
「権利証が見当たらない。これで土地や家の権利を失ってしまうのでは」と不安になっていませんか。権利証(登記済権利証・登記識別情報通知)を紛失しても、不動産の所有権などの権利が失われることはありません[出典3]。
困るのは次に登記を申請するときで、本人確認の方法を別に用意する必要が出てきます。この記事では、権利証の役割と登記簿との違いから、紛失時に選べる3つの代替手続き、盗難時の備え、売却の場面で必要になる書類と登記の流れまでをご案内します。
この記事の要点
- 権利証を紛失しても不動産の所有権や登記上の権利関係は失われず、代替手続きを使えば売却も可能です
- 権利証・登記識別情報は理由を問わず再発行・再通知されません
- 紛失時は資格者代理人の本人確認情報・公証人認証・事前通知制度の3つで代替できます
- 盗難時は不正登記防止申出(申出から3か月以内)や登記識別情報の失効申出で備えられます
- 売却時は権利証のほか実印・印鑑証明書・本人確認書類が必要で、登記は司法書士が代行するのが一般的です
1. 権利証とは?その役割と重要性
権利証(登記識別情報通知または登記済権利証。以下、総称して「登記識別情報通知等」といいます)とは、不動産の所有者本人であることを証明するために法務局から交付される書類の通称です。現在はこの役割を「登記識別情報」という12桁の符号が担っています。
1-1.権利証の定義
現在は、不動産を購入して登記が完了すると、法務局から買主などの登記名義人へ「登記識別情報通知(登記済証)」が交付されます。
登記識別情報とは、不動産と登記名義人ごとに定められる12桁の英数字を組み合わせた符号です。平成17年(2005年)の不動産登記法改正以前は、紙の権利証が交付されていましたが、オンライン申請への対応が難しかったため、電子的な本人確認手段である登記識別情報に移行しました。[出典1]
1-2.権利証の用途
登記識別情報通知等は、不動産を売却して買主へ名義を移す「所有権移転登記」や、ローン等で自宅を担保に入れる「抵当権設定登記」など、登記申請において、登記名義人本人からの申請であることを確認するための資料として利用されます。[出典1]
1-3.登記簿との違い
登記識別情報通知等と混同されやすいものに「登記簿」があります。両者はまったく別の役割を持つ書類です。
登記識別情報通知等は所有者本人が保管し、自分が名義人であることを証明するための書類です。対して登記簿は、土地の所在や面積、所有者情報などを法務局が管理する公的な記録で、誰でも登記事項証明書として交付を請求できます[出典2]。登記識別情報通知等は「所有者だけに交付される書類」、登記簿は「誰でも見られる台帳」というイメージで捉えると、違いが整理しやすくなります。
2. 権利証を紛失した場合の対策
権利証(登記識別情報通知等)をなくしても不動産の所有権そのものは失われず、登記の場面では代わりの本人確認を使えば手続きを進められます。
2-1.紛失時の影響
登記識別情報通知等を紛失しても、不動産の所有権などの権利や登記記録上の権利関係が失われることはありません[出典3]。
登記の際には登記識別情報通知等のほかに所有者の印鑑証明書等も必要になるため、紛失しただけで直ちに不正な登記がされることは通常ありません[出典1]。ただし、紛失した登記識別情報通知等は再発行されません。その後の登記申請では、資格者代理人の本人確認情報の提供、公証人による本人確認、事前通知制度、という3つの代替手段で本人確認を行います[出典5]。
2-2.資格者代理人による本人確認
司法書士や弁護士などの資格者代理人が、法務局の登記官に対して本人確認情報を提供する方法もあります。登記官がその内容を適正と認めれば、事前通知を省略して登記を進められます[出典1]。実務上は、司法書士に運転免許証などの身分証明書を提示し、面談によって本人確認を行ったうえで書面を作成してもらう流れが一般的です。
不動産の売買仲介を通じた取引では、一般的にこの方法が利用されています。事前通知のように相手からの返送を待つ必要がなく、手続きのスピードを保ちやすいのが利点です。費用は資格者代理人への報酬として発生しますが、決済日が決まっている取引においては現実的な選択となります。
2-3.公証人による本人確認
もう一つの方法として、公証人による本人確認があります。公証人は、裁判官や検察官、弁護士などの法律実務経験者の中から法務大臣が任命する公務員で、公証役場で職務にあたっています。印鑑証明書や実印、本人確認書類を持参して公証役場へ直接出向き、登記申請の委任状などに署名・押印したうえで、その内容の真正性について認証を受ける流れです。資格者代理人への依頼に比べると、自分で公証役場に足を運ぶ手間はかかります。それでも、選択肢の一つとして知っておくと安心です。
