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2014.10.14.
「持分あり」の医療法人の相続税問題と「持分なし」への移行対策
Provided by 税理士法人タクトコンサルティング
株式会社タクトコンサルティング
1.「出資持分あり医療法人」の相続税問題
医療法人は、通常の事業法人とは異なる相続の問題があります。「社団たる医療法人」と「財団たる医療法人」があり「社団たる医療法人」は、定款に出資持分に関する定めの有無から「持分あり医療法人」と「持分なし医療法人」に区分されます。「持分あり医療法人」の出資持分相続税評価は、医療法人の剰余金配当が禁止(医療法54条)であることから「配当還元方式」が適用されません。よって同族株主等の判定は不要で、すべての出資持分が「原則的評価方式」での評価となります(財基通194-2)。高収益の医療法人は、剰余金配当禁止から純資産価額が多額となる傾向となります。出資者の相続時の出資持分の相続税評価額が多額となる場合に、相続税の納税方法が悩みとなります。納税資金の調達手法として事業法人が利用するいわゆる相続の金庫株制度(措法9条の7)を医療法人は使えません。医療法人が保有する内部留保を相続人の納税資金に活用することが困難です。また、死亡退社に伴う出資持分に応じた出資持分請求金額が多額となることもあります。
2.認定医療法人の相続税・贈与税の納税猶予・免除制度(措法70条の7の8・措法70条の7の5)
既存の「持分あり医療法人」は、「経過措置医療法人」として当分の間は存続が可能となっています。しかし厚生労働省は、地域の安定した医療提供を目的として「持分あり医療法人」から「持分なし医療法人」への移行を促進しています。この促進策として「持分なし医療法人」への移行について計画的な取り組みを行う医療法人に対して「医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予・免除制度」があります。
「持分あり医療法人」の各出資者の死亡による相続税及び一部出資者の持分放棄による贈与税が課される場合です。その相続税及び贈与税については、「持分なし医療法人」への厚生労働省の移行計画の認定を受けて、納税猶予の手続きを行って認定の日から3年以内の出資持分の放棄により猶予税額が免除されます。なお、移行計画の認定実施期間は、平成26年10月1日から平成29年9月30日までです。
(注)上記税制の概要については、2014.01.20掲載コラムをご参照ください。
3.「出資持分なし医療法人」になっても同族経営を維持したい場合の課税関係
各出資者全員が持分放棄に合意している場合には、上記の移行計画の認定制度を利用しなくても、出資持分同時放棄と残余財産の帰属先を国等への定款変更で「持分なし医療法人」へ移行が可能です。
しかし、特定医療法人・社会医療法人でなく「一般の持分のない医療法人」への移行した際に、医療法人に対して贈与税が課税される場合があります(相法66条1項、4項)。課税されないためには、役員等の親族割合1/3以下等の贈与税非課税となる要件(相令33条3項)を満たす必要があります。
【全出資者が出資持分を同時に放棄して、「一般の持分なし医療法人」(同族経営維持)に移行の場合】
課税関係を整理しますと、出資者全員が持分を同時に放棄する場合は、各出資者に対して、贈与税・所得税等の課税の問題は発生しません。ただし、同族経営を維持する場合、前記の贈与税非課税要件に該当しませんので、医療法人を個人とみなして贈与税が課されます。この贈与税が課税されるときの贈与財産は、出資持分の相続税評価額です。贈与日は、定款変更の認可日とされています。医療法人の株価が引き下がった時期に定款変更すれば贈与税負担が軽減されます。この医療法人に課される贈与税は、実質的に個人が支払う相続税を医療法人が代わって支払うことになります。贈与税が課税されますが、個人である各出資者のその後の相続税の心配がなくなり、同族経営も維持出来ます。
【略称】財基通:財産評価基本通達、措法:租税特別措置法、相法:相続税法、相令:相続税法施行令