ガイアの風から『水たまりの向こうに』
「おうちに帰ろ」の撮影を担当しているカメラマンの李朋彦氏。
その李氏が始めてカメラを手にしたのは『何でもいいから撮ってこい』とカメラマンだった父親からニコンの1眼レフカメラを渡された10歳の時。それから40年近く、カメラと共に生活をしている李氏に、写真の楽しみ方を伺いました。
家の形は国ごとに特徴があってすごく新鮮です。
難しく考えすぎずに、身近なことに注目してください。その中で、誰かに伝えたい、残したいと思えるものから撮り始めることです。それを連続して撮っていくことで、そこにテーマが生まれます。もちろん、撮りたいものがあれば、それをしばらく撮り続けることです。テーマはあなたの目の前にあります。
「親父がカメラマンだったからかもしれませんが、カメラはいつも目に触れるところにあって家族で楽しむというよりも親父の仕事道具として触ってはいけないものでした」それを突然眼の前に差し出されて「さあ撮ってこい」といわれた李氏。「そこからですね。カメラとは何なんだろう、写真を撮るということはどういうことなんだろうということを考え始めたのは」。
――李氏が考える写真を楽しむ方法とは
「テーマを持つこと。花でも子供でも自分が好きだと思うものをテーマに撮っていくことです。家族のイベントなど思い出を残すという考えもありますが、もう一歩踏み込んで写真を楽しもうとしたら連続性の楽しさ、例えば今回のダカフェ日記の森さんのように『家族』を何年も続けて撮っていくとか、愛犬の日々の行動を観察日記風に撮っていくとか、そんな連続性の中にもうひとつの写真の楽しみ方があると思います。」
――テーマはそう簡単にみつけにくいのですが
「写真は歩いて撮れ、と言われます。歩けば偶然の被写体と出会って、それが偶然のシャッターチャンスを生むこともありますよね。旅先などの自然の風景や祭りの一瞬の動きとか、散歩の途中でも考えられないような感動の瞬間と出会うこともあるし。さあ撮るぞ、と構える時もあれば、何気なく見かけたものを撮っていくこともテーマになると思います。」
――最近のデジタルカメラは機能が充実しているし、撮影の途中に内容の確認ができますから失敗も少ない。そうなるとプロとアマチュアの違いはどこにあるのですか
「テーマとの取り組み方でしょうね。カメラマンや写真家にとってテーマは生きる術ですから。もちろん照明を生かして撮影するスタジオ内の撮影は別にして、仕上がりの差はなくなってきているかもしれません。オーバーかもしれませんが、被写体と向き合ったら、プロはどんな時もすべてが真剣勝負です。」
――プロはどうやってテーマをみつけていくのですか
「写真家は一生のうち3本のテーマを追いかけるといわれます。僕の場合、在日という特殊な環境が自分のテーマを生みました。まだ見たことのない母国を撮影したい、3世の自分がみた母国を在日1世に見せてあげたい、そういう思いに突き動かされて19歳の時から『韓国』をテーマに撮影をしています。仕事で世界中をまわることもあって、そこで感じた『風』も僕のテーマのひとつですね。」
――「風」とは抽象的ですが
「それは僕に限らず、誰でも感じられるものだと思います。散歩に出かけたり、旅行に行った先の街角を歩くだけでも「風」を意識する瞬間がありますよね。そんな時、自分の目に入ってきたものを撮ってみてください。それを「風」というテーマでまとめることもできますよね。それを自分のテーマとして撮り続けてみるとそこに連続的なおもしろさが発見できたりして楽しいですよ。」
――テーマは身近なところからということですね
「そうです。テーマを持つと、これをこう撮りたい、残しておきたい、誰かに見てもらって感動を伝えたい、そんな思いが生まれると思うんです。そこにカメラを楽しむ真髄があるように思います。上達する秘訣でもあるかもしれませんね。」
『風とおる道』
ガイアの風から『道』
プロヴァンスの自然の風景は360度の視界のすべてが写真の被写体と感じるほど、心地良い世界が拡がっています。