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外資系不動産ファンド最新動向(2025年度)

~じわり金利上昇も投資額は過去最高に 透ける「選別と戦略の高度化」~
国内の不動産売買市場において、外資系不動産ファンド(以下、外資系ファンド)は圧倒的な資金力と情報網を武器に、市場の流動性や価格形成をリードする「最大のキープレイヤー」です。その動向は市場全体のトレンドを大きく左右します。近年は、円安メリットや安定した利回りを背景に存在感をさらに強めており、日本の不動産市場を牽引する不可欠な存在となっています。
2025年以降、国内の金融市場は大きな転換期を迎えています。日経平均株価は、年始から4万円前後で推移し、4月の「トランプ関税ショック」を受けて一時的な急落もあったものの、好調な企業業績を背景に、緊迫した中東情勢の緩和、半導体・AIデータセンター関連銘柄の物色などいくつもの材料が重なり、わずか1年半ほどの間に7万2,000円台に達する(本稿執筆時点)という歴史的な水準にまで駆け上がっています。また、日本銀行は6月、基調的な物価上昇が上振れするリスクへの対応として、政策金利を31年ぶりとなる1.0%とすることを決定し、マイナス金利政策解除以降、着実に利上げ路線へと舵を切っています。
このような金融情勢下、国内不動産に対して、外資系ファンドはどのような動きをみせているのでしょうか。本稿では、金利・為替等の金融市場の動向を確認しつつ、2025年度中における主要プレーヤーの取引事例を通じて、外資系ファンドの動向を考察します。
【サマリー】
- ● 日本の長期金利には上昇圧力がかかる一方、政策金利・長期金利の水準はなお米国対比では低位にある。国内不動産のイールドスプレッドは縮小しているが、投資妙味を直ちに大きく損なう状況には至っていない。
- ● 国内事業用不動産の投資額は2025年に過去最高水準に達し、2026年1Qも高水準を維持した。海外投資家の取得額は前年比で約2倍の2兆円超となり、円安、相対的低金利、賃料上昇、地政学面での相対的な安定性が対日投資を後押ししている。
- ● 1,000億円超の超大型案件が複数成立し、事業会社による売却事例からは、資本効率見直しの構造的変化の浸透が窺える。一方で当社選定のベンチマークファンド約20社による購入案件数の伸長は確認されず、最高水準となった投資額に追従していない。セレクティブな投資姿勢が垣間見えるギャップとして注目される。
- ● オフィス購入で1980年代後半から1990年代竣工物件の比重が高まるなど、北米・アジア系によるバリューアッド志向への回帰が見える。また、リスクプレミアムがより大きいとされるホテルの新規開発にも意欲が透ける。
- ● 総じて、資金調達コストと建築費上昇を背景に、賃料成長や価値創出余地のある案件へ向かいやすい傾向である。今後問われるのは、物件取得後にどのようなストーリーを描けるかであり、選別的な投資が継続するとともに、ファンドの投資戦略の巧拙がこれまで以上に成果を左右する段階に入りつつある。
Ⅰ.金融市場の動向
ⅰ.金利動向
2026年に入ってからも、日米欧の金融政策はそれぞれ異なる方向感を示しており、足元の金融市場は引き続き不安定な展開となっています(図表1)。日本銀行は6月15日・16日の金融政策決定会合で、無担保コール翌日物金利(注1)の誘導目標を0.75%程度から1.0%程度へ引き上げました。日銀は、景気は中心的な見通しに概ね沿って推移している一方、基調的な物価上昇率が2%の「物価安定の目標」を上振れていくリスクがあるとの認識を示しています。
一方、米国では、6月16日・17日に開催されたFOMC(注2)において、FF金利(注3)の誘導目標レンジが3.50~3.75%に据え置かれました。引き上げも予想されたなかの据え置きとなり、声明文では、経済活動は底堅く、インフレはなお高めであるとの認識が改めて示されました。欧州中央銀行(ECB)も、6月11日の理事会で主要政策金利を25bp引き上げており、中東情勢を背景としたエネルギー価格上昇がインフレ圧力を高めているとの見方を示しています。直近の主要中銀会合を踏まえると、インフレ警戒を続けながら高度な金融政策判断を続けている現状が浮かびます。

