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2016.7.19
一般社団法人を利用した事業・財産の承継に係る注意点
Provided by 税理士法人タクトコンサルティング
株式会社タクトコンサルティング
1. はじめに
一般社団法人は持分の定めのない法人であり、株式会社の株主のような持分を有する者が存在しません。その特徴を利用し、相続税等の節税を図る方法を紹介する書物等が少なくありません。その方法の基本形は、親族間で直接的に財産の相続・贈与を行うのではなく、個人(例えば親)の所有する財産を一般社団法人に譲渡し、その個人又はその推定相続人(その子等)がその法人の理事(又は理事長)となり、また、その後その役職を親族間で交代していくことによって、一般社団法人を通じて実質的な財産を承継していくというものです。譲渡対象となる財産としては、その個人が経営する会社の株式や優良な賃貸不動産などが考えられます。
個人により一般社団法人に譲渡された財産は、その個人の所有を離れ、同法人が所有する財産となっていますから、もはやその個人の財産ではなく、同法人には持分がないため、その理事となって同法人を支配していたとしてもそのこと自体は相続財産となりません。
2. 財産の一般社団法人への譲渡における留意点
財産を一般社団法人へ譲渡した場合、その譲渡をした個人は所得税の譲渡所得課税を受けます。
一般社団法人に対する財産の譲渡をした個人がその譲渡に係る譲渡所得課税を受ければ、その後、その譲渡された財産はその個人に係る相続税の課税対象とならないことは上で述べた通りですが、その譲渡の対価として得た金員は(費消してしまわない限り) 相続財産となります。そうすると、無償で譲渡(贈与)すればどうか、という考えが生じると思いますが、一般社団法人への財産の譲渡を無償又は有償の移転であっても時価の半額未満で行うと、時価で譲渡とされたものとされて、時価で譲渡した場合と同様の譲渡所得の金額が計算されます (所得税法33条、59条)。
また、個人から財産の譲渡を受ける一般社団法人は、時価より安い対価で財産を取得すると、時価との差額を受贈益として益金の額に算入することになります(法人税法22条)。
そして、本題の相続税については、相続税法65条及び66条4項に注意することが必要です。
相続税法65条は、要旨「一般社団法人など持分の定めのない法人で、その施設の利用、余裕金の運用、解散した場合における残余財産の帰属等について特定の者に特別な利益を与えるもの に対して 財産の贈与又は遺贈があつた場合においては、その利益を受けた特定の者(A)が、その財産を贈与又は遺贈した者(例えばAの親)から、直接贈与又は遺贈により取得したものとみなす」としています。
同法66 条4項は、要旨「一般社団法人など持分の定めのない法人に対し財産の贈与又は遺贈があつた場合において、その贈与等により、贈与等をした者の親族等の相続税等が不当に減少する結果となると認められるときに、その贈与等を受けた一般社団法人などを個人とみなして相続税等を課す」としています。
同項のキーワードは「不当」です。相続税等の減少が「不当」か否かの判断基準は、同法施行令33条3項に定められています。そこで定められた要件を満たしていれば「不当」ではないとされ、相続税法66 条4項は適用されませんが、満たさなければ「不当」ということになり、同項が適用されます。
同法施行令33条3項の要件を端的に述べると、1.その運営組織が適正であるとともに、定款等に「理事・監事・評議員等の各総数のうちに親族関係や内縁関係等の特殊な関係を有する者の数が占める割合は、いずれも三分の一以下とする」旨の定めがあること 2.特定の者に特別な利益を与えていないこと 3.解散した場合の残余財産の帰属は、国又は地方公共団体又は公益社団法人等であること等です。
1の「三分の一以下」要件をみると、それでは一族で一般社団法人を支配的に運営できないではないか、という疑問が湧きます。それについては、上記同法66条4項の規定は、「財産の贈与又は遺贈があつた場合」を適用の前提条件としていることに注意してください。つまり、一般社団法人への財産の譲渡が贈与等によらず、その時価を対価とする有償の譲渡により行われている場合はこの前提条件を満たしません。そうすると、同項が適用されることはなくなるので、同法施行令33条3項による「不当」性の判断に至りません。なお、この「贈与」には、著しく低い価額(対価)による譲渡(実質的に贈与である部分が相当ある譲渡)も含まれると解されますから、財産をその時価又はそれに近い金額で譲渡しておくことが、この前提条件から外れ、上記「三分の一以下」基準にとらわれずに一般社団法人を運営するために必要になります。