「出口戦略」を見据えたマイホームと住宅ローンの選び方
2025年12月03日
マイホームは人生の大きな目標の一つと言われますが、ライフスタイルの変化により、必ずしも一生、その家に住み続けるとは限りません。さまざまな理由により将来的に住みかえが必要になるケースも少なくないため、購入時から「将来の住みかえ」を見据えて「出口戦略」を意識することが重要です。
今回は「出口戦略」を踏まえたマイホームと住宅ローンの選び方について解説します。
マイホームの出口戦略とは?
マイホームの出口戦略とは、将来、家をどのように活用または手放すかをあらかじめ考え、そのための準備しておくことを指します。
多くの人は、マイホームを「終の棲家」と考え、一生住み続けることを前提として購入する場合もありますが、ライフプランは必ずしも計画通りに進むとは限りません。
(1)転勤、転職、独立などによる生活拠点の変更、(2)家族構成の変化、(3)自分や家族の健康状態の変化、(4)親などの介護、(5)経済的な事情など、さまざまな理由で住みかえが必要になる場合があります。
いざというときに慌てない・困らないように、マイホームの購入時から出口戦略を意識することは大切です。
出口戦略の成功とは、売却の場合、次の3つのポイントについて結果が得られることです。そのためには購入時からできることを考え、実践する必要があります。
「出口戦略」成功の3つのポイント(売却の場合)
(1)早期に売却できる
(2)高い価格で売却できる
(3)多くの資金が手元に残る
出口戦略を意識したマイホームの選び方
出口戦略の成功のために、以下のポイントを意識しながらマイホームを選んでみてはいかがでしょうか。
(1)立地の「将来性」に注目する
住宅の価値を左右する最大の要素は立地です。現時点の人気だけでなく、将来的に人口増加や再開発が見込まれる地域、交通・生活利便性の高い地域を選ぶと、好条件で売却できる可能性が高まります。
立地の将来性を見る一つの方法が「立地適正化計画」の確認です。人口減少や高齢化が進行する中、都市の持続可能性を高めるために生活利便性や都市機能を集約する「居住誘導区域・都市機能誘導区域(=コンパクトシティ)」を定めた計画です。
誘導区域から外れた区域では、将来的に大きく値下がりしたり、売却が長期化するリスクが高くなります。検討する物件がこの誘導区域内にあるかどうかを必ず確認しておくことが重要です。
図表1:立地適正化計画のイメージる
出所:国土交通省「立地適正化計画パンフレット」を基に筆者作成
なお、立地適正化計画は、2025年3月31日現在、全国1718の自治体のうち、636の自治体が作成済みです。
(2)災害リスクの低いエリアを選ぶ
近年の大規模地震、洪水、土砂災害などの頻発により、自然災害への警戒感は高まっています。そのため、「災害リスクが低いエリアを選択する」ことは出口戦略として非常に重要です。国土交通省が運営する「ハザードマップポータルサイト」では、住所や地図から洪水・土砂災害・高潮・津波などのリスク情報を確認することができます。
※参考:国土交通省ハザードマップポータルサイト
(3)建物の品質にもこだわる
建物の構造や性能も出口戦略に影響しますが、その中でも特に重要なのが、建物の耐震性と省エネ性能です。
耐震性に関しては、旧耐震基準の建物(1981年5月31日以前に建築確認を取得した建物)は大規模地震による倒壊リスクが高いとされているため、売却する際に不利になりがちです。
なお、建物の耐震性を測る指標として、住宅性能評価制度の中の「耐震等級」があります。建物の耐震性を等級1から等級3の3段階に分類しており、耐震等級3が最も耐震性が高くなります。近年は耐震等級3を標準仕様とする建築会社も増えており、住宅を購入する際には確認することをお勧めします。
省エネ性能に関しては、2024年4月には「建築物の省エネ性能表示制度」が始まりました。同月以降に建築確認申請を行なった新築住宅を売買・賃貸する際には、住宅の「省エネ性能ラベル」を広告などに表示することが義務付けられ、消費者の省エネ性能に対する関心も高まっています。
図表2:省エネ性能ラベルの例
2025年4月からは全ての新築住宅に対して省エネ基準適合が義務化されました。今後は中古住宅についても、省エネ性能による人気の差が生じることが予測されます。そのため、高い省エネ性能の建物を選択することは、将来の出口戦略の成功につながります。
(4)築年数とリフォームのバランス
