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日本の宿泊・ホテル市場2026ー「回復」から「進化」の局面へ Ⅰ

~インバウンド回復と地方都市の躍進、変化する宿泊需要の最前線~
2025年の日本の宿泊・ホテル市場は、コロナ禍からの急回復を経て安定成長局面に入りました。大阪・関西万博など大型イベントを契機に観光業界全体が活況となり、インバウンドや国内観光の多様化、地方都市への需要波及が進んでいます。
今回は、全2回にわたり、日本の宿泊・ホテル市場の最新動向を整理するとともに、今後の見通しについても考察します。
第1回目の本レポートでは、旅行需要の動向について、訪日外客数および延べ宿泊者数より確認します。
【サマリー】
- 世界の国際観光需要はコロナ禍前の2019年水準を回復し、2026年も前年比3~4%の増加が見込まれています。日本の訪日外客数は2025年に4,250万人を超え過去最高を記録しました。特に北米・欧州等からの訪日外客数の伸びが全体を押し上げています。
- 外国人延べ宿泊者数は約1億7,800万人泊(前年比+8%)と増加し、都市部に加え地方部への波及も進んでいます。一方、日本人延べ宿泊者数は約4億7,600万人泊(前年比▲4%)と調整局面に入り、物価高や宿泊単価上昇の影響も見られます。
- 都市別の延べ宿泊者数は山梨県北杜市(前年比+193%)、沖縄県石垣市(+53%)、三重県津市(+46%)など、自然志向や体験型観光、リゾート需要が高い地方都市で大幅な増加が確認されました。インバウンド回復や新たな観光資源の活用が地方観光地の成長につながっています。
- 政府は2026年3月に新たな観光立国推進基本計画を閣議決定しました。同計画では、来訪者数の拡大だけでなく、観光の質や収益性、地域分散を重視する方針が示されています。宿泊・ホテル市場においても、高付加価値化や運営力を重視するとの言及があり、今後は売却や再生、用途転換を含む不動産の「入れ替わり」が中長期的に進み、不動産取引がさらに活発化する可能性があります。
Ⅰ.世界の観光需要と訪日外客数の現状
ⅰ.世界の観光需要~地域差を残しつつも着実に進む国際観光の回復~

世界の国際観光需要は、コロナ禍前である2019年の水準を回復し、全体として安定的な成長局面に移行しています。図表1でエリア別に眺めると、欧米を中心に回復が先行しており、国際線ネットワークの回復や渡航制限の解除が需要を下支えしています。
一方、アジア太平洋地域では回復の遅れが見られますが、各国で国境管理が正常化しつつあることから、今後は段階的な回復が進むと見込まれ、2026年は、前年比で3~4%程度の増加が予想されています。なお、中東情勢の動向によっては、エネルギー価格や輸送コストへの影響を通じて国際観光需要に一定の影響を及ぼす可能性もあり、今後の動向を注視していく必要があります。こうした短期的な不確実性はあるものの、国際観光は地域間で回復スピードに差を残しつつも、中長期的には緩やかな成長軌道を維持する見通しです。
ⅱ.訪日外客数~訪日需要は、「アジア依存」から「分散」へ~

2025年の訪日外客数は4,250万人を超え、過去最高であった2024年の約3,700万人をさらに大きく上回りました(図表2)。2023年に閣議決定された観光立国推進基本計画が掲げた「2025年までに2019年水準を超える」という目標は、計画期間内において大幅に達成されたこととなります。
2025年実績を地域別に見ると、アジアが約3,380万人と全体の約8割を占め、引き続き訪日需要の中核を担っています。加えて、2024年から2025年にかけては、北アメリカが約75万人増、ヨーロッパが約73万人増と伸びました。円安基調の継続に加え、日本の観光資源に対する国際的な関心の高まりが、欧米からの訪日数の回復を後押ししていると考えられます。一方、アジアからの訪日数については回復が進んでいるものの、地域全体では欧米ほどの増勢には至っていません。ただし、中長期的な視点に立てば、アジアからの訪日需要のさらなる回復余地が残されていると整理できます。
Ⅱ.国内における宿泊者数の推移と傾向

2025年の延べ宿泊者数は6億5千万人泊となり、前年から1%減少したものの、2023年から3年連続で6億人泊超を維持しました(図表3)。内訳を見ると、外国人1 は約1.78億人泊に達し、割合としても27%まで上昇した一方、日本人は2024年の約4.95億人泊から2025年には約4.76億人泊へ減少しました。日本人需要は2023年、2024年にコロナ禍前水準を上回り回復したものの、2025年は物価高や宿泊単価の上昇を背景に調整局面に入ったとの見方もできるかもしれません。
1 宿泊者統計調査報告では、「日本国内に住所を有しないもの」と定義されています
ⅰ.外国人延べ宿泊者の傾向~インバウンド宿泊需要は地方へ波及~

