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2007.11.18:Vol.187

「200年住宅ビジョン」が示すもの

人口減少といった社会問題に加えて、建物の安全性や環境負荷など、これからの社会のあり方において住宅問題が大きくクローズアップされている中、今回取り上げる「200年住宅ビジョン」は、今の首相である福田さんが自民党の住宅土地調査会の会長として1年前からとりまとめていたもので、今、時を得て、政策としての具現化が検討されようとしているテーマです。

2006年6月に制定された「住生活基本法」で、それまでの「量の確保」から「質の向上」=「ストック重視の政策」への転換、が我が国の基本的な住宅政策の方針として示されました。それを「政策提言」としてひとつの形にまとめられたものが、本年5月に自民党から公表された『200年住宅ビジョン』構想です。

200年という数字については、このビジョンによると、住宅のロングライフ化を象徴的に表すものとして「200年」という言葉を用いていると説明されています。現在の建築技術では三世代(=概ね90年程度)の耐久性を実現することは十分可能とされているようですが、これに加えて、適切な維持管理の為の社会的インフラを整備することで、更なる超長期の耐用年数を実現しようとする意図の表れと捉えられます。

しかしながら、現状における我が国の住宅の耐用年数(=「滅失住宅の平均築後年数」) は約30年とされていて、英米に比べても著しく短いものとなっています。ビジョンでは、これは、国民が生涯にわたる労働の対価として取得した住宅が一代限りで取り壊される、あるいは30年かけて住宅ローンを完済した時には資産価値はゼロになっていることを意味すると表現しています。 また、国富に占める住宅資産の割合でみても、米国が30.6%なのに対し、我が国は9.4%と1割にも満たないことも指摘されています。

さて、このビジョンの興味深いところは、200年というスパンの構想のもとに、様々な政策提言が盛り込まれている点にあると言えます。右の一覧にその提言の骨子を列挙してみました。特に、
  • スケルトンインフィルの考え方を明解に打ち出したこと
  • 家暦書という概念で新築時の情報を管理し、その後の改修等の情報も併せて整備する考え方
  • 特にこれからの住宅として重要な分譲マンションについての新たな管理方式等の構築の提言
  • ストックの活用という観点で、特に既存住宅に関する性能や取引についての情報提供の充実
  • それらを実現する為の経済的な支援体制として新しい住宅ローンの考え方が提案されている事
  • 税の面でも消費税や固定資産税等のあり方を検討すべきとしている点
などが不動産仲介分野においても今後関心の高いテーマになるものと思われます。
12の政策提言
(200年住宅ビジョンから抜粋)
  • 超長期住宅ガイドラインの策定
    SI住宅、建設時の性能、流通市場への配慮
  • 家暦書の整備(情報の蓄積)
  • 分譲マンションの維持管理の新たな方式
  • リフォーム支援体制
  • 既存住宅の性能品質に関する情報提供の充実
  • 既存住宅の取引に関する情報提供の充実
  • 住替え支援体制の整備(ローンを含めて)
  • 200年住宅を取得するローンの枠組み
  • 200年住宅の資産価値を活用したローン
  • 200年住宅に係る税負担の軽減
  • 先導的モデル事業
  • 良好な街並みの形成

《新たな住宅ローンの考え方》
  • 1. 債務承継型ローン
      (アシューマブルローン)
  • 2. ノンリコースローン
  • 3. リバースモーゲージ
  • 4. 住宅資産活用ローン

これらの提言を踏まえて、すでに国土交通省でも「超長期住宅」という概念を制度化する検討に入っているようですが、住宅の履歴情報という点では、英国でも昨年から、売主から買主への情報提供義務(HIP:Home Information Pack)制度が実施されているとのことで、近い将来、日本での具体化の可能性もありえるものと思われます。また、環境負荷の低減という世界的な流れにも合致した動きとして今後さらに注目されるかもしれません。
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