BaaS(Banking as a Service)の実像と事業展望

BaaS(Banking as a Service)の実像と事業展望

近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速や金融規制緩和を背景に、金融サービスのあり方が根本から変化しています。その中で急速に注目を集めているのが、銀行の金融機能をAPI経由で非金融企業へ提供する「BaaS(Banking as a Service)」です。本形態は「Embedded Finance(組込型金融)」とも呼ばれ、ECや不動産、交通など多様なサービスへ決済や融資などの金融機能が溶け込む「金融の見えない化」を可能にしています。これにより顧客体験の刷新や事業者の顧客囲い込み、銀行の収益源多様化という新たな価値創造が生み出されています。
本レポートでは、BaaSの仕組みや従来型銀行との違いを整理した上で、導入メリット、国内の具体的取組事例、リスクや課題を多角的に分析し、今後の展望を明らかにします。


【サマリー】

  • ● BaaS(Banking as a Service)は、銀行がAPIを通じて金融機能を非金融企業に提供し、自社サービスへの組み込み(Embedded Finance/組込型金融)を可能にする仕組みです。
  • ● 利用者は銀行を意識せず、シームレスな購買・金融体験を享受できます。事業者は自社経済圏の構築や顧客LTV(生涯合計価値)の向上、新たな収益源の創出が可能となり、銀行も低コストでの顧客開拓と収益の多様化が図れる「三方良し」の構造を持ちます。
  • ● 国内では航空・不動産・鉄道・電力・小売など異業種との提携が拡大する一方、セキュリティ・責任分界・システム障害リスクが課題です。今後は組込型金融の深化、参入業種の多様化、規制・ガバナンスの高度化が進み、デジタル経済の重要インフラとして発展が期待されます。

Ⅰ.BaaS(Banking as a Service)の概要と仕組み

ⅰ.BaaSとは何か

BaaS(Banking as a Service)とは、銀行が保有する預金、送金、決済、融資、本人確認(KYC)などの金融機能をAPI(Application Programming Interface)を通じて外部企業へ提供するサービス形態です。従来、金融サービスは銀行自身が店舗やインターネットバンキングを通じて顧客へ提供するものでした。しかし近年では、銀行は金融機能そのものを「部品」として外部企業へ提供し、その企業が自社ブランドのサービスとして金融機能を利用するケースが急速に増加しています。
この考え方は「Embedded Finance(組込型金融)」とも呼ばれ、金融サービスが銀行の専売特許ではなく、ECサイト、通信会社、小売業、交通事業者、不動産会社など様々な業種へ組み込まれる時代を象徴しています。
例えばECサイトでは商品の購入時にその場でローン審査を受けることができ、航空会社ではポイントと銀行口座が一体化したサービスを提供できます。また、不動産会社では住宅購入時のローン申込や家賃決済を自社サービス内で完結させることも可能となります。
つまりBaaSとは、「銀行を利用する」のではなく、「銀行機能をサービスの一部として利用する」ためのインフラなのです。

ⅱ.従来型銀行モデルとの違い

従来の銀行は、自ら店舗網を整備し、ATMを設置し、インターネットバンキングやスマートフォンアプリを提供することで顧客との直接的な接点を持っていました。銀行ブランドそのものが顧客との信頼関係を形成し、預金・融資・決済などを一括して提供する「垂直統合型」のビジネスモデルでした。
一方、BaaSでは銀行は金融インフラを提供する裏方として機能します。顧客が日常的に利用するアプリやサービスは、銀行ではなく提携企業が運営している場合が一般的です。そのため利用者は銀行を意識することなく金融サービスを利用できます。
例えば通信会社が提供するスマートフォンアプリから銀行口座を開設した場合、利用者は通信会社のサービスを利用している感覚ですが、実際には銀行のライセンスや勘定系システムが裏側で稼働しています。
このようにBaaSでは「ブランド」と「銀行機能」が分離される点が最大の特徴です(図表1)。

