【Special Report】企業価値を高めるCRE戦略

【Special Report】企業価値を高めるCRE戦略

日経リアルエステートサミット2026 イベントReport

企業価値を高めるCRE戦略


社会構造や企業経営を取り巻く環境が大きく変わる中、CRE(企業不動産)は社会的価値の創出や企業価値向上を左右する重要な経営資源となりつつある。企業は今後、どのような不動産戦略を描くべきか。2月4、5日に開催された「日経リアルエステートサミット」1日目では、野村不動産ソリューションズが慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の岸博幸氏を迎え、企業価値向上の観点から企業不動産戦略の将来像について議論を交わした。

特別講演 日本経済の分岐点

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慶応義塾大学大学院
メディアデザイン研究科 教授
岸 博幸氏

不動産の有効活用で付加価値を創出

企業にとって、CRE戦略が極めて重要になっている。政府は責任ある積極財政を掲げ、17戦略分野への投資を打ち出しているが、日本経済の成長を実現するにはそれだけでは不十分だ。

日本経済の競争力が低下した背景には、生産性の低下がある。あらゆる分野で企業が生産性向上に取り組むことで、日本経済成長の道筋が描ける。生産性はインプットに対するアウトプットで捉えられるため、アウトプットを拡大するには、ビジネスの拡大やイノベーションに加え、企業が保有する不動産をどう活用していくかが重要になる。

2022年以降、日本はデフレからインフレの局面に移った。デフレ下では、なるべくお金を使わず、動かないことが合理的だった。一方で現在は、動かないことがリスクになり得る。企業は現預金を投資や賃上げに使うだけでなく、不動産を活用し、インフレ率を上回る付加価値を創出することが求められる。

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企業の資産活用が成長の起点に

さらに、企業を取り巻く環境には大きな構造変化が起きている。環境問題への対応、人口減少による人手不足、そして急速に浸透するAI(人工知能)の活用により、働き方そのものが変わりつつある。

こうした構造変化に対応する形で、企業が保有する不動産を生かし、企業の魅力や価値を高めることが重要になる。世界共通で、若い世代は快適に働ける環境を重視している。そうした期待に応えるとともに、イノベーションの源泉となる創造性を引き出すオフィスの在り方を考えなければならない。

企業がCRE戦略に明確な問題意識を持ち、不動産を賢く活用していくことが、日本経済の持続的成長につながる。

パネルディスカッション 企業不動産戦略の新潮流~企業価値向上の処方箋とは~

脱・自前主義、人的資本、GXが軸

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【パネリスト】
野村不動産ソリューションズ
常務執行役員 リサーチ・コンサルティング部担当
原田 真治氏

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【パネリスト】
慶応義塾大学大学院
メディアデザイン研究科
教授
岸 博幸氏

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【モデレーター】
キャスター
榎戸 教子氏

人口減少と環境問題を背景に提言

榎戸 企業価値向上における企業戦略のポイントは。

原田 企業価値の向上には、財務情報の充実だけでなく、非財務情報の強化が鍵となる。そのための具体的な処方箋として、①脱・自前主義、②人的資本経営の視点、③積極的なGX(グリーントランスフォーメーション)視点――の3つが挙げられる。

 非財務情報への取り組みは非常に重要だ。実際、積極的に取り組んでいる企業では社内の空気感が良く、新しい発想や前向きな行動が生まれやすい。

榎戸 その3つの処方箋に至った背景は。

原田 背景にあるのは、人口減少と、気候変動をはじめとする環境問題という社会構造の変化だ。日本は地形的な特徴から、他の先進国と比べて災害損失が大きい。さらに建築費が高騰し、2010年ごろと比べて工事費は2倍を超え、企業の事業計画にも影響が出ている。加えて生成AIの進展により定型業務の自動化が進み、オフィスは固定的な場所ではなく、機動的に使いこなす場へと進化している。

