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2016.10.24
信託に係る相続税等のみなし課税と受益者連続型信託の受益権の価額の特例
Provided by 税理士法人タクトコンサルティング
株式会社タクトコンサルティング
1. 信託に係るみなし課税の原則と受益権の評価の原則
相続や財産の承継の場面で民事信託が一つのツールとして注目されています。相続税法上、信託契約等によって、委託者がその財産を受託者に信託し、適正な対価を負担せずにその受益者となったときは、受益者は、委託者から贈与(委託者の死亡を基因とする時は遺贈)により、その信託に関する権利を取得したものとして贈与税又は相続税が課されます(同法9条の2)。
そして、上記の通り課税されることになる「信託に関する権利」=受益権の価額(贈与税や相続税の課税価格)は、(1)元本(例えば信託財産がアパートの場合はアパートそのもの)と収益(同じくその賃貸料)の受益者が同じ場合は、信託財産の価額(そのアパートの相続税法上の通常の評価額)とし、(2)元本の受益者と収益の受益者とが異なる場合(このような信託は、一般に「複層化信託」などと呼ばれます。) は、収益の受益者は、その受益権 (収益受益権) の価額を、受益者が将来受けるべき利益を課税時期 (受益権を得た時期) の現況において推算し、その将来の利益につき一定の割引計算をして求める現在価値の合計額として算定します。元本の受益者は、その受益権 (元本受益権) の価額を、信託財産の価額(例えば100)から、上記収益受益権の価額(同80)を控除した残額(同20)として算定することとされています (財産評価基本通達202)。
2. 受益者連続型信託に係る受益権の価額の特例
まず、「受益者連続型信託」とは次の信託をいいます(相続税法9条の3①)。
- 1.信託法91条に規定する信託。具体的には、受益者の死亡により、当該受益者の有する受益権が消滅し、他の者が新たな受益権を取得する旨の定め(受益者の死亡により順次他の者が受益権を取得する旨の定めを含む。)のある信託です。
- 2.同法89条1に規定する信託。具体的には、受益者を指定し、又はこれを変更する権利を有する者の定めのある信託です。
- 3.その他これらの信託に類するものとして政令(相続税法施行令1条の8)で定めるもの
3の詳細は割愛しますが、1では、他の者が新たに受益権を取得する理由が、受益者の死亡に限定されているところ、3により、死亡以外の理由(たとえば、一定の期間の経過や一定のイベントの発生)によって現受益者の有する信託に関する権利が消滅し、他の者が新たな信託に関する権利(当該信託の信託財産を含む。以下この号及び次号において同じ。)を取得する旨の定めのある信託や、当該受益者等の有する信託に関する権利が他の者に移転する旨の定めのある信託も、受益者連続型信託に含まれることになります。
上記の受益者連続型信託に関する権利を受益者が適正な対価を負担せずに取得した場合において、相続税法9条の3-1は、「受益者連続型信託に関する権利(異なる受益者が性質の異なる受益者連続型信託に係る権利(その権利のいずれかに収益に関する権利が含まれるものに限る。)をそれぞれ有している場合にあっては、収益に関する権利が含まれるものに限る。)で、当該受益者連続型信託の利益を受ける期間の制限その他の当該受益者連続型信託に関する権利の価値に作用する要因としての制約が付されているものについては、当該制約は、付されていないものとみなす。」旨定めています。
この規定(特に太字)の意味するところを整理します。まず、受益者連続型信託が1の1の信託の場合は、当初の受益者が、最後まで(自分が死ぬまで) 信託の受益者として受益権を有し続けることができない定め (たとえば、10年後に受益権が消滅し、別の受益者が受益権を取得する定め) がある信託であっても、受益者であることが有限(10年)である、という「制約」はないものとしてその信託財産の価額で評価する、ということです。
次に、受益者連続型信託が1の2の複層化信託の場合は、収益受益権と元本受益権があり、その収益受益権には元本受益権がないという制約があり、さらに、その他の制約が付されている場合もありますが、それ(ら)は「付されていないものとみなす」ので、その収益受益権の価額は、信託財産(そのもの)の価額に等しいということになります。その結果、その複層化信託の元本受益権の価額は、信託財産の価額から信託財産の価額と評価される収益受益権を控除した残額として計算されるためゼロになります(相続税基本通達9の3-1)。つまり、複層化信託の場合、受益権の贈与・相続税の負担は、収益受益権を持つ人に集約されることになります。