【図表1】 従来型銀行とBaaSの比較
項目 従来型銀行 BaaS
顧客接点 銀行店舗・銀行アプリ 非金融企業のサービス
ブランド 銀行ブランド 企業ブランド
銀行の役割 金融サービス提供 金融インフラ提供
収益源 金利・手数料 API利用料・システム提供料・手数料
サービス開発 銀行主体 企業主体

BaaSでは銀行は黒子となり、企業が顧客体験(UX)の設計を担います。この役割分担が従来の銀行との大きな違いです。
図表2は従来の銀行サービスとBaaSを活用した金融サービスを比較したものです。従来の金融サービスと異なり、BaaSの登場により、金融サービスとIT技術を組み合わせて、さまざまな業種の企業が自社のサービスに金融機能を組み込めるようになっていることがわかります。

【図表2】 BaaSの仕組み
202609_02_image01.jpg出所:BillOneウェブサイト「BaaSとは?銀行API連携の仕組みとビジネス活用の具体例をわかりやすく解説

ⅲ.APIが果たす役割

BaaSを支える中核技術がAPIです。API(Application Programming Interface)とは、異なるシステム同士が安全かつ効率的にデータや機能をやり取りするための仕組みです。
従来、銀行システムは外部との接続を前提としておらず、金融機関ごとに独立したシステムで運用されていました。そのため新しいサービスを開発するには個別開発が必要であり、多大な時間とコストを要していました。
APIを利用することで、企業は銀行機能を比較的容易に自社サービスへ組み込めるようになりました。
例えば、

  • ● 口座開設
  • ● 残高照会
  • ● 振込
  • ● 入出金通知
  • ● デビットカード発行
  • ● ローン申込
  • ● 本人確認

などの機能を必要な部分だけ利用できます。

APIには次のようなメリットがあります。

  • ● システム開発期間の短縮
  • ● 開発コストの削減
  • ● サービスの迅速な提供
  • ● 他社サービスとの連携拡大
  • ● セキュリティ管理の標準化

この結果、新しい金融サービスを短期間で市場へ投入できるようになりました。

ⅳ.BaaSがもたらす金融サービスの変化

BaaSの普及により、金融サービスは「銀行へ行くもの」から「日常生活に自然に組み込まれるもの」へと変化しています。
例えば、ネットショッピングでは決済や分割払いが購入画面内で完結し、ライドシェアやフードデリバリーでは報酬が即時に銀行口座へ反映されます。また、不動産分野では物件検索、住宅ローン審査、契約、決済までを一つのアプリ上で提供するサービスも登場し始めています。
このような金融サービスの「見えない化(Invisible Banking)」は、利用者にとって利便性を高めるだけでなく、企業にとっても顧客との接点を強化し、新たな収益機会を生み出す重要な要素となっています。
一方で、金融サービスがさまざまな業界へ浸透することで、銀行は単独で顧客を囲い込む時代から、多様な企業との連携を通じて価値を提供する時代へ移行しています。BaaSは単なるIT技術ではなく、金融業界のビジネスモデルそのものを変革する基盤であり、今後のデジタル経済を支える重要な社会インフラとして、さらなる役割拡大が期待されます。

Ⅱ.BaaS導入のメリット

BaaS(Banking as a Service)の普及が急速に進んでいる背景には、単なるコスト削減やシステム効率化を超えた、「顧客(エンドユーザー)」「事業者(非金融企業)」「銀行(金融機関)」の3者それぞれに対する価値創出(三方良し構造)が存在します。本章では、BaaS導入がもたらす主要なメリットをこれら3つの視点から詳細に解説します。

ⅰ.顧客(エンドユーザー)側のメリット

エンドユーザーにとっての最大のメリットは、金融手続きに起因する「摩擦(フリクション)の消失」です。
従来、非金融サービス利用時(ECでの購入、不動産契約、自動車購入など)に金融機能(融資や口座振替など)が必要な場合、銀行窓口の訪問、別アプリの起動、口座情報の再入力や確認手続きなど、購買体験が頻繁に中断されていました。BaaSを利用することで、顧客はそのような摩擦から解放されるという大きなメリットを得ることができます。