建物は、築年数が経つと売却価格が下がる傾向がありますが、適切なリフォームで一定の資産価値を維持できるケースもあります。ただし、リフォーム費用をかけすぎても、かけた費用ほどに売却価格が上がらずコストを回収できない可能性もあるため、「投資対効果」を意識したリフォーム計画が大切です。
出口戦略を踏まえた住宅ローンの考え方
住宅ローン選びも出口戦略と密接に関係しています。売却時に手元に残る資金は、次の計式で算出します。
売却価格-諸費用-住宅ローンの残高-税金=手元に残る資金
売却時に住宅ローンの残高が少ないほど、手元に多くの資金が残ります。反対に、売却価格よりも住宅ローンの残高が多い場合、売却しても住宅ローンを返済しきれず、手元資金を使って完済する必要が生じます。その手元資金がなければ「売りたくても売れない」という事態に陥ってしまいます。
(1)金利タイプの選び方
将来売却する必要が生じた場合に備えるためには、売却時の残債をできるだけ減らしておくことが大切です。マイホームを売却する時期によって、金利タイプの選択は次のように考えられます。
・短期間(10~15年以内)で売却する可能性が高い場合
変動金利型は固定金利型よりも当初の金利が低く設定されているため、固定金利型と比べて元金が早く減っていきます。住宅ローンの借入後、しばらくの間は変動金利型の金利が固定金利型の金利より低い状況が続くと考えられるため、比較的短期間でおおむね10年から15年以内に売却することが予測される場合は、変動金利型を選択すると有利になりやすいと言えます。
・長期間(20年以上)保有する可能性が高い場合
住宅ローンの返済期間中に変動金利型と固定金利型の金利が逆転するリスクも考慮すると、フラット35などの全期間固定型を選択することで、結果的に変動金利型よりも売却時の住宅ローン残高が少なくなる可能性もあります。
(2)より効果的なのは繰上返済
金利タイプの選択やマイホームを手放す時期に関わらず、繰上返済は住宅ローン残高を大きく減らし、金利上昇リスクも抑えられる有利な方法です。常にライフプランが変化する可能性と売却時期の可能性を考慮し、売却時の想定価格と住宅ローン残高のバランスを意識することで、「売りたくても売れない」という事態を防げます。
(3)住宅ローンが残っている方が有利な場合も
マイホームの売却では、売却時の価格が購入時の価格より下がってしまうこともよくあります。マイホームを売却して損失が生じた場合、「マイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除」という特例があります。
この特例は、住宅ローンが残っているマイホームを売却して損失が生じたとき、その損失を給与所得など他の所得から差し引いて税金を安くできる制度です。さらに、損失が大きく他の所得から引ききれない場合、売却した年だけではなくその後も3年間は損失を他の所得から差し引くことができます。
売却時に住宅ローンが残っている場合のみ利用できるため、マイホームが値下がりしそうな場合は、あえて住宅ローンを繰上返済せずに残しておく、という方法も選択肢に入ります。
特例の詳しい内容については、国税庁のホームページでご確認ください。
No.3392「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」の対象となる「譲渡資産」及び「特定譲渡」とは|国税庁
まとめ
マイホームは「買って終わり」ではなく、長い人生の中で住みかえの必要性が生じる可能性もあります。そのための「出口戦略」のポイントは、入口の段階で「資産価値があり、いざというときに売りやすい物件を選ぶこと」と「住宅ローンの借り方・返し方」を考えておくことです。
これにより、(1)早期に売却できる、(2)高い価格で売却できる、(3)多くの資金が手元に残る-という「出口戦略」の成功のための3つのポイントが実現する可能性が高まるでしょう。
つねにライフスタイルの変化を意識して行動することで安心感が生まれ、結果的に快適なマイホームに住み続けることにもつながります。

ファイナンシャル・プランナー(CFP®、1級FP技能士)、終活アドバイザー、不動産コンサルタント
1961年東京都出身 早稲田大学商学部卒業後、大手住宅メーカーに入社。30年以上、顧客の相続対策や資産運用として賃貸住宅建築などによる不動産活用を担当、その後独立 。現在は、FPオフィス ノーサイド代表としてライフプラン・住宅取得・不動産活用・相続・終活などを中心に相談、コンサルティング、セミナー、執筆などを行っている。
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