 特に大きいのはAIだ。組織の在り方も根本から見直す必要があり、多様な働き方に対応した組織デザインが求められている。

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資産を見直し成長投資に再分配

榎戸 処方箋の1つ目、脱・自前主義とは。

原田 企業保有不動産を国際比較すると、日本企業は欧米企業に比べて不動産の保有比率が高い。一方でPBR(株価純資産倍率)改善など、資本の有効活用に対する市場の目は厳しい。CRE戦略の観点で鍵となるのが、本社を含めた資産の見直しだ。外部リソースの活用を視野に入れ、アウトソースへシフトし、資金を成長投資に再分配することが脱・自前主義の核心である。私たちの調査では、建築費の高騰により企業の事業計画に幅広く影響が出ていて、一部では、保有から賃借へ切り替える動きも見られる。将来のオフィス利用形態でも賃借が増えるとする回答が保有を上回り、賃借へのシフトがうかがえる。

 日本企業は内部留保が多く、不動産の保有比率も高い。これを有効活用し投資に振り向けるのは当然だ。グローバル競争が激化する中、早く動かなければ競争優位は築けない。

榎戸 2つ目の人的資本経営の視点とは。

原田 執務環境では、コミュニケーション空間やリフレッシュスペース、環境性能を重視する企業が増えている。人材確保・定着にはウェルビーイングな場の提供が重要だ。AIの進化などで働き方が変わる中、オフィスではセットアップオフィスの活用などにより機動性を高めることが有効だ。研究開発では都市型ラボビルの活用も選択肢となる。

 これからは、この視点が最も重要になる。優秀な人材に長く働いてもらうにはウェルビーイングが欠かせない。ただし、自社だけで完結させようとせず、外部のプロの知見や経験を取り入れることが重要だ。

榎戸 3つ目のGX視点の重要性は。

原田 電力需要が今後も増えることが見込まれる中、気候変動対策は企業評価にも直結する。GXは事業継続と競争力の中核であり、CRE戦略の設計段階から織り込む必要がある。再生可能エネルギーの活用に加え、建築・解体時の二酸化炭素(CO2)まで考慮するエンボディードカーボンの視点や、建物のリニューアル・コンバージョンなども活用しての再利用も重要だ。欧州では導入が進んでおり、日本でも具体化していくだろう。環境認証ビルに賃借で入居することも有効な打ち手となる。

 米国でも州レベルでGX対応が進んでいる。電力需要が増える中、日本が強みとする省エネ技術は大きな武器になる。

202604_02_image05.jpg(写真左から)榎戸氏・岸氏・原田氏

CRE戦略活用の好機が到来

榎戸 建築費高騰への対策は。

原田 人手不足対策として建設DX(デジタルトランスフォーメーション)が鍵になる。コンクリートの工法はこの100年ほとんど変わっていない。3Dプリンターや建設ロボットの普及に向け、規制緩和や官民連携が重要だ。

榎戸 3つの処方箋を実践した具体例は。

原田 ある電子計測機器メーカーでは、私たちが伴走しながら3つの処方箋を同時に実行した。旧本社ビルを売却して賃借に切り替え、その資金を本業の成長投資に充てた。新本社は多様な働き方に対応したオフィスとし、新設の技術開発施設は太陽光発電で電力を賄う。

榎戸 CRE戦略の進め方は。

原田 ステップ1が連結ベースでの資産の棚卸し、ステップ2が資産選別と検証、ステップ3が最適手法の選択と実行、ステップ4が効果検証とレビューだ。

 この4つのステップは企業再生のアプローチと通じるところがあり、CRE戦略の重要性がよく分かる。

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最後に一言

原田 社内で分散しているCRE情報を連結ベースで棚卸しすることが第一歩だ。ノンコア資産は外部リソースの活用も選択肢に入れて見直し、売却資金を成長投資に再分配していくことが重要である。

 40年周期でボトムとピークを繰り返す日本経済40年周期説がある。1945年から40年後の85年がバブルのピークで、そこから低迷局面に入り、次の節目が2025年だ。この考え方に立てば、今後は上昇局面に向かう可能性があり、CRE戦略を活用する好機にある。

※本記事は2026年3月26日(木)付 日本経済新聞朝刊掲載 広告特集を再構成したものです

NIKKEI Real Estate Summit 2026

主催:日本経済新聞社
協賛:野村不動産ソリューションズ株式会社 法人営業本部

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