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2014.07.28.
個人が賃貸不動産を信託財産とする信託を設定した場合の税務
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株式会社タクトコンサルティング
1.信託の概要
(1)信託のしくみ
信託とは、財産を所有する委託者が一定の目的のため、信託契約などの信託行為によって信頼できる受託者に対してその財産を移転し、受託者は信託行為に基づきその移転を受けた財産(信託財産)の管理・処分をし、信託財産が生み出す収入等を受ける権利(信託受益権)を受益者が有する三者間の法律関係をいいます。
信託契約は委託者と受託者との間で結びます。受託者は、信託契約など信託行為において定めることにより、信託財産から信託報酬を受けることができます。委託者と受益者は、同一人である場合(自益信託)と、別人である場合(他益信託)があります。
(2)信託が活用できる場面
財産を管理・処分し、その財産から得られる利益を受けることができるのは、本来ならばその財産の所有者です。ただし、管理や判断の能力の問題から、財産を管理・処分する人と、その財産から得られる利益を受ける人を別にしたい場合があります。このような場合、信託の活用が考えられます。
例えば、高齢の個人(親)が賃貸不動産を所有する場合は、自益信託を活用し、親が委託者兼受益者、子を受託者、賃貸不動産を信託財産とする信託契約を親子間で結び、受託者である子はその契約に基づき賃貸不動産の私法上の所有者となって管理をすることが考えられます。また、個人(祖父)が未成年者である孫に賃貸不動産を贈与する場合は、他益信託を活用し、祖父が委託者、子を受託者、孫を受益者、賃貸不動産を信託財産とする信託契約を親子間で結び、受託者である子はその契約に基づき賃貸不動産の私法上の所有者として管理し、信託財産から得られる経済価値(不動産賃貸に係る利益)を受益者である孫が得ることが考えられます。
2.信託の設定と運用における税務の取扱い
(1)自益信託の場合
通常の信託について、所得税法第13条第1項では「信託の受益者(受益者としての権利を現に有するものに限る。)は当該信託の信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなし、かつ、当該信託財産に帰せられる収益及び費用は当該受益者の収益及び費用とみなして、この法律の規定を適用する。」としています(法人税法・相続税法にも同旨の規定があります)。この規定により、委託者が自ら受益者となる自益信託の場合は、税務上は受託者へ(信託)財産の移転(譲渡)はなかったものとして取り扱われます。したがって、賃貸不動産を信託財産とする自益信託の場合は、信託設定前と同じように委託者兼受益者の個人が不動産所得に係る所得税の申告をすることになります。
(2)他益信託の場合
委託者以外の者が受益者となる他益信託の場合は、前述(1)で挙げた規定により、委託者から受益者にその信託財産を移転(譲渡)したことになります。他益信託の受益者が適正な対価を負担していない場合は、税務上、委託者から受益者に低廉又は無償の財産の譲渡が行われたことになります。この場合、委託者と受益者がともに個人であれば、委託者から受益者に信託受益権の贈与があったものとされます(相続税法第9条の2第1項)。
賃貸不動産を信託財産とする他益信託については、その賃貸不動産について個人間で贈与があったものとして、受益者が贈与税の申告を行います。その後、毎年の賃貸不動産の収益に係る不動産所得について受益者の個人が所得税の申告をすることになります。
(3)不動産を信託する場合の登録免許税
不動産を信託した場合、その旨の登記をしなければ、その不動産が信託財産に属することを第三者に対抗することができません(信託法第14条)。したがって不動産を信託した場合には、「信託の登記」が必要になります。信託の登記については、家屋の所有権に関してその価格(固定資産税評価額)の0.4%(登録免許税法第9条、別表第一)、土地の所有権に関してはその価格(固定資産税評価額)の0.3%(租税特別措置法第72条)相当額の登録免許税の納税が必要となります。
なお、信託を原因とする不動産の「移転登記」に関しては、登録免許税が課税されません(登録免許税法7条)。
(4)不動産を信託する場合の不動産取得税
信託の設定により、受託者は信託財産である不動産を私法上取得したことになりますが、この場合、受託者に不動産取得税は課税されません(地方税法第73条の7第3号)。