2-4.事前通知制度の利用
事前通知制度は、登記識別情報を提供できない場合に法務局が用意している制度です。所有権移転登記などの申請後、法務局から登記簿上の名義人本人へ本人限定受取郵便等で通知が送られます。
内容に誤りがなければ、原則として発送日から2週間以内に法務局へ申し出ることで、本人確認が完了します[出典3]。費用はかかりません。ただし通知の発送と返送を経てから手続きが進むため、登記の完了までに時間がかかります。
不動産の売買では、買主が代金を支払った当日に所有権移転登記を申請するのが原則です。事前通知制度では登記申請後に本人確認が行われるため、決済日に登記を完了させることができません。そのため、決済日当日の所有権移転登記が求められる一般的な売買では利用しにくい制度とされています。
3. 権利証が盗まれた場合のリスクと対策
権利証(登記識別情報通知等)だけが盗まれても不正登記がすぐに実行される可能性は低いものの、心配な場合は不正登記防止申出や登記識別情報の失効申出を行うことができます。
3-1.悪用のリスク
登記識別情報通知等を紛失したときと盗まれたときとでは、心配の種類が少し異なります。
誰かに拾われたり盗み見られたりしても、登記識別情報通知等だけでただちに不正な登記がされる可能性は低いとされています。登記の申請には登記識別情報通知等に加えて、所有者の実印や印鑑証明書などの添付情報が必要になるためです[出典3]。
とはいえ、絶対に安全とは限りません。実印や印鑑登録証まで一緒に紛失・盗難に遭った場合は話が変わります。速やかに市区町村役場へ連絡して印鑑登録の廃止や改印手続きを行い、警察へ届け出を出してください。さらに、不正な登記がされる差し迫った危険がある場合には、法務局へ「不正登記防止申出」を行うことで権利を防衛する制度も用意されています[出典3]。
3-2.不正登記防止申出の方法
「盗まれたかもしれない」という場合に使えるのが、不正登記防止申出制度です。
不正な登記がされる危険がある場合に、申出から3か月以内の不正な登記を防止するための制度とされています[出典3]。この期間内に実際に登記申請があった場合は、申出人にその旨が通知されます[出典3]。
手続きは、申出人本人が登記所へ出頭するのが原則です。ただし、出頭できないやむを得ない事情があると認められる場合には、代理人による出頭も認められています。体調や遠方居住などの事情があれば、代理人に任せる道も残されています。
この申出は、あくまで不正登記の危険を法務局に警戒してもらうための制度です。申出をした瞬間に権利の移転等の登記を一律に禁止するものではありません。心配な状況にあるときは、早めに管轄の法務局へ相談し、申出の要否を確認してください。
3-3.登記識別情報の失効申出
紙の権利証ではなく、現在発行されている登記識別情報(12桁の符号)を紛失・盗み見られた場合には、「失効の申出」という手段があります。登記官への失効申出により、登記識別情報自体を失効させ、以後の登記申請で使用できないようにする仕組みで、登記名義人本人のほか相続人などの一般承継人も手続を行えます[出典1]。
登記・供託オンライン申請システムでは、この失効申出をオンラインで行うための申請書様式が用意されています。手数料は発生しませんが、オンライン申請の場合は電子署名が必須です。窓口申請の場合は、管轄の登記所へ申出書を提出します。
注意したいのは、失効させると自分自身もその登記識別情報を使えなくなる点です。
失効後に売却などで登記申請をする際は、事前通知や資格者代理人による本人確認情報の提供といった代替手段を利用することになります。危ないからと消すだけで終わらせず、その後の手続き方法までセットで考えておくことが必要です。なお、紙の権利証・登記識別情報のいずれも、紛失や盗難を理由に再発行・再通知されることは一切ありません[出典1]。
4. 不動産売却時に必要な手続きと権利証の役割
不動産の売却では権利証(登記識別情報通知等)に加えて印鑑証明書や本人確認書類が必要になり、実際の登記手続きは司法書士に依頼するのが一般的です。
4-1.権利証以外に必要な書類
先述の通り、不動産を売却する際、登記識別情報通知等だけ用意すれば手続きが済むわけではありません。所有権移転登記の申請には、登記識別情報通知等に加えて本人確認書類や所有者の印鑑証明書などの添付情報も求められます[出典3]。
売買契約の締結時と、残代金決済・引渡し時の2つの場面で書類のやり取りが発生します。事前にどの書類がいつ必要になるか、依頼する司法書士や仲介会社に確認しておくと当日慌てずに済みます。
4-2.所有権移転登記の流れ
