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2013.04.22.
平成23事務年度版、譲渡所得課税の特例の適用状況
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1.よく利用される特例
国税庁は、事務年度(7月1日から翌年6月30日までの期間)ごとに相続税、贈与税、譲渡所得税といった資産税の事務処理状況を取りまとめています。このほど譲渡所得税の特例がどれだけ利用されたかを示す最新データとなる平成23事務年度の適用件数等が情報公開により明らかになりました。
それによると、不動産の譲渡にかかる国税の特例のうち最も多く適用される特例の上位5位にランキングしたのは、次の特例でした。
1位 収用交換等の場合の譲渡所得等の特別控除(租税特別措置法33条の4) 40,029件
2位 居住用財産の譲渡所得の特別控除(同35条) 31,791件
3位 相続財産に係る譲渡所得の課税の特例(同39条) 11,863件
4位 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除(同41条の5) 9,134件
5位 農地保有の合理化等のために農地等を譲渡した場合の譲渡所得の特別控除(同34条の3) 4,971件
2.特定事業用資産の買換えの特例等の件数増える
適用件数が伸びた特例が、複数ありました。このうち最も増加率が高かったのが、「特定の事業用資産を交換した場合の譲渡所得の課税の特例(租税特別措置法37条の4)」、「特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例(租税特別措置法37条)」でした。前事務年度比、それぞれ16.6%及び15.1%増加、合計で2,663件の適用がありました。東京、大阪、関東信越国税局管内では13%から28%程度の増加が見られました。ただし、この特例の買換え資産である土地については、平成24年度税制改正で、特定施設の敷地で300m2以上に限定されたことが、今後の適用件数に小さからぬ影響を与えそうです。
3.相続財産に係る譲渡所得の課税の特例も増加
次に増加率が高かったのは、「相続財産に係る譲渡所得の課税の特例(租税特別措置法39条)」でした。平成22事務年度は10,915件だったのに対し、平成23事務年度は11,863件と8.7%増えています。この特例は、平成21事務年度に9,546件と、平成15事務年度以降初めて1万件の大台を割り込みましたが、ここへきて適用件数が盛り返しています。今後、相続税の基礎控除引下げ等により相続税の課税対象者が増加すれば、この特例の適用件数はさらに増えることが考えられます。
4.特定居住用財産の買換えの課税の特例は?
「特定の居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例(租税特別措置法36条の2)」も平成23事務年度の適用件数がわずかながら増えた特例です。
この特例は、平成17事務年度に993件と1,000件台を割り込みましたが、その後の景気持ち直しなどにより平成19事務年度に1,244件まで回復していました。しかしリーマンショックの影響からか、平成21事務年度に一気に501件に落ち込んでいました。
また、平成22年度税制改正では、譲渡資産の対価要件について2億円までとされ、平成22事務年度に441件と減少していました。平成23事務年度では、全国でわずか24件ほど増えた状況です。
しかし平成24年度税制改正で譲渡資産の対価要件が1億5千万円まで引き下げられたことから、含み益が大きく、かつ売買価格も高い住宅を売る場合は、「居住用財産の譲渡所得の特別控除(いわゆる3,000万円控除、下記参照、租税特別措置法35条)」の利用が選好され、今後はそれほど適用件数を伸ばすことはないのではないかと考えられます。
5.3,000万円控除について
3,000万円控除と呼ばれて親しまれている「居住用財産の譲渡所得の特別控除(租税特別措置法35条)」の平成23事務年度の適用件数は31,791件です。平成15事務年度以降4万件台をキープしてきましたが、リーマンショック後の平成21事務年度以降、減少し3万件台にとどまっています。
景気回復が本格化し、不動産取引が活発化すれば、また3,000万円控除の適用件数が4万件台に回復するかもしれません。政府の経済運営に期待がかかります。