前述の通り、2025年における外国人延べ宿泊者数は約1億7,800万人泊となり、2024年と比べて約8%増加しました。訪日外客数の拡大が主因であるほか、地方部への宿泊需要の広がりや周遊型観光の進展に伴い、1人当たりの宿泊日数の長期化も進んでおり、これらが延べ宿泊者数の押し上げに寄与したと考えられます。
図表4でエリア別に見ると、東京都は2025年に約6,000万人泊となり、2024年比で約5%増加しました。国際線ネットワークの集積に加え、都市観光、ビジネス、イベント需要を幅広く取り込んでおり、引き続き全国で突出した宿泊規模を維持しています。首都圏(東京以外)でも増加が見られ、東京都を起点とした周辺地域への宿泊需要の波及が続いています。大阪は約2,400万人泊と、前年からわずかに減少したものの高水準を維持しました。宿泊需要が市内から京都・神戸など周辺地域へ分散したことや、万博を背景とした宿泊単価上昇による一時的な調整が影響した可能性がありますが、近畿(大阪以外)は増加しており、周遊型旅行の広がりがうかがえます。
その他の地方部では、いずれも比較的高い伸びが見られました。量的なインパクトは小さいものの、北陸は約350万人泊と2024年比で1割強増加し、新幹線延伸による利便性向上や混雑回避の旅行先選択が需要を押し上げたと考えられます。同様に、中国・四国も約530万人泊へ大きく増加し、国際線再開やクルーズ寄港の回復が寄与しました。沖縄も約870万人泊と前年比25%増となり、リゾート需要の回復や直行便ネットワークの再構築が宿泊需要を支えています。
ⅱ.日本人延べ宿泊者の傾向~エリア選別が進む日本人宿泊需要~

2025年の日本人延べ宿泊者数は約4億7,600万人泊となり、前年から約1,900万人泊減少しました。コロナ禍後の反動増が一巡した局面に入った可能性が指摘できますが、旅行行動や消費スタイルの変化による影響も大きいと推察され、足元の減少は一時的な調整局面として捉えることができると考えます。
図表5でエリア別に見ると、2025年に関しては、東海が約5,300万人泊と最も多く、製造業を中心とした出張需要に加え、観光とビジネスの双方を一定程度取り込むことで、概ね横ばいを維持しました。首都圏(東京以外)も約5,100万人泊と前年同水準で推移しており、東京都から周辺地域への宿泊需要の分散が続いていることがうかがえます。ただ、東京は約4,700万人泊へと大きく減少しています。宿泊単価の高止まりや日帰り志向の高まりが影響した可能性があります。一方、大阪は約3,300万人泊と増加し、特に万博関連需要が、日本人宿泊需要を下支えしたといえます。その他では、北関東・甲信、北陸、近畿(大阪以外)で減少が目立つ一方、北海道や沖縄はコロナ禍前の2019年比では高水準を維持しており、日本人旅行需要の「基盤」は中長期的に保たれている状況といえます。
ⅲ.三大都市圏以外の注目都市の傾向~地方宿泊市場のカギは“テーマ性”~
図表6は、三大都市圏以外の2025年延べ宿泊者数前年比増減率上位10位都市のグラフです。都市別にみると、2025年に最も高い伸びを示したのは山梨県北杜市となり、前年差で約21万人泊増、前年比では+193%と大幅な増加となりました。2019年水準と比べても大きく上回っており、新たな需要段階に入った都市と位置付けられます。八ヶ岳・清里エリアにおける自然志向の観光人気が継続していることに加え、ワイナリー巡りやグランピングといった体験型観光の拡大が宿泊需要を押し上げたものと考えられます。首都圏からアクセスしやすい近距離リゾートとしての評価が高まり、特に日本人宿泊者数の増加が全体の伸びを牽引しています。
沖縄県石垣市も2025年は前年比+53%と高い成長を示しました。前年差では約31万人泊の増加となっており、離島リゾート需要の回復が引き続き顕在化しています。直行便の増便やリゾートホテルの供給拡大を背景に、外国人宿泊者数が大きく増加し、外国人比率も2024年の約5%から2025年には約10%へと上昇しました。国内需要に加え、インバウンド回復の影響を同時に取り込んだ点が特徴といえます。
三重県津市は前年比+46%でした。外国人・日本人宿泊者数ともに増加しており、外国人比率も上昇しています。伊勢・志摩方面への周遊や、関西・中部圏からの宿泊需要の取り込みが進んだ可能性が考えられます。長野県下高井郡山ノ内町は前年比約128%となり、堅調な回復が続いています。スキーや温泉需要の回復が重なり、外国人宿泊者数の増加が全体を押し上げた結果、2025年は外国人比率が約22%まで高まりました。
前述の通り、東京都の宿泊者数が調整局面入りを余儀なくされている一方で、近距離リゾート型、体験型観光、自然・温泉資源といった“テーマ性”を有する魅力あるこれら地方都市で高い成長が確認された点に、足元のマーケットの特徴が表れています。今後を展望する上でも注目される動きといえます。

