税制改正、不動産に関するニュースや、相続対策、事業承継等の情報について解説・紹介します
2015.11.9.
生産緑地を宅地に転用する場合の留意点
Provided by 税理士法人タクトコンサルティング
株式会社タクトコンサルティング
1. 生産緑地とは
市街化区域内の農地で「生産緑地地区」の標識を見かけます。生産緑地とは、市街化区域内にある500m2以上の地積の農地のうち、都市計画法により「生産緑地地区」として指定された区域内にある土地又は山林をいいます(生産緑地法(以下、生緑法とします。)2条1項3号、3条1項、都市計画法7条1項2号)。
生産緑地地区の指定を受けると、税制上の優遇が受けられます。固定資産税・都市計画税は農地課税となって税負担が軽減され、相続税・贈与税の財産評価上も通常の市街地農地に比べて有利な評価となり、また、要件を満たせば納税猶予の適用も受けることができます。
2. 生産緑地地区内における行為制限
一方、生産緑地は、農地として管理することが求められます。生産緑地の所有者が、(1)建築物その他の工作物の新築、改築又は増築、(2)宅地の造成、土石の採取その他の土地の形質の変更を行う場合には、原則として、市町村長の許可を受けなければなりません(生緑法8条1項)。
このため、生産緑地地区として指定された土地を宅地に転用をしたり、その土地の上に建物を新築することは制限されます。生産緑地を宅地に転用し、その土地の上に賃貸アパートを建設して活用しようとする場合には、次の3の手順により、生産緑地地区内における行為制限の解除を受ける必要があります。
3. 生産緑地地区内における行為制限の解除の手順
生産緑地地区内における行為制限の解除を受けるためには、次の(1)~(4)の手順を踏む必要があります。
(1)生産緑地の所有者による買取りの申出
都市計画の決定により生産緑地地区に指定された生産緑地は、下記の要件を満たした場合には、買取りの申出をすることができます(生緑法10条)。
1.生産緑地地区指定の告示の日から起算して30年を経過したとき。
2.生産緑地に係る農林漁業の主たる従事者が死亡したとき。
3.主たる従事者が生産緑地に係る農林漁業に従事不可能となる故障があったとき。
(2)市町村長による生産緑地を買取らない旨の決定・通知
生緑法11条1項は、(1)の申出があった場合、市町村長は、その買取りの相手方が定められた場合を除いて、特別な事情がない限り、その生産緑地を「時価で買い取るものとする」と規定しています。しかし、市町村長にとってその生産緑地の買取りは必ずしも義務ではなく、生緑法12条1項が、その買取りの申出があった日から起算して1ヶ月以内に、その生産緑地を時価で買い取る旨又は買い取らない旨を書面でその所有者に通知しなければならないと定められています。
(3)生産緑地の買取りをしない場合の取得の斡旋
市町村長が生産緑地を買い取らない旨の通知をしたときは、その市町村長は、その生産緑地において農林漁業に従事することを希望する者がこれを取得できるように斡旋することに努めなければなりません(生緑法13条)。
(4)生産緑地地区内における行為制限の解除
(1)の申出があった場合において、市町村が生産緑地を買取らず、かつ、(3)の斡旋が成立しなかったことにより、その申出があった日から起算して3ヶ月以内に、その生産緑地の所有権の移転が行われなかったときは、前述2の行為制限の解除がされます(生緑法14条)。
4. 留意点
上記3の通り、生産緑地の宅地転用・賃貸アパートの建設のため、同地区内における行為制限の解除を受けるためには、まず所有者が市町村長に対し、3(1)の生産緑地買取りの申出をすることが求められ、その申出のためには、「生産緑地地区指定の告示の日から起算して30年を経過したとき」等、同1~3のいずれかの要件を満たす必要があり、要件を満たさない場合には、そもそも買取りの申出ができません。
また、その買取りの申出を受けた市町村により、実際に生産緑地の買取りが行われる可能性もゼロとは言い切れません。市町村による生産緑地の買取りは、財政難によりほとんど行われていないという話もありますが、市町村によって、事情が異なることも考えられます。
生産緑地の行為制限の解除を検討する場合には、上記の留意点を考慮し、その所在地の市町村役場の担当部門に事前に相談をすることが不可欠です。