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2015.7.21.
非上場株式の法人税法上の時価評価の問題に係る判決から
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1 はじめに
法人税法では、取引は時価で行われるべきものとして所得計算をします。ある財産の「時価」とは、その用語の通常の意味から、その時におけるその財産の客観的交換価値をいうと解されており、換言すれば、その財産につき,不特定多数の当事者間において自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいうと解されています(判例・通説)。
法人税法基本通達2-3-4は、非上場株式の時価に関し、資産査定による評価益に係る通達である同4-1-5及び4-1-6の取扱いを準用する旨を定めています。
同4-1-5の(1)(の準用)によれば、譲渡の日前6月間において売買の行われたもののうち適正と認められるものの価額があれば、それを時価として採用することになります。法人税の実務上、相互に独立した立場にある者同士の取引において非上場株式の売買が行われた場合のその対価は、時価と推定することが多く、その売買で大きな損が出ていればともかく、多少でも利益が出ていれば、税務調査の現場でも問題にされないことが多いと思います。しかし、「(相互に)独立した」ということは、資本関係(がないこと)に着目してそういわれることが多いものの、あいまいな概念で、独立当事者間の売買における対価は、常に・無条件に時価といえるのか、という疑問があります。
2 最近の裁判例から
非上場会社の株式には通常は譲渡制限が付いており、それを‘創業者一族及びそのグループ会社’以外の者が取得することやその後売却することは、その者の自由な投資判断により行われるものではなく、創業者一族からの働きかけなど、特別な事情があることが普通です。
東京地裁の法人税の非上場株式の時価を巡る裁判例(平成27年3月27日判決)では、食品卸業を営むA社 (非上場会社)とA社を中核とするグループ会社群(A社グループ)の一つであるB社が、それぞれ、A社グループの創業者一族の個人株主から、同グループ内の別の非上場会社・C社の株式を、平成17年3月に1株約4万円で譲渡対価を払って取得したこと(本件取得)が問題になりました。課税庁は、本件取得は低額譲受であり、時価(上記4-1-6により相続税の財産評価基本通達を一部修正して算定)との差額に相当する受贈益がA社とB社に生じているにもかかわらず、両社ともそれを益金の額に算入せず、その分申告漏れとなっているとして更正を行い、その当否が争われたのです。低額譲受を認定されたA社とB社=原告は、B社が、同年10月ころ、ごく僅かなC社株式を平成3年から有していた飲料メーカー(上場会社X社を含む13社。簡略化のため総括してX社とする。) から同株式を4万円よりさらに安い対価で取得していた事実 (対照取引) を根拠に、本件取得は低額譲受とはいえないと主張しました。X社が上場会社で、A社グループとは資本関係の上で完全に独立していて、X社の合理的な経営判断を経て成立した対照取引は、適正な価額の売買事例に当たるという主張です。対照取引は本件取得のほぼ半年後に行われましたが、原告は、問題となる取引の前6月間の適正売買事例があるときにその対価をその問題となる取引における時価とみる同4-1-5の(1)の取扱いは、後約6月の売買事例にも拡大適用されるべきとの立場に立ち、前述の主張をしました。
裁判所は、対照取引が本件取得の‘前’ではなく、‘後’であること等は問題にしなかったものの、要旨「X社とB社が相互に独立した立場にあり、それぞれが合理的な経営判断として取引を行ったものであるとしても、そのこととX社による譲渡が売買実例(筆者注:同4-1-5の (1))として適正なものかどうかは異なる問題で、本件譲渡における価額の形成の要因には、C社株式それ自体の価値以外の要素が相当程度含まれているものとみざるを得ず、その価額をもって純然たる第三者との間で想定される取引の気配値とみなしうるような一般性のある取引とも評価しがたい」と判示し、原告の主張を退け、受贈益の認定は適法だと判断しました。裁判所は、X社は、密接な取引関係にあったA社の先代の社長からの働きかけに応じ、その関係を維持発展させるために同人からC社株式を少量取得したもので、その取得価額(=額面金額)からして、その当時の時価に比べかなり安価であったことや毎年配当があったこと等を認定して上記判断に至っています。対照取引につき、原告の受贈益に対応する寄附金課税がX社に行われていないことも問題にしていません。
時価の判断においては、その基本的意義(1の冒頭)を常に意識し、形式論に走らず、細心の注意を払ってその当否を判断することが肝要です。