建築
古民家・町屋リノベーションによる地方創生 第2回 ~伝統建築の新たな息吹~

本レポート第1回では、古民家・町屋リノベーションが地方創生にどのように貢献しているのか、特に、その経済効果、インバウンド誘致への貢献、そして事業を担った企業や地域の取り組みに焦点を当てて、具体的な成功事例を詳細に分析しました。
第2回では、これらの取り組みを進める上で直面する主な障壁、特に建築基準法を中心とした法規制上の課題を明確にし、それを支援する国や自治体の支援施策について整理し、今後持続可能な古民家・町屋リノベーションによる地方創生を強化する施策について述べます。
【サマリー】
- 古民家・町屋リノベーションの実現には、特に建築基準法に起因する複雑な法規制や、多額の資金、所有者問題といった経済的・社会的な障壁が立ちはだかります。これらの課題は、個々の事業者が単独で解決するにはあまりにも大きく、複雑です。
- これらを乗り越えるためには、行政による制度の柔軟な運用と特例措置の拡充、国や自治体による多角的な資金支援、専門家人材の育成とマッチング機能の強化、そして地域全体での協力体制の構築が不可欠です。官民が連携し、地域の歴史的資産を未来に繋ぐという共通認識のもと、それぞれの役割を果たすことが求められます。
- 伝統と革新を融合させたリノベーションを通じて、空き家となった町屋や古民家に新たな息吹を吹き込むことで、持続可能で魅力ある地方の未来を創造していくことが期待されます。これは、単なる建物の再生に留まらず、地域文化の継承、新たなコミュニティの形成、そしてグローバルな観光市場における日本の独自性確立に繋がる、極めて重要な取り組みと言えるでしょう。
- Ⅰ.古民家・町屋リノベーションにおける障壁:特に建築基準法の観点から
- ⅰ.既存不適格建築物への対応
- ⅱ.用途変更時の制限
- ⅲ.接道義務
- ⅳ.集団規定(建ぺい率・容積率)
- ⅴ.その他の課題
- Ⅱ.国や自治体の古民家・町屋リノベーション支援施策
- ⅰ.古民家のリノベーションに使える国や自治体の補助金制度
- ⅱ.小口投資家からの資金調達事例
- ⅲ.地域金融機関と連携した古民家・町屋再生事業への低利融資事例
- Ⅲ.障壁を乗り越え、持続可能な地方創生へ向けて強化すべき施策
- ⅰ.建築基準法の柔軟な運用と特例措置の拡充
- ⅱ.経済的支援策の拡充と多様な資金調達の促進
- ⅲ.マッチング機能と専門家人材育成の強化
- ⅳ.地域住民の巻き込みと観光コンテンツの強化
- Ⅳ.まとめ
Ⅰ.古民家・町屋リノベーションにおける障壁:特に建築基準法の観点から
歴史的価値のある町屋や古民家のリノベーションを進める上で、最も頻繁に、そして大きく立ちはだかるのが建築基準法の様々な規制です。これらの伝統建築は、建築された当時の法令には適合していましたが、現代の厳しい基準、特に耐震基準や防火基準、さらには用途変更に関する規定を満たさない「既存不適格建築物」であることがほとんどです。これにより、リノベーションには多大な時間、費用、そして専門知識が求められます。
ⅰ.既存不適格建築物への対応
多くの町屋や古民家は、現代の耐震基準を満たしていません。大規模な修繕や改築を行う場合、現行の耐震基準への適合が原則義務付けられます。これは、建物の安全性確保のために極めて重要ですが、伝統的な木造軸組工法や土壁といった構造を大きく変更することなく耐震性を確保するには、専門的な技術とコストが必要です。
<対処例>
全国各地で、この課題に対し多様なアプローチが取られています。例えば、伝統的建造物群保存地区に指定されている地域(例:京都の祇園新橋、長野の奈良井宿など)では、建築基準法の特例が適用される場合があります。これにより、歴史的景観を損なわずに耐震補強を行うためのガイドラインが設けられ、伝統的な工法や材料を活かした補強が許容されるケースがあります。また、特定の地域では、文化財保護法に基づく補助金制度が設けられ、専門家による耐震診断や補強工事費の一部を支援することで、所有者の負担を軽減しています。ベンチャー企業の中には、伝統工法を熟知した職人や建築士と連携し、現代の技術を組み合わせた効率的な耐震補強工法を開発している事例もあります。
ⅱ.用途変更時の制限
