
不動産の売却には、さまざまなケースがあります。確定申告が必要なケースもあれば、不要なケースもあり、税金がかかるケースもあれば、1円もかからないケースもあるのです。そこでこの記事では、税理士である筆者が、税金面や手続き面で不安を感じている人へ向け「税金がかかるとすればいつ払うのか」「確定申告が必要な場合、なにを準備すればいいのか」「売却を検討している人へのポイント」などを、分かりやすく解説していきます。
1. 不動産を売却したら確定申告が必要?

企業にお勤めの方は、確定申告にあまりなじみがないかもしれません。まずは、「確定申告が必要な場合と、そうでない場合がある」という基本ルールについてご紹介します。
1-1.確定申告が必要な場合
不動産を売却して確定申告が必要になるのは、売却益が発生する場合です。売却益とは、売却代金から取得費や譲渡費用などを差し引いたプラスの金額を指し、このプラスの利益のことを「譲渡所得」と呼びます。
そして、計算してプラスになったときに、確定申告をして税金を納めるというのが基本ルールです(所得税法120「確定所得申告」)。不動産の売却代金そのものを指すのではないため、不動産を売却しても利益が出ないケースも多くなっています。
1-2.確定申告が不要な場合
高く売れたとしても、譲渡益が生じていなければ確定申告は不要です。そもそもの取得費や、譲渡費用が高い場合は、これらがマイナスとなり譲渡益が生じないことが多いでしょう。
ただし、譲渡益が生じていない場合も、ほかに所得があり、一定の要件が当てはまるときは、確定申告をすることで特例が使える場合もあります。特例を使えば、税金を抑えられるケースもあるため、個々のケースに応じた判断が必要です。(所得税法121「確定申告を要しない場合」)。
2. 不動産を売却したら、税金はいつ払う?

税金の納付時期は、それぞれの税金で異なるため確認しておきましょう。
2-1.所得税及び復興特別所得税
不動産を売却したことによる譲渡所得の所得税及び復興特別所得税は、売却した翌年の2月16日~3月15日に支払います。前章で説明した通り、不動産を売却して売却益が出た場合は確定申告が必要です。確定申告の提出期間は、原則として毎年2月16日~3月15日で、税金を払うのも同じタイミングになります(振替納税を選択している場合は4月末)。
2-2.不動産を売却してかかる主な税金
不動産を売却すると、所得税のほかにも税金がかかります。主に、地方税(住民税)、印紙税、消費税、登録免許税などあります。
住民税は一般的に6月頃、地方自治体(お住いの地域の市役所など)から納税通知書が届きます。納税通知書が届いたら、納期限までに税金を納めましょう。住民税については、個別の手続きは不要です(地方税法317条の3)。
印紙税は、課税文書に収入印紙を貼って納める税金です。不動産を売却するときに交わす売買契約書が課税文書に該当します。印紙税の金額は、取引額に応じて定められており、売買契約書に貼付することで、納税が完了します。
不動産業者の仲介により不動産を売却した場合は、不動産業者に支払う報酬(仲介手数料)に対して消費税がかかります。珍しいケースだと思いますが、不動産業者を介さず個人間で売買した場合は、消費税はかかりません。
また、売却した不動産に抵当権が設定されている場合は、抵当権抹消登記が必要になります。このときに、「不動産1個につき1,000円」の登録免許税が生じます。
【関連記事リンク】
不動産売却ガイド 不動産の売却にかかる経費一覧、税金控除、確定申告についての解説
参照:
国税庁 No.7140?印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで
国税庁 No.7108?不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置
3. 不動産を売却したときの税金はいくら?