【図表3】 顧客におけるBaaS導入のメリットと影響
メリット項目 具体的内容とビジネスインパクト
画面遷移のないシームレスな購買・決済体験 BaaSを活用した「Embedded Finance(組込型金融)」により、使い慣れた非金融アプリやWebサービスから離れることなく、口座開設、決済、後払い(BNPL)、さらには各種ローンや保険の加入までが一括で完結します。離脱なくストレスフリーな体験が実現します。
パーソナライズされた金融サービスの提供 事業者が保有する購買履歴や利用データと連携することで、エンドユーザーは自身の利用状況に最適化された金融機能の提案(例:最適な分割払いオプション、即時ポイント還元、関連保険の自動提示など)を最適なタイミングで受けることができます。

ⅱ.事業者(非金融機関)側のメリット

自社ブランドと顧客チャネルを持つ事業者(非金融機関)にとって、BaaS導入は単なる「決済手段の追加」ではなく、ビジネスモデルを「金融一体型」へ進化させる高度な成長戦略を意味します。

【図表4】 事業者(非金融機関)におけるBaaS導入のメリットと影響
メリット項目 具体的内容とビジネスインパクト
CVR(購入率)・LTV(生涯合計価値)の向上 特にECサイトにおいて、決済時の障害(離脱)を排除することでカゴ落ち率(注1)を改善。独自金融ブランド(「NEOBANK」等)を提供することで日常的な接触頻度が高まり、顧客ロイヤリティとLTVが大幅向上。
自社経済圏の確立 自社ブランドのウォレットや金融口座を導入し、自社ポイントシステムと連動させることで、他社サービスへの顧客流出を強力に防止。
新たな金融収益の確立 決済手数料の一部還元、預金残高や融資実行に伴うインセンティブの受領など、本業以外の収益ピラー(柱)を構築可能。
購買×金融データの統合分析 「何を買ったか(購買データ)」に加え「資金状況や支払い方法(金融データ)」を縦断的に把握可能となり、高精度なマーケティングや自社独自の与信モデル構築が可能。
参入コスト・期間の劇的低減 自前で銀行ライセンスの取得や大規模システム開発を行う場合、数百億円の投資と数年の歳月を要しますが、BaaS(API接続)により低コストかつ短期間で金融事業へ参入可能。
参入ハードル・リスク負担の軽減 自ら免許(銀行業ライセンス)を取得する必要がなく「銀行代理業」等の位置付けで参入できるため、契約にもよりますが、許認可取得の難易度や膨大なシステム投資を大幅に回避できます。また、預金保護などの基本的責任の所在は所属銀行(提携銀行)側にあるため、事業者は自社の強みである顧客接点の提供・マーケティングに専念できます。

1 商品を買い物カゴ(カート)に入れたものの、購入手続きを完了せずに離脱してしまった割合

ⅲ.銀行(金融機関)側のメリット

伝統的な銀行は、店舗維持コストの上昇や若年層の銀行離れといった課題に直面しています。BaaS提供は、銀行にとっても自社モデルを再定義する大きなチャンスです。

【図表5】 銀行(金融機関)におけるBaaS導入のメリットと影響
メリット項目 具体的内容とビジネスインパクト
圧倒的な低コストでの顧客獲得 自社で多額の広告宣伝費や店舗維持費を投じることなく、提携先である非金融企業の強固な顧客基盤を通じて、効率的に預金口座の獲得や決済量の増大を実現できます。
手数料収入・API利用料による収益多様化 伝統的な「貸出利ざや」依存のビジネスモデルから脱却し、BaaS基盤の利用料(プラットフォーム利用料、API呼び出し課金)や、提携先での取引に伴う手数料という安定したストック型収益を獲得できます。
自社チャネルではアプローチできない顧客層へのリーチ Z世代やデジタルネイティブ層、あるいは特定プラットフォーム(不動産・流通・航空等)のコアユーザーなど、既存の銀行窓口や自社アプリでは接点を持ちにくかったセグメントへ効率的にアプローチできます。