住宅として建てられた町屋や古民家を、旅館や飲食店、店舗といった異なる用途に転用する用途変更は、リノベーションによる活用において非常に多いケースです。しかし、用途変更を行う際には、新たな用途に応じた建築基準法の規定、特に不特定多数の人が利用することに伴う安全性(避難経路、防火設備など) への適合が求められます。これにより、スプリンクラーの設置、非常階段の増設、排煙設備の設置など、外観や構造に大きな変更を加えざるを得ない場合があり、古民家・町屋本来の雰囲気を損なう懸念が生じます。
<対処例>
この問題に対処するため、多くの自治体では、特定の地域における町屋や古民家を対象に、建築確認申請手続きの簡素化や、用途変更に伴う規制の弾力的な運用を進めています。例えば、京都市では、京町家の改修を促進するため、用途変更時の規制について個別の相談窓口を設けるなど、柔軟な対応を行っています。また、小規模な宿泊施設や飲食店については、防火基準などに関する一定の緩和措置を設けることで、リノベーションを促進している地域もあります。事業者側も、設計段階から行政と密接に連携し、規制緩和の可能性を探りながら、伝統的な意匠と安全性を両立させる工夫を凝らしています。
ⅲ.接道義務
建築基準法第43条で定められている「敷地は幅員4m以上の道路に2m以上接しなければならない」という接道義務は、特に京町家のような間口が狭く奥行きが深い建物や、路地奥に位置する古民家にとって大きな障壁となります。この条件を満たさない物件は、原則として再建築や大規模改修が困難となり、活用の選択肢が限られてしまいます。
<対処例>
接道義務に関しては、特定行政庁(都道府県知事や市長)が建築審査会の同意を得て、避難や通行の安全上支障がないと認めた場合に限り、接道義務の例外として建築を許可する「建築基準法第43条第2項第2号(旧但し書き道路)」の認定を受けるという方法があります。この認定を受けるためには、通路の幅員や構造、周囲の状況などが詳細に審査されます。また、地域によっては、特定空き家対策の一環として、隣接地の所有者との協力により、接道状況を改善するための制度を設けている事例も見られます。
ⅳ.集団規定(建ぺい率・容積率)
過去に増築を重ねた結果、現行の建ぺい率や容積率(敷地面積に対する建築面積や延べ床面積の割合)を超過している町屋や古民家も存在します。この場合、現状より増築したり、大幅な改修をしたりすることが困難になることがあります。
<対処例>
この問題に対しては、既存の建物をそのまま利用し、内部の間取り変更や設備更新を中心としたリノベーションに留めることで対応することが一般的です。また、歴史的建造物としての価値を認める地域では、容積率や建ぺい率の特例を設けることで、既存の建物の活用の幅を広げる試みも行われています。事業者側は、リノベーション計画の初期段階で、現行法規と物件の状況を詳細に調査し、適切な解決策を行政と協議しながら見出すことが重要です。
これらの建築基準法上の障壁は、町屋や古民家のリノベーションを困難にする一方で、各地の行政や事業者が連携し、柔軟な制度運用や技術開発、そして丁寧な合意形成を通じて、克服に向けた努力が続けられています。
ⅴ.その他の課題
- ①経済的課題:
前述の法規制対応による費用増に加え、アスベスト含有建材の処理など、見えないコストが発生するリスク。伝統工法や資材の調達費用も高額になりがちで、昨今の建材費や人件費の上昇により、工事費の上昇リスクも発生。 - ②所有者特定・合意形成の困難さ:
相続が未了であったり、共有者が多数であったりする場合、所有者の特定や全員の同意を得るのに時間がかかり、事業が進まないケース。 - ③専門家不足:
古民家・町屋の構造や伝統工法を理解し、現行法規と両立させる知識を持つ建築士や職人の不足。 - ④地域の理解と協力:
リノベーション計画に対する周辺住民の理解や協力が得られない場合、騒音や景観、地域コミュニティへの影響が懸念される。
Ⅱ.国や自治体の古民家・町屋リノベーション支援施策
ⅰ.古民家のリノベーションに使える国や自治体の補助金制度
(Ⅰ)国の主な補助金制度
国の補助金は、特定の目的達成のために設けられており、全国の古民家リノベーションに活用できる可能性があります。
(1)長期優良住宅化リフォーム推進事業
- * 概要:既存住宅の長寿命化や省エネ化、子育てしやすい環境整備などを支援する事業です。耐震性や省エネ性向上のためのリフォーム工事に対して補助金が支給されます。
- * 古民家リノベーションへの適用:古民家を現代の住宅性能基準に近づけるための耐震補強や断熱改修、バリアフリー化などに活用できます。
- * ポイント:補助対象となる工事内容や性能基準が細かく定められているため、事前の確認が必要です。
