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2014.04.21.
法人税法上の寄附金 最近の裁判例より
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1.はじめに
法人税法上の寄附金(第37条7項・8項)は、一般に「資産又は経済的利益を対価なく他に移転させる場合であって、その行為に通常の経済取引として是認できる合理性が存在しないもの」と解されています (判例・通説) 。
独立当事者間であればともかく、グループ法人の間である価格で取引を行い、その後、その価格を変更することを行うと、事後的な利益調整のための方法・方便として行われたのではないか、という疑いが生じます。
100%子会社が製造した製品の親会社への売買で、取引・決済後に行われたその価格の変更について寄附金該当性が争われた事件 (東京地裁・平26.1.24判決) があります。判決では、その変更による差額は寄附金に当たらないとの子会社の主張が認められました。その判決の概要を紹介し、要点を整理します。
2.原処分庁(税務当局)の主張と子会社の主張
原処分庁は、「本件製品の取引価格を定める両社間の覚書の1条の「合理的な原価計算の基礎に立ち,子会社と親会社間で協議の上決定した価格」とは、変更前の当初取引価格であり、その後の価格変更は,合理的な理由がなく子会社の利益を親会社に付け替えるだけのもので、差額は寄附金に該当する」旨主張しました。
一方、子会社は、「上記条項の文言や両社間の協議の状況からして、当初取引価格はあくまで暫定価格で、半期毎の子会社の実際原価に基づき、総コスト+α方式で決定された価格こそ同条の価格である。子会社は親会社専属の下請製造会社であり、そのように取引後に価格を決定するのは、親会社と子会社が共同してコストを削減し、専属下請の子会社の安定を実現すること等を目的とし、両社の果たす役割・貢献・リスク負担等を基礎とした合理的なものであり、税負担回避目的の利益調整ではない」旨主張しました。
3.裁判所の判断とその考え方
裁判所は、まず、覚書等の契約書の文言、実際に両社間で行われた取引価格を巡る連絡・協議の内容等に基づき、当初取引価格は、その後の変更を前提とする暫定価格というべきもので、本件製品の契約価格として合意されていたと認めることはできない、と判断しました。次に、取引後に変更された価格が、契約価額たる上記覚書1条の「合理的な原価計算・・・・価格」に相応しい内容を持ち、その変更額の算定に利益移転的な意図が認められるか否かが問題だ、と整理しました。
その点に関し、裁判所は、まず、子会社は、親会社からの注文に基づく完全受注生産であり、契約上親会社から受注した本件製品以外の生産・販売を許されておらず,専ら,親会社から借りた工場設備において,同社が企画・開発した製品を,指示された数量だけ生産していること,本件製品の製造では、固定費の割合が相当高く、受注量の変動による損益への影響が大きいことなどを指摘しました。そのうえで、そのような方式で生産・取引される製品につき,半期毎に算定される実際原価を基礎に,それに一定の方法により導かれる金額を加算して正式な価格を決定するという方式につき,一概に不合理であるとまではいえないと判断し、暫定価格で取引した後にそれを変更することの自体の妥当性を認め、最後に、実際に行った価格変更の合理性・非恣意性を検討しました。
その検討において、要旨「本件製品に係る事業の企画,販売促進とブランド維持,商品開発及び子会社が製造に使う原材料等の一部の価格交渉等を親会社が行い、それらに係るコストやリスクも親会社が負担する一方、子会社は,本件製品のみ親会社の指示により製造し、すべて親会社に販売する立場にあることを勘案すると,本件製品に係る事業の損益の帰属判定の一環として両社が実行した本件製品の取引価格の変更・決定は、不合理なものではなく,恣意的利益調整とは認められない。」と裁判所は判断しました。
本件製品取引の契約(合意)価格は「合理的な原価計算・・・価格」であるところ、裁判所は、各回の当初取引価格の変更に恣意性・不合理性はない以上、変更後の価格は「合理的な原価計算・・・価格」に当たり、その結果、原処分庁の寄附金の主張の根幹である‘合意された契約価額の変更’という行為=利益移転行為自体がないことになる、という論理で寄附金が生じる余地はないという結論に至っています。
4.終わりに
裁判所の判断の通り、当初取引価格を両者の契約価額とする原処分庁の認定は無理筋です(国は控訴せず確定)。取引価格の変更が予定される場合は、税務当局の無用の疑念をできるだけ避けるべく、予めその旨を契約書に明記しておき、かつ、その必要性を明らかにしておくこと、また、その変更を恣意性のない方法・金額で行うことが必要です。