Ⅲ.具体的な国内の事例と新たな潮流

日本国内におけるBaaS市場は、ネオバンク型サービスや金融APIの開放を皮切りに急成長を遂げています。特にドコモSMTBネット銀行が展開する「NEOBANK」プラットフォームや、デジタル専業銀行である「みんなの銀行」のBaaS提供モデルは、異業種の大手プレイヤーとの強力なシナジーを生み出しています。本章では、代表的な国内提携事例と、それぞれの事例における顧客・事業者側の具体的メリットを分析します。

ⅰ.国内における主要BaaS提携事例の一覧分析

以下の図表6は、国内で展開されている主要なBaaS提携事例を業界別に整理したものです。従来の銀行チャネルでは網羅できなかった多様な顧客層に対し、事業者のブランドを前面に出した金融サービスが組み込まれていることが分かります。

【図表6】 国内の主要BaaS提携事例一覧
事業者・ブランド 提供元銀行 サービス名称 提供金融機能 組み込みの目的・本業連携
日本航空(JAL) ドコモSMTB ネット銀行 JAL NEOBANK 預金、外貨預金、決済、マイル連携 預金残高や外貨取引等に応じてJALマイルを付与し、旅行・航空利用へ送客。
野村不動産ソリューションズ ドコモSMTB ネット銀行 ノムコム NEOBANK 住宅ローン、事前審査・契約、決済 仲介マイページ上で住宅ローン手続きを完結させ、売買契約から資金決済・引渡しまでをDX化。
平和堂 三菱UFJ銀行 HOPBANK 預金、振込、決済、HOPポイント連携 「HOPカード(ポイント)」と金融口座を連動させ、地域住民の生活インフラとして「HOP経済圏」を強固化。
JR東日本 楽天銀行 JRE BANK 預金、振込、住宅ローン、JRE POINT連携 銀行取引に応じた新幹線優遇割引券やJRE POINTの付与により、「鉄道・沿線経済圏」を強力に拡張。
JR西日本 りそなHD(関西みらい銀行) WESTERポータル 預金、振込、決済、WESTERポイント WESTERアプリと連携し、西日本エリアでの移動・購買データと金融取引を統合して地域経済圏を強化。
近鉄GHD 三菱UFJ銀行 近鉄 KIPS BANK(仮称) 預金、決済、KIPSポイント 沿線住民・観光客向けにKIPSポイントと連携したデジタル口座を提供し、広大な近鉄沿線経済圏を深耕。2027年3月開始予定。

ⅱ.業界別・代表的事例の深掘りとメリット構造

(Ⅰ)事例1:【航空×金融】JAL NEOBANK(日本航空 × ドコモSMTBネット銀行)

JAL Pay(アプリ)のバックエンドとしてドコモ SMTBネット銀行のBaaS基盤を活用。円預金や外貨預金の預入、口座振替などの日常的な銀行取引に応じてJALマイルが貯まる仕組みを構築。

  • ● 顧客(エンドユーザー)側のメリット:
    • ・ マイル獲得機会の極大化:飛行機搭乗時だけでなく、日々の銀行取引や外貨両替で自動的にマイルが貯まる。
    • ・ シームレスな外貨活用:海外旅行時にアプリ上で外貨預金から即時チャージ・決済が可能(為替手数料の低減)。
  • ● 事業者(JAL)側のメリット:
    • ・ 非航空収益の拡大:搭乗頻度の低い顧客とも日常的な金融取引を通じて接点を維持。
    • ・ ロイヤリティ強化:マイルを軸とした強力な顧客囲い込み(JAL経済圏の確立)を実現。

(Ⅱ)事例2:【不動産×金融】ノムコム NEOBANK(野村不動産ソリューションズ × ドコモSMTBネット銀行)

不動産流通(仲介)の「ノムコム」などを展開する当社におけるBaaS/金融API活用。不動産売買検討者・顧客に対し、住宅ローンの仮審査・本審査手続き、決済・お引越し後の口座振替機能までをマイページ上でシームレスに完結させる連携モデル。

