用途を変えて活かすコンバージョン建築の成功事例(2)
減築で持続可能な快適空間を実現「テラス沼田」

用途を変えて活かすコンバージョン建築の成功事例(2)減築で持続可能な快適空間を実現「テラス沼田」

「テラス沼田」の全景。3~5階には沼田市役所が入っている

スクラップアンドビルドからストックの活用へと変わっていく社会情勢を踏まえて、当初の建築用途から、まったく別の使い道に変えてしまう「コンバージョン」に注目するこのシリーズ記事で2回目に取り上げるのは、街の中心部に位置する大規模商業施設を、市庁舎を含む複合施設に転用した事例だ。バブル期に建てられた巨大な建物からテナントが撤退して空き店舗になっている事例は、全国各地で悩みのタネとなっている。ここで有効な手法になったのは、既存の床を取り去る「減築」という手法だった。

202601_05_image02.jpg本町通り商店街に面して建ち、向かいの立体駐車場と公共歩廊でつながる(改修後)
202601_05_image03.jpg改修前は商業施設「グリーンベル21」だった(写真提供:プランツアソシエイツ)

Ⅰ.中心市街地の大型商業施設が空き家状態に

群馬県北部の沼田市は、利根川とその支流によって形成された河岸段丘の上に、真田氏の城下町として発展した都市だ。その中心部にある大型商業施設を大規模に改修し、複合施設に転用したのがテラス沼田だ。建物は地上7階建てで、3階から5階が沼田市役所になっているほか、1階に防災広場やカフェ、2階に歴史資料館やコミュニティFM局、6階には市民活動センターや子ども広場が入っている。また7階には商工会議所、トレーニングプラザが入っている。

元の建物はグリーンベル21という名称で、1993年にオープンした。場所は本町通り商店街の西端に位置する。利根沼田の商業の中心地として発展してきたが、郊外に大型店舗が進出するにつれて衰退の傾向にあった。再び盛り上げるべく、商店街の両端に核施設を配置してその間の人の往来を活発にしようという「2核1モール構想」が立てられ、その一翼を担う拠点商業施設がグリーンベル21だった。都市再開発法に基づく市街地再開発事業として、立体駐車場とともに建設されている。再開発全体の事業費は約108億円(うち建築工事が約71億円)に及ぶ。バブル経済の流れを汲んだ大規模プロジェクトであった。

オープン当初は賑わったものの、キーテナントであったサティが2002年に撤退。代わりにスーパーマーケットなどが入って営業するが、何度かのテナントの入れ替わりを経て、2013年にはほぼすべてのテナントが撤退。巨大な建物が、ほぼ空き店舗の状態となる。併せて、投資会社とビル管理会社が管理費をめぐって争いとなり、管理費の不足や固定資産税の滞納も起こっていた。

「問題が山積みとなっていたが、中心市街地の賑わいがなくなるのが何よりも困ったことだった。そのままにしておけば、周りもゴーストタウンになりかねなかった」。当時の状況を振り返って、沼田市資産活用課指導係長の大竹かな枝氏は語る。

Ⅱ.市役所などの公的施設を集約して移転

2014年、市はグリーンベル21と隣接する立体駐車場の土地と建物のすべてを取得する。取得額は5億6531万円だった。しかし、この時点ではどのように活用するのか、方針が決まっていなかった。翌年、市の職員と学識経験者からなる構想委員会が設けられ、建物の現状調査を進めるとともに、利活用の方策が検討された。市民の意見を取り入れるために、説明会やパブリックコメントも実施した。

同じ頃、市にはもうひとつの課題があった。市庁舎の建て替えである。1964年に竣工した本庁舎は老朽化し、バリアフリーや防災拠点としての面からも問題を抱えていた。これを解決するために、取得した建物が使えるのではないか。二つの懸案を一挙に解決する方策だった。

202601_05_image06.jpg移転直後の旧本庁舎外観(2020年2月撮影)

市は市庁舎、市民活動施設、商業・業務施設を組み合わせた、市民に開かれた複合建物として活用するという方針を決定し、2015年に基本設計、16年に実施設計を進める。そして17年から改修工事を行い、2019年3月に竣工。工事費は約51億1310万円だった。公募により名称はテラス沼田に決定、同年5月にリニューアルオープンを果たす。

市役所を改修した建物に移転するにあたっては、本庁舎以外の複数の建物に分散していた機能をひとつに集約することも行なった。同様に、様々な施設に分かれていた市民活動の機能もこれを機会に統合や拡充を行っている。業務の効率化と市民サービスの向上をこの機会に果たそうとの狙いである。公共歩廊で結ばれた既存の図書館と併せて、市の中心部にあるひとつながりの建物で、多目的な活用できるようになった。

「クルマで来て、図書館で本を借りるついでに、子ども広場で子どもを遊ばせたりもできる。便利になったと喜ばれている」(沼田市資産活用課指導係長の大竹かな枝氏)とのこと。市民の評判も上々のようだ。

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202601_05_image08.jpg床を撤去することで生まれた市役所内のアトリウム
202601_05_image09.jpg5階市役所のインナーテラス
202601_05_image04.jpg外側は壁面を内側にずらし、テラスを多く設けている
202601_05_image05.jpg3階の市役所ロビーは上階の床を抜いて吹き抜けにした

Ⅲ.減築がもたらす耐震性の向上と空間の豊かさ

建物の改修に建築家として関わったのが、プランツアソシエイツ代表の宮崎浩氏だった。宮崎氏は構想段階からアドバイザーの立場で建物活用の可否や改修の方針についてについて助言を行い、その後、基本設計、実施設計まで行った。