(Ⅱ)自治体の主な補助金制度
国だけでなく、各地方自治体(都道府県、市区町村)も古民家リノベーションを支援する独自の補助金制度を設けています。これらは、地域の特性や課題に応じて多種多様です。
(1) 耐震改修補助金
- * 概要:地震対策として、住宅の耐震診断や耐震改修工事にかかる費用の一部を補助する制度です。多くの自治体で提供されています。
- * 古民家リノベーションへの適用:老朽化した古民家は耐震性能が低い場合が多いため、リノベーションと合わせて耐震補強を行う際に非常に有用です。
- * ポイント:補助対象となる工事費の上限や補助率、築年数などの条件が自治体によって異なります。
(2) 空き家改修・活用補助金
- * 概要:空き家の有効活用や定住促進を目的として、空き家の改修費用を補助する制度です。Uターン・Iターン移住者向けの補助金とセットになっていることも多いです。
- * 古民家リノベーションへの適用:まさに古民家をリノベーションして居住したり、地域交流施設として活用したりする際に直接的に利用できます。
- * ポイント:移住者であること、特定の地域に定住することなどの条件が設けられていることが多いです。
(3)景観形成・歴史的建造物保存補助金
- * 概要:歴史的な街並みや景観の保全・形成を目的として、伝統的な建築物の修景や改修費用を補助する制度です。
- * 古民家リノベーションへの適用:特に、重要伝統的建造物群保存地区内や、歴史的な景観地区にある古民家のリノベーションに適しています。外観の修復や伝統的な建材の利用などが対象となることが多いです。
- * ポイント:デザインガイドラインや使用できる材料が細かく指定されている場合があります。
ⅱ.小口投資家からの資金調達事例
古民家や町屋のリノベーションにおいて、クラウドファンディングや不動産特定共同事業を活用して小口資金を集めた事例は、近年増加しています。これらの取り組みは、単なる資金調達にとどまらず、地域活性化やコミュニティ形成にも貢献している点が特徴です。
以下に、具体的な事例をいくつかご紹介します。
(Ⅰ)クラウドファンディングを活用した事例
クラウドファンディングは、不特定多数の人々からインターネットを通じて少額の資金を募る手法で、共感を呼ぶストーリーやリターン設計が成功の鍵となります。
- 京都の山奥の村の古民家再生プロジェクト(Readyfor / CAMPFIREなど):
- * 概要:京都市の山奥にある「大見新村」という、かつては多くの人々が暮らしていたものの、現在はたった一人の住民しかいない限界集落の古民家を改修し、村を再生するプロジェクトです。
- * 資金調達:ReadyforやCAMPFIREといったクラウドファンディングサイトを通じて、複数回にわたり資金を募り、多くの支援者から数百万単位の資金を集めています。
- * 特徴:単なる古民家再生にとどまらず、「村の再生」という壮大なビジョンを掲げ、共感を呼ぶことで多くの個人投資家(支援者)を巻き込みました。支援者には、村での体験や特産品などがリターンとして提供されることもあります。
(Ⅱ)不動産特定共同事業(小口化商品)を活用した事例
不動産特定共同事業は、不動産のプロが運用を担い、投資家は小口で不動産に投資できる仕組みで、特に相続対策や安定的な収益を求める投資家に選ばれることがあります。
- 大和郡山まちづくり町家ファンド(ハロー!RENOVATION):
- * 概要:奈良県大和郡山市にある長年空き家だった町家を、貸切りサウナ付きの店舗複合施設にリノベーションするプロジェクトです。地域住民の日常の楽しみとなり、訪れた人が地域の人や文化に触れる「いつも来たくなるまち」を目指しています。
- * 資金調達:不動産特定共同事業に基づく投資型クラウドファンディングとして、「ハロー!RENOVATION」で募集が行われました。
- * 特徴:地域に根ざしたまちづくりを目的としており、単なる収益性だけでなく、地域貢献という側面も重視されています。小規模不動産特定共同事業の枠組みを活用し、地域の不動産事業者等が主体となって取り組む事例です。
ⅲ.地域金融機関と連携した古民家・町屋再生事業への低利融資事例
町屋や古民家の再生事業において、地域に根差した金融機関の協力は資金調達の重要な鍵となります。これらの金融機関は、地域の特性や価値を理解しているため、一般の金融機関では難しいとされる古民家への融資にも柔軟な姿勢を見せることがあります。ここでは、地域金融機関との連携によって低利融資が実現した、または融資が促進された事例とそのポイントをご紹介します。