  • ● 顧客(エンドユーザー)側のメリット:
    • ・ ワンストップな資金計画・ローン手続き:物件探しから住宅ローンの条件比較・事前審査申込まで、同一プラットフォーム上でストレスなく完了。
    • ・ 手続負担と待ち時間の削減:金融機関の窓口訪問や紙の書類のやり取りを最小化し、契約からお引越し・資金決済までをオンラインで迅速化。
  • ● 事業者(当社)側のメリット:
    • ・ 媒介・成約プロセスの劇的スピード化:住宅ローン審査・承認プロセスのリアルタイム共有により、売買契約から引き渡しまでの期間を大幅に短縮。
    • ・ LTV(生涯合計価値)向上・グループ内クロスセル:売却・購入後の資産管理、仲介顧客との長期的な接点維持およびリフォーム・資産運用等の次なる需要の早期捕捉。

(Ⅲ)事例3:【鉄道×金融】JRE BANK(JR東日本 × 楽天銀行)

JR東日本グループが楽天銀行のBaaS基盤を活用して開始したサービス。預金・振込・住宅ローンなどの利用状況に応じて、JRE POINTの付与や「4割引となるJR東日本優遇割引券」などの鉄道・沿線特典を提供。

  • ● 顧客(エンドユーザー)側のメリット:
    • ・ 日常生活での圧倒的実利還元:資産運用や口座利用に応じ、新幹線等の割引券やJRE POINTが自動的に貯まる。
    • ・ Suica・駅利用との密接な連携:日常の通勤・通学や駅ビルでの買い物と金融口座がシームレスに直結。
  • ● 事業者(JR東日本)側のメリット:
    • ・ 「JRE POINT経済圏」の強固化:鉄道利用から金融取引まで生活インフラを自社経済圏へ集約し、顧客の囲い込みを完全達成。
    • ・ 巨大なデータ基盤の構築:「移動・交通データ × 購買データ × 金融データ」の統合により、駅ビル・沿線開発や個客マーケティングを高度化。

国内で成功を収めているBaaS提携事例に共通するのは、単に「銀行機能を提供する」ことにとどまらず、各社が持つ固有のインセンティブ(マイル、買い物ポイントなど)と金融サービスを極めて密接に不可分な形であらかじめ結びつけている点です。これにより、ユーザーにとって「そのサービス上で金融口座を使う明確な理由」が生み出されています。

ⅲ.最近の更なるBaaSの加速、新たな潮流

(Ⅰ)鉄道・沿線グループにおけるBaaS活用の急加速

BaaSを活かした独自経済圏の構築は、ここ1〜2か月(注:本稿執筆は2026年8月)で特に大手鉄道グループを中心に一気に加速を見せています。鉄道事業者が持つ圧倒的な沿線住民・通勤客の移動データおよびグループ施設(駅ビル・百貨店・スーパー等)の購買データに金融口座を直結させることで、地域密着型の巨大な「生活・沿線エコシステム」を確立しようとする動きが相次いで発表されています。一部、先述した事例も再掲します。

  • ● 阪急阪神ホールディングス × 池田泉州銀行:関西の有力私鉄グループと地域密着型地銀が組み、沿線住民の日常決済やポイント還元、生活金融サービスをシームレスに統合。
  • ● JR西日本 × 関西みらい銀行(りそなグループ):グループ共通の「WESTERポイント」と銀行機能を連動させ、西日本エリア全体を網羅する移動・生活・金融の統合ポータルを展開。
  • ● 近鉄グループホールディングス × 三菱UFJ銀行:広大な鉄道網と多彩な事業群を擁する私鉄最大手がメガバンクのBaaS基盤を採用し、「KIPSポイント」を軸としたデジタル口座を展開予定(2027年3月開始予定)。

(Ⅱ)BaaS参入主体の多角化と参入ハードルの低下(新たな潮流)

これまでBaaSの提供・活用は、ネット専業銀行や大手IT・流通プレイヤーが中心でした。しかし、足元では金融インフラの提供側(BaaS提供主体)および受け手側(非金融事業者)の双方向で新しい波が生まれています。

