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2014.09.22.
〈被相続人の財産〉か、それとも〈相続人の財産〉か Part2
Provided by 税理士法人タクトコンサルティング
株式会社タクトコンサルティング
1.はじめに
7/22のコラムで、いわゆる名義預金の問題を取り上げましたが、名義預金の帰属が争われた別の裁判の判決(東京地裁・平26.4.25)の概要を紹介します。
この裁判は、相続税の申告書で亡A(平成21年に死亡)の相続財産として申告をした預金のうち、相続人の一人である原告(亡Aの長女) 及び原告の子らの名義の預金 (本件預金) について、亡Aから名義人 (=原告ら) が生前に贈与を受けたもので、亡Aの相続財産ではなかったとして、原告が更正の請求 (税務署に対する税額の減額申請) をしたところ、税務署から減額の理由がない旨の通知処分を受け、それを不服として裁判に至ったものです。争点は、本件預金につき、上記太字部分のこと(贈与者に贈与の意思があり、受贈者にもそれを受ける意思があってそれが合致したこと)が認められるか-です。
2.裁判で認定された主な事実
(1)本件預金は、平成4年から平成11年までの間は、概ね1年に1回の頻度で新たに預け入れられた。(2)本件預金の預入金額は、概ね贈与税の基礎控除額の範囲内だった。(3)本件預金のうち平成11年11月25日以前に設定されたものについては、2口分を除き、同日付けで、原告の住所地への住所変更、旧姓から現姓への氏名変更、届出印の変更が行われた。(4)本件預金のうちその後に開設されたものは、当初から原告の住所地が住所とされ、届出印も原告が用意した印鑑が使用された。(5)亡Aは、平成14年に行われた原告とそれ以外の名義の預金の解約に伴い、その解約資金から原告に金銭X円を交付した。(6)原告は、平成15年以降、亡Aから変更後の届出印の返還を受け所持していた。
これらの事実(だけ)からは、本件預金につき生前に原告らへの贈与があった可能性もうかがえます。しかし、その一方で、亡Aが本件預金を管理・支配していたことを示す次の事実を認定しました。
(7)亡Aは、昭和55年頃から、原告ら親族の名義の預金を多数開設していたが、これらを一括して亡A本人の預金とともに自身の手帳に記録していた。(8)本件預金は、いずれも、亡Aが、自らの財産を原資として定期預金としたものであり、平成11年11月25日以前に預け入れられたものについては、預け入れの際、名義人の住所は亡Aの住所地とされ、届出印は亡Aが保管していたものが利用された。(9) (3)の手続や、その後の新規預け入れに係る手続も亡Aが行った。(10)亡Aは、上記各手続をした後も、また、平成15年以降、原告に対して変更後の届出印を返還した後も、本件預金に係る証書を自ら保管し、原告らに交付しなかった。(11)亡Aは、平成14年5月2日と20日、原告を含む親族名義の預金を解約し、その合計額は約Y円、そのうち原告名義の預貯金は約Z円であったところ、亡Aは、原告に対し、同年6月3日、Z円を上回る金額X円を交付した。(12)亡Aは、(11)の平成14年5月20日の解約による金銭を自己の普通預金に入金し、その後、同預金から引き出した金銭で亡A名義の土地を取得した。(13)原告は、(3)の手続の以前には本件預金の全容を正確に把握していない。(14)本件預金に係る贈与契約書は作成されていない。
裁判所は、以上の認定事実から「亡Aにおいては、昭和55年頃当時又はその後の各預入の当時、将来の預入金額又はその後の預け入れに係る各預入金額を、直ちに各名義人に贈与するという確定的な意思があったとまでは認められない」と判断しました。そうすると、当事者間の贈与と受贈の意思の合致を要件とする贈与契約は成立していないという外ありません。原告の主張は退けられ、税務署の処分が認められました。
3.判決の分析
2の事実を総合すると、本件預金の管理・処分の権限は一貫して亡Aにあったといえます。そのことは本件預金の所有者が亡Aであることを顕著に示すものですから、裁判所の判断は妥当と思われます。贈与契約書がないことも問題ですが、原告らが、本件預金を自由に管理・処分できる状態に一度も置かれたことがないことが決定的です。届出の印鑑を原告が保管するようになっても((6))、証書がなければどうにもなりません。原告は、それは亡Aが預かっていた、と主張しましたが、上記下線部を否定するだけの事実を伴っていません。親族間の贈与であれば、なおさら贈与契約書は作っておくべきですが、それ以上に、その名義人にその預金の贈与があったのであれば、受贈者たる名義人がそれを自由に引き出して使うという事実、又は、同人がいつでもそれができる状況があるべきです。