

マンションを購入するとき、多くの人がまず気にするのは立地や価格、広さ、築年数などでしょう。もちろん、"暮らしやすい間取り"であることも大切な条件のひとつです。
購入時には長く住むつもりでも、転勤や住みかえ、親の介護、子どもの独立などをきっかけに、将来売却を考える可能性は誰にでもあります。そんなときに意識しておきたいのが、今の暮らしやすさだけでなく、万が一、将来売ることになったときにも不利になりにくい間取りかどうかという視点です。
将来売る可能性も視野に入れてマンションを選ぶときに、間取りのどこを見ておきたいか、どんな点に注意したいかを整理します。
住まいは、まず自分が心地よく暮らすためのものです。ですから、「今の暮らしに合っているか」を大切にするのは当然です。一方で、長く住むつもりでも、仕事の都合や家族構成の変化によって、住みかえや売却が必要になることは珍しくありません。
そう考えると、間取りを見るときには、今の自分たちに合うかだけでなく、将来、住む人が変わっても無理なく使えるか、という視点も持っておきたいところです。
マンションでは、キッチンや浴室などの設備そのものは交換できても、部屋の配置や広さ、窓の位置、水まわりの配置は簡単には変えられません。だからこそ、将来売却する可能性があるなら、「今の満足度」だけで決めるのではなく、暮らし方が変わっても使いやすいか、次の住まい手にも受け入れられやすいかを見ておくことが大切です。
住まいは、毎日の生活を受け止める"器"でもあります。今の暮らしやすさを大切にしながら、将来住むことになる人にとっても使いやすい間取りであることの両方を意識しておくことが、将来売却することになったときにも困りにくい間取り選びにつながります。
たとえば、夫婦2人暮らしを前提にリビングを広くし、個室を減らしすぎた間取りはどうでしょうか。自分たちにとって快適でも、次に住む人が子ども部屋や在宅勤務スペースを必要としていたら、購入の選択肢から外されてしまう可能性があります。
同じ専有面積でも、「部屋数を確保するか」「LDKの広さを優先するか」によって、間取りの特徴は大きく変わります。次の2つは、いずれも専有面積約66m2の間取り例です。

【図1】では、3LDKで個室数を確保する代わりにLDKが約13.5帖となっています。
■この間取りの良いところ
洋室(1)~洋室(3)まで3つの個室を確保しており、家族構成の変化に対応しやすく、3~4人家族も検討しやすくなるため、将来購入を検討する人の幅が広がります。ウォークインクローゼット(以下WIC)があり、内部の寸法や棚の形によっては、季節の寝具などのかさばるものも収納できそうです。
■この間取りの注意点
個室数を確保した分、LDKは13.5帖とやや狭めです。キッチンとその横の通路部分を除くとリビング・ダイニングの広さは正味8帖弱となります。ダイニングセットとリビングセットの両方を置くのは厳しいかもしれません。もしどちらも置きたい場合は、それぞれの大きさを十分検討し、かつ、置いた後に人が通る空間が取れるか、確認が必要です。
リビング横の洋室は5帖の広さがありますが、収納がないため、子ども部屋などとして使う場合は、机、ベッドのほかにタンスなどの収納家具をうまく配置できるかどうか確認しておきたいところです。

【図2】は、2LDKのため、LDKが約18.5帖とゆとりの広さを確保しています。
■この間取りの良いところ
洋室(1)、洋室(2)の2つの個室がLDKから入る形式で廊下が少なく、居住部分に面積を配分できています。そのためLDKが18.5帖あり、食事やくつろぎの空間にゆとりがあります。洋室(1)は6.5帖の広さとWICがあり、主寝室として使い勝手がよさそうです。
夫婦2人暮らしや、在宅勤務用の1室が必要な世帯には使いやすい間取りでしょう。玄関付近を含め、収納が複数配置されている点も評価されるポイントです。
■この間取りの注意点
2つの個室がどちらもリビングインで、家族間の音やプライバシーが気になりやすい間取りです。4.3帖の部屋は、ベッドや机を置いたときの使い方を具体的に確かめる必要があります。
また、将来、子どもが増えたり、独立した仕事部屋が必要になったりすると、2室では不足する可能性があります。3LDKを求めるファミリー層からは購入候補から外される可能性があるため、売却時の対象がやや限定されることもあるでしょう。
以上のように、同じ専有面積でも、個室数が異なる3LDKと2LDKでは、将来購入を検討する人の層に違いが出るでしょう。どちらがよいとは一概にいえませんが、現在の暮らしに合うかだけでなく、将来住む人や使い方が変わった場合にも対応しやすいかを考えて選ぶことが大切です。
間取り図には家具が書かれていないため、図面上ではその部屋は広く見えるかもしれません。また、新築マンションのモデルルームでは家具が置いてありますが、部屋を広く見せるため、一般的な家具より小さい家具が置いてあることもあります。大切なのは、実際に使う家具を置いた後も無理なく生活できるかどうかです。
間取りを見るときは、部屋数はもちろん大切な要素ですが、それだけでなく、それぞれの個室が無理なく使えるか、用途を変えやすいかも確認しておきたいところです。
たとえば、細長い、または狭すぎて家具配置が難しい部屋、窓やドアの位置の関係でベッドや机を置きにくい部屋、リビングを通って出入りする個室などは、暮らし方によって評価が分かれやすい部分です。

