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2016.5.9
住宅の譲渡損に係る特例の最近の適用状況
Provided by 税理士法人タクトコンサルティング
株式会社タクトコンサルティング
1. 居住用財産の買換えの場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の適用状況
マイホームの買換えにともなって出た損失をカバーする税務上の特例(租税特別措置法41条の5)の適用件数が、1万件前後の水準になっています。情報公開で得た国税庁のデータ(資産税事務処理状況表)によると、直近の適用状況は次の通りです。
事務年度 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 |
件数 | 12,497 | 9,995 | 9,134 | 9,240 | 10,195 | 9,467 |
※事務年度は7月1日から翌年6月30日まで
この特例は、バブル崩壊以降、不動産の値下がりによって含み損を抱えたマイホーム所有者の「損切り」を推し進めることで、住宅買換えを後押しすることを狙いとして創設されました。平成16事務年度には、21,392件の適用がありました。
2. 制度の仕組み
制度の仕組みは、マイホームを一定の親族以外に売却して出た損失額がある場合、その損失額とその年のほかの所得を損益通算でき、その損失額が他の所得を上回り、その年の所得が赤字になった場合、その赤字を翌年以降3年間繰り越すことができるというものです。適用する場合の主な要件は、次の通りです。
- (1)個人が住む国内の住宅の所有期間が原則として売却する年の1月1日時点で5年を超えること。
- (2)売却する年の前年1月から売却した年の翌年末までに一定の要件を満たす新たな住宅に買換えて居住すること、又は居住する見込みであること。
- (3)買換える住宅の床面積が50m2以上であること。
- (4)買換えた住宅に償還期間10年以上の住宅ローンがあり特例を適用する年の末日に残高があること。
- (5)繰越控除を受ける年の合計所得金額が3,000万円以下であること。
- (6)損益通算を受ける年の前年、前々年にマイホームを売って3,000万円の特別控除の特例など一定の税務上の特例を受けていないことなどです。
3. 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の適用状況
マイホームの買い換えをしない場合でも、所定の要件を満たすケースでは、マイホームの売却損の損益通算、損失の繰越控除ができる特例があります。これは「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算・繰越控除の特例」(租税特別措置法41条の5の2)です。
制度の特徴は、買換えの場合の特例と異なり、売却する住宅に住宅ローンの残債があることが条件になっている点です。損益通算と繰越控除のできる損失の範囲は、原則的には、住宅ローンの残債が住宅の譲渡価額を上回った金額とされています。
国税庁のデータによると最近の適用状況は次の通りです。
事務年度 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 |
件数 | 1,394 | 1,339 | 917 | 860 | 894 | 779 |
平成16年度の制度創設当初は、バブル経済崩壊後の含み損処理を進める機運が高かったこともあり、適用件数は3,256件を記録していました。最近では、年間の適用件数が1千件を割り込んでいる状況で、この制度による含み損処理に一服感が出ていると言えそうです。また最近の報道では、新築、中古とも住宅価格の値上がりを指摘するケースが少なくありません。そうした情勢が適用件数に反映しているようです。
なお、居住用財産の買換えの場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除と特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の2つの特例は、平成28年度税制改正で、適用期限が2年間延長され、平成29年12月31日までとされました。
今後の不動産価格変動の動向とともに、これらの制度の適用状況がどのようになるか、注目したいところです。