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2013.06.10.
相続税法上の財産評価における基本的な考え方の再確認
Provided by 税理士法人タクトコンサルティング
株式会社タクトコンサルティング
1.はじめに
今年の2月末に、非上場株式に対する財産評価基本通達(評価通達) に基づく相続税法上の評価の当否を巡る税務訴訟 (Y事件) の東京高裁の判決がありました。マスコミ報道もあり、注目を集めた事件でした。結果は、一審に続いて納税者の勝訴で、国が上告を断念し、東京地裁判決(平成24.3.2)を維持した高裁判決が確定しました。Y事件における裁判所の判示のなかで、争点に対する具体的判断に先立って示された、相続税法上の評価方法とその適用のあり方の基本に係る説示を2で紹介し、表題のことを再確認します。
2.相続税法第22条の時価と評価通達の関係
Y事件の東京高裁判決が引用する同地裁判決の判示を示します。
「ア 相続税法22条は、相続により取得した財産の価額につき、・・特別の定めがあるものを除き、当該財産の取得の時における時価によるべき旨を定めているところ、ここにいう時価とは、当該財産の客観的な交換価値をいうものと解される。
イ ところで、相続税に係る課税実務においては、評価通達において相続財産の価額の評価に関する一般的基準を定め、画一的な評価方式によって相続財産の価額を評価することとされている。このような方法が採られているのは、・・その客観的な交換価値が必ずしも一義的に確定されるものではないため、相続財産の客観的な交換価格(時価)を上記のような画一的な評価方式によることなく個別事案ごとに評価することにすると、その評価方式、基礎資料の選択の仕方等により異なった金額が相続財産の「時価」として導かれる結果が生ずることを避け難く、また、課税庁の事務負担が過重なものとなり、課税事務の効率的な処理が困難となるおそれもあることから、相続財産の価額をあらかじめ定められた評価方式によって画一的に評価することとするのが相当であるとの理由に基づくものと解される。
ウ そして、評価通達に定められた評価方式が当該財産の取得の時における時価を算定するための手法として合理的なものであると認められる場合においては(筆者注:この「合理性」が次の1と2の言説が成り立つための重要な前提です。Y事件では、「株式保有特定会社の判定基準のY事件の相続が生じた時点における合理性」が主要な争点でした。) 、1.前記イのような相続税に係る課税実務は、納税者間の公平、納税者の便宜、効率的な徴税といった租税法律関係の確定に際して求められる種々の要請を満たし、国民の納税義務の適正な履行の確保(通則法1条、相続税法1条参照)に資するものとして、同法22条の規定の許容するところであると解され、2.また、取引相場のない株式については、反復継続的に取引がされず、客観的な市場価額が形成されることがないことから、合理的と考えられる評価方式によって時価を評価するほかないものというべきところ、上記1において指摘した観点に照らせば、同通達の定める評価方式によって算定された金額をもってその「時価」であるものと評価することもまた、同条の規定の許容するところであると解される。
さらに、上記の場合においては、同通達の定める評価方式が形式的に全ての納税者に係る相続財産の価額の評価において用いられることによって、基本的には租税負担の実質的な公平を実現することができるものと解されるのであって、同条の規定もいわゆる租税法の基本原則の1つである租税平等主義を当然の前提としているものと考えられることに照らせば、特段の事情があるとき(同通達6参照)を除き、特定の納税者あるいは特定の相続財産についてのみ同通達の定める評価方式以外の評価方式によってその価額を評価することは、たとえその評価方式によって算定された金額がそれ自体では同条の定める時価として許容範囲内にあるといい得るものであったとしても、租税平等主義に反するものとして許されないものというべきである。」
3.おわりに
2の考え方は、相続税法の評価に係る裁判では、ほぼ同様に説示される通説的理解となっています。高裁判決は、2の下線部に関し、上記「以外の評価方式」による評価が正当とされる場合は、「その評価通達が定める評価方式によった場合にはかえって実質的な租税負担の公平を害することが明らかな場合」だと述べています。その当否の判断は、個々の財産の個別の事情の分析次第ですが、その立証責任は課税庁が負うものと解されます。