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2014.03.24.
会社経営者等が会社の保証債務を履行するために資産を譲渡した場合の譲渡所得の特例
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株式会社タクトコンサルティング
1.保証債務特例のあらまし
(1)特例が設けられた趣旨と税制の概要
非上場会社の経営者の多くは、経営する会社の借入金につき個人保証をしています。したがって、会社が業績不振に陥り、借入金を返済できない場合には、保証人である経営者が会社に代わり返済をしなければなりません。その借入金を返済するため、経営者が自己の資産を譲渡した場合であっても、その譲渡益(譲渡所得)に対して所得税、復興特別所得税と住民税が課税されます。経営者は、資産の譲渡代金により会社の借入金を返済したうえで譲渡益に対する税金も納めることになり、経済的負担が重くなります。このような場合における経営者の経済的負担を軽減するため、所得税法64条2項において、「保証債務を履行するために資産を譲渡した場合の譲渡所得の特例」(以下、「保証債務特例」という。)が設けられています。
保証債務特例とは、債務者(会社)の保証人(その会社の経営者等)が保証債務の履行を求められ、その履行のため所有する不動産等の資産を譲渡した場合、その履行に伴う会社に対する求償権の全部又は一部が行使できないときは、所得税の確定申告を要件に、その行使不能額に相当する金額を、その経営者等の譲渡所得の金額の計算上なかったものとみなす(その結果、譲渡所得税等が課税されない)制度をいいます。
(2)「保証債務の履行があった場合」の範囲
保証債務特例の適用対象となる「保証債務の履行があった場合」とは、原則、民法第446条に規定する保証債務又は第454条に規定する連帯保証人の債務の履行があった場合をいいます。また、それ以外の場合であっても、例えば、会社の債務を担保するため、その経営者の親族が抵当権等を設定(いわゆる「物上保証」)した場合に、その親族が債務を弁済し又は抵当権等を実行され、その債務の履行等に伴い求償権が生ずるときは、「保証債務の履行があった場合」と同様の事情にあるものと認められることから、その資産の譲渡は、保証債務特例の適用対象となります(所基通64-4)。
2.保証債務の特例の適用を検討する際の注意点
保証債務特例の適用を検討する際には、次の要件を満たしているかどうかを確認する必要があります。
(1)主たる債務者(会社)が既に債務を弁済できない状態である時点(状況)において、個人(経営者)がその会社の債務の保証をしたものでないこと。
この点については、要旨「主たる債務者が資力を喪失しており、かつ、保証人が債務者に弁済能力のないことを知りながら敢えて債務を保証するのは、実質的に保証人から主たる債務者に対する贈与又は寄附に該当することから、(上記1(1)の)『求償権が行使できないとき』に該当せず、保証債務特例は適用されない。」とする裁判例があり(昭和57年3月24日名古屋高裁判決)、実務上もこれに則した取扱いがなされています。
(2)個人(経営者)が、保証債務を履行するために資産を譲渡していること。
「保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合」とは、一般的には資産を譲渡し、その譲渡代金で保証債務を履行した場合又は債務を代物弁済した場合における資産の譲渡をいいます。保証人が自己の預貯金で保証債務を履行し、その後に資産を譲渡した場合は、その資産の譲渡は保証債務を履行するためのものとはいえないので、保証債務特例の適用はありません。
これに対し、保証債務の履行を借入金で行い、その借入金を返済するために資産の譲渡があった場合は、形式的には借入金の返済のための資産の譲渡ですが、履行期限の関係から、やむなく資産の譲渡よりも前に借入金により保証債務を弁済することもありえます。よって、その譲渡が実質的に保証債務を履行するためのものであると認められるとき(例えば、借入金による保証債務の履行から借入金弁済のための資産の譲渡までの期間が、1年以内であるとき等)は、保証債務を履行するための資産の譲渡に該当するものとされ、保証債務特例の適用が認められます(所基通64-5)。
(3)個人(経営者)が保証債務を履行した求償権の全額又は一部の額が、主たる債務者(会社)等から回収できなくなったこと。
保証人である経営者が会社の保証債務の履行をした場合であっても、主たる債務者である会社に求償に応じる能力があると認められるときは、経営者は会社に対し求償権が行使できることから、保証債務特例の適用は認められません。