こうした中で、国内不動産市場を考える上で引き続き重要となるのがイールドスプレッド(注4)です。投資対象不動産のキャップレートと長期金利との差であるイールドスプレッドは、投資妙味を測る代表的な指標であり、長期金利の上昇はその縮小要因となります。もっとも、日銀が追加利上げを実施した後も、国内の金融環境はなお緩和的であるとの整理が維持されており、日本の政策金利水準は米国対比で依然として大きな開きがあります。長期金利も足元では2%台半ばで推移しているものの、米国金利との比較ではなお低位にあります。現状では、エネルギー価格波及による二次的なインフレ圧力など引き続き観測すべき点はありながらも、国内不動産の相対的な投資妙味を損なう状況には至っていないと考えられます。
1 銀行間で担保なし・翌日返済を条件に資金を貸し借りする際の金利で、日本銀行が金融政策として誘導する短期金利。金利の上昇は借入コストの増加を通じて、不動産投資の採算性や資産価格に影響を与える要因となる。
2 米国の中央銀行(FRB)が開催する金融政策決定会合。政策金利の動向は世界的な金利や投資資金の流れに影響を与える。
3 フェデラルファンド金利。米国の政策金利であり、金融機関間の短期資金取引の基準となる金利。
4 ここでは不動産の利回り(キャップレート)と長期金利との差を指す。縮小すると投資妙味の低下、拡大すると投資環境の改善となる。
ⅱ.為替動向

図表2は、2015年以降の米ドル/円の為替レートの推移です。日米金利差の縮小が進む中においても、ドル円相場は1ドル=160円前後の円安圏での推移が続いています。
この水準は、海外投資家の対日投資の観点からは、取得価格を相対的に割安に捉えやすい環境であり、国内不動産への投資を検討する上での動機付けが維持されやすい状況といえます。
ただし、為替レートは政治経済の動向に敏感に反応するため、予断を許しません。日銀の追加利上げの行方はもとより、投機的な円売りを監視する政府による再度の巨額為替介入の可能性、ドル安を志向するトランプ大統領が新議長率いるFRBへどのように関与するかなど、注視すべき材料は尽きません。
Ⅱ.世界主要都市の不動産価格の動向と国内不動産投資市場の規模と推移
ⅰ.世界主要都市の不動産価格の動向
図表3は、2020年10月を基準とした東京、ニューヨーク、ロンドンのオフィス価格指数の推移です。日本と米欧の金融政策の方向性やオフィス需給の違いを背景に、日本と米欧の差は引き続き鮮明です。ニューヨークとロンドンは、高金利環境の継続と賃貸需要の低迷が重なり、水準としてはなお低位にあります。対照的に、東京は賃貸市況の改善と相対的な低金利環境を背景に、底堅くも緩やかな上昇を続けています。