  • ● ATMネットワークを基軸としたセブン銀行の参入:全国に圧倒的な高密度店舗・ATM網を持つセブン銀行が自社インフラをAPI開放し、BaaS事業者として本格参入。従来のネット完結型とは異なり、「現金チャージ・出金拠点(リアルなATM網)」という強力な物理インフラと統合されたBaaSプラットフォームという新たな選択肢を提供しています。
  • ● 身近な非金融事業者(コンビニ等)の参入容易化:ファミリーマートをはじめとする身近な生活インフラ企業が、既存のアプリ会員基盤や店舗チャネルを活かして、より手軽に「銀行代理業者」として参入できる環境が整いつつあります。これにより、日常生活のあらゆる接点(レジ、コンビニアプリ等)に金融サービスが溶け込む「金融の日常化・生活インフラ化」がさらに一歩進むと見込まれます。

Ⅳ.BaaSの課題とリスク

BaaSの普及は、非金融企業のサービス拡充や銀行の新たな収益機会創出という大きなメリットをもたらす一方で、金融エコシステム全体の構造を複雑化させ、新たな課題やリスクを生み出しています。金融機能がサービスの中に不可視化(インビジブル化)されるからこそ、リスク管理の精度向上と明確なガバナンス体制の構築が不可欠となります。本章では、BaaS導入・運用における主要な課題とリスクを解説します。

ⅰ.セキュリティとコンプライアンス上のリスク

BaaSモデルでは、顧客接点を非金融事業者が担い、バックエンドの金融ライセンスと決済・預金処理を銀行が担うという「役割分担」が行われます。しかし、この分業構造こそがセキュリティやコンプライアンスにおける課題を引き起こしやすくします。

(Ⅰ)マネーロンダリングおよびテロ資金供与対策の課題

金融犯罪防止のための本人確認や疑わしい取引のモニタリングにおいて、事業者側の顧客獲得プロセスと銀行側のリスク管理システムの連携にギャップが生じるリスクがあります。事業者が顧客獲得を優先するあまり本人確認の手続きを簡略化したり、異変の検知・通知が銀行へ遅延したりすると、マネーロンダリングや不正利用の抜け穴となるリスクが顕在化してしまう可能性があります。

(Ⅱ)不正アクセス・フィッシング詐欺への対応責任

事業者のアプリやWebサイトがサイバー攻撃を受け、顧客のログイン情報や取引データが漏洩した場合に備え、補償対応や顧客説明をどちらの主体がどこまで担うかという責任所在の明確化が必要です。ブランドを前面に出す非金融事業者と、裏側で口座を管理する銀行との間で補償協定やガイドラインが不十分な場合、レピュテーションリスク(評判被害)が相互に波及します。

ⅱ.銀行代理業の行政処分に伴う本業への波及リスク

BaaSを活用して自社ブランドの金融サービスを提供する非金融事業者の多くは、金融庁(および財務局)から「銀行代理業」などの許可・登録を受けて事業を展開しています(注2)
銀行代理業は金融庁の直接的な監督・規制対象となるため、仮に本人確認(KYC)の不備、誤認を招く不適切な勧誘・表示、あるいは個人情報管理の重大な欠陥などが発覚した場合、金融庁から業務改善命令や業務停止命令といった厳しい行政処分を受けるリスクが存在します。
万が一、金融庁からの行政処分や許認可の取り消し等が発生した場合、提供している金融サービスが停止するだけでなく、事業者(企業)全体の社会的信用が大きく失墜し、主たる本業(不動産事業、EC・流通事業、交通インフラ事業など)の営業・事業継続にまで甚大な悪影響が及ぶリスクを孕んでいます。


2 BaaS利用時に自社ブランド口座の提供や住宅ローン等の直接媒介を行う場合は「銀行代理業(許可)」が必要となる。しかし、API経由で決済指示や残高参照を行うのみなら「電子決済等代行業者(登録)」、独自Payへのチャージ・送金機能なら「資金移動業者(登録)」など、別ライセンスで展開できる。さらに、銀行の申込画面へ誘導する単純送客に徹する場合はライセンスは不要である。

