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2014.07.22.
‘被相続人の財産’か、それとも‘相続人の財産’か
Provided by 税理士法人タクトコンサルティング
株式会社タクトコンサルティング
1.はじめに
国税庁発行のパンフレット「相続税の申告のしかた(平成25年分)」に、次のQ&Aがあります。
問:父(被相続人)の財産を整理していたところ、家族名義の預金通帳が見つかりました。この家族名義の預金も相続税の申告に含める必要があるのでしょうか。
答:名義に関わらず、被相続人の財産は相続税の課税対象となります。したがって、被相続人が購入(新築)した不動産でまだ登記をしていないものや、被相続人の預貯金、株式、・・等で家族名義や無記名のものなども、相続税の申告に含める必要があります。」(下線は筆者)
家族(相続人)名義となっている財産でも、「被相続人の財産」は相続税の課税対象だということです。「被相続人の財産」か否かが問題になる家族名義の財産の帰属は、どのように判断されるのか、最も一般的な家族名義の預金が問題になった裁判例により確認します。
2.平成20年10月17日東京地裁判決
(1)表題の判決では、被相続人の妻名義の預金(「本件預金」)が、「被相続人の財産」か否かが争われました。
相続人側は、本件預金は、被相続人から生前に妻に贈与されたもので「被相続人の財産」ではないと主張していましたが、税務署はそれを認めず「被相続人の財産」であるとして更正したために訴訟になりました。
(2)裁判所の一般的な判示事項
裁判所は、被相続人以外の者の名義である財産が相続開始時において被相続人に帰属するものであったか否かの判断につき、「1.その財産の取得原資の出捐者、2.その財産の管理及び運用の状況、3.その財産から生ずる利益の帰属者、4.被相続人とその財産の名義人並びにその財産の管理及び運用をする者との関係、5.その財産の名義人がその名義を有することになった経緯等を総合考慮して判断する」べし、と判示しました。
(3)財産の名義
裁判所は、要旨「一般的には、財産の名義は、財産の帰属の判定の重要な一要素となり得る。しかし、我が国においては、夫が自己の財産を、自己の扶養する妻名義の預金等の形態で保有するのも珍しいことではないことは公知の事実であるから、本件預金の帰属の判定において、妻名義であることの一事をもって妻の所有であると断ずることはできない」と判示しました。
(4)本件預金の管理・運用状況
裁判所は、本件預金について、妻が自ら管理・運用していたことは認め、一般に、財産の帰属の判定において、財産の管理及び運用を誰がしていたかということは重要な一要素となり得る、としながらも、「夫婦間においては、妻が夫の財産について管理及び運用をすることがさほど不自然とはいえないから、これを殊更重視することはできず、その他の事情をも考慮すると、妻が本件預金の管理及び運用をしていたことが、本件預金が夫ではなく妻に帰属するものであったことを示す決定的な要素とはいえない」と判示しました。
(5)本件預金の名義人が妻であることになった背景・経緯と本件預金の取得資金の出捐者等
裁判所は、夫は、妻に全財産を相続させる旨の遺言書を作成し、知人に自分の死後の妻の生活を心配している旨の手紙を書いていること、原告(先妻の子供)らと妻の間の関係は険悪なものであったことを認定しました。裁判所は、被相続人の遺言の内容や心配していたこと等について、そう認定したことに続けて、本件預金の原資はいずれも夫が出したものであることも認定しました。その上で、要旨「夫と妻の年齢差も考慮すると、夫は妻の生活について金銭面で心配を有していたものの、その心配は、主として自分の死後のことであり、夫が、自分の死後に妻が金銭面で不自由をしないよう、本件遺言書の作成とは別に、自己の財産(本件預金)を妻名義にしておこう(筆者注:それにより、夫の死後、妻が生活資金を本件預金から引出すに当たり、不仲の相続人の協力が必要な名義変更の手続きが不要となる。) と考えたとしても、不自然ではない。」と判示しました。さらに、「実際に妻に生前贈与した不動産の持分については、妻がX税務署長に対して贈与税の申告を提出していたのに、本件預金については贈与税の申告をしていないことも考慮」し、夫が本件預金の原資を妻に生前贈与したものと認めることはできない(=本件預金は夫の財産)と結論付けました。
3.まとめ
「被相続人の財産」か、それとも生前贈与によるものかは、その財産の名義や管理・運用の事実だけでは決定できず、原資の提供者と名義人と関係、原資提供者の心情の合理的推定を中心に、贈与税の申告の有無等も考慮され判断されると言えます。