足元では、米欧の金融政策は依然として不透明感は残る状況にあるものの、一時の引き締め局面からは脱した感もあります。こうした中、2025年までの価格調整を経て、米欧オフィスの下押し圧力には一定の緩和がみられます。しかし、都市別ではありますが東京市場の安定感と相対的な強さはなお明確であり、日本の不動産市場が引き続き有力な投資先として評価されやすい環境にあることが確認できます。
ⅱ.国内不動産投資市場の規模と推移
国内不動産取引実績はどのようになっているでしょうか。図表4は、2026年1Qまでの国内不動産取得金額の推移を示したものです。
出所:CBRE「ジャパンインベストメントマーケットビュー2026年第1四半期」より転載2025年通年の国内事業用不動産の投資額は7兆円に迫る勢いとなり、2007年の5兆円超を一足飛びに上回る過去最高水準を記録しました。2026年に入ってからも高水準が続いており、1Qは大型取引のあった前年同期比に迫る活況となっています。
市場規模拡大のなかでも特に、外資系ファンドを含む「海外投資家」の存在感は更に高まっています。国内投資家による取得も大きく伸長しているものの、海外投資家による取得は昨年比でおよそ2倍となる2兆円超を記録しており、この事実自体、彼らがかつてにも増して国内不動産市場に回帰していることを示しています。
ではその背景には何があるのでしょうか。国内では前述のとおり継続的な円安、なお低い政策金利下における資金調達環境の良好さに加え、Aクラスオフィス(注5)を筆頭に確かな賃料上昇および空室率減少が確認されたことが、投資における基礎的条件を満たすとの認識を強めている可能性があります。また、昨今の不安定な国際情勢を背景に、比較的地政学的リスクが小さく、市場規模と流動性の要件を満たす日本に着目している側面も強いとみられます。積みあがっているとされる豊富なドライパウダー(注6)が行き場を探している状況も拍車をかけているでしょう。
一方でこれら国内不動産投資を後押しする材料は、グローバルマーケットにおける相対的な評価の結果であり、長期的なトレンドとなっていくかは引き続きの注意が必要です。また、「バリューアッド(注7)」「オポチュニスティック(注8)」の戦略を取ることが多い外資系ファンドは、単なる購入と売却に留まらず、付加価値創出のためのストーリーが描ける不動産を求める傾向にあります。市場拡大やプレーヤーの増加等に伴い、戦略の差別化がさらに強まっている傾向にあり、不動産取得を企図したM&Aを最たる例として取得手法は多様化しています。かねてからの物件選別的な投資性向は、その度合いを増していくだけでなく、複雑性も強まってくると予想されます。
以上を踏まえると、足元の投資環境は一見良好にみえますが、その実態が投資行動としてどのように表れているのかは踏み込んで確認する必要があります。そこで次章では、取引事例の集計結果を基に具体的な動向を確認します。
5 立地、規模、設備、築年数などの観点で高い競争力を有するオフィスビルを指す一般的な区分。
6 投資家やファンドが、投資機会を待つために確保している未投資資金。待機資金とも呼ばれる。これが積み上がっている場合、市場に資金が流入する余地が大きいことを意味する。
7 不動産投資の方針の一つ。割安に取得した物件の収益性を高めて、主なリターンの源泉を賃料収入(インカムゲイン)と売却から得られる収入(キャピタルゲイン)を最大化する方針を示す。
8 不動産投資の方針の一つ。主なリターンの源泉をキャピタルゲインとする方針を示す。最もハイリスク・ハイリターンの投資方針。
Ⅲ.外資系ファンド(主要プレーヤー)の売買動向
ⅰ.購入と売却の案件数の推移
本章では、当社で把握することができた2018年度上期以降2025年度までを対象期間とした外資系ファンドが関わった取引事例に基づいた考察を行います。国内不動産に対して継続的・安定的且つ多額の投資実績を有する外資系ファンド約20社を主要プレーヤーと定義(注9)してベンチマークした上で、その主要プレーヤー約20社による取引事例を半期ごとに定点的に集計・分析することで外資系ファンド全体の傾向を探ります。
図表5は、その主要プレーヤー約20社による半期毎の購入案件数と売却案件数の推移をグラフ化したものです。
出所:当社調べ、以下同2025年度上期・下期の購入案件数の合計は15件となり、前年度の24件を下回りました。前掲の取得金額の大幅な伸長に比べ低水準にとどまっており、案件数べースでみれば投資行動が拡大しているとまではいえません。売却件数は2024年度の33件からは減少したものの27件となり、なお購入案件数を上回っています。あくまで当社把握の案件数ベースではありますが、このデータからは不動産取得を加速させている実態はみえず、より多面的にとらえる必要がありそうです。次に取引の性質を確認するために、バルク取引の動向を確認します。
9 2021年3月に公表された国土交通省「令和2年度海外投資家アンケート調査業務」によると、海外投資家のうち、投資額上位10社のシェアは85%、上位20社まで含めると全体の98%を占めるとされる結果を根拠に、当社にて様々な角度から相応しいと思われる外資系不動産ファンド(外資系資産運用会社)を約20社選定した。
ⅱ.案件数に占める個別とバルクの割合推移
図表6および図表7は、購入または売却案件における個別案件とバルク案件(注10)の割合推移です。


2025年度の購入でバルク案件の占める割合はおよそ5割となり、案件数自体は多くないなかでも個別購入と比べ相対的にバルク購入の存在感が高まっている様子が垣間みえます。外資系ファンドにとってバルク購入は、効率的な資金投下の常とう手段のひとつとなります。スケールメリットによる取得価格のディスカウントと取引コストの低減が期待できるほか、巨額とされるドライパウダーの早期投下につながり、運用資産額を一足飛びに拡大することが可能です。
売却におけるバルク案件の占める割合は、1割程度にとどまっており、購入に対して包括的な売却を推進する気配は感じません。一括で取得した物件群でも物件個々でリターンが最大化する出口を探っている様子も窺え、少なくともその割合からは売り急ぐような市場環境と捉えてはいないようです。次は案件の規模やセグメントによる動向を確認します。
10 複数の不動産をまとめて売買を行う案件を指す。
ⅲ.大型案件(取引金額100億円以上)とファンド属性別割合の推移
図表8および図表9は、100億円以上の大型案件数の推移を購入・売却別に示したものです。(バルク案件は1案件として扱い、金額判明分のみを対象とした)


