建築
建築的視点からみた万博-大屋根リングから3Dプリンターまで

2025年4月13日に開幕した大阪・関西万博は、開幕して約3ヵ月が経過し、ギネス世界記録に認定された「大屋根リング」をはじめとする注目施設の影響もあり、会場は連日多くの来場者で賑わいを見せています。本稿では、180を超える国内外パビリオンが集結する会場に実際に足を運び、建築的視点から特徴的な事例を抽出・整理し、ポイントをまとめました。
Ⅰ.ギネス認定を受けた大屋根リング
会場に入ってまず目を引くのが、シンボル的存在である大屋根リングです。幅約30m、内径約615m、高さ12mから20m、全周約2kmに及ぶ円環状の木造屋根は、2025年3月に世界最大の木造建築としてギネス世界記録に認定されました。建設費は約350億とされています。
リング内側の各所には屋根へアクセス可能なエスカレーターが設置されており、来場者はスムーズに屋根上部へ移動できます。内側の高さは12mで、一般的な建物の3~4階建てに相当します。屋根上からは会場全体を見渡すことができ、空間の広がりと構造美を体感できます。

エスカレーターで屋根上部へ上がると、広範囲にわたって植栽が施されており、まるで空中庭園のような景観が広がります。屋根はリング外側に向けて緩やかに傾斜しており、さらに高い位置へはスロープを通じてアクセス可能です。最上部に到達すると、会場内のパビリオン群だけでなく夢洲の外側や大阪湾の広がり、北側には、2030年開業予定のIR(統合型リゾート施設)の建設現場まで見渡せる開放的な眺望が楽しめます。



屋根下の通路は「グランドウォーク」と呼ばれ、ベンチが設置されており、日よけ雨よけを兼ねた休憩スペースとしても機能しています。この大屋根の構造には、法隆寺や清水寺などにも用いられている貫工法(柱と柱の間に貫(ぬき)と呼ばれる横木を通し、構造を安定させる伝統的な木造技法)が採用されています。工期の厳しさが指摘されている中で、無事に完成した姿を現地で目にすると、日本の伝統技術と現代建築の融合を実感でき、非常に感慨深いものがあります。
Ⅱ.膜材で覆われたパビリオン
会期が半年間に限られる大阪・関西万博では、会期終了後の解体も視野に膜材が多く採用されています。大阪ヘルスケアパビリオンでは、高機能フッ素樹脂をフィルム状にしたETFE膜が屋根として使用されており、自然光の透過性と下部に設けられた水盤との組み合わせにより「循環」をテーマとした空間演出がなされています。

ⅰ.いのちの未来
黒い炭素繊維メッシュ膜で覆われた建築物で、水盤から大地ごとせり上がってきたかのような印象を与えます。外装には建物上部から水が流れ落ち、全体を包み込むように覆うことで、生命の循環や多様性を象徴する空間が演出されています。

Ⅲ.木材が多く使用されたパビリオン
会場を歩いていると大屋根リングと同様に、仕上げや外装材に木材を積極的に取り入れたパビリオンが数多く見られます。国産のスギやヒノキ、CLT(直交集成板)などが使用されており、自然素材ならではの温かみやサスティナビリティへの配慮が随所に感じられます。
ⅰ.日本館
「いのちの循環」をテーマにプラント・ファーム・ファクトリーの3部構成で表現されたパビリオンです。外装には国産スギ材によるCLT(直交集成板)が使用されており、万博終了後の再利用を前提に解体や転用がしやすい構造が施されています。

ⅱ.チェコ館
最上階の展望テラスへと導く、螺旋状の歩廊が印象的な木造建築です。構造体には主にチェコ産のCLT(直交集成板)を、外装にはボヘミアンガラスを用いたファサードが採用されており、伝統と先端技術が融合したデザインとなっています。展望テラスからは大阪湾や会場を一望でき、建築そのものが体験型の展示空間として機能しています。

Ⅳ.建設3Dプリンターを使用したトイレ・休憩所
近年活用が広がっている建設用3Dプリンターを用いた万博会場内のトイレ・休憩所2か所をご紹介します。
ⅰ.トイレ4
渓谷をモチーフにデザインされたこの施設は、会場の中でもひときわ異彩を放つ存在感です。地域の土を主原料とし、セメントを使用せずにマグネシウム系の硬化剤などで強度と粘性を調整した素材を用いて造形されています。イタリアWASP社の3Dプリンターが現地に持ち込まれ、敷地内を移動しながら積層造形された建築物ですべて自然に還る素材で構成されているのが特徴です。

ⅱ.トイレ7
こちらは再生可能なポリカーボネート樹脂製の半透明パネルで外装を構成したトイレ施設です。パネルは工場で3Dプリントされた後、現地に搬入・組立され、湾曲した形状によって周囲の風景や光を不規則に反射・透過させることで、蜃気楼のような視覚効果を生み出しています。使用されたパネルは、会期終了後に粉砕・再加工され、別の建築用途や製品として再利用されることが想定されています。

Ⅴ.まとめ
本稿では、会場内施設の建築的特徴に焦点を当て、ポイントをまとめました。万博のテーマに沿った設計思想や環境配慮が随所に見られ、建築的な多様性と先進性を体感できるようになっています。世界最大級の大屋根リングは、スケール感と構造美の両面で来場者に強い印象を与える施設です。また、各パビリオンにおける膜材や木材の使用、再利用可能な素材の導入の他、建設用3Dプリンターの活用事例は、持続可能性や素材循環の観点からも注目すべき取り組みで、活用の広がりに期待ができます。今後ご訪問を検討されている方にとって、本レポートが参考情報となれば幸いです。
提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部
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