Ⅲ.新観光立国計画の概要
政府は2026年3月、新たな観光立国推進基本計画を閣議決定しました。本計画は2026年度から2030年度までの5年間を対象とし、観光を地域経済および日本経済を支える重要産業と位置付けたうえで、その持続的発展を目指すものです。来訪者数の拡大に偏重してきた従来方針から一歩踏み込み、観光の質や収益性、地域との共存を重視する姿勢が明確に示されています。
計画で示された主な数値目標と、直近である2025年の実績を整理すると以下のとおりです。
【図表7】新観光立国計画の目標値まとめと2025年実績
| 分野 | 指標 | 2030年目標 | 2025年実績 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| インバウンド | 観光客の受入れと住民生活の質の確保の両立に取り組む地域数 | 100地域 | 47地域 | オーバーツーリズム対策の取組地域数 |
| インバウンド | 訪日外国人旅行者数 | 6,000万人 | 約4,268万人(推計) | 2019年(3,188万人)を大幅超 |
| インバウンド | 訪日外国人旅行者に占めるリピーター数 | 4,000万人 | 約2,761万人(速報) | リピーター重視へ明確に転換 |
| インバウンド | 訪日外国人旅行消費額 | 15兆円 | 約9.5兆円(速報) | 経済波及効果は約19兆円規模 |
| インバウンド | 訪日外国人旅行消費額単価 | 25万円 | 約22.9万円 | 高付加価値化の中核KPI |
| インバウンド | 訪日外国人の地方部延べ宿泊者数 | 1.3億人泊 | 約5,873万人泊(速報) | 三大都市圏集中是正の指標 |
| MICE | 国際会議開催件数 | アジア最上位・世界5位以内 | 世界7位(アジア最大級) | 都市競争力の象徴指標 |
| 国内観光 | 国内旅行消費額 | 30兆円 | 約26.8兆円(速報) | 観光を内需の市場として再定義 |
| 国内観光 | 日本人の地方部延べ宿泊者数 | 3.2億人泊 | 約3.0億人泊 | 地方創生と運動指標 |
| アウトバウンド | 日本人海外旅行者数 | 過去最高(2,008万人)超 | 約1,473万人(推計) | 双方向交流の回復を重視 |
| 観光産業 | 宿泊業が創出した付加価値額 | 6.8兆円 | 約4.3兆円(2024年度) | 初めて設定された産業KPI |
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出所:観光庁「観光立国推進基本計画(第5次)」より野村不動産ソリューションズ作成
計画に示された数値目標をみると、特に1人当たり消費額を引き上げる方向性が重視されています。また、訪日外国人リピーター数や地方部での延べ宿泊者数が主要指標として掲げられており、都市部への需要集中の是正や地方誘客の強化が引き続き重要な政策課題と位置付けられています。国内市場についても、休暇分散や需要平準化を通じて、安定的な宿泊需要を維持・拡大する方針が示されています。
ホテル市場においては、宿泊業の付加価値額を2030年度に6.8兆円とする目標が設定され、省力化投資やDX、価格戦略の見直しを通じた収益構造の改善が求められています。新規開発に加え、既存施設の改修や高付加価値化、老朽化施設の再生や用途転換を含む事業再編などが進む可能性もあります。不動産マーケットへの影響も大きい同計画の中身、また今後の計画の進捗についても引き続き注目していきたいところです。
Ⅳ.まとめ
2025年の日本の宿泊・ホテル市場は、コロナ禍からの回復を経て安定成長局面に入りました。訪日外客数は過去最高を更新し、外国人宿泊需要が都市部から地方へ波及する一方、日本人宿泊需要は物価高や単価上昇を背景に調整局面に入っています。ただ、東京都の宿泊需要が伸び悩む一方で、地方都市では自然志向や体験型観光、リゾート需要が高い地域で大幅な宿泊者数増加が見られ、観光需要の多様化と地域分散が進んでいます。
政府は2026年3月に新観光立国推進基本計画を閣議決定し、来訪者数の拡大だけでなく、観光の質や収益性、地域分散を重視する方針を明確にしました。これにより、ホテル市場では高付加価値化や既存施設の再生・用途転換、省力化投資・DX推進など、質的転換と再編が今後の主要テーマとなっています。今後は、宿泊・ホテル市場全体で多様な需要に応える柔軟な対応力と、地域ごとの特色を活かした成長戦略が一層重要になると考えられます。
提供:リサーチ・コンサルティング部 リサーチ課
長谷山 大樹:宅地建物取引士/不動産証券化協会認定マスター
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