売買によって所有者が変わる際には「所有権移転登記」を行います。買主が登記権利者、売主が登記義務者となり、共同で法務局へ申請するのが原則です[出典5]。実務では、残代金決済が完了したその場で司法書士が必要書類を確認し、法務局へ登記を申請する流れが一般的です。
登記の際にかかる登録免許税は、登記の種類によって税率が異なります。所有権移転登記のような権利に関する登記は、原則として書面申請とオンライン申請のいずれかの方法で手続きを行います[出典4]。登記識別情報を提供できない場合には、前の章で紹介した事前通知や資格者代理人による本人確認情報の提供制度を使うことになります。
なお、相続で取得した不動産を売却する場合は、その前提として相続登記が済んでいる必要があります。売却を考えている不動産が被相続人名義のままになっていないかこの機会に確認しておきましょう。
4-3.抵当権抹消登記の手続き
住宅ローンなどの返済が残っている不動産を売却する場合は、所有権移転登記とあわせて「抵当権抹消登記」が必要になるケースがほとんどです。抵当権とは、住宅ローンなどの借り入れの際に金融機関が土地や建物に設定する担保権を指します。ローンを完済した時点で自動的に消えるわけではありません。別途抹消の登記をしなければ登記簿上に残り続けます。
抵当権抹消登記を司法書士に依頼する場合の報酬額や、金融機関から交付される書類の内容は、依頼先や登記の状況によって異なります。住宅ローンを利用している金融機関または仲介会社に確認しておくと安心です。売却代金でローンを完済するケースでは、残代金決済・引渡し当日に司法書士が抵当権抹消と所有権移転の両方の登記をまとめて申請する形が一般的です。この場合、登記識別情報通知等と合わせて金融機関から交付される抹消関係書類も必要になります。
5. 権利証の管理方法と注意点
権利証(登記識別情報通知等)は再発行できない書類だからこそ、他の重要書類とは分けて、家族も所在を把握できる形で保管しておくことが紛失防止の近道です。
5-1.権利証の適切な保管方法
登記識別情報通知等は不動産の権利に関わる書類ですが、日常的に持ち歩いたり頻繁に開封したりするものではありません。だからこそ、書類の山に紛れ込ませたりすると、いざというときに所在が分からなくなりがちです。
耐火性のある金庫や、貸金庫のような自宅外の保管場所を利用している方もいます。ただ何より大切なのは「決まった場所に置く」というルールを家族内で共有しておくことです。登記識別情報通知等を頻繁に見返す機会は少ないため、保管場所を家族の一人しか知らない状態にしておくと、その方がすぐに対応できない事情が生じた際に、家族が探し出せなくなる恐れがあります。
5-2.紛失を防ぐためのポイント
登記識別情報通知等の紛失が起こりやすいのは、普段目にする機会がほとんどないためです。複数の不動産を所有している方や、長年同じ家に住んでいて登記識別情報通知等の存在自体を忘れていた方が、いざ売却しようとしたときに見つからず慌ててしまうケースは珍しくありません。
保管場所を決めて家族と共有しておくと、いざというときに探す手間が省けます。金庫や貸金庫のほか、他の重要書類とまとめて一か所に保管する方法もあります。
5-3.権利証の再発行はできない
ここまで繰り返し触れてきたとおり、登記識別情報通知等は、紛失や盗難を理由に再発行・再通知されることは一切ありません[出典1]。「なくしたらもう一度もらえばいい」という発想が通用しない書類である点は、他の身分証明書などとの大きな違いといえます。
だからこそ、日頃の保管の丁寧さが最終的な安心につながります。万が一なくしてしまった場合でも代替手段は用意されていますが、選ぶ方法によっては追加の時間や費用がかかります。売却のタイミングで慌てないよう、登記識別情報通知等は「なくしたら困る書類」としてきちんと定位置を決めておきましょう。
6. まとめ
権利証(登記識別情報通知等)は、登記を申請する際の本人確認手段として重要な役割を持つ書類です。紛失しても所有権そのものが失われるわけではありませんが、再発行されないため、売却や名義変更の際には代替手続きが必要になり、追加の時間や費用が発生します。
相続した実家の売却を考えている方や、住み替え・借り換えで抵当権の手続きが控えている方には、動き出す前に確認しておくことをおすすめします。
登記識別情報通知等が見つからない、何から始めればよいか分からない、といった段階でのご相談でも構いません。売却の予定がまだ固まっていなくても、状況をお伺いしたうえで進め方を整理いたしますので、お気軽にお問い合わせください。
7. よくある疑問
権利証は登記完了時に一度だけ交付される書類です。ここでは、いつどこで交付されるのか、紛失した場合に住宅ローンはどうなるのか、司法書士に預けても問題ないのかといった、よく寄せられる疑問にお答えします。
権利証はいつ・どこで発行されるのか?
