用途を変えて活かすコンバージョン建築の成功事例(3)
建物の記憶とともに地域と結び付く「軽井沢コモングラウンズ」

用途を変えて活かすコンバージョン建築の成功事例(3)建物の記憶とともに地域と結び付く「軽井沢コモングラウンズ」

軽井沢コモングラウンズ書店棟の全景

大規模な改修を施すことにより機能をガラリと変えて建物を使い続けるコンバージョンの手法は、都市の公共的な施設ばかりでなく、小規模な商業施設にも採り入れられている。
建築のコンバージョン事例を紹介するシリーズ記事の3回目では、長野県軽井沢町にオープンした商業施設の事例を見てもらおう。
元は青山学院女子短期大学が所有する中軽井沢寮だったが、寮の歴史を尊重していただきたいという学校側の思いを受けて、野村不動産ソリューションズが仲介に関わり、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)による新業態施設として蘇った。
林の中に点在する小さな建物群の中心に位置する書店棟は、元は宿泊棟だったもの。木造2階建ての柱と梁をそのまま残しながらも、構造補強を兼ねて周りに軒下空間を広げ、ユニークな商業建築を実現している。

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202606_03_image02.jpg軽井沢コモングラウンズの全体を俯瞰する。木々の間に施設が点在
(写真提供:クライン ダイサム アーキテクツ)
202606_03_image03.jpg軽井沢コモングラウンズ内にある蕎麦屋「OSOBAR」(左)とインターナショナルスクール「EtonHouse International School Karuizawa」(右)

Ⅰ.林の中に複数の建物が点在

敷地は軽井沢駅からタクシーで10分ほどのところにある。軽井沢と言えば別荘地として名高いが、ここは地元の人が暮らしている住宅地のエリアだ。開けた平地の中で、ここには林が残っている。ウッドチップが敷かれた小道を進んでいくと、木々の間を縫うようにして建てられた、軽井沢コモングラウンズの建物群が見えてきた。

点在する小さな建物は、それぞれ焼き菓子、ワイン、食堂、惣菜、蕎麦、冷製燻製などを提供するショップや飲食店だ。これらに加えて、インターナショナルスクールと書店の建物がある。

中でも一番大きな建物が、書店棟だ。1階には書店とカフェが入り、2階はコワーキングスペースとして使われている。書店としてそれほど広いわけではないが、建築やデザインの書籍の品揃えは充実している。こだわりの食雑貨も扱うほか、アートワークを展示しているコーナーもある。

取材で訪れたのは平日の午後だったが、カフェはほぼ満席で、2階のワークブースも使用中だった。インターナショナルスクールの終業時刻が近づくと、迎えにくる家族が寄るようになり、子供からお年寄りまで様々な年齢層の人が、途切れることなく訪れていた。大きなガラス面を通して、森の景色を楽しみながら、それぞれに豊かな時間を過ごしている様子だ。

店内で目を凝らすと、柱や梁に古い木材が使われていることがわかる。実はこの書店棟、インターナショナルスクールとともに、元は青山学院女子短期大学の寮だった建物である。現在のインターナショナルスクールは食堂棟で、書店棟は宿泊棟だった。2棟をつないでいた通路を撤去し、構造を残しながら1階の周りに床面積を拡張する形で改修して、書店へのコンバージョンを果たした。

202606_03_image04.jpg建て替え前の書店棟。寮の宿泊棟だった
(写真提供:クライン ダイサム アーキテクツ)
202606_03_image05.jpg改修工事中の内観。柱と梁を残し、壁や床は取り去った
(写真提供:クライン ダイサム アーキテクツ)
202606_03_image06.jpg書店棟のアクソノメトリック図。既存建物の周りに構造となる増築部を巡らせた

Ⅱ.地域の人が集まるコミュニティハブに

寮の土地と建物を取得して、軽井沢コモングラウンズとして再生させたのはカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)だ。TSUTAYA BOOK STOREや蔦屋書店などを全国展開するほか、シェアラウンジや図書館運営受託などの事業を行っている。

