岸田総理大臣所信方針演説に見る不動産市場への影響<2022年10月>

2022年10月3日、69日間を会期とする第210回国会において岸田総理大臣の3度目となる所信方針演説 (他施政方針演説1回)が行われました。演説にて表明された内容から、大都市圏等の不動産市場に関連する事項について考えてみたいと思います。

Ⅰ.所信表明演説の概略

岸田総理大臣の所信方針演説で語られたテーマとおおよその分量(首相官邸HP掲載の行数ベース)は以下の通りです。

経済に関連して新たに章立てされた事項は、<物価高・円安対応>、<構造的な賃上げ>、<成長のための投資と改革>です。

<物価高・円安対応>については、今月中に、総合経済対策を取りまとめるとされています。

<構造的な賃上げ>については、特に、個人のリスキリング(学びなおし)に対する公的支援について「五年間で一兆円」行うとされています。新聞の見出しにもなった目玉政策といえるでしょう。

前回からなくなった章は、「四 気候変動問題への対応」「六 地域活性化」です。しかしながらその内容は、<成長のための投資と改革>の一部を構成しています。<成長のための投資と改革>では、科学技術・イノベーション、スタートアップ、GX、DXの四分野に重点を置いて、官民の投資を加速する旨記載されています。

Ⅱ.大都市圏の不動産市場に関連する事項

各章でとりあげられた今後の不動産市場に関連する項目についてとりあげます。

1. 各章に記載された不動産に関連された事項

ⅰ.<物価高・円安対応>

「今月から、ビザなし渡航、個人旅行再開など、インバウンド観光を復活させ、訪日外国人旅行消費額の年間五兆円超の達成」を目指すとされています。本格回復が期待されるホテルや小売業界、地方経済にとって朗報となっています。

また円安メリットを活かし、「半導体や蓄電池の工場立地企業の国内回帰」に取り組むとされています。あらたな工場の設立にも期待がかかります。

ⅱ.<構造的な賃上げ>

官民が連携して、賃上げの実現に取り組むとされています。また、学び直し(リスキリング)への支援策の整備や、日本に合った職務給への移行などの指針を今後取りまとめるとのことです。中小企業の生産性向上もあげられています。

国際的に見ても、日本の労働生産性は高いとはいえないとされており、課題となっています。経済のさらなる発展のための課題克服には必須であるものと考えます。

賃上げ自体は、コスト増となる要因ですから、企業業績の悪化や採用の抑制につながる可能性があります。一方でリスキリングによる、労働者のスキルアップは、付加価値をあげ、オフィスワーカーの増加にもつながる可能性があります。また労働者の所得・生産性の向上による不動産需要やオフィスの賃借料負担力の増加も期待されます。

総じて、短期的には不動産市場に若干のマイナスの影響を与える可能性があるものの、中長期的には大きなプラスの影響となることが期待されます。

ⅲ. <成長のための投資と改革>

前述のとおり、科学技術・イノベーション、スタートアップ、GX、DXの四分野に重点をおくとされています。

どの分野も経済の活性化につながり、いずれは不動産需要につながるものと考えます。

その中でもとくに、GX(グリーン・トランスフォーメーション)に着目したいと思います。GXは脱炭素を推進、再生可能エネルギーに転換して、経済社会システム全体の変革を目指すことと定義付けできます。

GXは、東京都の国際金融都市化にも大きく関連する事項となります。国際金融都市化により、東京のさらなる不動産市場の活性化が期待されています。

東京都は国際金融都市となるための課題への対応について、下記の施策を展開するとしております。

①グリーンファイナンスの推進

②金融のデジタライゼーション

③運用会社を中心とした多様な金融関連プレーヤーの集積

国の政策はこれらを後押しすることが期待されます。演説の中では「年末に向け、~GX推進のためのロードマップの検討を加速します。」としています。

GX以外でも、スタートアップ関連では、オフィスの提供やビジネスへの関与を通じ、不動産業界の取り組みがより活発になることが期待されます。

またDXでは、デジタル田園都市国家構想に関連して、進捗の具体例なども例示されました。これまでの表明演説でとりあげられた都市と地方の是正への姿勢は、あまり感じられない内容になっています。

なお規制改革も取り上げられており、アナログ的規制の一掃が記載されています。

2.さいごに

ようやく、インバウンド観光についての方針が変更され、今後の観光需要に期待がもてる内容となっています。

直接不動産需要の拡大につながる言葉はありませんでしたが、間接的にGXの推進、働き方改革、労働市場への人材供給に関連するリスキリング等が取り上げられています。すぐに形となって影響を与えるものではないにせよ、長期的には不動産市場にプラスの影響をもたらすものと考えます。

総じて、賃上げによる悪影響が軽微ですめば、短期的な大都市圏の住宅・オフィス不動産市場に大きな影響を及ぼすものではない。ホテル・商業不動産については、インバウンド拡大による好影響が期待される、という印象をえました。

出所:いずれも 首相官邸HP より野村不動産ソリューションズ作成

提供:法人営業本部 CRE情報部

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