

2025年12月19日、令和8年度(2026年度)税制改正大綱が決定された。住宅ローン控除において、これまで新築偏重だった方針を転換し、「既存住宅(中古住宅)×子育て世帯」への優遇を新築並みに引き上げた点は、日本の住宅政策における歴史的な転換点ではないだろうか。
しかし、この改正の真の意味を理解するには、抽象的な議論ではなく「数字」を見る必要がある。
昨年以前も既存住宅への税制優遇はあったが、そこまで重要視されていなかった、ところが、今回の税制ではほぼ新築に近いものとなった。
5,000万円の中古住宅をフルローン(全期間固定2.5%)で購入するケースを想定してみよう。
| 比較項目 | 1) 改正適用(省エネ性能あり)子育て・長期優良等 | (2)一般中古(性能なし)省エネ基準不適合 | その差額 |
|---|---|---|---|
| 借入限度額 | 4,500万円 (想定) | 2,000万円 | 2,500万円分 |
| 控除期間 | 13年間 | 10年間 | +3年 |
| 控除総額 | 約 359万円 | 140万円 | 約 219万円 |
いかがだろうか。同じ5,000万円のローンを組んでも、性能の有無だけで控除総額は、(1)改正が適用される省エネ性能が高い認定住宅(今回の改正の恩恵を受ける性能証明ありの物件)では約359万円、(2)一般的な中古住宅(性能証明なし)では140万円と、約219万円もの「現金」が手元に残るかどうかの差が生まれる。
買主はもちろんだが、もしあなたが中古住宅を所有し、売却を検討している売主であれば、この約200万円の価値差を売り出し価格に反映させたいと考えるのではないだろうか。
現状の不動産マーケットでは、立地と築年数が同じなら、両者の物件価格にここまでの差はついていないことがほとんどだ。これは価格の「歪み」ではないかと思う。金融的には価格の歪みは収益チャンスだといえる。この歪みこそが、今後の価格形成における「評価の変化のトリガー」となっていくと考えている。
さらに視点を広げれば、市場そのものが従来の「減価償却的な査定」を否定し始めていると考えられる。
その象徴が、都心部における中古マンション価格の高騰だ。築数十年が経過していても1億円を超える取引が常態化しており、「築年数が経てば安くなる」という従来のセオリーは、都心部においては崩壊しているといってもよいだろう。
この波は、一戸建て住宅にも波及しつつある。背景には、世界的なインフレと資材価格の高騰、人手不足による賃金高騰などが構造的な原因としてある。新築を建てるコストが跳ね上がっている今、中古住宅の価値を測る尺度は、単なる経年劣化(減価償却)から、「今、同じものを作ったらいくらかかるか(再調達原価)」へとシフトせざるを得ないとみている。
新築が高くて手が出ない以上、良質な中古住宅の需要は高まる。前述した住宅ローン控除の恩恵による価格差のみならず、売主は中古住宅の価格を「再調達原価」に引き上げたいという欲望にかられることだろう。
こうした「税制改正による性能価値の可視化」と「インフレによる実質価値の上昇」の2つが重なる2026年は、日本の不動産評価にとっての特異点となる。
これまで住宅ローンの評価においても、減価償却ベースに一定の価格評価を行うことが一般的だったが、近年では変化がでてきている。例えば、高齢者が自宅を担保にお金を借りて住み、逝去した後に自宅を売却して一括返済する「リバースモーゲージ」では、必然的に中古住宅が対象となるが、経過年数に関係なく品質に一定の評価を与えて査定している。
また、スムストック(大手ハウスメーカー10社が認定する中古住宅とその流通システムの総称)のような民間団体が調達原価方式やメンテナンス履歴をもとに査定を行うことで、一定の基準を満たした中古住宅を、減価償却ベースの価格表よりも高く評価している。
今回の改正で求められる「性能証明」は、確かに面倒な手続きかもしれない。しかし、その証明書一枚が数百万円の経済的価値を持つとなれば、市場はそれを無視できなくなる。
「証明書があるから高く売れる」「ないから安くなる」――この当たり前の価格メカニズムが機能し始めたとき、日本の住宅は「消費される箱」から、メンテナンスによって価値を維持する「資産」へと生まれ変わるはずだ。
私たちは今、土地値偏重の時代が終わり、建物そのものに資産価値を見出す「真の資産価値重視の時代」の幕開けに立ち会っているのかもしれない。

ホームローンドクター株式会社代表取締役。
住宅ローンアドバイザー。銀行、外資系証券会社を経て、1997年に住宅ローン専業のコンサルティング会社の同社を設立。家を購入するための資金計画づくりと住宅ローンの選択について、金融知識と実務経験を活かし、将来の生活にゆとりを築くための設計をするサポートしている。住宅ローンの著書5冊、日経電子版コラムの執筆など。
物件を買う
物件を売る
エリア情報