元の大型商業施設から、市役所を含む公共的な施設へとコンバージョンするにあたって、考えなければならない大きなポイントがあった。それは床面積の問題だ。職員数から算定される庁舎の基準面積は9000㎡程度。それに対して元の商業施設は2万8843㎡もある。他の公共的機能を移して入れ込むにせよ、この建物の床はとうてい使いきれない。それに対して宮崎氏は、減築という方法があることを示す。減築とは、建物の一部を取り去って、規模を縮小することである。

「この規模を維持して使うのが無理なことは明らかだった。床を減らす、と言ったら『そんなことできるの?』という反応だったけれども」(宮崎氏)。

結果として改修により、6分の1の床を減らした(2万8843㎡→2万4066㎡)。これは規模を適正にしてランニングコストを削減するだけでなく、荷重の減少による耐震性の向上にも結びつく。また、天井高を高くしたり、天窓から光を採り入れたりして、快適な空間を内部の各所に生み出すことにもつながった。
例えば中央部の床を抜くことによって生まれた吹き抜けのロビーやアトリウムである。外周部の壁を抜いて屋外デッキも設けた。これにより外観も、無窓の商業施設の閉鎖的な印象から、外に向けて開いた感じにガラリと変わっている。これほど多くのテラスを設けられたのは、減築ならではだ。

「外壁の位置を内側にずらしただけで、新築ではありえないほど豊かなテラス空間を生み出せる。元の建物が純鉄骨造だったので、壁や床は割と自由に抜いたり動かしたりできた」と宮崎氏は言う。

1階には2階の床を取り去って実現した吹き抜け空間がある。災害時には同じフロアに設けた備蓄倉庫と連動して、一時避難用のスペースとして使うことが想定されたものだが、こうした災害拠点を市の中心部にある日常的な施設として持つことができるのも、減築コンバージョンならではのメリットだろう。防災拠点となる施設として、重要度係数(建物の用途によって決められる、地震に対する耐力の割り増し係数)も1.5をクリアしている。

なお構造については、元の建物の構造計算書がなかったために基本設計時に計算書をつくり直し、実施設計時に改修設計に係る計算書を作成して、それぞれ一般社団法人日本建築構造技術者協会の構造レビューを受け、安全を確かめてもらっている。確認申請については、増築や大規模修繕には該当しない計画のため、用途変更の手続きだけである。

202601_05_image10.jpgテラス沼田で採用された減築手法
202601_05_image11.jpg2階の床を撤去して生まれた空間は、災害時に一時避難用スペースとなる防災広場となる
202601_05_image12.jpg吹き抜けに面した2階のコモンテラス

Ⅳ.バブル期に建てられた過大な建物を活かす

全国を見渡せば、中心市街地に建てられた大型商用施設でテナントが撤退し、空き店舗状態で困っているところが他にも多くある。場合によっては、役所などの公共施設にコンバージョンした例もあるのだが、建物が別の機能に合わせて設計されているため、仕方がなく使っている感じがどうしても漂う。しかしテラス沼田のコンバージョンでは、大胆に減築を行うことで、むしろ新築を上回るほどの利便性、快適性が達成されているように見える。

「文化財として認められるような優れた建築ではなくとも、残して使う価値は十分にある。その際には、持続可能な適正規模にすることが大事で、減築という手法が有効となる」と宮崎氏は語る。

人口減少社会に突入している日本で、建物はすでに余っている。特にバブル期までに建てられた施設には、今から思えば過大な規模で建てられたものが少なくない。そうした建物の活かし方として、テラス沼田はひとつの手本となる事例と言えそうだ。

202601_05_image13_1.jpg改修前平面図と改修後平面図(提供:プランツアソシエイツ)
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202601_05_image15.jpg改修前断面図と改修後断面図(提供:プランツアソシエイツ)
テラス沼田
建築データ
旧施設名称 グリーンベル21
構造・階数 S造、地上7階建て
敷地面積 5544.44㎡
建築面積 4304.40㎡
延床面積 2万4066.01㎡
総事業費 約51億1310万円
設計者 宮崎浩/プランツアソシエイツ(建築)、テイ・アンド・エイアソシエイツ(構造)、総合設備計画(設備)
施工者 沼田土建・萬屋建設・角屋工業JV(建築)、関電工・須田電工JV(電気)、反町工業・沼田土建・萬屋建設(機械)
竣工 2019年8月
利用案内
所在地 群馬県沼田市下之町888番地
交通案内 沼田駅からバス、「テラスぬまた市役所前」停留所から徒歩2分
電話 0278-23-2111
公式サイト https://www.city.numata.gunma.jp/shisei/soshiki/1002019.html

磯 達雄(いそ たつお)

埼玉県東松山市生まれ。名古屋大学工学部建築学科卒。オフィス・ブンガ共同主宰。桑沢デザイン研究所、武蔵野美術大学、早稲田大学芸術学校非常勤講師。日経BP社『日経アーキテクチュア』編集部を経て、2000年に独立。建築ジャーナリストとして、建築専門誌や一般誌に建築の記事を執筆する。著書に『昭和モダン建築巡礼西日本編』『昭和モダン建築巡礼東日本編』『ポストモダン建築巡礼』(宮沢洋との共著、日経BP社)、『ぼくらが夢見た未来都市』(五十嵐太郎との共著、PHP研究所)、『日本のブルータリズム』(山田新治郎との共著、トゥーヴァージンズ)など。

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