近年、一戸建て、マンションを問わず「土間(どま)のある暮らし」が静かな注目を集めています。住宅雑誌や不動産サイトでは特集が組まれ、SNSでも「#土間のある暮らし」といった投稿が増えてきました。
そもそも土間とは靴のまま使える屋内スペースのことで、日本の古い家屋、例えば農家や町屋では作業場や料理をする身近な場所でした。現在、中古マンションを購入してリノベーションをする際に、こうした土間を現代風に取り入れるケースが増えています。
今回は土間のある間取りの例を紹介しながら、土間の魅力や活かし方、どんなライフスタイルの人に向くかをわかりやすく解説します。
かつての土間は、農作業や炊事を行う作業スペースでした。しかし現代の都市型住宅、特にマンションにおける「土間」は、もう少し自由で、私たちの暮らしに寄り添う存在です。
例えば、
●玄関を広げて暮らしの切り替えやコミュニケーションを深める「玄関土間」
●玄関とバルコニーをつなぎ住戸に通風と開放感をもたらす「通り土間」
●リビングの一角に設けて趣味やくつろぎに使える「リビング土間」
など、役割も使い方も多様です。
さらに、天井や壁をコンクリートあらわしにするなど、マンションの構造を活かした「土間らしさ」の楽しみ方も広がっています。
【1】玄関土間:外と中をつなぐ中間領域
マンションの玄関を広げてつくられた「玄関土間」は、外と内、公と私、時に仕事と生活の境界となる場所でもあります。マンション暮らしでは来客との距離感に悩むことがありますが、土間を設けることで、完全なプライベート空間に招き入れる前の「中間領域」を作り出せます。
簡単な椅子とテーブルを置けば、訪問者とのコミュニケーションを深める場としても活躍するでしょう。または、雨の日には子どもの遊び場に、時には仕事スペースとしてなど、従来の「靴のまま歩ける場所」という定義から一歩進み、現代の多様なライフスタイルに柔軟に使える便利なスペースとしての価値があります。
【図1】は、玄関を広げてテーブルや椅子、棚を置くスペースを設けた土間玄関(図内の青灰色の部分)を設けた間取り例です。ちょっとした来客対応や子どもの友だちが遊びに来た際の「溜まり場」として活用できます。プライバシーを守りながらも、適度な距離感で人と交流できる場としての土間は、都市生活における新しいコミュニケーションの形を生み出しています。
土間にはシューズインクロークを設け、しばらく使わないものやゴルフバッグなどの長尺物をしまえるほか、コート掛けスペースもあり、ここで上着の脱ぎ着をすることで居住空間に外からのホコリや花粉などが持ち込まれるのをある程度防ぐことができます。また土間から直接洗面所に入れる動線となっており、帰宅後すぐに手洗いをすることができるなど、衛生面でも優れた間取りになっています。
【2】通り土間:風と人が抜ける、回遊できる土間動線
玄関からバルコニーをつなぐ土間は、かつての農家や町屋に見られた「通り土間」の現代版です。日本の建築文化が長く大切にしてきた「内と外を分けすぎない」という考え方に近く、内でも外でもある中間的な空間を現代のマンションに取り込むことで、日本的な住まいの知恵や、文化の香りを感じることができるでしょう。
玄関とバルコニー両方からの風を取り込むことで空気の循環が良くなり、湿気やにおいのこもりを軽減するという機能面でのメリットもあります。
【図2】は玄関からバルコニーに通じる通り土間を設けた間取り例です。風通しの良さや、動きやすい動線が大きな魅力です。自転車やベビーカーの出し入れや、ちょっとしたDIYや植物のお手入れなど柔軟に使うことができます。狭めの住戸にも開放感や広がりを感じさせる点も魅力のひとつです。細長い空間となるため、雨の日に洗濯ものを干す場所としても活用できます。
玄関から奥まで開放的で視線が抜けやすく、玄関→通り土間→リビングダイニングと回遊動線ができ、生活動線の中核として日常利用度が高い土間となります。通り土間に面して畳の間を設けて土間から直接出入りできるようになっており、昔ながらの日本の佇まいの魅力を味わえる造りとなっています。
【3】リビング土間:趣味も家族時間も楽しめる半屋外空間
リビングに接して土間空間を設ける「リビング土間」は、バルコニーやテラスなどの屋外空間とつなげることで、屋内と屋外の境界をあいまいにし、広がりのある空間をつくることができます。土間と屋外との境にある開口部に大きな窓があれば、より開放感を楽しめます。リビングと連続した土間は、家族の動線が交差する場所となり、自然な交流が生まれやすくなるというメリットがあります。また、お互いの気配を感じながらも適度な距離を保てる「自然なつながり」を生み出す効果もあります。
【図3】はマンション1階のテラス付き住戸にリビング土間を設けた間取り例です。リビングの隣にテラスから靴を履いたまま入れる半屋外の空間を設けました。リビングに接し南向きの明るい空間では、趣味のガーデニングを楽しんだり、工作をする、自転車などアウトドア用品のお手入れ、ペットと遊ぶスペースなど、通常のリビングでは難しい用途にも対応できます。床仕上げはコンクリートまたはタイルなど、泥や水がついても掃除が簡単な素材にすることをお勧めします。
マンションをリノベーションする場合、マンションならではの注意点もあります。土間空間をつくることがマンションの管理規約に反しないかを確認し、管理組合との事前協議を行い、承認を得る必要があります。遮音対策や防臭、換気対策も必要です。マンションリノベーションに精通した建築士や設計事務所と連携して計画を進めましょう。
以下に土間を間取りに取り入れる時に検討すべき点を挙げます。
●管理規約に定められている遮音性能に見合った床材を選定しているか
●土間の仕上げ材、使い方、リフォームの範囲がマンションの管理規約で認められるものか
●土間空間をつくる分、居室や収納スペースが減ることを考慮する
●土間空間も含めて冷暖房の性能が確保できるか検討する
●床仕上げがコンクリートやタイルの場合、足元が冷えやすいので暖房対策が必要
●土間部分は一段低く設計されることが多いのでバリアフリーの観点で注意が必要
●土間を土足で使用する場合、室内に移動するたびに「靴の脱ぎ履き」という動作が発生する
現代版の「土間」は、暮らしにゆとりを生み、趣味やコミュニケーションを楽しみ、日々の動線を整える存在です。中古マンションを購入して間取り変更を予定している人は、マンションリノベーションだからこそ実現できる自由度を活かし、管理規約や構造の制約などを確認しながら、自分たちらしい土間空間を創り出してみてはいかがでしょうか。
住まいのアトリエ 井上一級建築士事務所主宰/一級建築士/インテリアプランナー
総合建設会社の設計部で約14年間、主にマンションの設計・工事監理、性能評価などを担当。2004年の独立後は生活者の視点から「安心・安全・快適な住まい」「間取り研究」をテーマに、webサイトでの記事執筆、新聞へのコラム掲載、マンション購入セミナーの講師として活動。
著書に「住宅リフォーム計画」(学芸出版社/共著)「大震災・大災害に強い家づくり、家選び」(朝日新聞出版)などがある。夫と子ども2人との4人暮らし。
住まいのアトリエ 井上一級建築士事務所 http://atelier-sumai.jp/
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