(Ⅰ)京都信用金庫「京町家維持・継承支援融資」
京都は言わずと知れた町家の宝庫であり、その保存・活用は京都市の重要な課題です。京都信用金庫は、京町家の再生に取り組む事業者や個人を積極的に支援しています。
<概要>
京町家の取得や改修、耐震補強などにかかる費用を対象とした独自の融資制度を提供しています。単なる担保評価だけでなく、京町家が持つ文化的・歴史的価値や、再生後の地域貢献度なども加味して審査が行われる点が特徴で、低利での融資が可能です。
<連携のポイント>
地域密着型金融機関の特性:京都信用金庫は、京都市内の地域経済や文化に深く根ざしており、京町家が持つ固有の価値を理解しています。この理解が、一般的な不動産担保評価だけでは判断しにくい京町家への融資を可能にしています。
(Ⅱ)但馬信用金庫「たじまの古民家再生ローン」(兵庫県但馬地域)
兵庫県但馬地域は、豊かな自然と古民家が残る地域であり、移住促進や観光振興の観点から古民家再生が注目されています。
<概要>
但馬信用金庫は、但馬地域への移住・定住を促進するため、古民家の購入や改修費用を対象とした「たじまの古民家再生ローン」を提供しています。一般的な住宅ローンよりも低金利で利用できることが特徴です。
- <連携のポイント>
- * 移住・定住支援策との連動:但馬信用金庫は、地域全体の活性化を目指し、自治体の移住支援制度や空き家バンク制度などと連携しています。これにより、移住希望者が古民家を見つけてから改修・居住するまでの一連のプロセスを資金面からサポートしています。
- * 地域貢献への意識:地域金融機関として、単に融資案件を増やすだけでなく、地域人口の維持・増加、地域経済の活性化という視点から、古民家再生事業を応援しています。
地域金融機関は、地域経済の活性化を重要な使命としており、古民家再生事業はその使命に合致する取り組みです。積極的に相談し、連携を深めることで、資金調達の可能性を広げることができるでしょう。

Ⅲ.障壁を乗り越え、持続可能な地方創生へ向けて強化すべき施策
古民家・町屋リノベーションが持つ地方創生とインバウンド誘致への大きな可能性を最大限に引き出すためには、前述の様々な障壁、特に建築基準法に関する課題を克服することが不可欠です。ここでは、その解決に向けた具体的な提言を行います。
ⅰ.建築基準法の柔軟な運用と特例措置の拡充
現状の建築基準法は、新築を前提とした合理的な設計基準である一方で、歴史的建造物の再生には適合しない側面も持ち合わせています。このため、以下の施策が求められます。
「歴史的建築物の保存・活用に関する特例制度」の適用拡大と要件緩和
現行法規への画一的な適合を求めるのではなく、歴史的・文化的価値を持つ建築物に対し、安全性を確保しつつも柔軟な設計や用途変更を認める特例制度を全国的に広げ、その適用要件を緩和するべきです。例えば、京都の京町家条例のように、地域の特性に応じた独自の条例を整備し、防災性能評価に基づく性能設計などを積極的に取り入れることで、伝統工法を活かした耐震補強や防火対策を可能にします。
用途変更時の規制緩和と手続きの簡素化
住宅から旅館や店舗への用途変更の際、過度な設備投資や構造変更を求めず、代替措置や既存の安全性を考慮した柔軟な判断基準を設けるべきです。また、行政機関におけるワンストップ窓口の設置や、専門家(建築士等)と連携した事前相談制度の強化により、手続きの複雑さを解消し、事業者の負担を軽減します。
地域の景観条例や地区計画との連携強化
自治体レベルで、歴史的街並みを保全・活用するための景観条例や地区計画を策定し、建築基準法と連携させることで、地域一体となったリノベーションの推進を図ります。これにより、単体建築物の改修だけでなく、地域全体の魅力向上へと繋げることが可能です。
ⅱ.経済的支援策の拡充と多様な資金調達の促進
リノベーションにかかる費用は高額になりがちであり、特に伝統建築の改修には特殊な技術や材料が必要となるため、経済的支援が不可欠です。
古民家リノベーションに特化した補助金・助成金制度の創設・拡充
国や自治体による補助金制度をさらに充実させ、特に耐震改修、省エネ改修、用途変更に伴う費用など、初期投資の負担が大きい部分に重点的に支援を行います。また、文化財的価値の高い建築物の保存・活用への支援も強化すべきです。
