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2014.12.15.
同族会社に対する貸付金の相続税法上の評価(評価通達205)
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株式会社タクトコンサルティング
1.財産評価基本通達205の概要
同族会社の経営者は、相応の役員報酬を得つつ、その経営する会社に運転資金等を随時貸し付け、その累積額が多額となっている場合があります。貸付金は、相続税法上、その元本の価額+既経過利息の合計額で評価することが原則です(同通達204)。一方、同通達205は、「元本の価額」につき、その実際の回収可能性を考慮し、次の場合には、それぞれに掲げる金額を「元本の価額」に含めないことしています。
(1)債務者について次に掲げる事実が発生している場合:その債務者に対して有する貸付金債権等の金額(抵当権等により担保されている部分を除く。)
イ 手形交換所の取引停止処分を受けたとき
ロ 会社更生手続の開始の決定があったとき
ハ 民事再生法の規定による再生手続開始の決定、会社の整理開始命令等があったとき
ニ 業況不振のため又は営む事業について重大な損失を受けたため、その事業を廃止し又は6か月以上休業しているとき
(2)再生計画認可の決定、更生計画の決定等又は法律の定める整理手続によらない債権者集会の協議により、債権の切捨て、棚上げ、年賦償還等の決定があった場合:これらの決定のあった日現在におけるその債務者に対して有する債権のうち、その決定により切り捨てられる部分の債権の金額及び次に掲げる金額
イ 弁済までの据置期間が決定後5年を超える場合におけるその債権の金額
ロ 年賦償還等の決定により割賦弁済されることとなった債権の金額のうち、課税時期後5年を経過した日後に弁済されることとなる部分の金額
(3)当事者間の契約により債権の切捨て、棚上げ、年賦償還等が行われた場合において、それが金融機関の斡旋に基づくなど真正に成立したと認めるとき:その債権の金額のうち(2)に掲げる金額に準ずる金額
205では、これら3つの例示に加え、それらと並列的に「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれる」債権金額(の全部または一部)についても、「元本の価額」に含めない旨規定しています。
2.「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれる」とは
経営者が貸付金を有する会社の経営が不振で欠損が累積しているような場合、特に、債務超過になっているような状態で相続等が発生すると、表題の「その他・・見込まれる」に該当するのではないか、との思いが浮かびますが、「その他・・見込まれる」の意義については、裁判上二つの考え方があります。
(1)厳格説・・・1の(1)~(3)の事由と同視できる程度に債務者の営業状況等が客観的に破綻していることが明白であって、債権の回収の見込みのないことが客観的に確実であるといえること。(平19.10.30千葉地裁判決等)
(2)緩和説・・・1の(1)~(3)の事由に準ずるものであって、それと同視し得る事態に当たらない場合であっても、貸付金債権の回収可能性に影響を及ぼし得る要因が存在することがうかがわれる場合には、評価時点における債務者の業務内容、財務内容、収支状況、信用力などを具体的総合的に検討した上で、その実質的価値の判断によること。(平16.11.25名古屋地裁判決等)
裁判上は厳格説が多数派で、それゆえ税務署も厳格説を堅持して調査に臨んできます。厳格説は、「その他・・見込まれる」が1の(1)~(3)と並列的に規定されていることを一つの有力な根拠としているようですが、並列とは、並び連ねているというだけで、並んでいるものの同等性・同質性までは本来含んでいません。
また、3つの例示のうち、例えば、1の(2)ロの金額には、厳格説の「債権の回収の見込みのないことが客観的に確実である」とまでいえないものもあると思われますので、厳格説の並列規定論は不十分と思われます。よって、納税者側で主張を工夫すれば、緩和説が正とされる余地は少なくないように思われます。
ただ、緩和説に立つ上記名古屋地裁の事件でも、要旨「貸付先の同族会社が債務超過状態にあったとしても、債権の回収可能性は財務内容だけで決定されるものではなく、その借入を含む資金調達能力や、営業上の信用力などにも大きく左右される」と判示し、その会社が事業を継続していて、銀行借入れにつき、元利金を滞りなく支払い、新規貸付も受けていることなどから、緩和説によりながらも同族会社への貸付金の評価において元本の額の減額は認められませんでした。その回収可能性の判断で、貸付先の会社の事業が継続していることや借入れ先の銀行との関係、その銀行の認識・評価などが重視されていることは参考になります。