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ゴルフ場の鑑定評価(前編)

バブル期以降、市場規模が縮小傾向にあったゴルフ市場ですが、コロナ禍以降は回復傾向が見られます。本コラムではオペレーショナルアセットのゴルフ場の鑑定評価について、他アセットとの比較も踏まえ、ゴルフ場特有の評価の視点にも触れながら解説します。
Ⅰ.ゴルフ場市場の動向
ⅰ.ゴルフ場の市場規模と参加人口
日本のゴルフ場市場は1990年代のバブル経済崩壊後、20年以上にわたって縮小傾向が続き、2019年にようやく前年比プラスに転じました。2020年は新型コロナウィルスの影響で落ち込んだものの、2021年以降は再び回復傾向となり、2023年の市場規模は9,390億円となっています。
足元はマーケットの縮小に歯止めがかかった状況ですが、2023年のゴルフ場(コース)の参加人口は530万人で、年代別の参加人口をみると60代以上が約43%、50代以上まで含めると約62%とシニア層が大半を占めています。また、男女別の参加人口は男性が85.5%、女性が14.5%であることから、市場規模を維持するために、若者世代や女性に参加を促す取り組みが課題となっています。


ⅱ.ゴルフ場保有企業動向・ゴルフ場売買価格動向
ゴルフ市場の縮小で経営が苦しいゴルフ場が多い中で、近年、米投資ファンドであるフォートレス・インベストメント・グループ傘下のアコーディア・ゴルフ(AG)と、平和グループ傘下のパシフィックゴルフマネージメント(PGM)の大手2社が買い手となり集約が進んできました。
そして、株式会社平和が2024年12月に株式会社アコーディア・ゴルフを完全子会社化したことにより、現在グループが擁するコース数は300以上となり、国内グループの中では2位以下を大きく引き離しています。
グループ名 | 2024年国内既設 | 2023年国内既設 | |||
---|---|---|---|---|---|
コース数 | ホール数 | コース数 | ホール数 | ||
1. | 1-1. アコーディア・ゴルフ | 172 | 3,598 | 171 | 3,580 |
1-2. 平和・PGMグループ | 147 | 3,204 | 146 | 3,186 | |
計 | 319 | 6,802 | 317 | 6,766 | |
2.市川ゴルフ興業グループ | 30 | 567 | 30 | 567 | |
3.西武グループ | 20 | 441 | 20 | 441 | |
4.東急グループ | 21 | 423 | 21 | 423 |
年度 | コース数 | 平均売買価格 |
---|---|---|
2024年度 | 10コース | 10億3,520万円 |
2023年度 | 8コース | 18億6,563万円 |
2022年度 | 14コース | 7億1,719万円 |
2021年度 | 16コース | 7億 533万円 |
2020年度 | 20コース | 12億6,947万円 |
※平均売買価格は基本的にゴルフ場用途の成立価格
※2024年度は平和によるアコーディアゴルフ買収を除いて算出
出典:「ゴルフ場企業グループ&系列2025年」(一季出版株式会社)
ⅲ.ゴルフ場収入及び利用者数の推移
特定サービス産業動態統計調査(経済産業省)によると、2024年のゴルフ場の収入合計は約1,050億円で2023年比約0.8%減、同年のゴルフ場利用者数は約1,031万人で2023年比約1.8%減となりました。2020年は新型コロナウィルスの影響で落ち込んだものの、2021年以降は収入、利用者数とも回復しました。
収入内訳推移をみると、2024年は2018年に比べてゴルフ場収入は約27%増、食堂・売店(直営)収入は約17%増、キャディフィが約16%減で、収入合計は約18%増となっています。また、同年の比較でゴルフ場従業者数は約16%増、キャディ数は約17%減となっています。ゴルフ場の収入は全体では上向きですが、キャディ付きのプレーは減少しています。