2025年度の大型購入案件数は上期下期併せて6件となりました。2024年度の11件と比べるとおよそ半減となりましたが、500億円超の3件はいずれも1,000億円超です。そのうち2件は数千億円規模の超大型案件となり、いずれも国内大手事業会社が保有していた本社ビルおよびトロフィーアセット(注11)という、これまで市場に出回りにくい物件の売買でした(1件は不動産取得を目的としたM&A)。2024年度同様に超大型案件の成立は、2025年度も続いていると捉えることもできそうです。いうまでもなく、背景には資本効率の抜本的な見直し圧力が定着してきたことがあります。実際に売り手となった事業会社らは、売却で得た資金を本業関連の成長投資や財務体質強化に充てるとしています。このような供給サイドの事情の変化も、過去最大の取得額となった国内不動産市場の構造的変化を支えていることは想像に難くありません。
売却案件数においては、500億円超の案件はみられず、件数は昨年度と同件数となりました。前掲のようにバルクによる売却が少なく、500億円超の売却もない様子から、資金確保を主目的とした急ピッチの売却というより、ポートフォリオ再編や出口戦略の一環としての売却とみるのが自然です。注目したいのはその売却先です。一部には、脱炭素・ESG投資推進を目的として組成されたグリーンファンド(注12)、不動産を小口化した不動産STO(注13)の裏付け資産としてなど、購入者の属性に近年の潮流もみられます。外資系ファンドが見据える売却先は多様化していくフェーズともいえそうです。
図表10と図表11は、大型事例におけるファンド属性別(資産運用会社の本社拠点別)の割合の推移です。


2025年度の大型購入案件6件のうち4件を北米系が、2件をアジア系が占めました。数千万円規模の超大型案件2件は北米系、アジア系の各1件です(アジア系の購入案件は、不動産以外にもオルタナティブ投資を広く行う北米系ファンドとの共同出資によるM&A)。北米系を筆頭にアジア系も引き続きの存在感を発揮する状況となりました。売却については北米系が7件中6件となり、着実に出口戦略としての売却を実行していることが垣間みえます。
注目したい点として、2019年以降2022年頃まで活発な購入をみせてきた欧州系による投資が露呈していない点です。インカム中心のコア投資(注14)を志向する欧州系は物件保有期間も比較的長く、売却は例年限定的ですが、購入においても取引がみられない状況が続きます。金利上昇が鮮明となるなか、慎重姿勢を強めている可能性が考えられます。
11 都心の一等地などに立地し、規模や希少性、ブランド性の観点から市場を代表する優良不動産。
12 環境や社会への配慮を重視した投資対象に資金を投じるファンドの一種。不動産分野では、省エネ建物や環境性能の高い物件が主な投資対象。
13 セキュリティ・トークン・オファリング。「セキュリティ・トークン」(デジタル証券)を発行することにより資金調達を行う手法を指す。不動産STOは、裏付け資産を不動産とすることにより、これまで個人投資家にとってアクセスが難しかった大規模な個別不動産への投資機会を、株式や債券のような流動性のある有価証券投資の形で提供する仕組み。近年発展を遂げたブロックチェーン技術を活用した新たな金融商品。
14 不動産投資の方針の一つ。主なリターンの源泉を不動産賃貸から生じる賃料収入(インカムゲイン)とする方針を示す。一般に最もリターンが低いが、リスクも低い考え方とされる。長期安定運用を目標とするJ-REITや保険会社系列ファンド等で多く採用されている投資方針。
ⅳ.アセット別の割合推移


