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軽井沢の不動産市場 ~ホテル・コンドミニアム・マンション市場と開発規制の動向~

古くから別荘地・避暑地として親しまれてきた軽井沢は、国内富裕層の増加等を背景に、近年、さらに注目度が高まっています。また、教育施設の充実や多拠点生活、ワーケーションに対するニーズの高まり等も相まって、首都圏居住者を中心に軽井沢エリアへの移住者が増加しています。
本レポートでは、実需・投資ともにニーズが高まる軽井沢の不動産市場について、ホテル・コンドミニアム・マンションの開発動向や直近、軽井沢町により公表された開発規制について確認します。
【サマリー】
- 国内富裕層は年平均で約3%増加、2023年には過去最高の約165万世帯となり、こうした国内富裕層の増加が軽井沢の不動産市場の成長に寄与している。
- ホテルは、コロナ禍による開発への影響が本格化した2021年以外においては継続的に開発されており、今後も観光客の増加等からさまざまな開発が計画されている。
- 2025年には、軽井沢初となる新築分譲型ホテルコンドミニアムが開業され、今後もこういったコンドミニアム開発は増加すると予想される。
- 分譲マンションの開発も増加傾向にあるが、軽井沢町は豊かな自然環境とそれに調和した低層建築物による独自の景観を守るため、「軽井沢の自然環境と景観を守るための宣言」を発表した。これにより、今後分譲マンション開発を行う上で、階数制限や戸当たりの敷地面積の制限が適用される見込みである。


Ⅰ.軽井沢の不動産市場を取り巻く環境
軽井沢町は、長野県の東端で群馬県境に位置し、東京都心から新幹線を利用して約1時間でアクセス可能な立地です。古くから別荘地・避暑地として親しまれており、圧倒的なブランド力と歴史を兼ね備えたエリアです。近年、軽井沢エリアの注目度が高まる背景には、富裕層の増加、国内外からの観光客の増加等があります。
【図表2】は、国内富裕層世帯数と純金融資産の推移を示したグラフです。国内富裕層は年平均で約3%増加しており、2023年には過去最高の約165万世帯となっています。また、富裕層の純金融資産保有額も増加しています。こうした国内富裕層の増加が、軽井沢での不動産市場の成長に寄与しています。



【図表3】は、軽井沢町での別荘の総数を示したグラフです。国内富裕層による取得を中心に、直近の10年間で900戸程度増加しており、最新データである令和6年時点においては、16,730戸となっています。
令和2年に行われた国勢調査によると、町民の持ち家数は6,261戸で、別荘の総数は持ち家の、約2.7倍の戸数です。このことからも、国内富裕層の増加が、軽井沢の不動産市場に与える影響の大きさがうかがえます。また、新型コロナウイルス感染症の流行後、多拠点生活やワーケーションのニーズ等が高まったことから、軽井沢は定住地としても注目を集め、首都圏居住者を中心に軽井沢エリアへの移住者が増加しています。【図表4】は、長野県と軽井沢町の人口と世帯数の推移を示した表です。長野県全体では、2019年から2024年で約3%の人口減少が見られますが、軽井沢町では約4%の増加となっています。

軽井沢では、インターナショナルスクール等の教育施設の開校も増加しており、富裕層等を中心に「教育移住先」としても注目を集めています。【図表5】は、近年軽井沢町で開校した教育施設の一覧です。それぞれの教育施設が、軽井沢の自然環境を最大限に活かした教育施設となっている点が特徴です。

勿論、観光地としての魅力も高く、国内外から多くの観光客が訪れ、現在では、年間800万人を超える宿泊者数となっています。それに伴い、ホテル等の宿泊施設の開発も活発に行われており、今後も多くのホテル開発が予定されています。また、同じ長野県内の有名な観光地である白馬と比べ、インバウンドの観光客数の割合が低いことも特徴であり、国内からの底堅い観光需要がうかがえます。
以上を受け、軽井沢町では地価の上昇傾向が続いており、特に、新型コロナウイルス流行後の上昇幅が大きいことがわかります(【図表6】)。特に、①、②の地点1においては前年比10%超えの上昇が続いており、②の地点においては2021年から5年連続となっています。
軽井沢駅北口では、「(仮称)軽井沢駅北口東側遊休地活用事業計画」2の新築工事が始まっており、今後も、地価上昇傾向が続くと予想されます。

1 所在は、Ⅱ章の【図表7】に記載
2 本計画では、温浴施設、宿泊施設、飲食・物販店舗等が2026年春に開業される予定です。敷地面積は約13,000㎡、延床面積は約5,400㎡で、鉄骨造の平屋建てから3階建てまでの6棟が建設されます(三菱地所のプレスリリースより)。
Ⅱ.軽井沢における不動産開発の動向


