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2015.02.16.
ヤフー事件の東京高裁判決に思う~地裁判決との違い
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1.はじめに
ヤフー事件とは、ヤフーにその株式の100%を取得された(本件買収)S社が、その後わずか1カ月でヤフーに合併され(本件合併)、それが、共同で事業を営むための適格合併でS社の法人税法上の欠損金をヤフーが引き継ぐ要件(同法57条3項)を満たすとして、合併後のヤフーがS社の合併前の欠損金を引継いだところ、税務署長が同法132条の2によりその引継ぎを否認したもので、その当否が税務訴訟で争われました。東京地裁判決(平26.3.18)、同高裁判決(平26.11.5)のいずれもが国の否認を是としました。
本件合併では、欠損金の引継ぎのための個別要件の一つである特定役員引継要件(当時の同法施行令112条7項5号。下記2)に関し、ヤフーとS社の間に支配関係の生じる直前にヤフーの当時の社長A氏がS社の副社長 (非常勤) に就任した行為(A氏の副社長就任)が行われ、特定役員引継要件が充足される形になっていましたが、税務署長により、A氏の副社長就任が、法132条の2の「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」行為に当たるとされて否認され、S社の欠損金をヤフーの欠損金とみなして同社の損金の額に算入する計算が否認されたものです。
2.「特定役員引継要件」とは
合併法人と被合併法人との間に支配関係が生じる前から被合併法人の社長、副社長等の経営者クラスの役員(これを「特定役員」といい、A氏はS社の副社長となったのでこれに当たります。) となっている者が、合併後の合併法人でも、同じく特定役員として残ると見込まれることが特定役員引継要件です。その要件が満たされている合併であれば、双方の経営者が共同して合併後の事業に参画し、合併後も共同で事業が営まれているとみることができ、被合併法人の未処理欠損金の引継ぎを認めても課税上の弊害が少ないと考え、欠損金の引継ぎを認める要件の一つとされました。本件合併では、S社の役員はA氏を除く全員が合併の際に退任したので、A氏の副社長就任がなければ、特定役員引継要件を満たせませんでした。
3.高裁の判断の特長
上記地裁判決も高裁判決も、法132条の2により組織再編成に係る行為又は計算の否認が認められるケースには、(1)取引が経済的取引として不合理・不自然である場合、(2)組織再編成に係る行為の一部が、組織再編成に係る個別規定の要件を形式的には充足し、当該行為を含む一連の組織再編成に係る税負担を減少させる効果を有するものの、当該効果を容認することが、組織再編成税制の趣旨・目的又は当該個別規定の趣旨・目的に反することが明らかであるものの二つがある旨判示しています。
地裁判決では、A氏の副社長就任を含む、合併に至る「具体的な事情」を検討し、総合勘案してA氏の副社長就任は特定役員引継要件を形式的に充足するものの、本件合併は、その実質において、共同で事業を営むためのものとはいえず、単なる資産の売買にとどまると評価することが妥当と判断し、特定役員引継要件を形式的に満たすだけで欠損金の引継ぎ=税負担の減少効果を容認することは、同要件を定めた法57条3項及び法令112条7項5号(当時)の趣旨・目的(=合併後の共同事業性)に反することが明らか、としてA氏の副社長就任をそのまま認めて欠損金の引継ぎを認めることは上記(2)のケースに当たり否認できると判断しました。
一方、高裁判決では、地裁が認定した「具体的な事情」に拠りつつ、本件合併の実体を「単なる資産の売買」と評するのではなく、A氏の副社長就任につき、ヤフーの法人税の負担を減少させるという税務上の効果を生じさせること以外に、その事業上の必要は認められず、経済的行動として不自然・不合理だと、その真の目的に照準を合わせた認定をしました。小職には、その認定により、A氏の副社長就任の上記(2)への該当性が一層明確になったと思われ、その意味で地裁判決より厳しい判決になっていると思われます。高裁のこの積極的な認定は、本件の一連の行為に深く関与している関係者のメールの「税務ストラクチャー上の理由でA氏又はB氏に取締役に入っていただく必要があるとのことで・・」との記述、及び、本件買収の対価である450億円のうち、S社の事業自体の価値は250億円程度であり、他の200億円はS社の欠損金の引継ぎによる法人税の節税効果によるものとして両者が明確に認識していたことを、A氏の副社長就任の動機・真の目的を語るものとして大きく評価したことによると思われます。