ⅲ.システム障害時における影響範囲の拡大リスク

BaaS環境では、複数のサービス(事業者のWeb/アプリ、APIゲートウェイ、中継ミドルウェア、銀行の勘定系システム)が密に連携して動作しています。この相互依存性の高さが、システム障害時のリスクを増大させます。
構成要素が多層化しているため、障害発生時に「どのレイヤー(事業者のアプリ、API、銀行のサーバー等)に原因があるのか」の一次切り分けに時間を要する傾向があります。また、BaaS提供銀行側のシステムで大規模障害が発生した場合、その銀行のAPIを利用する多数の非金融事業者のサービスが一斉に停止し、広範囲な社会インフラ障害へと発展するリスクを孕んでいます。

Ⅴ.今後の展望

ⅰ.Embedded Finance(組込型金融)のさらなる深化

BaaSの普及に伴い、今後は「Embedded Finance(組込型金融)」のコンセプトが本格的に定着・深化していくと考えられます。これまで利用者は、決済や融資などの金融サービスを利用する際、銀行の店舗や専用Webサイト・アプリへアクセスする必要がありました。しかしBaaS基盤の拡大により、ECサイト、不動産ポータル、モビリティアプリ、SNSなど、消費者が日常的に利用する非金融サービスの中に金融機能がシームレスに組み込まれていく可能性が非常に高まりました。
これにより、利用者は「銀行を意識することなく」、サービスの購買や利用のプロセスの中でごく自然に決済や分割払い、付帯保険の加入などを完結できるようになるケースが多くなると見込まれます。あらゆる顧客接点において「金融の黒子化」が進み、顧客体験の利便性が飛躍的に向上することが予想されます。

ⅱ.異業種参戦の多様化とエコシステムの拡大

従来の金融インフラの活用は一部の大手流通やIT企業に限られていましたが、今後はBaaSの導入プラットフォームが整うことで参入障壁が下がり、中堅企業や不動産、運輸、小売など、より多岐にわたる業界へと参入の裾野が広がっていくと予想されます。各事業者は自社の顧客基盤やブランド力を背景に、独自の「ネオバンク(デジタル特化型金融サービス)」を構築することが可能となります。
単なる決済手段の提供にとどまらず、購買データや行動データと結びついたポイントプログラム、会員特典、パーソナライズされた金融商品を一体化させることで、独自の経済圏(エコシステム)を形成・拡大する動きが加速します。これにより、産業全体の顧客囲い込み策やマーケティング構造が大きく変化していくと見込まれます。

ⅲ.規制・ガバナンス体制の高度化と標準化

BaaS市場が拡大し、非金融事業者を通じた金融機能の提供が一般化するにつれて、セキュリティとガバナンスの確保が最大の課題となります。特に、不正アクセス、口座の不正利用、マネーロンダリング対策、さらにはシステム障害発生時における消費者保護と責任の所在(銀行と事業者間の責任分界点)の明確化が強く求められます。
今後は、金融当局による監視の強化に対応する形で、API連携におけるセキュリティ基準の標準化やガイドラインの策定が進むと考えられます。また、BaaSを提供する銀行側とそれを受ける事業者側との間で、リアルタイムの不正検知システムの共有や、高度なコンプライアンス監視体制を共同で構築・運用する動きが必然的に高まっていくでしょう。

Ⅵ.まとめ

BaaS(Banking as a Service)は、銀行がAPIを通じて金融機能を非金融企業に提供し、自社サービスへの組み込み(組込型金融)を可能にする仕組みです。利用者は銀行を意識せず、シームレスな購買・金融体験を享受できます。事業者は自社経済圏の構築や顧客LTV(生涯合計価値)の向上、新たな収益源の創出が可能となり、銀行も低コストでの顧客開拓と収益の多様化が図れる「三方良し」の構造を持ちます。国内では航空・不動産・鉄道・電力・小売など異業種との提携が拡大する一方、セキュリティ・責任分界・システム障害リスクが課題です。今後は組込型金融の深化、参入業種の多様化、規制・ガバナンスの高度化が進み、デジタル経済の重要インフラとして発展が期待されます。

提供:リサーチ・コンサルティング部 リサーチ課

米川 誠:日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)

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