スケジュール的には充分に余裕をもって、早め早めに確定測量を行うことが重要です。

Ⅱ.建物の解体に関しての留意点

次に老朽化した建物の解体における留意点です。
一般的に建物の解体に関しては、その建物を施工した施工業者や解体業者に解体費用の見積もりを出してもらうことが多いかと思います。しかし、当初想定していた解体費用の見積もり金額やその期間が大きくずれてしまうことがあります。

よくあるケースとしては、老朽化した建物にアスベスト(石綿)が使用されている場合です。
建物の建築時期にもよりますが、アスベストは、かつて屋根材、壁材・天井材、床材、配管・設備周辺に耐火性や耐久性を増すために、または断熱目的や防音目的で広く使用されてきた歴史があります。1950年代から1990年代中頃まで一般的に広く使用されました。(その後、アスベストを吸入すると肺がんや悪性中皮腫などの深刻な健康被害を引き起こすことが判明し、2006年に法律で使用が禁止されました。)

建物の一部にアスベストが使用されている事実が判明した場合、解体の工法も全く異なった特殊なものとなります。結果、解体コストも当初の見積もりより大きく増額することになります。更には、当初想定していた解体工事の期間も長期化することになります。
よって将来建物を解体する予定があるならば、事前に既存建物において、アスベストが含まれているかどうかの調査を行っておくことが得策です。
仮に大規模な建物の場合、当初見積もっていた解体工事費が大幅に増額となり、建替えや売却計画に大きな影響が出てくるかもしれません。

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次に、建物の解体においてPCB(ポリ塩化ビフェニル)が検出された場合、やはり解体費用のコストが増額します。
PCBは強い毒性を持ち分解されにくい化学物質です。この物質は主に電気機器(コンデンサーや変圧器)や冷却油、防火剤などに使用されてきました。また工場の配管・タンク・空調設備などに残留する可能性があります。
このPCBが検出された場合、その処理方法としては付着部位の分離かつ洗浄が必要となり、現地洗浄処理や特殊な防護対策が必要になってきます。
こういった建物解体に関する様々なご相談は、先ずは当時建物を施工した建設会社やお知り合いの不動産会社等へ相談されるのが良いと思われます。

Ⅲ.土壌汚染についての留意点

以前、土壌汚染のある土地を取引したことがあり、その経験を踏まえて留意点を解説します。
それは東京の城東地域にある数百坪のかつて工場であった土地で、買主は住宅地として開発し、新築戸建の分譲事業を行う予定でした。
もともとこの土地の周辺一帯は工場が立ち並んでいた地域でしたが、売主は、当該工場で過去において有害物質を扱っていたという認識はありませんでした。
(土壌汚染における有害物質とは、揮発性有害化合物、重金属、農薬等のことを指します。)

しかし、この土地の売却にあたり、地元の自治体にある環境行政の窓口に相談したところ「土壌調査をする必要有り」との判断が出たのです。そこで、土壌汚染の調査を行う機関に依頼し、先ずは土地の表層を何箇所か採取して検査しました。
その結果、有害物質が基準の数値を若干上回って検出されたため(おそらくこれは周辺の大気から、つまり汚染物質が空中を漂い降下し土地の表層が汚染されたと考えられます。)、その次の段階としてその敷地の数箇所でボーリング調査を行いました。
そしてこの調査の結果でも、地下において基準値を若干上回る有害物質が検出されてしまい、この土地の土壌が汚染されているとの指定を受けるに至りました。
その後は東京都の担当部署との協議によって、土壌汚染の管理及び処理方法について話し合いが行われましたが、実際には全て行政の指導に沿って浄化作業を行うことになりました。
このことにより、コストとスケジュールの問題が生じたのです。
浄化方法として、敷地内の汚染されている土壌をある一定の深さまで全て入れ替えるか、またはバイオ的な処置をして土壌を浄化するかの選択を迫られたのですが、その費用負担は当然ながら土地の所有者となります。
土壌を入れ替えるコストは非常に高いことが判明し、一方、土地をバイオ的に浄化するために要する期間が極めて長いことも明らかになりました。
どちらを選択するにしても、当初のスケジュールは大幅に遅れ、売却時のコストも大きく増加することとなりました。

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現在、土壌汚染については、平成15年(2003年)に施行された土壌汚染対策法によって、細かくかつ厳しく「調査」「管理」「処理」の方法が規定されています。また、この土壌汚染を調査する機関としては、国や地方自治体から指定を受けている「土壌汚染状況調査を実施する機関」でなければなりません。
更には、この土壌汚染対策法だけでなく、各都道府県が独自のより細かい規制を定めているケースが少なくありません。

Ⅳ.土壌汚染問題は経営上のリスク

土壌汚染に関しては、その土地の過去の歴史やこれまでどのような利用方法をしてきたかを調べることで、ある程度、汚染の可能性を評価できるのですが、先の工場の例のように、自らの工場では有害物質を全く使用した記録がないにもかかわらず、検査の結果、基準値を超えてしまい、地中においても汚染されていたと言うことが起こり得ます。
地下は当然周辺と繋がっておりますので、仮に隣接等に工場があった場合、その工場から出た有害物質が徐々に周辺に広がり、汚染するということもあり得るわけです。

特に、現在稼働中の工場を操業停止する場合や工場の売却、新たに何か建築物を建設する場合には、その土地が、土壌汚染対策法や地方自治体の条例の対象になっているかどうか、そもそも土壌汚染対策法の対象となる事業施設があるかどうかの確認が必要です。
対象となる場合、何らかの届出や土壌汚染状況調査を行う必要があります。

重要なことは、土壌汚染対策法に則って、自社の土地が現実問題として土壌汚染されていないかどうか、汚染されている場合はどの程度なのか?基準値を超えているのか?といったことを、早めに調査しておくことです。
なぜなら、調査の結果、土壌が汚染されていると判明した場合、追加調査や浄化対策費用が発生することで、売却予定であれば価格評価が低下したり、浄化対策期間がかかることによりスケジュールが伸びたりと当初の事業計画に大きな影響を与えることになるからです。
その他、企業として所有不動産における土壌汚染への意識や対応次第では、地域の安全や環境対策に向けた企業姿勢を問われることになり、経営上のリスクとなり得るので注意が必要です。

不動産を売却する際には、こういった土壌汚染に関しては「重要事項説明書」に詳細を記載する必要がありますので取引先の不動産会社にご相談してみてはいかがでしょうか。

長谷川 高(はせがわ たかし)

株式会社長谷川不動産経済社代表

東京都立川市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。株式会社長谷川不動産経済社代表。大手デベロッパーにてビル・ マンション企画開発事業、都市開発事業に携わったのち、1996年に独立。以来一貫して個人・法人の不動産と賃貸経営に関するコンサルティング、顧問業務を行う。顧問先は会社経営者から上場企業まで多数。一方、メディアへの出演や講演活動を通じて、不動産全般について誰にでも解り易く解説。 著書に『家を買いたくなったら』『はじめての不動産投資』(共にWAVE出版)、『厳しい時代を生き抜くための逆張り的投資術』(廣済堂出版) 『不動産2.0』(イースト・プレス)など。

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