所得税がいくらになるか、具体的な計算方法について見ていきましょう。
3-1.税金の計算方法
税金は、課税の対象となる譲渡所得に、不動産の所有期間に応じて異なる税率をかけることで計算できます。所有期間の境目は「5年」です。ここでは、「税率=所得税率+復興特別所得税率+住民税率」とします。
・短期譲渡所得(所有期間5年以下)の税率は39.63%
・長期譲渡所得(所有期間5年超え)の税率は20.315%
3-2.税金の計算の例
では実際に具体的な数字で計算してみましょう。後述する特例や消費税についてはいったんスルーしています。あくまでも、目安としてご利用ください。
(例)戸建て住宅
売却代金:5,000万円
購入価格:5,000万円(土地代3,000万円、建物2,000万円)
譲渡費用:160万円
所有期間:20年(長期譲渡所得)
【1】取得費を求める
取得費=土地の購入代金+(建物の購入価格―減価償却費)
=3,000万円+(2,000万円-1,116万円 *1)
=3,884万円
*1)減価償却費=購入価格×0.9×償却率 *2×経過年数
=2,000万円×0.9×0.031×20年
=1,116万円
*2)償却率は、建物の構造によって定められた耐用年数により決められています。また、事業に使われていなかった建物場合は、耐用年数の1.5倍の年数(1年未満の端数は切り捨て)に対応する償却率により計算します。
【2】譲渡所得を求める
譲渡所得金額=売却代金-(取得費+譲渡費用)
=5,000万円-(3,884万円+160万円)
=956万円
【3】税金を求める
税金=【1】×税率
=956万円×20.315%
≒194,2万円
【関連記事リンク】
参照:
国税庁 No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)
国税庁 No.3261 建物の取得費の計算
3-3.取得費になるもの
取得費には、売った土地や建物の購入代金、建築代金、購入手数料のほか土地改良費や建設設備費なども含まれます。ただし、事業所得などの必要経費に算入されたものは含まれません。
3-4.譲渡費用になるもの
譲渡費用とは、土地や建物を売るために直接かかった費用のことです。譲渡費用として認められるかは、売るために直接かかった費用かどうかです。従って、所有中の修繕費や固定資産税、売った代金の取立てのための費用などは、譲渡費用になりません。
4. 3,000万円特別控除、いわゆるマイホーム特例とは?
マイホームを売却し、一定要件に当てはまるときに適用できる特例です。
4-1.3,000万円特別控除(いわゆるマイホーム特例)
マイホーム(居住用財産)を売ったときに、所有期間の長短に関係なく、譲渡所得から最高3,000万円まで控除ができる特例です。これを「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」といいます。
4-2.税金がかからないケース
譲渡所得を計算し3,000万円以下であれば、この特例を利用することで譲渡所得は「0円」になります。この特例を受けるためには、確定申告が必要です。「0なんだから確定申告は不要」とはならないためご注意ください。
4-3.適用要件
現に自分が住んでいる家屋や、以前に住んでいた家屋(住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る場合に限る)を売却したときに適用されます。
4-4.注意点
この特例の適用を受けるためには、必要書類を添えて確定申告をすることが必要です。セカンドハウスや別荘などのように主として趣味、娯楽または保養のために所有する家屋には、適用できません。
4-5.軽減税率の特例
10年以上所有していたマイホーム(居住用財産)を売ったなど、一定要件に当てはまるときは、長期譲渡所得の税額を通常の場合よりも「低い税率」で計算する軽減税率の特例を受けることができます。
4-6.売却損が出た場合
不動産を売却して損失が生じた場合で、一定要件を満たすときは、確定申告をすることで受けられる2つの特例があります。
●特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
●マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
どちらの特例も、適用期限があり、必要書類を添付して確定申告をする必要があります。
参照:
国税庁 No.3302?マイホームを売ったときの特例
国税庁 No.3305?マイホームを売ったときの軽減税率の特例
国税庁 No.3390?住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき(特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)
国税庁 No.3370?マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき(マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)
5. 被相続人の居住用財産である不動産を売却する際の特例
相続した戸建てのうち、一定要件を満たす「空き家」の売却についての特例です。
5-1.相続登記後に売却するケース
不動産を相続してから「3年が経過する年の年末まで」に売却した場合で、一定要件を満たすときは、売却時に、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除することができます。
5-2.相続税の取得費加算
相続開始のあった日の翌日から相続税申告期限の翌日以後3年を経過する日までに相続した不動産を売却した場合、取得費加算の特例を利用することができます。取得費に相続税の一部を計上することにより取得費が大きくなり、所得税を軽減することができます。
5-3.相続3,000万円特例(いわゆる空き家特例)
この特例は、被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例といいます。特例の対象となる「被相続人居住用家屋」とは、相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋で「昭和56年5月31日以前に建築されたこと」(旧耐震基準の建物のため耐震性が低い)に限られます。売却時の要件には「耐震リフォームを行って売る」あるいは「更地にして売る」など、細かい要件があるため、確認が必要です。
5-4.所得費が分からないときは?
売った土地建物が先祖伝来のものであるとか、買い入れた時期が古いなど、取得費が分からない場合には、「売った金額の5%相当額」を取得費(いわゆる概算取得費)とすることができます。
参照:
国税庁 No.3267?相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
国税庁 No.3306?被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
国税庁 No.3258?取得費が分からないとき
6. 確定申告の流れと必要書類