権利証(登記識別情報通知等)は、不動産の登記が完了したタイミングで、法務局から登記名義人へ交付・通知されます[出典1]。新築でマイホームを購入したときも、中古物件を購入して所有権移転登記をしたときも、「登記が完了した際」に一度だけ発行される書類だという点は共通しています。
平成17年(2005年)3月7日の不動産登記法改正より前に登記が完了した不動産であれば紙の登記済証、それ以降であれば登記識別情報という形式になります[出典1]。同じ人が複数の不動産を所有している場合、取得時期によって紙の権利証と登記識別情報通知が混在しているケースも珍しくありません。
また、共有名義の場合は、共有者が登記識別情報を保管している可能性もあります。手元に見当たらない場合は、共有者や登記手続きを依頼した司法書士に確認してみましょう。
権利証がない場合の住宅ローンの扱い
登記識別情報通知等がない状態でも、住宅ローンの借り換えや新規借り入れそのものができなくなるわけではありません。抵当権を設定するための登記申請の場面では、前の章までに紹介した事前通知制度や、資格者代理人による本人確認情報の提供といった代替手段を使えます。これらを利用すれば、登記識別情報通知等がなくても手続きを進められます。
ただし、代替手段を使う場合は通常より手続きに時間がかかります。決済日が決まっている借り換えではスケジュールに影響が出ることもあるため、登記識別情報通知等が見当たらないと気づいた時点で、早めに金融機関の担当者や依頼予定の司法書士へ相談しておくと安心です。
司法書士に権利証を預けることのリスク
不動産の売買や抵当権設定の決済当日には、司法書士に登記識別情報通知等を預け、その場で登記申請の準備を進めてもらうのが一般的な流れです。「大切な書類を他人に預けて大丈夫なのか」と、不安に思う方もいらっしゃるかもしれません。
司法書士は国家資格に基づいて登記手続きの代理を行う専門職です。預かった書類は決済の場で登記申請のためだけに使用され、手続き後に返却されます。とはいえ、預ける相手が信頼できる司法書士かどうかを見極めることは大切なポイントです。仲介会社を通じた取引であれば、仲介会社が提携している司法書士が担当することが多く、身元の分からない相手に単独で預けるような場面は基本的に生じません。心配な場合は、決済前に司法書士の資格や所属事務所を確認しておくと、より安心して手続きを任せられるでしょう。
8. 出典
[出典1] 新不動産登記法Q&A
[出典2]法務省:不動産登記のABC
[出典3] 松山地方法務局:不動産登記に関するよくある質問
[出典4] 不動産登記の申請書様式について:法務局
[出典5] 不動産登記法 | e-Gov 法令検索
※ 掲載内容は執筆時点の情報です。最新情報は各自治体・関係機関の公式ホームページをご確認ください。

株式会社あゆみリアルティーサービス 代表取締役
三菱UFJ信託銀行にて、富裕層向け不動産コンサルティングやファイナンス業務などに17年間従事。2009年に株式会社あゆみリアルティーサービスを設立。宅地建物取引士、1級FP技能士、公認不動産コンサルティングマスターなどの資格を有し、現在は不動産相続・投資コンサルティングや空き家再生事業、不動産売買仲介などを幅広く手掛ける。ビルオーナー、地主・設計会社・不動産会社との顧問契約も多数。金融と不動産の実務を融合させた、実用性の高い提案を得意とする。経営学修士(MBA:早稲田大学大学院)、現在、早稲田大学大学院博士課程に在籍中。
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