ⅰ.供給状況
(Ⅰ)マンション
軽井沢町は、別荘地・避暑地としてのブランド力があるエリアとして有名ですが、前章で記載の通り、多拠点生活やワーケーションのニーズ等が高まり、移住者が増加しています。
【図表8】は、直近の主な分譲マンションの事例をまとめたものです。旧軽井沢エリアを中心に、多くの分譲マンションが開発されていることがわかります。また、軽井沢で開発される分譲マンションの特徴として、1戸当たりの専有面積の大きさが挙げられ、2025年に軽井沢町で販売される分譲マンションの平均専有面積は107.93㎡となっています3。これは富裕層をターゲットとしている軽井沢エリアの不動産開発の特徴です。

また、【図表9】4は、軽井沢町における分譲マンションの平均坪単価・平均価格の推移です。平均坪単価については、新築分譲マンションが500万円/坪を超え、中古マンションは250万円/坪程度です。平均価格については、新築分譲マンションは、戸当たりの平均専有面積が100㎡を超えていることから2億円前後で推移しています。分譲が南軽井沢エリアに限定された2024年以外においては、2019年以降価格上昇が続いています。中古マンションについても、新築マンションの価格高騰の影響で、年々上昇傾向にあります。
(Ⅱ)ホテル・コンドミニアム
軽井沢町は、四季折々の自然美と洗練されたリゾート施設が魅力で、多くの観光客が訪れる人気の観光地です。夏は避暑地として、冬はウィンタースポーツを楽しむことができ、東京からのアクセスも良好なため、国内旅行客に加え、インバウンド観光客の姿も年々増加しています。新型コロナウイルス感染症の影響で、一時的に落ち込みを見せましたが、直近では、コロナ禍前の水準に戻りつつあり、年間800万人を超える宿泊者数の水準になっています。
これに伴い、ホテルの開発も盛んに行われています。【図表8】は、2020年以降に開業した主なホテルとコンドミニアムを示した表です。ホテルは、コロナ禍による開発への影響が本格化した2021年以外においては、継続的に開業しており、今後も観光客の増加等から多くの開発が予想されます。エリアを見ると、利便性に優れた旧軽井沢エリアや保養環境が良好な南軽井沢エリアで供給がなされています。また、ホテルの規模は、「ホテルインディゴ軽井沢」のように客室数155室と比較的大規模なホテル、「軽井沢森四季VILLA」のように比較的小規模なホテルなどさまざまです。
今後はホテル以外にも、コンドミニアムの開発が注目されると考えられます。その先駆けとなる開発が、「グランディスタイルホテル&リゾート旧軽井沢」です。この開発は、軽井沢初となる新築分譲型ホテルコンドミニアムです。所有者は自らの滞在を楽しむだけでなく、利用しない期間にはホテルとして貸し出すことで収益を得ることも可能です。このような柔軟な運用スタイルは、従来の別荘所有とは一線を画し、特に都市部の富裕層や海外投資家からの関心を集めています。
3 東京カンテイ「マンションデータナビ」より
4 東京カンテイ「マンションデータナビ」に加えて、2024年分譲の「RESORTIA軽井沢」のデータを当社調べにて追加
ⅱ.今後の開発動向
(Ⅰ)マンション
【図表10】は、現在分譲中のマンションと今後分譲予定のマンションの一覧です。【図表7】でそれぞれの位置を確認すると旧軽井沢エリアに集中していることがわかります。その他にも旧軽井沢エリアでは、平均分譲価格3億円を超える富裕層向けの分譲マンション開発も計画されており、旧軽井沢エリアの根強い人気がうかがえます。
また、南軽井沢エリア等でも、平均分譲単価600万円を超える分譲マンション開発が計画されており、今後は旧軽井沢エリア以外でも盛んに開発が進むと考えられます。

