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2016.9.6
小規模宅地等の特例で「生計を一にする」実態が問われた事例
Provided by 税理士法人タクトコンサルティング
株式会社タクトコンサルティング
1. はじめに
小規模宅地等の特例の適用をめぐり、相続前から被相続人所有の宅地に居住しその宅地を相続した人が、被相続人と「生計を一にする」関係にあったかどうかについて問題になった裁決事例が明らかになりました(平成27年11月4日裁決)。
小規模宅地等の特例とは、被相続人等の事業用宅地等、居住用宅地等を相続人等が相続した場合に、一定要件のもと、その宅地の課税価格が一定割合減額される特例です(租税特別措置法69条の4第1項)。この特例は、被相続人の宅地の利用者が「被相続人と生計を一にする親族」であって、その親族が相続等により利用している宅地を取得したときにも適用が認められています。こうした状況のもとでは当然に「生計を一にする」とはどのような実態なのかが問題になってきます。その場合に参考になるのが、「生計を一にする」の意義について規定した所得税基本通達2-47です。
2-47法に規定する「生計を一にする」とは、必ずしも同一の家屋に起居していることをいうものではないから、次のような場合には、それぞれ次による。
- (1)勤務、修学、療養等の都合上他の親族と日常の起居を共にしていない親族がいる場合であっても、次に掲げる場合に該当するときは、これらの親族は生計を一にするものとする。
- イ:当該他の親族と日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には当該他の親族のもとで起居を共にすることを常例としている場合
- ロ:これらの親族間において、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合
- (2)親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとする。
2. 事例の概要
裁決書によると、Aさんが住んでいたのは、母親と共有名義の宅地で、もともと父親から相続したものでした。父親が亡くなった際には母親とともに同じ住宅・宅地に住んでいましたが、数年後(平成4年12月ごろ)、Aさんは母親を残したままマンションに転居、その後結婚を機に、母親居住の宅地Bの近所の宅地で、父親から相続し、母親と共有名義になっていた宅地Cに住宅を新築し住み始めました。平成19年ごろから母親は介護施設に入り、その3年後病院で病没しました。Aさんは宅地C等の母親の持ち分に小規模宅地等の特例を適用する旨の相続税の申告をしました。
ところが、税務署側が申告書漏れの預貯金等があったためそれらを相続財産だと認定したほか、被相続人と相続人Aさんには「生計を一にしていた」実態がなかったとして特例の適用を否認したことから、これを不服としてAさんが国税不服審判所に審査請求をしたものです。
3. 生計一をめぐる争い
主な争点は「被相続人と相続人が生計を一にしていたかどうか」です。Aさんは、要旨「被相続人の近隣に居住し、勤務の余暇には起居を共にしており、また朝夕の食事を共にすることも多く、在職中は、勤務中でも週に1、2回は本件被相続人居宅で昼食を摂っており、同社を退職後は本件被相続人居宅に居ることが多く、本件被相続人には、娘の保育園の送迎を依頼していたことから、請求人は、所得税基本通達2-47の(1)のイの要件を満たしている」と主張したほか、「平成8年8月に会社を退職するまでの間、給料の大半を被相続人に渡してきており、昔から1つの財布から各種支払が行われていたのであり、生活の資を共通にしていた」と主張していました。
これに対し国税不服審判所は、「生計をーにしていた」ことについて、「同一の生活単位に属し、相助けて共同の生活を営み、あるいは日常生活の資を共通にしていたことをいうものと解される」とし、「被相続人と同居していなかった親族が「生計をーにしていた」と認められるためには、当該親族が被相続人と日常生活の資を共通にしていたと認められることを要し、そのように認められるためには、少なくとも、居住費、食費、光熱費その他日常生活に係る費用の主要な部分を共通にしていた関係にあったことを要するものと解するのが相当」としました。
その上で国税不服審判所は、電気料金の支払が被相続人と相続人で別々だったこと、また被相続人の介護施設等の費用については、相続人の預金口座から出金されているが被相続人の口座から補てんされていたことが推認されるなどとして請求人が本件被相続人と「生計をーにしていた」親族とは認められないと判断しました。また請求人Aさんの主張については要旨「所得税基本通達2-47の(1)は別居の場合について生計を一にすると認められる場合を定めたものと解される。請求人と本件被相続人は、平成4年12月以降は別居しているものであるが、当該別居が勤務、修学、療養等の都合に基づくものであると認めるに足りる証拠はないから、請求人が所基通 2-47の(1)のイの要件を満たしているとは認めることができず、請求人の主張は採用することができない」としています。