具体的に「窓」に着目すると、「掃き出し窓」なのか「腰窓」なのかで家具の配置のしやすさが違います(【図3】参照)。
例えば、床まである掃き出し窓は一見明るくて良さそうですが、実は窓のすぐ手前に家具を置きにくくなります。一方、腰の高さから上に設置された腰窓であればすぐ手前にベッドや机を置くことができます。このように、窓の縦方向の大きさは、間取り図からは分からない注意ポイントです。
間取り図からは一見問題ないように見えても、実は家具が置きにくくて用途が限られる部屋は、住む人が変わったときに「使いにくい」と感じるかもしれません。特定のライフスタイルにぴったり合わせるよりも、家族構成や暮らし方が変わっても使い方を調整しやすい間取りの方が、結果として売却時に購入を検討する人の選択肢を狭めにくくなります。
部屋数や個室の配置に加えて、将来の売却しやすさを考えるうえで重視したいのが「後から変えにくい条件」です。
中古マンションを選ぶときは、キッチンや浴室の新しさ、内装の状態など、目に見えて分かりやすい部分に意識が向きがちです。もちろん設備の状態も大切ですが、将来の売りやすさまで考えるなら、より重視したいのは後から変えにくい条件です。
収納や動線、採光、通風といった要素は、今の暮らしやすさを左右するだけでなく、次に住む人が「ここで無理なく暮らせそうか」を判断する材料にもなります。
■採光・通風・窓の位置は、住み心地の土台になる
日当たりや風通しは、特に重視したいポイントです。部屋が暗い、風が抜けにくい、窓の位置のせいで家具が置きにくいといった住まいは、住み心地の評価が分かれやすくなります。逆に、多少設備が古くても、明るく風通しがよく、家具配置の自由度が高い間取りは、次に住む人にも受け入れられやすい傾向があります。
■収納は「量」だけでなく「位置」も見られる
収納が少ない住まいは、それだけで暮らしにくそうな印象を与えやすく、内見時にもマイナスに映ることがあります。ただし、大切なのは単純な収納面積だけではありません。「使う場所の近くに必要な収納があるか」も重要です。
たとえば、玄関まわりにコートや掃除道具をしまえるか、洗面脱衣室にタオルや洗剤の置き場があるか、キッチンに食品ストックや調理家電の置き場があるか。さらに、季節ごとに使い分ける寝具など、かさばる物を無理なく収納できるかも、暮らし始めてから使い勝手を左右するポイントです。
「どこに」「何を」しまえるかで、使い勝手が大きく変わります。そうした収納計画のよさは、次に住む人にとっても暮らしやすさをイメージしやすく、売却時の印象にも影響します。
■家事動線の悪さは、次の住み手にも想像されやすい
家事動線も、将来の売りやすさを左右する見落としにくいポイントです。洗濯機置き場から干す場所までが遠い、干した洗濯物をしまう収納が離れている、キッチンとダイニングの動線が悪く、配膳や片付けがしにくいといった小さな不便は、毎日積み重なると想像以上に負担になります。
こうした動線の悪さは、暮らし始めてから不便を感じやすく、次に住む人にも「使いにくそう」と伝わりやすい部分です。物件を検討するときは、無理のある動線がないかも確認しておきたいところです。
中古マンションを検討するとき、「気になるところは後でリフォームすればいい」と考える人は少なくありません。実際、内装や設備を自分好みに変えられるのは中古マンションの魅力でもあります。
ただし、リフォームで何でも自由に変えられるわけではありません。マンションでは構造壁は動かせませんし、配管の位置によって水まわりの移動にも制約があります。窓や玄関の位置も基本的には変えられず、管理規約によって工事内容に制限がある場合もあります。
また、買主の立場から見ると、「購入後に大規模リフォームが必要な住まい」よりも、「そのままでも住めて、必要なら少し手を入れればよい住まい」の方が選びやすいものです。売主側から見ても、クセの強い間取りや大がかりな改修が前提になる住まいは、価格面で不利になることがあります。
将来の売却を見据えるなら、目指したいのは次に住む人が手を入れやすい"余白"がある間取りです。ここでいう余白とは、暮らし方や家族構成が変わっても柔軟に使えるゆとりのことです。
個室の使い方を変えやすい、家具配置の自由度がある、収納や動線が極端に偏っていない間取りなら、今の自分にも暮らしやすく、将来住むことになる人にとっても受け入れやすい住まいになります。

住まいのアトリエ 井上一級建築士事務所主宰/一級建築士/インテリアプランナー
総合建設会社の設計部で約14年間、主にマンションの設計・工事監理、性能評価などを担当。2004年の独立後は生活者の視点から「安心・安全・快適な住まい」「間取り研究」をテーマに、webサイトでの記事執筆、新聞へのコラム掲載、マンション購入セミナーの講師として活動。
著書に「住宅リフォーム計画」(学芸出版社/共著)「大震災・大災害に強い家づくり、家選び」(朝日新聞出版)などがある。夫と子ども2人との4人暮らし。
住まいのアトリエ 井上一級建築士事務所 http://atelier-sumai.jp/
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