税制改正、不動産に関するニュースや、相続対策、事業承継等の情報について解説・紹介します
2015.6.22.
【Q&A】“受益者が存在しない信託”の税務上の取扱い
Provided by 税理士法人タクトコンサルティング
株式会社タクトコンサルティング
【問】
個人甲は、自らを委託者兼受益者、受託者を子乙、甲の死亡後は将来生まれてくる甲の孫が受益者になる旨を定めた信託契約を設定しようと考えています。この場合、甲の死亡時に甲の孫がまだ生まれていないときには、どのような課税が生じるのでしょうか。
【回答】
1.受益者が存在しない信託の税務上の取扱い
受益証券を発行する信託は「法人課税信託」とされます(所得税法2条8号の3、法人税法2条29号の2イ)が、受益証券を発行しない通常の信託においても、受益者の死亡時に、次に予定していた受益者が存在しない場合には、その信託は法人課税信託とされます(法人税法2条29号の2口)。
委託者兼当初受益者である甲の死亡後は、将来生まれてくる甲の孫が受益者になる旨を定めた信託契約が設定された場合に、信託開始後、甲が死亡した時点で孫がまだ生まれていないときは、税務上、この信託は法人課税信託となります(下図参照)。

2.法人課税信託の税務
(1)所得税法上及び法人税法上の受託者の取扱い
法人課税信託においては、受託者である乙は、法人課税信託の信託資産等(信託財産に属する資産及び負債並びに当該信託財産に帰属する収益及び費用をいいます。以下同じ。)と、乙自身の固有資産等(法人課税信託の信託資産等以外の資産及び負債並びに収益及び費用をいいます。以下同じ。)について、それぞれ別の者とみなされます(所得税法6条の2)。受託者としての乙は、所得税法上及び法人税法上「受託法人」として取扱われ、所得税法上及び法人税法上は「会社」とみなされます(法人税法4条の7第1項、所得税法6条の3)。つまり乙は、「もともとの乙」(個人)と「受託者としての乙」(受託法人・会社)のいわば二役があるものとされ、別の者として取扱われることになります(下図参照)。

(2)法人課税信託の委託者に係る課税
委託者兼当初受益者である甲の死亡後は、将来生まれる甲の孫が受益者になる旨を定めた信託契約が設定されたものの、信託開始後、甲が死亡した時点で孫がまだ生まれていない場合の課税関係は、甲が死亡時に、信託財産を受託者としての乙 (受託法人)に贈与したとみなされます(所得税法6条の3第7号)。個人から法人に対して不動産の贈与があったことになるため、所得税法上は時価による譲渡があったとみなされます(所得税法59条第1項)。
(3)法人課税信託の受託者に係る課税
ご質問の場合、受託者としての乙は、1.法人税法上は受託法人として、時価により信託財産の受贈益課税がなされます(法人税法22条第2項)。
さらに、2.法人税と相続税の税率差を利用した節税を防ぐため、相続税法上、受託者である乙は個人のままであり、乙に対して贈与税又は相続税が課税されます。図1の例では、受益者であった甲の死亡により、その信託の受益者が存在しないことになり、かつ次の受益者として予定されているのが甲の親族(孫)であることから、甲の死亡の時に信託の受託者乙が前の受益者である甲から当該信託に関する権利を遺贈により取得したものとみなされ、乙に相続税が課税されます(相続税法9条の4第2項)。 この場合、受託者乙に課される相続税の計算上、1により乙に課されるべき法人税が控除されます(同第4項)。
このように法人課税信託となると、多大な税負担が生じる可能性があります。信託の設定に際しては、法人課税信託に該当しないように、信託契約書の内容について十分な注意が必要です。