Ⅱ.ゴルフ場のアセットとしての特徴及び価格形成要因
ⅰ.不動産の価格形成要因
さて、ここからは不動産の鑑定評価の視点を交えて本題を進めていきます。
立地条件の良否や建物の築年数など、不動産の価格に影響を与える要因を価格形成要因と言います。価格形成要因が鑑定評価額(不動産の価格や賃料)に及ぼす影響について、わかりやすい例をあげると、マンションであれば、駅近や新築物件ほど分譲価格や家賃が高くなる、といった具合です。
ゴルフ場の価格形成要因の話の前に、一般的なアセットであるオフィスビルの価格形成要因をまとめると次表のとおりとなります。オフィスビルの価格形成要因はたとえば気象条件やインバウンドなどの要因によって変化するといったことが少ないため、収益に与える不安定要素が少なく、将来の収益も安定的に推移すると考えられています。
価格形成要因 | プラスとなる要因 | マイナスとなる要因 |
---|---|---|
立地・アクセス | ・都心に近い ・最寄り駅に近い |
・地方都市 ・最寄駅から遠い |
築年等 | ・築浅 ・リニューアル工事済 |
・築古 ・旧耐震 |
権利形態 | ・完全所有 | ・借地 ・区分所有建物 |
ⅱ.ゴルフ場のアセットとしての特徴
次にゴルフ場の価格形成要因について考えていきます。
日本において、投資用不動産のアセットとしてはオフィスビル、レジデンス、商業施設、物流施設、あるいはゴルフ場と同様にオペレーショナルアセットであるホテルなどが代表的ですが、ゴルフ場はこれらのアセットとは異なる特徴があります。
次表のようにオフィスビルやホテルと比べてみるとゴルフ場との違いがわかります。
オフィスビル | ホテル | ゴルフ場 | |
---|---|---|---|
主たる利用対象 | 土地建物 | 土地建物 | 土地 |
新規供給 | 有り | 有り | ほとんど無し |
自然的要因(季節・天気等)の影響 | 影響度 小 | 影響度 小~大 | 影響度 大 |
オペレーションや経営への依存度 | 依存度 小 | 依存度 中~大 | 依存度 大 |
アセットが生み出す収益の不動産(土地建物)への配分 | 不動産に帰属する割合が高い | ビジネスホテルやシティホテルなど、ホテルのタイプにより異なる | オペレーションや経営に帰属する割合が高い |
ⅲ.ゴルフ場の価格形成要因
上記でみたように、ゴルフ場は他のアセットと異なる特徴があるので、これらの相違点を、ゴルフ場が本質的に有している価格形成要因として把握し鑑定評価を行います。
ここでは、ゴルフ場にかかわる価格形成要因をもう少し詳しく理解するため、次の表にゴルフ場の主な価格形成要因をまとめました。
プラスとなる要因 | マイナスとなる要因 | |
---|---|---|
気象条件 | ・年間を通して温暖で晴天が多い ・温暖化による冬場のクローズ減少 |
・雨天が多く、台風の進路になりやすい ・冬場のクローズ ・温暖化による夏場の酷暑 |
アクセス | ・都心、インターチェンジ、最寄駅からのアクセスに優れる ・リゾート地 |
・都心からのアクセスが不便 ・人口が少ない地方のゴルフ場 |
知名度 | ・ツアー開催 ・伝統と格式 ・著名なコース設計者 |
― |
メンバーの存在 | ・プレーフィー、年会費など収入の安定化 | ・プレーフィー単価の下落 |
土地の権利形態 | ・借地なし | ・借地あり |
マネジメントの良否 | ・マネジメント優れる ・企業グループのノウハウ |
・マネジメント劣る |
用途の多様性(出口) | ・多用途への転換が可能な都心やリゾート地のゴルフ場 | ― |
気象条件、知名度など、オフィスには無いゴルフ場特有の価格形成要因があることがわかります。
さらに、最近のマクロ経済動向なども踏まえながら、ゴルフ場の価格形成要因にかかわるトピックスを3つ挙げてみます。
(Ⅰ)気象条件
気象条件は、リゾートホテル・テーマパーク・スキー場・キャンプ施設など、ゴルフ場以外のオペレーショナルアセットも影響を受けますが、とりわけ天候によって来場者数が大きく左右されるゴルフ場経営への影響は大きいと言えます。
近年の地球温暖化は社会に様々な影響を与えていますが、ゴルフ場も例外ではありません。夏の猛暑は客足を鈍らせ、また、芝などのコース管理費やクラブハウスの冷房費増加は、ゴルフ場の収益にマイナスの影響を与えるでしょう。逆に、降雪エリアのゴルフ場は冬場のクローズ期間が減少し、収益が上向くゴルフ場があるかもしれません。
(Ⅱ)日本の構造的な人口減少、高齢化、労働力不足
高齢化によるゴルフ参加人口の減少は最も懸念されるところです。ほかにも、すでにキャディ数は年々減少しており、将来、キャディ付きのプレーの維持が難しくなると、セルフプレー前提の設備投資を行っていないゴルフ場は収益性が減少するリスクがあるでしょう。また、高齢化等によるマイカー保有率の減少は、マイカーでの来場を前提としているゴルフ場の収益にマイナスの影響を与えるかもしれません。
(Ⅲ)インバウンド
近年のインバウンドの影響はホテルで顕著となっており、ゴルフ場への影響はまだ限定的と考えられますが、ホテルとのパッケージでインバウンド獲得に力を入れるゴルフ場の運営会社も見られるようになり、今後はゴルフ場の収益にプラスの影響を与える要因になりうると考えられます。たとえば、富士山を眺めながらのプレーはゴルフ好きの外国人にとって魅力的ではないでしょうか。
価格形成要因は鑑定評価の結果に大きな影響を与えます。ですから、ゴルフ場の評価の依頼を受けた不動産鑑定士は、実際に現地に赴き支配人のお話に耳を傾け、時間が許せばプレーも楽しみながらコースを検分し、評価対象ゴルフ場の価格形成要因を幅広く把握します。そして、価格形成要因がゴルフ場の収益に与える影響の分析を慎重に行い、次に説明するゴルフ場の鑑定評価手法の適用につなげていきます。
ここまで、ゴルフ場の市場動向、アセットとしての特徴、価格形成要因について解説してきました。後編では、鑑定評価の手法、特に収益還元法による試算について解説します。
株式会社中央不動産鑑定所
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