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2016.4.04
【Q&A】不動産の贈与の履行後、合意により贈与契約を解除した場合の贈与
Provided by 税理士法人タクトコンサルティング
株式会社タクトコンサルティング
【問】私(61歳)は、所有する貸家(相続税評価額2,500万円)を長男(19歳)に贈与し、名義を長男に変更して所有権の移転の登記をしました。この贈与については、相続時精算課税制度(その適用を受けることにより、長男の贈与税の課税価格から最大2,500万円を控除でき、課税価格がゼロになります。)を選択することで贈与税が生じないようにできることを前提に行いましたが、その贈与後、受贈者である長男の年齢が20歳未満であるため、相続時精算課税制度の適用が受けられず、暦年課税の贈与税(基礎控除110万円のみの控除。)が適用され、長男に多額の贈与税がかかることを知りました。 この場合、私と長男が合意により贈与契約を解除して、名義を私に戻すことをすれば、長男に対する贈与税の課税はなくなるのでしょうか。 |
【回答】
1. 贈与契約の解除があった場合の贈与税の取扱い
(1)原則
不動産などの財産の贈与契約を締結し、登記名義も変更し贈与が履行されたものの、諸事情により当事者が合意して贈与契約の解除が行われる場合もあります。合意による贈与契約の解除があった場合であっても、いったん贈与が有効に成立したことから、その贈与契約に係る財産の移転については贈与税が課税されます(相続税個別通達「名義変更等が行われた後にその取消し等があった場合の贈与税の取扱いについて」(以下「名義変更通達」)11)。
したがって、ご質問の場合に贈与契約の解除を行ったとしても贈与税が課税されます。この場合、受贈者(長男)の贈与を受けた年の1月1日時点の年齢が20歳以上であることを要件とする相続時精算課税制度を選択できないため、暦年課税による贈与税の課税を受けることになります。
(2)特例
贈与者(あなた)と受贈者(長男)の合意により贈与契約の解除が行われる場合には、(1)の原則的な取扱いにかかわらず、次の1~4の要件を全て満たし、かつ、所轄税務署長が、贈与契約に係る財産を贈与税の課税対象とすることが著しく負担の公平を害する結果と認める場合には、特例的にその贈与がなかったものとして取扱うことができます。(昭和39年7月4日「『名義変更等が行われた後にその取消し等があった場合の贈与税の取扱いについて』通達の運用について」4)。
- 1.贈与契約の解除が、贈与した年の贈与税の申告期限までに行われ、その解除が登記名義の変更などで確認できること。
- 2.贈与した財産が贈与を受けた人により売却されたり、担保物件とされたりしていないこと。
- 3.贈与契約に係る財産につき、贈与した人や贈与を受けた人が税金の申告・届出(ご質問の場合は、長男が贈与を受けた貸家の家賃に係る所得税の不動産所得の申告)をしていないこと。
- 4.贈与を受けた人が贈与を受けた財産の果実(ご質問の場合は、長男が贈与を受けた貸家の家賃)を収受していないこと。また、収受している場合は、その果実を贈与した人に引渡していること。
なお、合意による贈与契約の解除が行われ、その贈与に係る財産(貸家)の名義を贈与者(あなた)の名義に変更した場合、税務上その名義変更は贈与として取扱われず、贈与税は課税されません(名義変更通達12)。
2. 結論
ご質問の場合、貸家の贈与契約の合意による解除をこの贈与に係る贈与税の申告期限までに行い、貸家の名義を元の所有者であるあなたに戻す登記を行うなど、前述1(2)1~4の要件を満たすような処理をした場合は、税務署長がその贈与契約に係る財産の価格を贈与税の課税価格に算入することが著しく負担の公平を害する結果となると認める場合に限り、長男には贈与税が課税されないことになります。