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一期一会の手仕事 インタビュー

筑後花茣蓙(ちくごはなござ)職人 田中嘉徳(65歳)さん
何代も続く、織元の一人。小学校時代から手伝いをしていたという。35歳で父親から受け継ぎ、すでに30年のキャリア。「自信を持って薦められる商品作り」がモットー。
私らは自然を織り込む職人です
「花ござ機械勇ましく・・・」福岡県大川市にある木室(きむろ)小学校校歌の3番の1節です。確かに、田圃のあぜ道に入ると、ガシャン、ガシャンという織機の音が聞こえます。この木室がある筑後地方は、およそ400年前からイ草の産地としてその名をはせ、今なお、このイ草を使った商品を作り続けています。もともと数百軒はあったという生産者や織元も、時代の変化によって本物を追求できなくなっていき、不本意にも継続できなくなり、今では数十軒を数えるほどに。そうは言っても「夏になると花ござの需要が高まり、職人の手も足らないほどです」とは今回職人をご紹介いただいた添島商店の添島さん。その1軒の織元をたずねました。

日本の生活文化を守る職人の気概

工場に近付くとバッサ、バッサという音が扉からもれ出ていて、ちょうど織機にかける前のイ草チェックをされているところでした。まとめたイ草であっという間にきれいな扇形ができ、長さが足りないものや色むらのあるものなどを瞬時で引き抜いていかれます。しろうと目にはまったくわからない程度の差でしたが、「微妙な色合いの違いは織りに影響するし、折り傷を作らないためにも大切な工程です」と職人の田中さん。この道30年の田中さんだからできることかもしれないと思いお聞きすると「織元職人はみんな目利きができます」とあっさり。

「ござは日本の生活文化のひとつです。伝統を守らないといけないという使命感が強いです」。この町の職人たちの誇り高き志は先人たちから脈々と受け継がれたもの。
九州の筑後地方特有の質実剛健な気風が、頑固で探究心旺盛なござ職人の気質を培ってきたと言われます。妥協を嫌う先人の職人たちがいたからこそ、このイ草文化は育てられ、織り上げられ、受け継がれ、磨かれてきました。「先人たちのイ草1本、1本に込めたもの作りの思いと、使ってくれる人を思って一生懸命です」精悍な面立ちの向こうから、職人田中さんの目がキラリと輝いた瞬間でした。

伝統と今を見据える職人

一番感動するのは全国から寄せられる購入した方からの喜びの便り。「『花ござってすごく気持ちいいですね』とか、『いいものに出会えました』とか、日頃の苦労が吹っ飛ぶような便りばかりです」と田中さん。「僕で何代目やろか。自分でもわからんですね。小学校の頃から手伝ってるし、若いとき他の仕事を少しだけやりましたけど、35歳で父の後を継ぎました」400年以上の歴史を持つ地域だからこその回答かもしれません。

天然素材を100%使った筑後の製品だからこそ、その魅力は使い込むほどにわかるといいます。
最近のイ草研究から、天然の空気清浄機の役目を果たすだけでなく、森林浴に近い効果も発表されています。またイ草は製品化されてもなお呼吸を続け、快適さを作り出しているとも。使った人だけにわかるその魅力は計り知れません。

田中さんのご自宅ではリビングをフローリングに変えた時からフロア畳を使っています。「子供たちからフローリングを希望されてですね」と少し照れ笑いの田中さんですが、続々登場するイ草を織り込んだ新しい商品を取り入れ、和モダンのすてきなインテリアのお部屋になっていました。「伝統を守りながら、時代を知る、ということですかね」とは同行の添島さん。時代が必要とするものを、培ってきた伝統の技を使ってどう商品化していくのか、一人の職人の技術がさらに深く求められる時代になってきたのかもしれません。

「花ござはやっぱり美しいでしょう」。田中さんが最後にしみじみ語られた一言です。その言葉の重さに日本人として文化を継承する田中さんの誇りを感じました。ござ職人の匠の技はもしかしたら自然の贈り物かもしれません。

ござができるまでのプロセス【掛川織】

1.イ草の栽培
寒い冬に水田に苗を植え、暑い夏に刈り取る。厳しい作業と多くの手間を要する。
2.イ草チェック
イ草の長さは主に130cm以上の中太で径が揃ったもの。
3.デザイン
長年の経験で色彩バランスを整え、いくつか試したものからその年の柄を決める。
4.染め
温度と時間のタイミングを見計らって水をさし染まりやすくするのがコツ。
5.長さ色ムラ折れのチェック
長さが足りない、折れている、染まり具合がそろっていないのを抜き出す。
6.織り
イ草と、抵抗が大きい棉糸を使って織りあげることで天然素材100%に。
7.天日干し
水分を飛ばして、イ草のくせ直しをする。
8.長さ揃え
経糸(たていと)だけを切り揃えます。
9.仕上げ
余分な染料をふき取りイ草に艶をだす。折り目1つ1つを確認し、織り傷を手直しする。

注目の商品

収納ケース
(デザイナー 清水慶太)
国産イ草で織り上げた伝統の花ござがPOPな収納ボックスに変身!
さらりとした肌触りとさわやかで心落ち着くいぐさの香りは暑苦しい夏にぴったり。おしゃれでかわらしい発色のいぐさがインテリアの良いアクセントになります。また、ジッパーで4辺を留める構造なので、使わないときはコンパクトに折りたたむことが出来て場所を取りません。マガジンラックやランドリーボックス、お子様の玩具箱として、シェルフなどの収納家具と組み合わせても利用できるのもうれしい。
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スリッパ
(デザイナー 川上玲子)
重厚で、イ草の品質が全面に出る福岡独特の織り方「掛川」をベースにこれまで使ったことのない新しい色彩と、新しい感性を吹き込んだ商品。足元がサラッとしてはき心地が良く、汗ばむ季節にピッタリ。以前はイ草ではできなかった足の甲を覆う部分も今ではきれいなアーチを作っています。ヨーロッパ、特に自然を人間の暮らしに取り入れることを大切に感じているフランスやスウェーデンでは人気の商品。
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商品提供:添島勲商店

取材・協力

株式会社 添島勲商店
〒831-0014 福岡県大川市中木室23-1
http://www.soejima.com/

筑後にイ草栽培が創世しておよそ400年。その歴史の中でも、常に斬新なアイデアのイ草製品を世に送り出しているのが添島勲商店です。古くより伝わる自然素材のイ草を、現在のライフスタイルに取りこんだ製品づくりは、「かけがえのない自然を見事に織り込んできた先達の熱き心を今に伝えたい」という想いをテーマにしているからこそ。今までのイメージを変えるモダンなイ草の魅力が息づいています。

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