CCCが軽井沢に関わる一つのきっかけとなったのが、軽井沢にあった唯一の書店が閉店したことだった。町に本屋を復活させたいという町民の願いに応える形で、2018年、軽井沢駅に近いところに「軽井沢書店」をオープンした。これに続いての出店が、軽井沢コモングラウンズの「軽井沢書店 中軽井沢店」となる。

東京・代官山や湘南・藤沢などで、書店を中心としたライフスタイル提案型の文化複合施設「T-SITE」を運営しているCCCだが、それらとも業態は異なる。「軽井沢に関わるかたが、より豊かな生活を過ごせる空間の探求を重ねた」と軽井沢コモングラウンズ館長の松本聡氏。併設するカフェが、蔦屋書店の多くで見るグローバルブランドのチェーンではなく、栃木・那須に本店を置く「SHOZO COFFEE」なのも、そのあらわれだ。

軽井沢といえば別荘地として名高く、観光で訪れる人も多い。しかしここで主な利用者として想定したのは、軽井沢に居住している人たちだった。以前から長く住み続けている人に加え、近年は東京圏から移住してきた人や東京圏との2拠点居住を実践している人も増えている。そうした様々な軽井沢人が集まれる場所をつくりたいとの狙いがあったという。周りの小さな建物に入っているテナントも、地元からの出店が多い。

「地域のコミュニティハブになる施設を目指す」と松本氏は語る。

202606_03_image07.jpg増築部北側、キッズスペースから新刊コーナーを見る
202606_03_image08.jpg増築部南側、食の本を扱うコーナー(右)と「SHOZO COFFEE」
202606_03_image09.jpg書店棟2階のコワーキング・オフィス

Ⅲ.宿泊棟から書店棟への改築

軽井沢コモングラウンズ全体のマスタープランや書店棟の改修設計を担当したのは、クライン ダイサム アーキテクツ(KDa)でシニアアーキテクトを務める久山幸成氏だ。KDaが手がけた初期作品のひとつに、イデー・ワークステーション(1996年)がある。ガソリンスタンドを家具ショールームに換えたもので、日本におけるコンバージョン建築の先駆けだった。久山氏は大学を出たばかりの頃にこれを見て、KDaの門を叩いたという。

KDaでは、代官山T-SITE/蔦屋書店(2011年)以降、湘南T-SITE(2014年)、柏の葉T-SITE(2017年)と、これまでもCCCの施設を手がけており、軽井沢コモングラウンズはそれに続いての設計となる。

久山氏が敷地を初めて訪れた時の印象は、樹木がよく残っているということだった。それをできる限り切らないようにしようとの方針が、まず思い浮かんだという。その流れで、既存の寮を改修して使うことも、自然に決まっていったとのこと。

宿泊棟から書店棟への改修では、既存部の柱・梁を残して使っている。2階の中央では床を取り去って吹き抜けにし、上下のフロアにつながりを生み出した。既存部の周りには、鉄骨の柱・梁・ブレースと集成材の登り梁を組み合わせた増築部を巡らせ、既存部と一体化することにより、十分な構造強度を実現した。増築部は場所に応じて広くなったり狭くなったりし、登り梁の端部高さや角度が変わることで単調にならない曲面屋根ができあがっている。

「新築として建てていたら、ただの四角い箱形になっていたかもしれない。古い建物を残して生かすことを考えたことで、このような面白い屋根の形が導き出せた」と久山氏は振り返る。

202606_03_image10.jpg既存部1階のアート・建築の本を扱うスペースでは展示も行う
202606_03_image11.jpg既存部中央では床を抜いて吹き抜けにした
202606_03_image12.jpg南側から建物を見上げる

Ⅳ.既存建物を残して使うことの意義

建築主のCCCとしては、更地にしてからゼロベースで新築した方が、建てたい施設を自由に考えられる。改修なら工費を下げられるのではという期待もあったが、その点は叶わなかった。それならば、既存建物を生かしたコンバージョンという方法を選ぶメリットはどこにあったのか。館長の松本氏は、オープンして間もない頃に経験した印象的な出来事を振り返る。

