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2015.11.24.
組織再編等で個人株主の所有株式が入れ替わる場合の譲渡所得等の取扱い
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株式会社タクトコンサルティング
1. はじめに
会社の経営者が、自社グループ内又はグループ外の企業を相手に、事業の整理・再構築や後継経営者への承継のために合併、分割等の組織再編を行う場合、その会社の経営者等の株主が有する株式の入れ替え(例:被合併法人の株式が合併法人の株式に入れ替わる)が生じます。その‘入れ替え’も税務上は「譲渡」に当たり、原則的には譲渡所得等の発生事由になります。
2. 合併、分割の場合
代表的な組織再編手法である合併で、被合併会社の個人株主は、合併によって被合併会社の株式(旧株)を失い、代わりに合併会社の株式(新株)を取得しますが、被合併会社の株式を失う代わりに、合併会社の株式をその対価として取得するので、旧株の「譲渡」とされ、譲渡所得等が生じる事由になります。ただ、旧株の株主に合併法人の株式(又は合併法人の100%親会社の株式)以外の対価(金銭等)が交付されなければ、対価として取得する合併法人の株式(全部)の取得価額(収入金額)が旧株(全部)の簿価(譲渡原価)と同額とされるので、譲渡損益は差引0となります (所得税法施行令112条1項) 。分割型分割によって分割承継法人の株式を取得した場合も同様の結果となり(同113条1項)、譲渡による所得に対する課税を気にしないで済みます。
株式の入れ替えが起こる組織再編等の中には、本来は入れ替え前の株式の譲渡に当たるものの、所得税法上、譲渡が‘なかった’ものとされ、所得計算の対象外となるケースもあります(同法57条の4)。3でその例を紹介します。
3. 譲渡が‘なかった’とみなされる株式交換、株式移転及び種類株式の転換(同法57条の4の1~3項)
(1) 個人が有する株式(A社株)につき、その発行会社(A社)が株式交換(A社株のすべてを、他の既存の会社であるB社が取得すること)を行うと、B社はA社の100%親会社(「株式交換完全親法人」)になります。A社株を有していた個人株主に株式交換完全親法人となるB社株のみが交付される株式交換により、その個人株主がB社株の交付を受けた場合には、そのA社株の譲渡が‘なかった’ とみなされます。
(2) 個人が有する株式(C社株)につき、その発行会社(C社)の行った株式移転(C社株のすべてを、新しく設立した会社であるD社に取得させること)を行うと、D社はC社の100%親会社(「株式移転完全親法人」)になります。C社株を有していた個人株主に株式移転完全親法人となるD社株のみが交付される株式移転により、その個人株主がD社株の交付を受けた場合も、そのC社株の譲渡が‘なかった’とみなされます。
(3) 現経営者が経営する会社の事業承継又はその株式の相続対策で、その後継者にその会社の経営権(その株式に係る議決権)を集中させることを担保・強化する手段として、次の1~3の種類株式を発行する会社も珍しくありません。
それらの種類株式を有する個人が、その発行会社の取得請求等、種類株式ごとに定められた一定の事由によりその株式をその発行法人に譲渡し、その発行法人から別種の株式(例えば配当優先無議決権株式)のみの交付を受けた場合で、かつ、交付を受けた株式の価額が、譲渡をした1~3の株式の価額とおおむね同額であるときは、その譲渡が‘なかった’とみなされます。
二つ目の条件である「交付を受けた株式の価額が、譲渡をした1~3の株式の価額とおおむね同額」かどうかは、その取得の時期における譲渡した株式と取得した株式の時価を比較することで判定しますが、その際の時価評価は、所得税法基本通達59-6により評価することになると考えられます。
1. 取得請求権付株式
法人がその発行する全部又は一部の株式の内容として株主等が当該法人に対して当該株式の取得を請求することができる旨の定めを設けている場合のその株式をいいます。
2. 取得条項付株式
法人がその発行する全部又は一部の株式の内容として当該法人が一定の事由が発生したことを条件として当該株式の取得をすることができる旨の定めを設けている場合のその株式をいいます。
3. 全部取得条項付種類株式
ある種類の株式について、これを発行した法人が株主総会その他これに類するものの決議によってその全部の取得をする旨の定めがある場合のその種類の株式をいいます。