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2014.11.10.
【Q&A】評価会社が課税時期直前に合併している場合の非上場株式の相続税評価
Provided by 税理士法人タクトコンサルティング
株式会社タクトコンサルティング
【Q】
私は、株式会社X(X社)と株式会社Y(Y社)の代表取締役を務め、両社の発行済株式の全部を所有しています。小売業を営むX社は業績が好調で毎年多額の利益を計上しています。一方、不動産賃貸業を営むY社は、債務超過ではありませんが、ここ数年は赤字決算が続いています。優良企業であるX社の株式の相続税評価額は高額であり、私も今年70歳を迎えたことから、将来の相続税の軽減対策について頭を悩ませています。
X社の顧問税理士からは、「業績好調のX社が業績不振のY社を吸収合併すれば、X社株式の類似業種比準価額を引き下げることができる。」との提案を受けているのですが、このような株価引き下げのための合併を行った場合における、相続税法上のX社株式の留意点について教えてください。なお、X社とY社は財産評価基本通達(財基通)178に規定する中会社に該当し、X社株式とY社株式の相続税法上の評価額は、ともに類似業種比準価額よりも純資産価額の方が高い価額となっています。
【A】
1.合併による非上場株式の相続税評価額の引き下げ効果
ご質問の場合には、X社がY社を吸収合併することで、次の(1)又は(2)により、合併法人であるX社の相続税法上の評価額(相続税評価額)を引き下げる効果があります。
(1)会社規模の拡大
合併により、X社の会社規模が財基通178に規定する大会社に該当すれば、X社株式は類似業種比準価額のみにより、相続税の評価を行うことになります(財基通179)。X社株式のように類似業種比準価額が純資産価額よりも低い場合、合併により会社規模を拡大することで、株式の相続税評価額を引き下げることができます。
(2)類似業種比準価額(自体)の引き下げ
黒字法人のX社が赤字法人のY社を吸収合併することにより、X社の利益(所得)が圧縮されることになり、類似業種比準価額を引き下げることができます。
2.合併の直後に課税時期がある場合の留意点
(1)合併法人(X社)において類似業種比準価額方式により評価することができない場合
非上場株式を類似業種比準価額方式により評価する場合は、評価会社(X社)における各比準要素(1株当たりの配当・利益・純資産)が適切に把握されることが前提条件となります。この各比準要素は、原則、課税時期(相続発生時や贈与時)の直前期末1年間又は2年間の数値を使用しますが、ご質問のX社のように異業種の会社(Y社)と合併を行うと、合併の前後で会社の事業構成や財務内容が通常大きく変化します。合併直後に課税時期がある場合、具体的には、X社の合併のあった事業年度又はその翌事業年度に相続の発生又は株式の贈与をしたことにより、課税時期の業種が各比準要素を採用する時期(事業年度)の業種と相違する場合は、合併の前後でX社の事業構成や財務内容が大きく変化することになり、類似業種比準価額方式の適用の前提条件である、「各比準要素の適切な把握」ができないことになります。
このような場合は、実務上、X社株式を類似業種比準価額方式により評価ができず、結局、純資産価額方式により評価するほかないと理解されています(参考:大蔵財務協会「平成25年版株式・公社債評価の実務」235頁[質疑8])。ご質問の場合、相続税対策のためにX社がY社を吸収合併したとしても、合併直後にX株式の相続や贈与が生じた場合には、当初の目的である類似業種比準価額方式の利用による株式の相続税評価額の引下げができないことになるので、注意が必要です。
(2)純資産価額方式により株式を評価する場合の留意点
(1)により、X社株式を純資産価額方式により評価する場合、X社は合併によりY社から資産と負債を承継しますが、その資産のなかに土地や建物が含まれる場合には注意が必要です。すなわち、課税時期前3年以内に取得等した土地等又は建物等については、相続税評価額によらず、課税時期における通常の取引価額に相当する金額で評価することが要求されます(財基通185かっこ書)。
合併により取得した土地等又は建物等もこの取扱いの対象となりますので、課税時期における通常の取引価額に相当する金額により評価する必要があります。