「この建物が寮だった頃にそこで働いていた方が来て、『懐かしい。建物を残してくれてありがとう』と、涙をボロボロ流しながら語ってくれた。このやり方が正しかったと確信した」。

企業が新たな地域に進出して事業を行おうとした際、地元の人からは「よそ者が何をやるんだろう」と警戒されることがしばしばある。軽井沢コモングラウンズでは、既存建物をコンバージョンすることが住民に受け入れられた一つの要因だろう。地域のコミュニティハブを目指す施設において、その恩恵は大きい。

202606_03_image15.jpg1968年頃の宿泊棟外観
(写真提供:青山学院)
202606_03_image16.jpg1978年頃の食堂棟内観
(写真提供:青山学院)

Ⅴ.建築は場所の記憶や文化を継承していく

元の建物の建築主だった青山学院女子短期大学の関係者にも話を聞いた。元女子短期大学副学長で、現在、青山学院大学特任教授を務める趙慶姫教授は、中軽井沢寮を閉じるにあたり、建物やそこで行われた活動を記録として残す活動に携わった。写真や映像を撮影するために訪れた時は、建物の状態が良いことに感銘を受けたという。「閉鎖して1年が経っていたにもかかわらず、きれいに掃除され、布団やシーツも押し入れの中にきちんと収納されていた。建物が大切に使われ続けてきたことが伝わった」。

コンバージョンを経て軽井沢コモングラウンズに替わったことは、元同僚からのメールで知った。「売却先がCCCだとわかった時点で、代官山T-SITEみたいになればいいなと思っていたので、その通りになって感激した」。

宿泊棟の外観は2階部分で残り、周りの緑も保たれた。「卒業生は軽井沢へ行った際に寄ることができる。そこで思い出にある風景と出会えるのはとてもうれしいはず」。

寮の記録をWEBサイトで公開すると卒業生の一人から連絡が入り、敷地内のインターナショナルスクールで教えていることがわかった。建築を介して、時代を隔てた人同士がつながっていく。「建築はその場所の記憶や文化を継承するもの。そこに残して使うことの意義がある」と趙教授は語る。学校の歴史を伝える重要な場としても、軽井沢コモングラウンズは生き続ける。

202606_03_image13.jpg書店棟1階平面図
202606_03_image14.jpg書店棟2階平面図
軽井沢コモングラウンズ(書店棟)
建築データ
旧施設名称 青山学院女子短期大学 中軽井沢寮
構造・階数 S造・一部木造(既存部分)、地上2階建て
敷地面積 4,230.57㎡
建築面積 435.34㎡
延床面積 495.87㎡
設計者 クラインダイサムアーキテクツ(建築)、TECTONICA/東京藝術大学 金田充弘(構造)、建築エネルギー研究所(設備)、FDS(照明)、Studio Kyoryu(ランドスケープ)
施工者 笹沢建設(建築)、中部精機(電気・機械)
竣工 2023年3月
利用案内
所在地 長野県北佐久郡軽井沢町長倉 鳥井原1690-1
交通案内 しなの鉄道「中軽井沢」駅から徒歩15分、北陸新幹線「軽井沢駅」から車で12分
電話 0267-46-8590
公式サイト https://store.tsite.jp/karuizawa-cg/

磯 達雄(いそ たつお)

埼玉県東松山市生まれ。名古屋大学工学部建築学科卒。オフィス・ブンガ共同主宰。桑沢デザイン研究所、武蔵野美術大学、早稲田大学芸術学校非常勤講師。日経BP社『日経アーキテクチュア』編集部を経て、2000年に独立。建築ジャーナリストとして、建築専門誌や一般誌に建築の記事を執筆する。著書に『昭和モダン建築巡礼西日本編』『昭和モダン建築巡礼東日本編』『ポストモダン建築巡礼』(宮沢洋との共著、日経BP社)、『ぼくらが夢見た未来都市』(五十嵐太郎との共著、PHP研究所)、『日本のブルータリズム』(山田新治郎との共著、トゥーヴァージンズ)など。

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