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2015.02.09.
【Q&A】相続時精算課税を選択した受贈者が贈与者よりも先に死亡した場合の取扱い
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株式会社タクトコンサルティング
【問】
私の父甲は、平成27年1月に死亡しました。父の相続人は私のみです。父は、平成19年に祖父Yから賃貸不動産(贈与時の相続税法上の評価額1億円)の贈与を受けました。父は生前、祖父からこの賃貸不動産以外の財産の贈与は受けていません。父は、その贈与に係る贈与税について提出期限までに申告書を提出するとともに、相続時精算課税の選択届出を行い、贈与税1,500万円を納付しています。なお、父の母である祖母は既に亡くなっていますが、父に賃貸不動産を贈与した祖父Yはまだ健在です。
将来、祖父Yが亡くなった場合に、祖父に係る相続税の計算上、父が祖父から贈与を受けた賃貸不動産の取扱いは、どのようになるのでしょうか。
【回答】
1.贈与税の相続時精算課税
(1)概要
相続時精算課税は、その年の1月1日時点で20歳以上である個人が、その年の1月1日時点で60歳以上である父母又は祖父母から財産の贈与を受けた場合において、贈与税の申告期限までに「相続時精算課税選択届出書」その他一定の書類を贈与税の申告書に添付して納税地の所轄税務署長に提出したときに選択できる税制です(相続税法(相法)21条の9、租税特別措置法70条の2の5第1項)。
相続時精算課税を選択した受贈者(以下、「相続時精算課税適用者」という。)に係る贈与税と相続税の取扱いは、以下の通りとなります。
(2)相続時精算課税に係る贈与税の計算
相続時精算課税の適用を受ける贈与財産に係る贈与税は、相続時精算課税の選択をした年以後、相続時精算課税に係る贈与者(以下、「特定贈与者」という。)以外の者からの贈与財産と区分し、1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額から複数年にわたり利用できる特別控除額(上限2,500万円。ただし、前年以前にこの特別控除額を控除している場合は、2,500万円から既に控除した額を差引いた残額が限度。)を控除後の金額に、20%の税率を乗じて算出します(相法21条の10、21条の12、21条の13)。
(3)特定贈与者に係る相続税の計算
相続時精算課税適用者に係る相続税額は、特定贈与者が死亡した時に、それまでに特定贈与者から贈与を受けた相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の価額と相続又は遺贈により取得した財産の価額とを合計した金額を基に計算した相続税額から、既に納めた相続時精算課税に係る贈与税相当額を控除して算出します。(相法21条の15、21条の16)。相続財産と合算する贈与財産の価額は、贈与時の相続税法上の評価額となります(相法21条の15第1項、21条の16第3項)。相続税額から控除しきれない相続時精算課税に係る贈与税相当額は、相続税の申告により還付を受けることができます(相法27条第3項、33条の2第1項)。
(4)相続時精算課税適用者の有していた相続税の納税に係る権利義務の承継
特定贈与者の死亡以前に、その特定贈与者に係る相続時精算課税適用者が死亡した場合、その相続時精算課税適用者の相続人は、その相続時精算課税適用者が有していた相続時精算課税の適用を受けたことによる納税に係る権利又は義務を承継します(相法21条の17第1項)。
ただし、その相続人のうちに特定贈与者がある場合には、その特定贈与者は、その相続時精算課税適用者の有していた納税に係る権利又は義務を承継しません(同ただし書)。
2.結論
ご質問の場合、死亡した相続時精算課税適用者甲の相続人であるあなたは、前述1(3)より、特定贈与者である祖父Yの死亡時に、その相続税の納税義務を甲から承継することになります。Yの死亡時において、あなたは、(1)甲がYから贈与を受けた相続時精算課税の適用を受ける賃貸不動産の価額(甲が贈与を受けた時の相続税法上の評価額1億円)と、(2)あなたが甲の代襲相続人としてYから相続又は遺贈により取得した財産の価額とを合計した金額を基に計算した相続税額から、既に甲が納めた相続時精算課税に係る贈与税相当額1,500万円を控除した額の相続税の納税又は還付を受けることになります。
なお、父甲の死亡時にあなたが相続を放棄し祖父Yが甲の相続人となる場合、相続時精算課税適用者である甲の相続人が特定贈与者のYのみとなり、前述1(4)ただし書より、Yは甲の有していた相続時精算課税の適用に伴う権利又は義務を承継しません。よって、Yに係る相続税の計算上、甲がYから贈与を受けた賃貸不動産を加算する必要はありません(相続税基本通達21の17-3)。