(Ⅱ)その他の開発

2024年4月、野村不動産、西武ホールディングス、西武リアルティソリューションズ、の3社は、「軽井沢千ヶ滝地区プロジェクト」について、共同開発に向けた基本協定書を締結したことを公表しました。このプロジェクトでは、西武ホールディングスが「千ヶ滝地区」に所有する約22haの広大な敷地を活用し、次世代のリゾートのあり方を見据えた大規模複合開発を行う予定です。
千ヶ滝エリアは、1918年に別荘地としての開発が始まりました。1929年には映画館やテニスコート、プールを備えた千ヶ滝遊園地が開業し、戦後の1948年にはプリンスホテルが誕生、1956年には西武デパート軽井沢店がオープンするなど、軽井沢の中心地として発展を遂げてきました。さらに1997年、北陸新幹線の開業によって首都圏からのアクセスが向上し、千ヶ滝エリアの注目度が一層高まりました。
100年以上の歴史を誇るこの地は、今もなお格式ある別荘地として知られ、豊かな自然と調和した暮らしを求める人々に愛され続けています。
また、2025年7月、リストデベロップメントは、ロイヤルマイナーホテルズとホテルマネジメント契約を締結し、日本初進出となるラグジュアリーホテルブランドAnantara(アナンタラ)を冠した「Anantara Karuizawa Retreat(アナンタラ軽井沢リトリート)」のホテルリゾート計画を発表しました。このプロジェクトでは、軽井沢町の約4haの森林に囲まれた地を活用し、スイートルームとヴィラを含む全51室を有する高級リゾートホテルを2030年に開業する計画です。その他にも、旧軽井沢エリアや中軽井沢エリア等では、大小さまざまなホテル・コンドミニアムの開発計画が進捗中です(20~200室超、分譲坪単価1,000万円超など)。軽井沢では、観光需要の高まりとともに、利便性と資産価値を兼ね備えた物件へのニーズは確実に増加しており、今後このようなホテル・コンドミニアムの開発がさらに進むと予想されます。
ⅲ.不動産開発に影響を与える今後の規制
軽井沢町で分譲マンションの開発等が活発になる中、2025年3月、軽井沢町は豊かな自然環境とそれに調和した低層建築物による独自の景観を守るため、「軽井沢の自然環境と景観を守るための宣言」を発表しました。この宣言は、急速に進むマンションやホテルなどの開発が、地域の自然や景観に悪影響を及ぼしているという危機感に基づいています。この宣言により1972年に制定された「軽井沢町の自然保護対策要綱」の見直し、「軽井沢町の自然保護のための土地利用行為の手続等に関する条例」による規制強化、「特別用途地区等の制定」、「用途地域・風致地区等」の見直しを約3年かけて行うことを計画しています。既に「軽井沢町の自然保護対策要綱」の見直しに関しては、改正に関する住民説明会を開催しており、検討されている改正内容が明らかになっています。マンション・ホテル開発への影響が想定される内容は、おおむね以下のとおりです。
(Ⅰ)建築物の階数制限
階数制限に関する内容が改正される見込みです【図表12】。現在は、地階を除いた階数制限が課されていますが、改正後は地階を含めた階数制限が課されます。例えば現状、地階を含む3階層の開発が可能な傾斜地は、地階を含む2階層での開発に制限され、開発規模の縮小を余儀なくされるケースがありそうです。

(Ⅱ)集合住宅等の戸当たりの敷地面積
集合住宅等における戸当たりの最低敷地面積についても、【図表13】のように改正される見込みです。保養地域5においては、戸当たりの最低敷地面積が600㎡から1,000㎡に拡大される見込みです。また、居住地域6および集落形成地域7では、現行の2倍となる戸当たり300㎡の敷地面積が必要となる見通しです。この改正により、今後、居住地域等で計画される分譲マンションの分譲戸数は、現行と比較して半数以下とする必要が生じます。一方で、改正の対象外となる商業地域8では、現行と同戸数の分譲マンションの開発が可能で、商業地域の希少性がより高まる可能性があります。

(Ⅲ)集合住宅等の定義の明確化(分譲ホテルの取扱い)
集合住宅等の定義についても、【図表14】のように改正される見込みです。これは近年増加する分譲ホテル(コンドミニアム)の取扱いを明確化することが目的です。現行の定義では、分譲ホテルも集合住宅等に含まれると定義されていますが、改正後は各部屋に「浴室、便所及び台所(簡易な流し台のみのものを含む)」が設置されている場合を除き、集合住宅等に含まれないこととなります。これにより分譲ホテルの開発においては、(Ⅱ)の集合住宅等の戸当たりの敷地面積の規制を受けずに開発することが可能です。しかし、各部屋に「浴室、便所及び台所(簡易な流し台のみのものを含む)」が設置されている場合においては、将来的に集合住宅等への用途変更が容易に行われることを防ぐため、集合住宅等の基準が適用されます。

5 第1種低層住居専用地域及び集落形成地域等を除く用途無指定地域
6 第1種住居地域
7 用途無指定の区域内の集落形成地域等
8 近隣商業地域
Ⅲ.まとめ
軽井沢町では、富裕層の増加や多拠点生活・ワーケーションの広まりを背景に、移住者や観光客が増加しており、注目度が高まっています。また、教育施設の充実も進み、定住地としての魅力も高まっています。これに伴い、ホテル・コンドミニアム・マンションの開発が盛んに行われ、今後も多くの開発が計画されています。
一方で、自然環境や景観保護の観点から、建築物の階数制限や敷地面積の見直しなど、規制強化に向けた動きが見られます。今後のホテル・コンドミニアム・マンション市場と開発規制の動向に注目が必要です。
提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部
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