この章では、確定申告の流れと必要書類を解説します。
6-1.確定申告書
確定申告は、1つ1つの手順をきちんと理解すれば、ご自身でも申告可能です。見慣れない書類かもしれませんが、必要書類に記入していけば、算出できる仕様になっています。
不動産を売却したときの確定申告書は、第1表・第2表・第3表(分離課税用)を使います。申告書や内訳書などの必要書類は、税務署で入手できるほか、国税庁のホームページからもダウンロード可能です。
6-2.譲渡所得の内訳書
この内訳書は、土地や建物の譲渡(売却)による譲渡所得金額の計算用として使用します。1つの契約ごとに1枚ずつ使用して記載し、確定申告書とともに提出してください。また、譲渡所得の特例の適用を受けるために必要な書類などは、この内訳書に添付しましょう。
6-3.受領した領収証や売買契約書など
誤りなく計算をするためには、不動産の売却や所有期間が分かるもの、金額やその支出を証明するための書類を準備してから進めてください。
6-4.特例に関係する書類
各種特例を受けるためには、確定申告書に添付する書類が決められています。戸籍の附票の写しや、売買契約の写し、登記事項証明書の写しなど、特例によって異なります。なお、明細書に不動産番号の記載があれば登記事項証明書の添付は省略可能です。なじみのない書類も多いので、余裕を持って確認してそろえておきましょう。
6-5.税務署での手続きor e-Taxの利用方法
書類が揃ったら、住所地を所轄する税務署に提出します。提出は税務署に持参するほか、郵送や電子申告(e-Tax)も可能です。マイナンバーカード方式によりe-Taxする場合は、マイナンバーカードやスマホを使うため、あらかじめご用意ください。
7. 不動産の売却における税金の節税方法

ここまで述べてきたことは、不動産売却にかかる税金の節税にもつながります。振り返ってみましょう。
7-1.取得費を漏れなく計上する
取得費が大きくなれば譲渡所得が小さくなり、税金も小さくなります。漏れがないように計上してください。取得費に含まれる一例は、以下の通りです。
1.土地や建物を購入したときに納めた登録免許税、不動産所得税、特別土地保有税、印紙税
2.借主がいる土地や建物を購入するときに、借主を立ち退かせるために支払った立退料
3.土地の埋立や土盛り、地ならしをするために支払った造成費用
4.土地の取得に際して支払った土地の測量費
5.所有権などを確保しりために要した訴訟費用など
7-2.譲渡費用を漏れなく計上する
取得費と同様、譲渡費用が大きくなれば、税金は小さくなります。譲渡費用は漏れがちなので、きちんと計上しましょう。
1.土地や建物を売るために支払った仲介手数料
2.印紙税で売主が負担したもの(前章H3・2-2)
3.貸家を売るため、借家人に家屋を明け渡してもらうときに支払う立退料
4.土地などを売るために、その上の建物を取り壊したときの取り壊し費用とその建物の損失額
5.既に売買契約を締結している資産を、さらに有利な条件で売るために支払った違約金(これは土地を売る契約をした後、その土地などをより高い価額でほかに売却するために、既契約者との契約解除に伴い支出した違約金のこと)
6.借地権を売るときに地主の承諾をもらうために支払った名義書換料など
7-3.税率が下がったタイミング(短期→長期)で売却する
5年の基準日は「売却した年の1月1日」ですので、注意が必要です。なお、所有期間とは、不動産の取得の日から引き続き所有していた期間をいいます。この場合、相続や贈与により取得したものは、原則として、被相続人や贈与者の取得した日から計算することになっています。
5年を超えるかどうかは、税金が大きく変わるため、売却を検討中の方はタイミングで「損」しないようにご判断ください。
7-4.3,000万円のマイホーム特例を受ける+軽減税率
4-1と4-5でご紹介した「3,000万円のマイホーム特例」と「軽減税率の特例」特例は、併用が可能です。さらにお得にマイホームを手放し、住み替えの資金にまわすことができます。
7-5.特例をしっかり活用する
特例が受けられるタイミングを見計らって売却することも節税につながります。3,000万円の空き家特例など利用できる特例を利用しましょう。また、空き家特例を受けられる要件をそろえて売却したり、譲渡損失の繰越控除の特例を受けたりすることなども有効です。
国税庁のHPには、適用の可否を判断できるチェックシートも公開されていますので、こちらもご活用ください。
8. まとめ
ご自身がどのケースに当てはまるのか理解して、特例を適用したり節税策をうまく使ったりすれば、適正な額の税金を納め、手元に残るお金を最大化することにつながります。売却の計画を立てるときには、確定申告の手続きも含めてしっかり把握したうえで進めていきましょう。じっくりと具体的な相談をしたい場合や不安がある場合には、必要に応じて専門家にご相談ください。

税理士
2025年現在、税理士歴20年。鳥取県「湯口一文税理士事務所」にて税理士業に従事。主に、相続及び贈与に関する相談・相続税の申告書作成・税務相談・決算書作成・確定申告書作成などを担当している。プライベートでは1児の母でもあり、ヨガインストラクター(RYT500)や、ダイエットインストラクターの資格を取得。読書・サーフィン・朝ヨガを楽しむほか、税務系記事の作成なども担当している。
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