図表12と図表13は、アセット別の割合の推移です。(バルク案件は原則1案件としたが、一部、複数のアセットで構成されているバルク案件で且つ物件ごとのアセットが明確に判明しているものについては個別案件として集計した)。
2025年度の購入では住宅が最多で、オフィスがこれに続きました。物流にも1,000億円の大型案件も含めて投資がみられる一方、当社の集計上ではありますがホテル購入が0件となり、取得実績の面からはホテル投資の広がりを示す結果とはなっていません。売却では引き続きオフィスが中心で、住宅は例年に比べ少なくなりました。ホテルの売却件数は増加が鮮明となっています。足元では2025年の訪日外国人数は過去最高を記録し、RevPARは上昇傾向にあるなどホテルに関するファンダメンタルズは良好な中、一見するとこれに逆行する動きにも映ります。
その売却先を確認すると、比較的高い利回りが狙えるホテルセグメントのポートフォリオを高めているJ-REITなどの他、系列のSPCや私募REITも散見されます。この点からは「国内ホテルからの撤退」と単純化するより、むしろ、宿泊需要の回復と収益改善を背景にホテルアセットの価格上昇を享受するなか、長期保有主体を出口とした資本回収・資産入替が進んでいる可能性が滲みます。近年ホテル運営を取り巻くトレンドは、体験型宿泊、高付加価値化、地方への需要分散など複雑さを増しており、勝ち負けは2極化しています。加えて建築工事費が高騰する状況下にある現在、勝ち筋を描きつつ、今後の「より勝てるホテル・より勝てる立地」へ資金シフトを念頭に置いた行動ともいえそうです。
ⅴ.エリア別の割合推移
(Ⅰ)オフィス
図表14と図表15は、オフィスの購入または売却案件に占めるエリア別傾向を示したものです。(物件所在地が判明しており、集計可能な案件のみを対象とした)。


2025年度の購入は、半数となる3件が「東京都心5区」となり、うち2件は前述の超大型案件(渋谷区、港区)でした。人材獲得競争などを背景に、都心Aクラスビルのオフィス賃料上昇と空室率低下は鮮明で、件数以上にその投下資金の大きさが競争力のあるオフィス需要の旺盛さを語っています。
売却についても「都心5区」が6割を占めました。それ以外のエリアは割合が分散しており、流動性の高いオフィス売買市場で機動的にポートフォリオを入れ替えている様子が確認できます。売却先はデベロッパー各社やSPCが中心だった他、これまでにない傾向として学校法人への売却が2件ありました。少子化下で、大学は「通いやすさ」「都心アクセス」を重視してキャンパス再編を進めており、既存キャンパスとシナジーのある近接地の確保が重要となるなか、外資系ファンドも敏感に反応し、売却先の裾野を広げていることは注目すべき点です。
(Ⅱ)住宅
図表16と図表17は、住宅の購入または売却案件に占めるエリア別傾向です(物件所在地が判明しており、集計可能な案件のみを対象とした)。


2025年度で把握できた購入案件数は18件となりました。下期の取引における「その他」エリアが6件となり、過去の件数と比べて伸長しました。これらは都内を含むバルク取引に含まれたものですが、名古屋市、静岡市、四日市市といった地方都市まで投資エリアの幅は広がっています。外資系ファンドからみた国内マーケットは、オフィス同様に、賃料底上げが進む住宅セグメントについても良好であるとの認識が定着し、より高い利回りを求めて地方へもその対象を拡大している様子が窺えます。
ただし引き続き選別的目線は変わらず、おおよそ築後20年以内の物件の取得が中心であり、利便性や繁華性の高い立地の物件に限るなどの方針も堅持されていると思われます。詳細な所在地は不明ながら、都区部および大阪の新築・築浅のマンションのバルク取引もあり、あくまで優先度の高いエリアは都内ないし大阪中心部とみられます。売却は全て都区部となりました。前述の不動産STファンドへの売却の他、不動産業者への売却となり、ここでも流動性の高い都区部マンションの引き合いの強さが確認できました。
ⅵ.オフィス竣工年別の割合推移
図表18および図表19は、オフィス竣工年別の割合推移を示したものです。(竣工年が判明しており、集計可能な案件のみを対象とした)。


2025年度の購入では昨年、一昨年と鳴りを潜めていた1982年~1989年取引がみられるとともに1990年代の取引も拡大しました。不動産会社やその関連SPCからの仕入れの他に、国内事業会社からの取得も複数あり、資本効率化の圧力を背景として、特に北米系・アジア系ファンドによる本来のバリューアッドな投資スタイルに回帰する兆しがあるともいえそうです。なお、2021年以後、旧耐震の購入がないことは、住宅とともにオフィスにおいても投資基準が一貫して存在していることを物語っています。一方、売却では1982年以降、1990年代竣工ビルの比重が高く、相対的に築年の経過した物件が中心です。付加価値を創出しやすい高経年の物件について、売却戦略も着実に進めているとみられます。
Ⅳ.今後の見通し
ⅰ.金融市場の見通し

