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2016.1.7
【Q&A】年をまたいで土地の譲渡契約と引渡しをした場合の譲渡所得の申告年
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株式会社タクトコンサルティング
【Q】
私は経営する同族会社との間で、土地の譲渡契約を平成27年12月末に締結し、28年1月にその土地を引渡しました。この場合、私の土地の譲渡に係る譲渡所得は、平成27年分の所得として申告すべきでしょうか。あるいは、28年分の所得として申告すべきでしょうか。
【A】
1. 譲渡所得の金額の申告時期の原則
各年の譲渡所得の金額の計算においては、「その年中の譲渡に係る総収入金額」を確定する必要があり、それは所得税法第36条により、「その年において収入すべき金額」とされています。つまり譲渡の対価である総収入金額が、「その年において収入すべき金額」に当たるかどうかの判断が必要であり、その判断のための基準を示しているのが、所得税基本通達36-12です。この通達では、譲渡所得の基因となる資産の引渡しのあった日(「引渡日基準」)を原則とし、納税者の選択により、その資産の譲渡に関する契約の効力発生の日(「契約効力発生日基準」)によることも認めています。
「引渡日基準」の場合、譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、資産の譲渡の当事者間で行われる当該資産に係る支配の移転の事実(例えば、所有権移転登記に必要な書類等の交付)に基づいて判定をした、その資産の引渡しがあった日によります。ただし、その収入すべき時期は、原則として、譲渡代金の決済を完了した日より後にはならないので注意が必要です。
2. 契約効力発生日基準を選択する場合の注意点
(1)不動産の売買契約が成立しているか
前述 1の「契約効力発生日基準」は、一般に「契約日基準」とも言われていますが、「契約の効力発生の日」を総収入金額(譲渡代金)の収入すべき時期とするものであり、「契約日」又は「契約書作成日」が無条件に「契約の効力発生の日」となる訳ではありません。宅地等の不動産の譲渡について「契約の効力発生」に至っているというためには、不動産の売買契約が民法上成立している、といえなくてはなりません。
一般に、売買契約は両当事者の合意によって成立します(民法第555条)。しかし、判例(昭和50年6月30日東京高裁判決)では、不動産の譲渡について、売買契約書が作成されたものの、売買契約書で定められた手付金の授受がされていない場合には、売買契約の成立要件が満たされておらず、契約が私法(民法)上成立していない、という考え方が示されています。
契約が私法上成立していない状態であれば、「契約の効力発生」に至っていることにはなりえません。独立当事者間の不動産の売買などの慣行に従い、その契約の締結(契約書の作成・調印)と同時の買主による手付金の支払義務の履行が契約書に定められている場合は、手付金の支払が履行されていることを前提として、その契約書の調印日が契約の効力発生の日ということになります。
契約の効力発生の日の判定に当たっては、契約書の存在とその契約日とされている日だけを確かめるのではなく、手付金の支払条項の有無、その支払条項が有る場合はその履行の有無を確認することが必要です。
(2)手付金の支払条項がない売買契約の場合
手付金の支払条項がない売買契約書が作成されている場合は、ご質問のように売主・買主間に密接・特殊な関係がある場合の譲渡が想定されます。このような場合、第三者間の譲渡に比べるとそのような条件自体が異例であることから、売買につき真に合意があるのかどうか疑いを生むおそれがあります。
しかし、契約書に手付金の支払条項がなく、その授受がない場合であっても、契約書作成後すみやかに代金を全額支払い、登記関係書類等の交付等を経て引渡しが完了しているときは、売買につき真に合意があると考えるべきです。また、手付金の支払条項がない契約書に、契約の効力発生の日を契約書の調印日とする旨の取り決めがある場合は、手付金の授受と無関係に効力の発生を合意しており、手付金の授受がないことは契約の成立に影響しません。よって、手付金の支払条項がないことを理由に、契約書に定められた契約の効力発生の日を否定することはできないと思われます。
3. 結論
ご質問の譲渡所得は、土地の引渡しがあった日の属する年(平成28年)の所得として申告することが原則です。ただし、納税者であるあなたの選択により、その譲渡に関する契約の効力発生の日の属する年(平成27年)の所得として申告することも認められます。
なお、契約効力発生日基準を選択する場合には、上記2(2)のような契約の成立についての疑いが生じないように、極力不動産売買の慣行に従い契約締結と同時の手付金の支払義務を定めた契約書を作成の上、その授受を完了しておくべきでしょう。