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2016.6.13
譲渡制限株式の株主に相続が発生した場合の民法・会社法の取扱い
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株式会社タクトコンサルティング
1. 譲渡制限株式の株主に相続が発生した場合における、その株式の発行会社の承認
譲渡制限株式とは、株式会社がその発行する全部又は一部の株式の内容として、その株式を譲渡により取得したときは、その株式会社の承認を要する旨の定めを設けている株式をいいます(会社法2条17号)。
譲渡制限株式をその株主が譲渡する場合は、株式に譲渡制限が付されていることから、その株式を発行する会社の承認が必要となります。しかし、相続による株主の変更(相続人への株式の移転)は、“譲渡”による株式の移転ではなく、相続財産である株式は、相続により当然相続人に承継される(民法896条)ことから、会社の承認は必要ありません。
相続財産である株式は、相続人が数人いる場合には、いったん相続人の共有になります(民法898条)。その後の遺産分割によって、個々の相続財産の帰属が定まり、株式を相続した相続人は株主となります。
2. 相続による株式分散の問題点
株式に譲渡制限を付している中小企業では、創業当初は創業者がほぼ全ての株式を所有していますが、その後相続を繰り返すことで、次世代、そのまた次世代へと株式が親族へ分散し、株主数が増加することが少なくありません。このように、中小企業では相続を繰り返すことによる株式分散リスクがつきまといます。
これらの相続人の中には、会社にとって株主になるのが好ましくない者や、株主となることに興味がない者が存在する場合もありえます。このような場合への対処として、会社法では、相続や合併などで譲渡制限株式の移転があった場合には、発行会社は株主となった者に対し、その株式を会社に売渡すように請求できる旨を、定款で定めることを認めています。これを「相続人等に対する売渡請求」といいます(会社法174条)。
3. 相続人等に対する売渡請求
(1)制度の概要
定款に相続人等に対する売渡請求の規定が定められた場合、株式会社はその売渡請求のつど、株主総会の特別決議により、次に掲げる事項を定めなければなりません(会社法175条1項、309条2項3号)。
- 1.請求する株式の数(会社法108条の種類株式を発行する会社は、株式の種類及び種類ごとの数)
- 2.その株式を有する者の氏名又は名称
この場合において、相続等により株主になった者は、その株主総会において議決権は行使できません(会社法175条2項)。また、株式会社は、相続があったことを知った日から1年以内に売渡請求をすることが必要です(会社法176条1項)。この売渡請求に基づき株式の売買を行う場合の売買価格は、原則として株式会社とその株式を有する者との協議によって決定されます(会社法177条1項)。価格協議がまとまらない場合、株式会社又はその株式を有する者は、請求日から20日以内に裁判所に対し売買価格決定の申立てをすることができ、その株式会社の資産状態その他一切の事情を考慮して裁判所により決定された価格が、売買価格として確定します(会社法177条2項、3項、4項)。
なお、売渡請求に係る自己株式の買取りについては財源規制があり、株式会社が自己株式の買取りを行う場合には、自己株式の取得の対価の総額が分配可能額を超えることができません(会社法461条1項5号)。
この財源規制の基となる「分配可能額」とは、簡単に言えば、株式会社の最終の貸借対照表の純資産の部に計上されているその他資本剰余金の額とその他利益剰余金の額の合計額から、最終の貸借対照表の純資産の部に計上されている自己株式の帳簿価額等及び当期に既に分配した価額をマイナスした残額をいいます(会社法461条2項。下図参照)。

また株式会社は、期中に臨時決算手続(会社法441条)を行うことにより、前期末から配当基準日までの期間分の利益を分配可能額に反映させ、その利益の分だけ分配可能額を増加できます(会社法461条2項2号)。
(2)売渡請求の効力が失われる場合
売渡請求日から20日以内に、裁判所に対して売買価格の決定の申し立てをしない場合は、同期間内に株式会社と株式を売渡す者との間で価格協議がまとまったときを除き、前述(1)の売渡請求の効力は失われます(会社法177条5項)。