図表20は専門家による今後の政策金利の見立てです。2026年6月の日銀による追加利上げ後も、日本の金融正常化(金融引き締め)は着実に進むと予想されます。一方、米国では6月のFOMCでFF金利が3.50~3.75%に据え置かれながらも年内の利上げを予想する声もあります。今後影響がどう表れるか引き続き注視が必要であるものの、現時点の市場では日米の金利差はなお大きい状況と受け止められています。

図表21の金融機関の不動産業向け貸出態度DIを踏まえると、金利上昇が意識されるなかでも、融資姿勢が 急速に厳格化しているわけではありません。加えて、ドル円相場は本稿執筆時点で1ドル=161円台半ばにあり、海外投資家からみた日本不動産の相対的な割安感はなお保たれています。こうした環境下では、対日不動産投資を支える前提条件は現時点で大きく崩れてはおらず、資金調達コストの上昇と、円安による対日投資妙味の維持が、同時に進んでいるとみるのが適切です。
ⅱ.不動産市場の見通し
各国のオフィス価格指数の比較でもわかるように、東京市場の底堅さは引き続き明確です。米欧が高金利環境や賃貸需要の弱さを背景に調整色を残すなか、東京は賃貸市況の改善と相対的な低金利環境を背景に、安定した推移を続けています。こうした安定感は、日本がアジアのなかでも有力な投資先として評価される背景のひとつといえます。2025年の国内事業用不動産投資額は過去最高圏に達し、海外投資家による取得も大型案件を交えつつ継続しています。複数の外資系ファンドが今後数年間にわたり日本への投資継続方針を掲げている点からも、日本市場への関心自体はなお強いとみられます。
ただし、今回の集計結果が示しているのは、全面的な市場拡大ではありません。取引額は強いもののバルク案件や超大型案件が全体を押し上げている構図です。ファンドの選別投資の姿勢が鮮明となりつつあることを背景に、現在の市場は条件の整った案件には引き続き厚い資金が流入する一方で、案件ごとの差が広がる局面にあると考えられます。
図表22の投資戦略への選好を踏まえると、今後の市場では、魅力的な投資戦略としてバリューアッド投資が一段と重要性を増す可能性があります。既存資産は豊富なストックがあり裾野が広く、改修や再生を通じて賃料水準や稼働率の改善を図る戦略は、金利上昇局面でも採りやすいアプローチといえます。
出所:CBRE「2026アジア太平洋地域 投資家意識調査」より転載建築費の上昇もこの流れを後押しするとみられます。当社と不動産経済研究所による「建築費に関するアンケート」からもわかるように労務費や設備費上昇、中東情勢が拍車をかけた資材価格上昇などを背景に高止まりしやすい環境が続いています。新規開発の採算確保の難易度が上がるなか、外資系ファンドにとっては、更地からの開発よりも、既存ストックの改修・再生を通じて価値を引き上げる戦略の重要性が相対的に高まりやすい状況にあるともいえます。
出所:CBRE「2026 アジア太平洋地域 投資家意識調査」より転載一方で、図表23の改修・新規開発に対する選好からは、リスクプレミアムがより大きいとされるホテルの新規開発に対する高い意欲が垣間見えます。これら根底には、今後の焦点が金利上昇そのものだけでなく、それを賃料成長や価値向上でどこまで吸収できるかにあり、各ファンドのマネジメント(運用力)が試される局面に入ってきたともいえそうです。
総じてみれば、国内外の経済的諸条件の変化を睨みつつも、外資系ファンドの対日投資意欲は当面維持される可能性が高いと考えられます。
ただし、その資金が向かう先は、現在の環境下における最適化された投資戦略のもと、厳選された案件にこれまで以上に集まりやすくなるでしょう。今後問われるのは「いつ、何を、いくらで買うか」だけではなく、「どのようなストーリーを描けるか」、そのような視点が一層必要となりそうです。
提供:リサーチ・コンサルティング部 リサーチ課
長谷山 大樹:宅地建物取引士/不動産証券化協会認定マスター
八巻 尚矢:宅地建物取引士/公認不動産コンサルティングマスター
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