低利融資制度の整備と金融機関との連携強化
リノベーション事業を対象とした低利融資制度を整備し、地域金融機関が積極的に古民家再生事業に融資できるよう、リスク評価基準の緩和や融資支援策を講じるべきです。
多様な資金調達手法の導入支援
クラウドファンディングや不動産特定共同事業法(SPC活用など)といった、個人投資家や企業からの小口資金を集める仕組み導入の支援策を広げます。これにより、大規模な投資家だけでなく、地域住民や古民家ファンも事業に参画しやすくなります。
ⅲ.マッチング機能と専門家人材育成の強化
空き家所有者とリノベーションを希望する事業者や利用者を結びつけ、円滑な事業実施を可能にするための機能強化と、専門知識を持つ人材の育成が急務です。
「古民家バンク」の機能強化と情報の一元化
全国各地に点在する空き家情報を一元的に集約し、リノベーションに適した古民家・町屋の物件情報、成功事例、リノベーションのノウハウ、専門家情報などを包括的に提供するプラットフォームを構築すべきです。物件情報の質と量を高め、オンラインでの検索・相談機能を充実させます。
伝統建築の知識を持つ専門家人材の育成
古民家・町屋の構造や伝統工法、歴史的価値を理解し、現行法規と両立させる知識を持つ建築士、設計士、施工管理者、職人といった専門家を育成するプログラムを強化します。大学や専門学校、地域の職人団体と連携した教育機会の提供が重要です。
ⅳ.地域住民の巻き込みと観光コンテンツの強化
リノベーションされた古民家・町屋が地域に根差し、持続可能な形で活用されるためには、地域住民の理解と協力が不可欠であり、その魅力を最大限に引き出す観光コンテンツの創出が重要です。
リノベーション計画への住民参画の促進
計画段階から住民説明会やワークショップを開催し、地域住民の意見を積極的に取り入れることで、リノベーションに対する理解と協力を促進します。これにより、改修後の施設が地域に受け入れられ、活性化の拠点となる可能性が高まります。
地域独自の体験型観光コンテンツの開発
リノベーションされた施設を核として、その地域の歴史、文化、自然、食といった地域資源を活かした体験型プログラム(例:伝統工芸体験、地域食材を使った料理体験、農林漁業体験など)を開発・提供します。これにより、観光客の滞在期間を延ばし、地域内での消費を促します。
多言語対応とデジタルマーケティングの強化
訪日外国人観光客を積極的に誘致するため、多言語対応のウェブサイトやパンフレットの作成、SNSや海外の旅行情報サイトを活用した効果的なデジタルマーケティングを展開します。バーチャルツアーやオンラインでの予約システムを導入し、アクセス性を高めることも重要です。
Ⅳ.まとめ
古民家のリノベーションは、日本の地方が持つ多様な歴史・文化的な魅力を現代に蘇らせ、地方創生とインバウンド誘致の強力な原動力となり得るものです。本レポートで分析した成功事例が示すように、古建築が持つ唯一無二の価値は、訪日外国人観光客に特別な体験を提供し、地域経済に大きな恩恵をもたらしています。彼らは単なる宿泊施設を求めるのではなく、その土地ならではの文化、歴史、そして人との交流を求めており、古民家・町屋はそのニーズにまさに合致しています。
しかし、その実現には、特に建築基準法に起因する複雑な法規制や、多額の資金、所有者問題といった経済的・社会的な障壁が立ちはだかります。これらの課題は、個々の事業者が単独で解決するにはあまりにも大きく、複雑です。
これらを乗り越えるためには、行政による制度の柔軟な運用と特例措置の拡充、国や自治体による多角的な資金支援、専門家人材の育成とマッチング機能の強化、そして地域全体での協力体制の構築が不可欠です。官民が連携し、地域の歴史的資産を未来に繋ぐという共通認識のもと、それぞれの役割を果たすことが求められます。
伝統と革新を融合させたリノベーションを通じて、空き家となった町屋や古民家に新たな息吹を吹き込むことで、持続可能で魅力ある地方の未来を創造していくことが期待されます。これは、単なる建物の再生に留まらず、地域文化の継承、新たなコミュニティの形成、そしてグローバルな観光市場における日本の独自性確立に繋がる、極めて重要な取り組みと言えるでしょう。

提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部
リサーチ課 米川 誠
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